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やってやるぜステルスコート!

 ロザリアお嬢様の誕生日パーティーも昨日の事。

 帝都に屋敷を持つ大物貴族はバートランド公爵家から去り、遠方の領地からはるばるやってきた連中だけが残っていた。

 その中には当然マクローエン家もいる。帝都におうち持つなんて無理なんだ! 貧乏だからさ!


 ホスト家族を交えた六家族での晩餐も終わり、宛がわれた客室に戻ると親父殿から打診があった。


「お前騎士団に入るか?」

「やだ」


 即答すると親父殿はガーランドからそういう提案があったと説明した上でもう一度尋ねてきた。


「騎士団に」

「やだ。俺冒険者になる」

「よりにもよって冒険者か……」


 親父殿が嫌そうにぼやいたが俺にも譲れないものがある。


「うちの家督は一つきりだろ。ラキウス兄貴か、何らかの不幸が起きてもファウスト兄貴が継ぐ。ファウスト兄貴や他の兄弟に何かあってもリザ姉貴が婿を取るはずだ。妾の子には冒険者は順当だ」


 俺ことリリウス・マクローエンはマクローエン姓こそ名乗るものの妾の子だ。

 親父殿が女中だった母との不義密通の果てに産まれた望まれぬ子。

 母も産熟で落命したと聞いたが本当のところはどうだか。それほどに俺に対する義母の憎しみは強い。


 俺自身に六歳まで生きたリリウス・マクローエンの記憶は無い。

 親父殿から軽く聞かされているだけだ。

 養父であった元使用人の老僕が今際の際に残した書付けを頼りに、領主家の門を叩いた五歳児はその実領主の息子であり、お情けで席を用意された外様の子。

 他の兄弟からしても俺が兄弟なんて思いもしていないだろう。

 きたならしい野良犬が住み着いたくらいに思われているはずだ。


 義母も腹違いの兄弟も使用人すらも疎んじる俺の唯一の庇護者は親父殿というわけだが、彼がどうにか身を立てようとする俺でさえも別の世界の縁も所縁もない他人では哀れも過ぎる。


 俺が冒険者になりたいのはマクローエンから一刻も早く去りたいのもある。


「だから騎士になれと言っておるのだよ」

「騎士になりたくないから言っているのだよ。あ、ガーランド次期団長閣下にはくれぐれも当たり障りのない理由を付けて返答しておいてね」

「頭が痛いぞ」

「ふっ、息子とは時に頼もしく時に頭痛の種になるものさ」

「わかったような口を叩きおって。お前この頃大人ぶり過ぎだぞ!」


 家庭の複雑な事情はどうあれ親父殿はリリウスを愛している。


 それが俺にはひどく辛く、苦しいものでしかなかった。


 あんたの息子はもう死んでいるんだ、なんて告げる勇気などあるはずもない。

 ここにいるのはあんたの息子の姿をした他の世界からきた別人なんだ、なんて告げれば頭がおかしくなったと心配されるだけだ。


 翌日、春節後の帰郷の予定を二週間ほど早めてマクローエン家ご一行(父子二人)はホスト一家に見送られながら、箱馬車にて帝都を後にした。


 帰郷を早めた理由はガーランドと面と向かうのは気力体力ともにしんどいから手紙で済ませたいという親父殿の横着だ。

 気持ちは痛いほどわかる。

 かなり面倒くさそうな人物なので、できれば今後も関わり合いになりたくない。


 意気揚々と領地に戻る俺にも心残りが一つある。

 俺らの乗った馬車をいつまでも手を振って見送るロザリアお嬢様の泣き顔だけが、どうしても瞼の裏にこびりついて離れない事だ。


「もう会う事もないだろう。さらばロリザーよ、子供の特権活かして一緒にお風呂とか入りたかったぜ」


 心を鬼にして事案は避けた。紳士たれ!

 半月前に離れた懐かしき故郷へと思いを馳せ……憂鬱だ。ハッキリ言って超帰りたくない。



◇◇◇◇◇◇



 赤毛のツインテ天使ロリに後ろ髪引かれつつの帰郷から三日。


 毎日毎日馬車に揺られる退屈な日々の間につまらない事を思い出した。ゴミかと思ってポケットからごそごそ取り出した羊皮紙の切れ端が原因である。


『剣術D 商才D』


 何度見てもひでえ。何もないよりはいいけど何もないレベルにひどいスキルだ。


 ちなみにスキルはFからSSまであり、ゲームの主人公はスキルを習得して熟練度を上げると上のランクを獲得できたが、親父殿に詳しく尋ねたところこの世界ではどうも無理らしい。生来のスキルで頑張ってねというクソシステムだ。努力が認められる社会って素晴らしかったんだな!


