ハゲた救世主アクセル
レテが投獄されたなんて知らない俺は宝物庫からパクった財宝が幾らで売れるか、目ん玉を金貨にしながら宝物庫を出ていくんだ。
出ると同時にフェイが俺の肩をバンバン叩いてきた。こいつパワフル君かよ、咽るわボケ!
「お前はすごいやつだな!」
「急になんだよ?」
「ベルサークの宝物庫からお宝を盗み出すなんて伝説的な偉業だ。さすがに認めてやるよ、お前は最高の変態だ!」
やめろ、それだとやべー変態みたいに聴こえるだろ。
そこは最高の相棒って褒めるところだろ。
フェイがいつになくテンション高いぜ。いつもスカしてクールぶってるから違和感パねえよ、そんなにアロンダイク製の刀が欲しかったのか。
「なあ」
「なんだ?」
「その刀そんなに良い物なのか?」
フェイが一瞬で静かになる。
じりじりと距離を取ろうとするな距離を。手を離すとお前だけタイーホされるぞ。
「いや、別に奪ったりしねえよ。俺は俺でオリハルコンの大戦斧を手に入れたし」
あからさまにホッとしてやんの。
こんなん奪ってくださいってネタ振りだろ。
「お前格闘家のくせに刀使えんの?」
「我が九式竜王流はあらゆる武器を自由自在に操る、肉体はあくまで武器の一種にすぎん」
マジで? じゃあなんで武器持ってなかったんだこいつ。
「……愛刀は二代目黒竜号の購入資金となったんだ」
なるほど、初代黒竜号がお亡くなりになった時に売ったわけか。
白馬なのに黒竜号はおかしいと思ってたんだ。なるほどね。
「ちなみに初代の最後を聞いていい?」
「……野生の雌馬を追っかけてどっか行きやがったんだよ」
「その気持ち、俺だけはわかってやれるぜ」
うちのバイアットも牝馬おっかけてどっか行きやがったしな。
「手塩にかけて育ててきたのに飼い主裏切るとかマジ腹立つよな?」
「心の狭いやつだな。僕は初代黒竜号の幸せを祈っているぞ」
その不愉快そうな面でよく言えたな。鏡見ろ、悔しさがにじみ出てるぞ。
フェイの腕が一閃! 壁に刻まれた美しい絵画が壁の一部ごと吹き飛んだ。
「断じて悔しくない」
「お前ストレス抱え込むタイプなのな」
ちなみに壁は壊れると同時に時間を巻き戻したみたいに元に戻りました♪
幻の都パねー。
「で、後はどうする、観光でもして帰るか?」
「いや、だから嫁探すんだってば」
「……それ本気だったのか?」
リリウス君はいつもいつだって本気で生きてるポケモ〇だよ?
一緒に預かり屋に預けられてタマゴ産んでくれる伴侶募集中だよ? 〇ケモンは預かり屋でなにをしているんでしょうねえ……
嫁探しの前にまずはご休憩しよう。こんだけ大きな王城なら使われていない部屋くらいあるだろ、もちろん俺とフェイの間には何も起きないのである。
アクセルが偉大なるセルトゥーラ王から賊徒追跡の命令を受け、一日ほど経った。
アクセルは何の成果も挙げられずに王の下に呼び出された。
「賊徒はまだ捕まらんか」
「……面目もない」
アクセルはしゅんとしていた。大見栄を切っておいてこの不始末では上げる顔もなく、ただただ俯いたまま捨てられた犬みたいに反省している。
「宝物殿の被害は?」
「幾つか物品が消えておりましたな。どれもゴミのような物ばかりなのですが、不思議な事に世界樹の剣や妖精弓のような強力なマジックアイテムは手付かずでした」
「ふん……! 大方物の価値もわからぬ愚物なのであろう。これだけの時間を与えて愚物の尻尾さえ踏めぬとは貴様の価値も知れたな」
「まこと面目次第も……」
「よいよい、貴様に期待した我の間違いだったのだ。下がれ」
アクセルは抗弁しなかった。その心には今一度の機会をという執着もあったが王命には逆らえない。
すごすごと退室彼の背に王と側近の会話が刺さる。
「狩りの陣頭は貴様が取れ。この手の輩に相応のマジックアイテムが幾つかあったはずだ、すぐに用意させよう」
(そのような物があったのならなぜ私に貸し与えてくれないのか……)
アクセルのそれは怒りではない、ただただ祖父の期待に応えられなかった悲しみだ。
アクセルは純粋なハイエルフではない。セルトゥーラ王の五番目のオデ=トゥーラが戯れにまぐわった人狼の姫から生まれた半端者だ。
生まれた頃はまだ可愛げもあった。その頃はまだ王からの愛情も感じていた。だが成長するにつれて醜い人狼の遺伝子が出てくると、祖父のみならず同胞からの目は奇異なるものに変じた。
(私は偉大なるセルトゥーラ王の孫息子だ!)
誇りこそあれど鏡を見る度に悲しい気持ちが溢れてくる。
ベルサークに住まう者どもは皆美しいのに、なぜ私だけが化け物の姿をしているのか。偉大なる王の血脈にも関わらず!
アクセルは王を崇拝するとともに祖父として愛している。だが王にとっては醜い犬を飼っているにすぎない。アクセルは確かに醜悪な怪物かもしれない、だがその骨子は愛されずに育った子供でしかないのだ。
苔生した暗い牢獄でレテは一晩中叫び続けた。
「お願い、帰してぇ!」
その小さな手が真っ赤に腫れ上がるまで鉄格子を叩き続けても衛士の一人もやってこない。それでも彼女は泣きわめいた。
「あたしはなにもしてません! 人族なんて会ったこともありません。だから、お願いだからッ、あたしを里に帰してぇえ!」
明け方まで泣き喚いていたレテは心身ともに疲れ果て、泣きながら眠ってしまった。
そんな光景を途中から見守っていた俺達は怒りに震えていた。ちなみにレテの投獄はエルフ城の探検中に偶然見つけちゃったんだよね!
