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悪役令嬢の手下Aだけど何か質問ある?  作者: 松島 雄二郎
竜の谷 死竜の迷宮 編
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ベティの告白?

 準備を整えての泥の死竜五戦目から無事逃げ出してきた俺らが地面に這いつくばって荒い呼吸をしていると、ベティから当然のような指摘があった。


「な…なんであんなもん生身で相手するの……?」


 頭がおかしいよお前らっていう発言だな。俺もそう思うわ。

 しかしどうしても勝たねばならんのですよ。そんな感じで説明するとベティから馬鹿って言われた。ハゲは乱用されているが馬鹿は初めてだな。


「そうじゃない、なんで生身で戦うのって話。ドラゴンにはギガントナイトみたいな大型兵器が必要って話!」


 豆知識、フェスタ機械化師団が使っている機械巨人の公称はギガントナイトというらしい。中でもあの機械巨人は古代の警察隊が暴徒鎮圧用に使用していたモデルらしい。

 アルマーズ・アームズ・インダストリー製プライムZT27アルカドラ。正式名称はこういうんだ。


「しかしベティ子さんや、俺は機械巨人を持ってないんだよ」

「持ってないなら買えばいいじゃん!」

「買う…買えるの?」


「この規模の町なら兵器プラントの一つや二つあると思う。都市案内調べるからちょっと待ってて」


 ベティが虚空を指でつんつんしている。あいつが何をやってるかわかってねえ未開文明人どもが狂人を見る目になってるが、なんて頼もしい奴なんだ。


「あった。AAIの支社があるから見に行こう」

「なんて頼もしい奴なんだ」


 みんなをホテルに送り届けてからAAIなる会社に突撃さ。ユイちゃんも付いてくるわ。


 LS市支店AAI社はショッピングモール内のいちテナントだ。人工照明で明るく照らされたモール内では普通に店が営業していて、従業員らしき連中が棚の整理をしている。


「あいつらもお世話人形。あまり深くは気にしない方がいい」

「気にしなくていいって……」

「自我とか暮らしとか気にすると頭がおかしくなる」


 ほかならぬベティが言うからにはそうなんだろうな。

 およそ八千年前に滅びた文明の都市でいまも活動を続けるお世話人形。深く気にしない方が健康によい光景だ。

 真面目に考えると気が狂いそうになる光景を通り過ぎていると、ふとベティがまじめな顔つきになる。


「わたしはハゲと一緒に居られて楽しいよ?」

「そうか」


「ハゲにはきちんとしたご主人様になってほしい。ダメ?」

「ガレリアはどうすんだよ」

「教祖様からは新しい雇用主を見つけたら抜けてもいいって言われてる」


 あの悪意の化身イザールが?

 ありえんな。道端に段ボールに入った美少女が落ちててお好きにどうぞって言いだすくらいありえん。確実にトロイの木馬だ。


「わたしみんなが好き、別れたくない……」


「本音は?」

「ローゼンパームを知ったいまホームに戻るなんてやだ。あそこ退屈だし」


 大都会の魅力にとりつかれたのか。

 しかし気持ちはわかる。俺もマクローエンに帰らないためなら何でもする。あのド田舎には娯楽がないんだ。石にしがみついてでもローゼンパームに残ると思う。


 返事は保留。おっぱい揉ませてもダメだ。舌打ちはもっとダメだ。


「けち。もうベルクスくんちの子になる」

「フェイ君ちで我慢しなさい」

「……あのエルンが激怒するからやだ」


 まぁフェイ君の部屋も俺の家の中にあるんだけどね。……ユイちゃんが妙に静かだな?


 いないぞ?


「ユイちゃんなら入り口のアパレルに突撃したけど?」

「早く言え!」


 そっこーでユイちゃん確保したぜ。や…やめろ、その買って買ってオーラに満ちた眼差しはヤメルンダ。


「リリウスぅ、お願いですぅ~~~」

「しかし俺には古代文明の金は……」


「ハゲ、ベティ金融を頼るかい?」

「お前の頼り甲斐どうなってんだよ。どういうシステムだ」

「イルスローゼのお金をPLとエクスチェンジしちまうのさ」


 まっとうな両替屋じゃねーか。とりあえず金貨十枚渡すわ。

 あくどい顔はやめろ。


「16000PLってところだね」

「それが適正な交換レートなのかもわからねえ……」


 ユイちゃんの抱き締めてるハンドバッグの値札を拝見する。32万PLですやん。金貨200枚分のハンドバッグ!? ヴィトン的なハイブランドですかね!?