 チートスキルで俺ツエーを目論んでいた俺としては立ち直れないレベルの絶望感だ。

 こんなスキルでは冒険者になったところで苦労しそうだぜ。


「起きてるか?」


 御者台から親父殿が声を掛けてきた。

 男爵にも関わらず、御者に任せずに自ら手綱を握る親父殿はなぜだか笑顔だった。


「喜べ、そろそろ町に到着だ」

「助かった。ケツが痛くて仕方なかったんだ」

「ハハハ……俺も痛え」


 中世の馬車にサスペンションという概念はない。誰でもいいから早く発明しろ。

 窓を見やればどこぞの森の中だった。魔物除けの結界が張られた街道を、馬車がのんびりと歩くような速度で走っている。


「次はなんて町だっけ?」

「バルメロ」

「バルメロだ…と……!?」

「そうだ、温泉で有名なバルメロだ」


 いやいや俺の驚きはそっちじゃねえよ!

 そうか、その手があったか!


 この世界はゲームによく似ているけどどこか違う。しかし可能性はある。

 可能性があるならどんなに細い糸だろうととりあえず手繰ってみるのが俺だ。骨折り損のくたびれ儲けなら後で笑い話の種になる。


「親父殿って強かったよな?」

「唐突に何の話かわからんが普通の騎士くらいにはな」


 この国に謙遜などという社会通念は存在しないがそいつは謙遜だ。

 ゲーム後半の同盟戦争でゲスト参戦する親父殿はかなり頼りになるNPCだった。


「ここバルメロの森だろ、ちょっと寄り道していかねえ?」

「何もないぞ」

「まあまあいいからいいから。三叉路に入ったら右折してくれ」

「あそこは古い道で整備されておらん。しかも崖崩れで行き止まりだ」

「いいからいいから」

「……お前急に大人ぶったしゃべり方になったり図太くなったりいったいどうしちまったんだ。ま、可愛い息子の頼みくらい聞いてやるよ、こんな時じゃないとお前の頼みなんて聞いてやれんからな」


「まさか御者を連れて来なかったのって俺のため?」

「子供らしくないやつだなぁ、察するな馬鹿者が」


 何をやっているのかよくわからないけど何かと忙しくて屋敷を空けることの多い親父殿に代わって、屋敷の一切を取り仕切るのは義母なのだが、これがまた俺に対してひどい憎しみを抱いている。


 旦那が若い女と浮気して作った子供が目の前をウロチョロするのが、いたく気に障るらしい。


 そんな義母が使用人を統率していれば親父殿がいない日はメシも与えられず、こちらの言うことなど聞かずに一切を無視されている。

 つまりはそんな使用人がいては俺の気が休まらないだろうと思っての二人旅行だったか。

 まったく良い親父殿だ、本当に良い親父すぎて心が痛いぜ。


 三時間後、俺の指示通りに進んだ結果俺らは古い塔の前に立っていた。ちなみに馬車は街道の途中で置いてきたので徒歩で二時間は歩いた。


 眼前に聳える塔は妙に金属質で元々はかなり高かったのだろうが途中で折れてしまっている。

 それでもスカイツリーくらいはあんぞ、建材どうなってんだ?


「この森にこんな遺跡があったとはな……お前誰から聞いた?」

「村にやってきた吟遊詩人」


 へへへ、この商品は嘘百パーセントですぜ。


「ほんで中には魔物がいるんだけど、頼りにしてるぜ」

「帰るぞ」


 親父殿が踵をくるりと返して来た道を戻っていった。


「頼りにしてるぜ?」

「帰るぞ」


 親父殿はスタスタ歩いていって森の奥まで……そこで止まってチラっと俺を見つめている。

 俺は遺跡の前に断固陣取ってる。断固リリウス!


「頼りにしてるぜ?」

「そんな危険な場所に大事な息子を連れていけるか」


 親父殿がスタスタ森の奥の奥へと戻っていって、その背中は親指と人差し指で作った輪の中に納まるくらいだ。


「頼りにしてるぜ?」


 しかし親父殿は歩みを止めない。その背中がもう見えなくなって二分くらい経った頃……


「ぶれねえなぁ!」


 親父殿が大慌てで駆け戻ってきた。


 すげえパワーだ、正にパワーこそパワーだと言わんばかりにクレイジーな、ロザリアお嬢様直伝交渉術が火を吹いたぜ。


「お前どこでそんな無理やりな交渉術身につけたんだ、俺じゃなかったら無視されて終わるぞ! くそ、ちょこっとだけだぞ、無理そうなら担いで帰るからな!」


 塔の中は静寂に満ちていた。


 絨毯のように積もり積もった埃は俺と親父殿の足跡をくっきりと残し、他に足跡はない。


 ゲームでは複数の魔物を合成したキメラがうろうろしていたのに変だな?