「レテがいったい何をしたっていうんだ、エルフ王許せねえよ!」
「そこには同感するがな」
なんだ、なぜ俺をそんな加害者を見るような目で見るんだ!?
やめてくれ自覚はあるんだ!
「これ全部お前のせいだからな?」
はい、その通りです。レテを騙して道案内させた俺が全部悪いんです。
でもこんなのってないよ! いたいけな少女を牢に閉じ込めるなんて人の上に立つ者のやることじゃねえよ!
「どうする気だ?」
「レテをこのままにしておけるか。里に連れ帰る」
「解決になるとは思えんな。王が追手を差し向けたらどうする? 連れて逃げるか、だがその塁は親族や里全体にまで及ぶかもしれんぞ。まさか一生影ながら守る気か?」
ぐぅ、嫌なやつだな。徹頭徹尾正論しか言わないから逃げ場がねえ。
「……くそ、なんでこんなことに!」
「大した考えもなく行き当たりばったりで行動した結果だな。素直に受け入れろ」
俺とフェイの頭には最初から一つだけの正解が存在する。
王に話をつけて許してもらう他にない。真実はいつも一つ!
「真実はいつも一つだけど、嫌な真実からは目を逸らしたくなるな……」
「素直に受け入れろ。だがその前に僕だけは森の外まで逃がせ」
「逃がさねえよ! とめなかったお前も共犯だ!」
「暴論だ、僕は何もやっていない!」
「悪事を見過ごした、それがお前の罪だ!」
「悪魔めぇええええええええええ!」
俺達は殴り合った。シェイクハンドデスマッチみたいにお手々つないだまま殴り合い続けた。そして戦いの後、俺達には友情が芽生えた。
「さっさと自首しろボケぇええ!」
「るせー、てめえも道連れじゃあああああああああ!」
いや芽生えなかった。友情など芽生える兆しもない醜く愚かな戦いが続いた。
戦いの最中にぬっと大きな怪物が現れた。筋骨隆々とした二足歩行の狼だけどひでえやこりゃ、ハゲ人狼だよこいつ。毛を刈られたアルパカ並みに恥ずかしい生き物だ。
ハゲ人狼は鍵を開けて牢内に入るとじぃっとレテを見下ろしていた。
「こいつもしかして助けに来てくれたん?」
「お前の百倍良いやつだな」
よかったハゲに悪いやつはいなかったんだね!
ハゲ人狼はそのままじぃっとレテを見下ろしている……いや何らかのムーヴをしてくれよ置物かよ。
そのうちレテの可愛らしい頬をぺちぺちと叩いて起こし始めた。優しい……
そのうちレテが目覚め始めた。むっくりと起き上がったレテがハゲ獣人を見るなり、
「ひぃ!?」
怯えちゃいました。だって見た目怪物だもんね。
でも安心してくれ、そいつ俺の百倍優しいらしいからもうブッダじゃんブッダ。超優しい救世主だかんね。
「私が恐ろしいか……?」
「ご、ごめんなさい。いきなりだったので、その……あなたは昨日王宮へ連れてってくれた人ですよね……?」
「私が恐ろしいのかと聞いているんだ!」
ハゲ獣人の野郎腕の一振りで床を叩き壊したぞ!?
落ち着け、落ち着くんだハゲ! 俺はお前が優しいやつだって知ってるから落ち着いてくれ、ハゲる悲しみを知るお前は他人の痛みもわかるはずだろ!
「私を憐れんだな、私がそんなに醜いか!? 私はセルトゥーラ王の孫息子だぞ、本来ならお前のような下賤が口を利ける立場ではないのだ、それを! それをぉぉおおおおお!」
ビリィィィ!
レテの着衣が破り裂かれる。
「いやぁあああああああ!」
「なぜお前のような下賤が美しいのだ、私が何の罪を犯したというのだ!? お前の身体はこんなにも柔らかく美しいというのに……なぜ私だけがこんなにも醜いのだ」
レテの首筋をペロペロし出すとはなんとケシカラン。落ち着けハゲ!
って落ち着けるわけがねえか、こいつフル勃起してやがる。一瞬でもこいつを救世主とか思った俺が恥ずかしいぜ。
「フェイやるぞ!」
「おう!」
「「成敗!」」
二人同時にハゲ獣人の股間を蹴り上げる!
これぞ対男性究極奥義キンタマケールなり!
って嘘だろ、効いてねえのかよ!?
「リリウス、ここは僕に任せろ! 九式竜王流―――」
「へへ、俺もやってやるぜぇ!」
「竜爪三連打!」
「ケツ穴ミスリルソード!」
フェイの鋭く伸ばした手刀による高速三連撃がハゲ獣人の首を打ち、俺のミスリルの短剣がケツ穴に刺さ……らねえ! 括約筋仕事しすぎぃ!
「何者だ!?」
俺にはハゲ獣人の動きが見えなかった。
気づいた時にはそのぶっとい腕で首を鷲掴みにされていた。フェイもだ。
「ぐっ、く……離せ!」
「……馬鹿ぢからめ!」
こいつ強い!
レベルが違いすぎる。ステルスコートは掴まれると強制的に可視化譲渡する機能のせいでもう隠れていることもできない。
「侵入者はこんなガキどもだったのか。やはり我らが王は素晴らしい、確かにこの娘で釣れたではないか!」
ハゲ獣人が狂ったように笑い出した。
ハゲに負けた! 悔しい!