 ユイちゃんの眼差しに負けた俺はベティに金貨200枚分を宝石硬貨4枚でお支払い。えげつねえ散財だぜ。


「これに合う服も欲しいなあ」

「さすがユイちゃん」

「小悪魔の名は伊達じゃねえな。おーけいわかった、俺も男だ、好きに買いあさってくれ」


 このあと俺はめちゃくちゃベティ金融のお得様になった。


 そして気分を変えて兵器メーカーのテナントに入店だ。お世話人形のお姉さんが応対してくれるぜ。


「アルマーズへようこそ。お客様、当店の利用は初めてですか? 市民アカウントの提示を願います」

「しょっぱなからダメそう。ベティどうするの?」


 しかしそこは頼れる極悪金融ベティさんだぜ。自信満々な顔つきでベティにしか見えないボタンをぽちっとな。


「パカ政府代表イザール・アルパカ直属の執行部隊ガレリアの戦闘員さ」

 すげえ、肩書きがエリートっぽい!


「本日はガレリアの特権で兵器を徴発する。抵抗はやめるんだな」

 すげえ、兵器の代金踏み倒す気だ! ……さっきこいつに両替頼む必要あった?


 店員のお姉さんがどこかと通信しているらしい。


「申し訳ございませんが通信障害が発生しており、お客様のアカウントの照合が適いませんでした」

「え?」

「非常時ですのでオフラインにて営業いたします。アカウントの照合は後日で構いません。それではお客様、どうぞごゆっくりご覧になってください」


 店員さんがカウンター内まで去っていったぜ。

 ベティ、どうしてそんな冷や汗を掻いているんだ? アカウントの照合が後日でいいなら今日はとりあえず買えるんだろ?


「まずい、お金足んないかも……」

「マジか」


「だってギガントナイトだよ。わたしのお小遣いで買えると思う?」


「お前の小遣いがなんぼか知らんが個人の資産で買えるものじゃないよな」

「うん、ギガントナイトって軍や州政府が買うもんだから」


「なんでそんなもんのテナントがショッピングモールにあるんだよ」

「だって銃も売ってるし」


 それもそうか。俺らはギガントナイトを買いに来たけど市民は銃を買いに来るんだよな。


 ベティの話だとギガントナイトによるバトルアリーナもあったらしい。町工場のチームが参戦して大企業のワークスチームぶっ倒したりと中々派手だったようだ。ここで当然の疑問。


「お前いつ生まれ?」

「たぶんハゲより年下だよ。わたしもニュースでしか知らんし」


 店内に置かれている武装は対呪術用のジャケットや汚染地域に入るようの防護服が主だ。銃器も置かれている。

 ハンドガンのお値段は……


「12万PLときたか……」


 ハンドバッグのおよそ三分の一。ユイちゃんそのハンドバッグ大事にしてね。


 ハンドガンの性能を知るために棚の下に差し込まれたカタログを見る。読めるか! そしてこの瞬間に光の速さでやってくる店員さんである。


「そちらはトロンエナジー封入弾頭も使用可能なツインモデルでして」


 ご説明によると魔法力で起動する銃だが通常弾にも対応しているらしい。弾丸の見本持ってきてくれたわ。全部で六種類あって一番高いアロンダイクの弾丸が1/3000PLだってさ。


 3000PLっつーと金貨二枚か。このサイズとはいえアロンダイクの塊が金貨二枚? ありえんな。ベティ金融の赤字運営ぶりに俺もびっくりだよ!