「どうやら魔物は吟遊詩人のデマカセだったらしいな」

「そうみたいだね」


 ゲームとは多少異なる。それが今回は良い方に働いているが同時に不安要素でもある。

 上へと繋がる螺旋階段を上がろうとした親父殿を呼び止める。


「上に用はないよ、目的のブツは下なんだ」

「下って」


 一階ホールの奥に穴がある。扉の壊れたエレベーターみたいな穴だ。


「これか」

「頼りにしてるぜ。いよっ、春風の騎士!」

「その恥ずかしいあだな誰から聞いた!?」


 風の魔法を纏わせた親父殿が俺を抱っこして穴へと飛び降りる。


 深い、どれほど落ちているのかわからなくなるほど深い。真っ暗な闇の底で親父殿の足がふわりと床を踏む。


 着地点から先には打ち壊された扉がある。

 雰囲気あるな。ちょいとビビってきた……


「魔物は?」

「気配はないな」


 身体の周りをクルクル回転する魔法照明を纏わせた親父殿がずんずん奥へと進んでいく。

 なんという頼もしい背中なんだ。


 ずんずん奥へと進んでいく親父殿が目的地を通り越してしまった。


「待った、そっちは後で行く」

「む、そうか」


 察しの良い親父殿が魔法照明を壁に近寄せる。

 青白い光が回廊の壁に空いた大穴を照らし出す……穴の向こうは隠し部屋だ。


 隠し部屋に入るとそこは魔法使いの研究室といった風情であった。

 薬品棚が立ち並び、フラスコやらビーカーやらがある。

 一際目を引くのはガラスケースの薬液に浮かんだ腐敗した少女の死骸だが目的のブツはそっちじゃない。


 ハンガーラックに無造作に掛けられた夜色の外套だ。あった、ラピュタは本当にあったんだ!


 俺は嬉々として夜色の外套を抱きしめる!


 魔物とのエンカウントに疲れたプレイヤーへのお役立ちアイテム、その名もステルスコート。効果は名前の通り着るとモンスターに出遭わなくなる以上!


「ふひひひ会いたかったぜぇステルスコートさんよぉ」


「そんな古臭いコートが欲しかったのか。言えば帝都の仕立て屋で作らせてやったものを」


 ククク違うんだぜ親父殿、こいつはただのボロい服じゃねえんだチート級スーパーマジックアイテムなんだぜ。

 着てるだけでラスボスさえもスルーする超アイテムなんだぜ。

 こいつのおかげで進行不可能バグが起きたくらいのロクデモナイやつなんだぜ。


 戦闘スキルに不安のある俺は魔物に出遭わないという形の安全な最強を手に入れる事にしたんだぜ、偶然たまたま思い出しただけだけどな!


「じゃあ帰ろうか」


「この先はいいのか?」


 この先には恐ろしい魔物がいる。

 塔の主とも呼ぶべき死霊系最強モンスターの死の公爵様だが、実はこのステルスコートを装備していると安全かつ無害なあんちくしょうに成り下がり、死の公爵の奥の部屋にある『夜の剣』が簡単に手に入っちまうんだ。普通に戦うとラスボスより強いけどな!


 夜の剣も便利なので欲しいといえば欲しいが、しかしこの世界はゲームとは微妙に異なるところがある。ステルスコートが本当に機能するかどうかも定かではない現状、この先はあんまり行きたくない。


 プレイ動画見たけどレベル99のカンスト主人公パーティーでもハイパーエリクサーどか積みでようやく勝てる化け物だしな、レベル42の親父殿では無理ゲ。


「この先には何もないよ」

 そう人生の終着点しかない。

「帰るか」


 穴ぽこに戻って風の魔法で今度は上昇する。

 塔の外に出るともうすっかり日が暮れていた。

 親父殿はしまったなあとでも言いたげに、がしがしとポマードで固めた頭髪を搔き乱す。


「面倒だがこの遺跡のことは騎士団にでも報告しねえとなあ」

「やめたほうがいいよ、全滅するだけだから」

「あの先に何がいたんだッ!?」


 だから人生の終着点。


「ネタバレすると古代のレザードなんちゃらって大魔法使いが死霊になって自分のアトリエに閉じこもっているんだ。起こすと帝国が滅びるくらいやばいらしいぜ」

「それも吟遊詩人から聞いたのか?」

「うん」

「何者なんだその吟遊詩人は……」


 この日は馬車まで戻ってそこで野営をした。


「あんな危険な場所に連れてきやがって!」


 当然ながら親父殿からはこっぴどく叱られた。

 何の説明もなく裏ボスの手前まで連れてったから当たり前だよね。



◇◇◇◇◇◇



 領地へ戻る頃には季節も晩春から雨季へとうつろい往く雲具合。まるで俺への不吉な暗示であるかのように昼間だというのに夕暮れのように暗い日。


 季節はもう春だというのに雪をかぶった森に囲まれたぽつんと一軒家ならぬマクローエン男爵家のお屋敷は、稲妻を背景にえらい威圧感を醸し出している。……帰りたくねえ。


「父上!」

「おーい、父上がお帰りになられたぞー!」


 三人の兄弟達は一月ぶりの親父殿にヒートアップ。

 押すな押すなの大盛り上がりで帝都土産をねだっている。なんてアットホームな光景なんだ。俺が異物すぎる。


 異物はさっさと消えるに限る。


 アットホームな光景を後にしようとしたら、遅れてやってきた次兄のファウストに睨みつけられた。


「いい気になるなよ」

「俺七歳の子供だから何の事だからわからないよファウスト兄貴」

「私はお前なんかの兄ではない……!」


 おお怖え、去り際にケツを叩きやがった。これは今夜掘ってやる的な合図か?

 いいぜ掛かって来いよ、逆にケツにスプーンぶちこんでやるぜ。


 屋敷の二階にある自室に戻ると呆然とするしかなかった。


 部屋が荒らされていた。強盗なんてチャチなもんじゃねえもっと恐ろしい物を見たぜ、なにしろシーツは割かれてるわカーテンからは小便のにおいがするわ枕の下には釘があるわで悪意しかない。ついでに俺の宝物をしまった小物入れにはうんこがしてあるじゃねえか。


「いいぜファウスト今晩にも掛かってこいよ、俺のビックディックが火を噴くぜ。白いやつだけどな!」


 重ねていうがホモではない。だが嫌がらせのためなら心を鬼にする所存だ。

 俺は颯爽とステルスコートを纏った。



◇◇◇◇◇◇



 ステルスコートの性能実験を兼ねた復讐劇が幕をあげる。


 ターゲットは五人。次兄ファウスト十五歳、三兄ルドガー十二歳、四兄バトラ十一歳、長女リザ十歳、弟のアルド五歳である。


 まずは長女のリザからだ!

 この子何かしてくるわけじゃないけど、いつも遠巻きに殺意の目で睨んできて怖いんだよ!


 屋敷の図書室で読書中のリザは本から目線をあげようともしない。

 本のタイトルは古代アルトリコ建築様式の現代における実用性……渋いなこの子まだ十歳だろ、もっとマンガとか読めよこの世界マンガないけど。


「えい」

「ん?」


 リザの鼻を摘まむ。すると本から面を上げたリザがキョロキョロするが不思議そうに首を傾いでまた読書に戻った。


 目の前にいるのに気づかれなかった。成功だ、実験は成功した!

 このステルスコートすごいよぉぉぉぉ!


 だがまだだ、慌てるなまだ慌てる時間ではない。

 もしかしたら見えているのに見えていないフリをするという高度な嫌がらせかもしれない。


 俺はテーブルの上に飛び乗り、颯爽とズボンを下ろして仁王立ちである。

 さあ俺の象さんを無視できるものならしてみるがいい。どうだ可愛いだろう!


「…………この建築様式ならうちでも使えるかしら? でも技術面で不安よね、帝都から職人呼ぼうにもうち貧乏だし……」


 すげえぜまったく気づかれてない。

 やはりステルスコートは本物……いやまだそう判断するのは早計だ。


 俺は颯爽とリザの顔面の手前十センチまでケツを近寄せ、渾身の力を下腹部へと込める。


 さあくらえ、これが広島男児の大放屁よ!


 プッ……

 リザは無反応。七歳児の幼い肉体が憎らしい、まさかこれだけ力んでもしょぼい屁しか出ないとはな。

 しかしこれはもう成功を確信してもいいのではないだろうか。

 目の前でケツ丸出しの弟が屁をこいても怒らない女がいたとすればそいつは女神か聖女に違いない。


 さあ復讐の準備は整った。

 見晒せこれが広島男児の生き様じゃー!


 さっそく庭に出て、もらったばかりの帝都土産を自慢げに掲げているルドガーを池に蹴り落とす。


 どっぽーん!


「うわ! たたたた助けて!」

「だっせー、泳げないとかだっせー。泳げないとか恥ずかしーのー」


 よしお前もだ、バトラ逝ってよし。


 どっぽーん!


「うっわ冷た! ひいひい、誰だよ俺を蹴飛ばしやがったやつは……」


 池の縁に手を掛けて上がろうとしたバトラの指を踏みつける。


「いてえ!」


 どっぽーん!


 ガタガタと寒さに震えるルドガーらは一旦放置。

 芝生に落ちた帝都土産の短刀や懐中時計を盗み出し、まだまだこれからだ!


 お次はルドガーの部屋を漁って小物入れのお小遣いをパクる。ついでにどこぞのお嬢さんの肖像画もあったのでパクる。

 同様にバトラのお小遣いと虹色蝉の抜け殻もパク……これ俺のじゃねーか!


 透明人間の犯行を咎める者はいない。俺は無敵だ。


 道中十数名の使用人とすれ違ったが誰も俺の存在に気づかない。

 厨房に寄ってつまみ食いをしても気づかれない。これがドラえ〇んならそろそろオチが付く頃だがステルスコートに制限時間は存在しない!


 お、ファウストを見つけた。食卓で親父殿と優雅に昼ワインとは優雅な時間を過ごしているな。

 よろしい、このささやかな家族の団欒タイムに冷や水を掛けてやろう。


 パシャ!