 やべえ、店のもん全部買ってローゼンパームで転売すればイース財団を凌駕する大富豪になれる気がする。


「ベティ、お前あといくら持ってる?」

「……目的忘れてない?」


 そうだった。ギガントナイト探しに来たんだよ。

 店員さんにギガントナイトくれっつったらこの場にはないと言われ、3Dホロを眺めながらの案内になった。受注生産になるか工場からの配送になるかは謎。


 ミニサイズ処理された様々な機体の3Dホログラムがテーブルの上に並んでいく。GKアリーナで優勝した機体をおすすめされた。勇者王かよ。


「もしも、もしもの話ですよ。……この中で一番安い機体だとお幾らですかね?」

「こちらのプライムZT27アルカドラなどはいかがでしょうか。当社が自信をもっておすすめするプライムシリーズは高い汎用性で知られ、政府警察でも採用されているモデルになります。ハイスペックモデルに比べれば出力は落ちますが過去のプライムシリーズと兵装の互換性があるなどの利便性に優れており―――」


 要約すると低コス高パフォーマンスな優れた量産品であるらしい。今まさに世界を獲ろうとしている機体だもんな。

 一番高い機体買ってイザールぶっ倒してきていいですか?


「それでお幾らなんでしょうか?」

「22億PLでございます」


 俺は帰った。泣きながら帰った。

 おかねがなかった。



◇◇◇◇◇◇



 ウェポンディーラーからの帰り道。フードコートで買ったソフトクリームを食べながらスポーツカーに乗り込む俺らは貧乏人さ。

 マジな話ギガントナイトを個人で買おうってのは無理があったな。


 瀟洒な市内をスポーツカーで流していると、すっかりくたびれた工務店を見つけた。隣に工場を持ってる町工場だ。車を止める。


「ナノマシンによる自動修繕機能が停止してるのかな? ここがどうしたん?」

「たしか町工場なんかもアリーナに参戦してたって言ったよな?」

「……限りなく低い可能性だよ」


 世の町工場すべてがギガントナイト・アリーナに参戦していたはずがない。しかし俺は可能性があるなら行く男だ。この場合は無人の町工場にパクりに行く男だ。


「行くぞ、ベティ、ユイ、ギガントナイトをかっぱらうぞ!」


 この後四件まわったけど不発でした。

 そんなうまい話あるわけないよね。


 意気消沈しながら戻ってきたホテルのロビーに真竜の少女がいた。儚げな黒髪の中二くらいの美少女だ。


「ギガントナイトを探しているようだな」

「まぁな」


 俺らの動きは筒抜けってわけだ。行動制限をしないのを不審がっちゃいたが当然か。


「こちらで手配しておいた。地下のトレーラーに積んである物をくれてやる」

「ありがてえな」


 暗黒のような黒髪の少女がキーを投げ渡してきた。

 目的ってのが不明すぎるな。


「太陽竜さまのお慈悲ってやつかい?」

「ストラには言うな」


 秘密の行動? バルバネスかベルカのお友達か? いやあいつらも俺らを同行させたが俺らの仲間ってわけじゃない。むしろ無視に近い扱いを受けている。


「素直に感謝していいのかい?」

「感謝は不要だ。だが欠片ほどでも謝意があるのなら迷宮を壊してくれ」


 竜少女が去っていった。

 真竜の内情もどうやら一枚岩ではないようだ。いや穴の破壊では共通しているのか?


 がらがらの地下駐車場には彼女の言うとおり大きなトレーラーが置いてあり、中にはきちんとギガントナイトがあった。甲冑を着込んだ騎士のような見た目にも格好いい漆黒の機体だ。


 PPC-DW0201、味気ない記号の羅列だが機体名はこれか?

 検索をかけたベティが驚いている。


「これドラゴンウォーリアーだぞ!」

「何それ?」

「軍のエリート部隊『戦竜戦隊』専用の特注品! うわっ、エーテルリアクターを三基も積んでる! 武装は!?」


 興奮しているベティがトレーラー内を走り回る。


「重粒子サークルブラスターまである! エレメンタルコートも!」

「強いの?」


 無視されたぜ。なんかすげえ物もらったらしい。

 コックピットに潜ったベティがすぐに出てきた。


「中古みたいだけど整備は完璧だぞ! すぐに使えそう!」

「勝てそう?」

「ふっ、ベティ子さんは無敵だぜ」


 どうやら明日にも迷宮を攻略できそうだ。

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