 俺は親父殿の袖を引っ張ってファウストにワインをぶっかけてやった。


 ファウストは何が起きたのかわからずフリーズしている。


「……父上?」

「いや、これはだな、誰かが俺の腕を引っ張って……」

「この場には私と父上しかおりません」

「いや、だがなあ……本当なんだぞ」


 ファウストが乱暴に席を立つ。


「父上はどうもお疲れのようだ。私は自室に戻ります」

「待てファウストお前は勘違いをしている!」


 クククさあ部屋に戻るがいい。嫌がらせの準備は完了している!


 捨てられた子犬のようにとぼとぼと歩くファウストは何事かをもやもや考えているご様子。

 こいついつも気難しそうな顔してるから、何考えてるのかよくわからないんだ。嫌がらせもあんまりしてこないしな。


「父上はどうしてあんな野良犬を目にかけるのだろうか」


 野良犬ってまさか俺の事じゃないよな?


「あれでは……母上があまりにお可哀想だ」


 自室に戻ったファウストが俺のしょうべんのかかった枕に顔を横たえる。


「……濡れてるな」


 思っていた反応とは違うがよし!

 次だ次!


 と思ったがアルドは可哀想だからやめてやろう。

 あいつの悪戯は兄貴達に釣られての犯行に違いないし、そもそも善悪の判断ができる年齢じゃないだろ五歳児なんて……


 アルドは池に落ちてもないのに、ずぶ濡れになったルドガーらと一緒にお風呂に入って頭を洗ってもらっていた。


「痒いとこないか」

「ないよー」

「じゃ、くすぐってやる!」

「あははははは!」


 仲いいなこいつら。


「ねー、リリ兄と遊んでいい?」

「ダメだ。あいつは兄なんかじゃない」

「でも父上がにーさんだって」

「父上だってお間違いになられることもあるんだ。あいつとは遊んじゃダメ、じゃないと俺らだって遊んでやらないぞ」


 ぽかん!


「いてえ! バトラ、てめえ何で叩いた!?」

「いやなんもやってねえし。なーアルド」

「うん!」

「……お土産も池から見つからねえし今日は変なことばっか起きるなあ。あの疫病神が帰ってきたからか?」

「かもな。今晩あたりボコってやろうぜ」

「いいなそれ」

「わーい!」


 ふむ、面白い密談を堂々と聞けたな。こいつは楽しめそうだぜ!


 この情報をどのように有益に活用すべきか思案しながら自室に戻ると……なぜかリザがいた。

 部屋のど真ん中でぽつんと立ちながらため息を吐いている。

 とりあえずステルスコートを脱ぐ。するとリザが俺に気づいた。


「あんた帰ってたんだ。パパも?」

「うん」


「……あんたさ、気を付けなさいよ」

「何の話かな?」

「馬鹿どもが騒いでたから。あんたただでさえママに睨まれてるんだからあんまり目立つ事しないで」


 あれもしかしてこいつ……


「心配してくれてるの?」

「弟を心配して何がおかしいの。悪いのはパパよ、あんたは何もしてないじゃない……」


 何かしてるから心が痛え……

 心の底から謝罪する。象さん晒したり大放屁とかやらかして本当にごめんなさい。


「ごめんなさい」

「ふふ、なによ謝る必要なんて何もないじゃない。あたしにも色々あるからあんたを庇ってあげらんないけど、せめて二人きりの時くらい堂々としてなさい。あたしたちは血の繋がった姉弟なんだから」


 リザはそんなふうに考えていてくれたのか。うぅぅぅ罪悪感で胸が痛い。

 でも素直に嬉しいね。四面楚歌は変わらずとも味方がいてくれるのは嬉しい。何の手助けもしてくれない宣言付きだったけど。


「姉貴、心から感謝するよ」

「なぁによ大人ぶった言い方しちゃってさ。部屋このまんまじゃ寝られないでしょ、メイドに言って客間を用意させるわ。今日はそこで寝なさい」

「うん、ありがとう」


 リザええ子や。なんで大放屁なんてしちまったんだ俺……



◇◇◇◇◇◇



 マクローエン家の夕食は家族全員で取る決まりである。


「いやー帰ってきたら部屋が強盗に荒らされててさ、今夜は一階の客間に泊まるんだ!」


 俺の空々しいまでの大声が鳴り響き、他は食器を動かす音だけがする。


「いやー帰ってきたら部屋が強盗に荒らされててさ、今夜は一階の客間に泊まるんだ!」


 誰も反応してくれない。

 唯一親父殿だけが気づかわしげな視線を送ってくるが何をどうするでもない。リザは完全無視を決め込んでいる。いじめのターゲットにされるのを恐れているのか、他に理由があるのかはわからん。この家族と暮らし始めて俺まだ一年だし。


「いやー帰ってきたら部屋が強盗に荒らされててさ、今夜は一階の客間に泊まるんだ!」


 大事な事だから三度言いました。


 ロザリアお嬢様から教わった最強の交渉術が火を噴いたぜ。後はこいつにルドガーとバトラが掛かるのを待つだけだな! 完璧すぎる!


「リリウス」


 キンキンと甲高い声に振り向けば、病人のように痩せこけた正妻リベリアが俺を睨みつけていた。


「品のない声を出すものではありません、いつまで庶民の気分でいるのですか。卑しくもマクローエンを名乗る者であればしゃんとなさい」


 ルドガーどもが笑いを押し殺してやがるムカツク。


「申し訳ありません奥様、何分腹違いの輩とは受けた教育に違いがあるものでして」

「…………」


 正妻が席を立つ。夕飯がまだ半分残っているぞモッタイナイ。


「おや、下賤な野良犬とは口も利けないというわけですか。たかだか準爵家のご出身で」

「お前ッ、母上に向かってなんだその口の利き方は!」

「よしなさいファウスト! ……遠吠えに腹を立てて何の意味がありましょう」


 ううーむ、予定とだいぶ違うな。いつもならギャンギャン言い立ててくるのに大人しいぞ。うつ病でも患ったか?


「今宵は俺も言い過ぎました。どうぞ大人らしく寛大に流してください」

「野良犬め!」


 ファウストの罵りを背に正妻が食卓を出ていく。


 安い挑発には乗らないか、さすがにガキどもとは格が違うね。



◇◇◇◇◇◇



 苦難多き子供は早熟する。


 そうした格言を最近ひしひしと実感するファウル・マクローエンは、まったくどうしたものかと頭を悩ませている。

 正妻の子と妾の子の仲違いという問題だ。


 リリウスは他の子と比べて言動が大人びている。

 それ自体は喜ぶべきだろうが問題は襲い来る苦難と悪意に対抗するために急激に成長しなければならなかった点だ。


 本音を言えば子供達には仲良くしてほしい。

 血を分けた兄弟同士親愛を以て接してほしい。

 だが元を正せば若い娘っこにムラっときて妊娠させちまった若き日の不始末が原因。

 父親らしくびしっと叱って大団円とはいくはずもなかった。……色々あって妻には逆らえないのだ。


「しかし何でまた寝所を交換しろなんて……」


 夕食の後で執務室にやってきたリリウスはファウル男爵の部屋で寝たいと言ってきた。

 これにはファウルもニヤリとした。旅の間に父親の頼もしさを知った愛息が一緒に寝たいと言い出せば、父ちゃんだけはお前の味方だぞなんて父性が爆発するのも当然だった。


『よし、今夜は絵本を読んでやろう!』

『いや親父殿は俺の部屋で寝てくれ。あ、客間の方な』

『なんだと!?』


 こうして父子は寝所を交換した。理由はさっぱりわからない。


 以前のリリウスは辛抱する子供だった。

 他の兄弟に何をされてもじっと耐える様は男親ながらに心苦しく、もっと俺を頼れ、遠慮するなと言い聞かせても暗い顔で頷くだけだった。

 繊細な子だから告げ口や反撃がさらなる火種になると理解していたのだ。

 最近は色々と面倒な頼みごとをしてくるが良い傾向だと思っている。その手法には問題ありだが。


「みずくさい子だ、本音を話さずいいように操ろうとしてくるのが実に気にくわん。相談し合えればよりよい方法が思いつくと……は考えもしないのだろうな」


 リリウスは幼いながらに己の立場を弁えている。

 屋敷は彼にとっては孤立無援の敵地なのだ。


「まったく不徳の致すところってやつか。ちょいと良い尻した若い娘にムラッとくるなんて、俺も若かったものだ……」


 腹を立てたり自分の不甲斐なさを嘆いたり、とかく忙しないファウル男爵も一時間も経てば健やかな寝息を立て始めた。


 そして時刻は深夜を回り……


「そりゃ!」


 ザパン!


 ファウルはバケツ一杯の水を浴びせられて跳び起きた。


「なんじゃこりゃ~~~~~~!」


「あはははあはは!」

「やーい、野良犬ぅ! 調子に乗ってるからこんな目に遭うんだぞぉ!」

「リリ兄ー野良犬ー!」


 と大騒ぎしていたルドガーとバトラの顔が引きつる。

 何しろリリウスが寝ているはずのベッドには敬愛すべき父上がいて、水を被ってなんじゃこりゃーしているのだから驚かないはずがない。


 唯一アルドだけは悪戯大成功の喜びのダンスを披露していて超かわいい。


「ど、どうして父上が!?」

「あわわ、あわわ……」


 ゆらりと立ち上がったファウル男爵は……愛息二人の顔面を鷲掴みにした。


 ものすごい力だ。頭蓋骨がみしみしと絶対に立てちゃいけない音を立てている。


「ルド、バト、理解してくれるな?」


「「な、なにを……?」」


「俺の愛を」


 ファウル男爵はそのままルドバトコンビを連れ去っていった。


 翌朝、屋敷の鐘楼台に吊るされる二人が発見されるまでの六時間を彼らは冷たい夜風の中で過ごした。愛は苦痛を伴うのである。



◇◇◇◇◇◇



 一方時は僅かに遡り、帝都。

 マクローエン一家が帝都を去った二時間後まで物語は遡る。


「そうきたか」


 次期騎士団長の呼び声も高いガーランドは目を通したばかりの手紙を丸めてクズカゴに放り捨てた。


 手紙の内容は要約するとこうなる。

『息子は騎士団には入りません、ごめんなさい』


「マクローエン卿からのお手紙をそのように……よろしいので?」

「構わん、クソのような内容だ」


 ガーランドは声を荒げもせず静かに怒り狂っている、副官のウェーバーはそう判断した。

 美貌の副官は書架から帝国貴族二百家の内情を列記した騎士団秘蔵の書類束、別名いつか粛清するリストからマクローエンの項を取り出して一読する。


「マクローエン家におけるリリウスの立場は恐ろしく不安定、いつ謀殺されてもおかしくない。ですがマクローエン卿は餌に食いつかなかった」

「愚策だ、あの才能を内輪で潰させるのは惜しい」


 ガーランドはすでに未来を見据えている。

 若く才能に溢れているが不遇な境遇に置かれた子弟を選別し、恩義を与えて忠実な騎士へと育て上げる作戦の第一例としてリリウスがのどから手が出るほど欲しい。


 ガーランドの見立てではリリウスは磨けばすぐにでも光る逸材だ。

 七歳という年齢も良い、英才教育を施すのに適切な年齢といえる。

 重ねて言う、ガーランドはリリウスがのどから手が音速で飛び出すほど欲しい。成功例を披露できれば予算も下り易くなる。

 ガーランドの目的は才ある子供を集めた私塾のような幼年騎士学級の発足だが、現団長ドロアが未だ壮健で財布の紐を握っている内は好き勝手はできない。無理を通せば他の派閥に付け入る隙を与えるだけだ。


 十年後には押しも押されぬ盤石の体制の頂点に君臨するガーランドもまだ二十三歳の若僧にすぎない。騎士団長のお気に入りとはいえ若輩ゆえに敵も多く、一つの失敗も許されぬ状態だ。


「嫉妬に狂った馬鹿どもの相手も少々疲れた。一月ほど休暇を取りたいのだが、緊急の案件のみをリストアップしろ」


「十四件。急ぎで片付けようと思えば一月は必要でしょう」


「五日で終わらせる。四日後の閲兵式は予定通り参加する、準備はライナスに代行させろ。ノルド伯爵の汚職か、強硬臨検に必要な根回しはフラメル伯に動いていただこう、あの変態ならノルドの二女をくれてやると言えば大喜びで走りまわってくれる」


 執務机に置かれたハンドベルをちりんと鳴らせば二秒で兵隊が現れる。


「この文をフラメル伯爵の屋敷に届けろ。確実に本人に手渡せ」

「はっ!」


 ガーランドは本当に五日以内に全てを終わらせた。


 春節二日目、平素着用している漆黒の甲冑を外して軽装になったガーランドは軍用魔獣に跨り実家であるバートランドのお屋敷を訪問した。

 これには使用人も大慌てとなった。

 旦那様がお戻りになられるまで何としても足止めせねばならないと家令であるゴルドンも正門までダッシュする有り様である。

 悪即斬ならぬ悪はそのうち斬るガーランドにとって、実家のバートランド公爵家は帝国を蝕むがん細胞の一つでしかないと誰もが理解している。


 つまりは死刑執行に来たのだと勘違いされている。


「坊ちゃま、坊ちゃまぁ! あぁご立派になられて、ただいま旦那様をお呼びいたしましたゆえどうか、どうかこの場にお留まりを! 平に、平にぃぃぃ!」


 お屋敷へと続く庭で使用人一同が土下座する。

 実家からどれだけ恐れられているのかこの男は。


「なにゆえ血を分け育まれたバートランドを手打ちになされるか。たしかに旦那様は悪事に手を染めておるのでしょうがそれも全ては御家のため、ご一族大事の一心なのです。他らなぬバートランドの財を得てお育ちになられた貴方様がその真心を信じられぬなど……打たれるとあらばまずはこのジィめをお打ちくださいませええ!」


「何を勘違いしている、休暇を取ったので足を運んだだけだ」


「おや左様で」


 ガーランドに縋りついて鼻水と涙の混合物をこすりつけていた老家令がコロっと転身する。

 即座に有能執事長の所作を取り戻したゴルドンが優雅に一礼。


「ただいま部屋を用意させます。ごゆるりと滞在なさいませ」


「これも年の功というのか。土下座に泣き落としと幅広いバリエーションだな、俺にはマネできそうもない」


「人其々役割というものがありますからな、坊ちゃまがなさらずとも代わりの者が幾らでも頭を下げましょう。ですが下げぬ頭だからこそ価値があるものです」


「心に留めておこう」


 中庭の大花壇は広く、水路に隔てられた天蓋のテラスで愛らしい赤毛の幼女が膝を抱えている。


 抱えた膝に埋もれるみたいに頭を引っ込めたロザリアはここ数日気落ちしていた。


「ロザリア」

「おにーさまはやっぱりお暇なのね」

「これでも休暇は数年ぶりなのだがな。息抜きに旅に出ようと思う」

「勝手になさいまし」

「スルト州を越えてバーニア州へ入り、マクローエンの方まで足を伸ばそうと思うのだがな」


 ぴくっ……

 ロザリアの耳が可愛らしく動いた。


「マクローエンは風光明媚な土地と聞く。しばらくは逗留し疲れを癒したいものだ。土地の者に案内させてピクニックというのも面白いだろう、あぁそういえばお前のお友達にマクローエンの五男がいたな」


 ぴくぴく……


「来る気があるなら同行しろ。リリウスを連れ帰るぞ」


 気落ちしてたのなんて気のせいみたいに、ロザリアの顔面が花のように明るくなった。


 マクローエン男爵領までの通常二週間の旅路も軍用魔獣なら二日で駆ける。

 しかしロザリアを同行させる以上俊足の黒虎にはのんびり馬車をひかせる。


 あまり早く到着しては意味がないし、怒りはワインのように熟成させた方がよいからだ。


 説得はロザリアに任せた方が効果的とガーランドは己を弁えていた。ガーランドは騎士団が調査した書類を添えて無垢なるロザリアにこう吹き込むだけでいい。


「リリウス・マクローエンは妾の子という境遇から屋敷では公然と虐待を受けている」


「そんなッ、うそです、男爵様はリリウスを愛しておられますわ!」

「マクローエン卿からすれば彼は他の子と変わらぬ己の子だ。だが他の者は違う、義母も兄弟も彼を女中に産ませた子だと蔑み、暴力を与えている」


 使用人もまたリリウスを無視する。

 家庭教師は彼のみを除外し教育を施し、お屋敷の子には優しい笑みを浮かべる女中も彼にだけは唾を吐く。

 男爵不在の日には食事も与えられぬ日々が続いている。


 こうした真実を吹き込むだけでロザリアは忠実な手駒に変貌する。


 正義は常に勝利する。正義を信じる者にとって目に移る不公平の全てが邪悪であるからだ。


 旅の間にたっぷりと洗脳された彼女は正義の代弁者と化しているだろう。

 そんな彼女がリリウスを苦しめる不公平を実際に目のあたりにしたらどうなるだろう?


 とても簡単な話だ。

 すべてはガーランドの思惑通りに、ロザリアはなんとしてもリリウスをバートランドの屋敷に連れ帰るだろう。リリウスも嫌とはいうまい。あれは間違いなくロザリアに惚れ込んでいる。


 ガーランドの正義は間違っているのかもしれない。

 だが彼とて己の正義を疑わない正義の代弁者でしかないのだ。


 彼らを乗せた馬車がマクローエン家の屋敷がもう間もなく見えるというところまで来た時、森の奥から緊急性の高い悲鳴が聴こえてきた。


「父上ー!」

「助けてー!」


 林道の奥から幼い子供達の悲鳴が聴こえてきた。


 ガーランドは理想のためなら手段を選ばぬ人非人かもしれないが邪悪な悪党ではない。

 真っ先に軍用魔獣から飛び降り、声のする方へと駆け出す。ロザリアもその後を追った。


「お前は戻っていろ!」

「いやです。わたくし怒っているんですの!」

(その怒りをいま発散されても困るのだがな……)


 森の奥では二人の子供が縄で宙吊りにされていた。


「うわーん」

「助けてー!」


 泣き叫ぶ子供二人。そして木から宙吊りにされた子供達に向かって楽しそうに小石を投げる子供も二人。

 ガーランドは思わず我が目を疑った。


「わははは、どうだ痛いか痛いだろう! だがその痛みがやがて快楽へと変わるのだ!」

「いたいかー! わははは!」


 石を投げているのは誰あろうリリウスと二つ下の弟のアルドである。

 宙吊りにしたルドガーとバトラに石を投げる遊びをしていた。アルドの事は気にしてはいけない、まだちっこいので遊んでくれるのなら誰でもいいのだ。


「虐待されているはずじゃ……」

「大人しく虐待されているとは確かに書いていなかったな」

「ええぇ……」


 ロザリアとガーランドは本気で戸惑いながら石当て遊びを見つめていた。


 本当に何がどうしてこうなった?

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[一言] 森の中に馬車1時間徒歩2時間位にあるスカイツリーが正にパワーこそパワーなパワーで隠れているから発見されない的なサムシング? 面白いけど登場人物が濃ゆいのと文章が(嬉しいことに)長いから己…
[良い点] すこ速で紹介されててブクマに入れたまま忘れてたのがもったいなかった!めちゃくちゃ面白い! [一言] 冒頭の登場人物が多すぎてこれは初めに読まんでいいやつだと飛ばしたのが正解だった ちゃんと…
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