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番外編 追放者たちの凱歌15

 ヌーレリック連山を降りていく行程は慎重を極めた。頭上を飛び交う翼竜に見つからずに木々の密集する場所を選んで移動していく。


 山の麓に第54回攻略軍が構築した洞窟拠点がある。ここを占拠していたスライムを焼き払って再占拠を済ませる。軍の合流には夕方までかかった。


 魔境の行軍に疲れた兵どもは配られた毛布に包まると魔法をかけられたように眠りに落ち、各国の代表は顔を突き合わせて今後の方針を話し合う。


 攻略軍トップの話し合いなどいち冒険者でしかない私には関係のない出来事だ。不安に怯えるルーを抱き締めながら毛布に包まり、仮眠をとる。……ヨダレ垂らすのはやめてくれ。


 やがてアシェルが戻ってきた。大事な情報源サマだ。


「方針は?」

「しばらくは待機さ。霊脈までのルート構築のために斥候を放つ。こいつはフェスタのトライザード坊やが担当することになった」


 つまり戦術は拠点攻略と同じ。土地の霊脈を先に抑えて疑似干渉結界を構築、その上で竜の谷を攻略するというわけだ。


 アシェル経由で読んだ前回の攻略軍は霊脈までのルート構築の途中で失敗。怒り狂った竜に追い立てられながら魔境を横断して逃げた連中は全滅。この洞窟拠点に閉じこもってほとぼりが冷めた頃にこっそり脱出した連中だけが生き延びたようだ。


「フェスタがヘマをこけば何もせずに撤退になるな」

「あたしはそっちの方がいいと思うけどねえ」


 やる気のなさそうな発言だ。


「やはり無謀だと思うか?」

「あたしも太陽の要請で派遣された身でね、あんまり上をつつくような発言はしたかないけど、迷い込んだ一頭の成竜がために滅びる国もあるのに数百の成竜が巣食う魔境の攻略が敵うとどうして考えられるんだろうねえ。どんな賢明な人間だってヘマをこくのはお宝を目にした瞬間なのさ」


 アシェルが周囲に目を配りながら言った。彼女には太陽の監視が常に張り付いている。私の千里眼に似た特殊な魔法の使い手だ。

 だからアシェルは常に言葉を選ぶ。知られてはならない知識を広めないために。


 ジベールは占領によってアシェラの英知を手に入れようとしている。だが太陽は懐柔と監視によってアシェラの英知を暴こうとしている。イルスローゼは表向きこそ神殿を保護しているがやり方は悪質だ。


「気の休まらない日々で同情するよ」

「そう思うなら手加減しておくれよ」


 アシェルが毛布をかぶる。

 私は彼女の言葉の裏を考えながら、英知神の巫女のわりに意味のない忠告だったなと鼻を鳴らせた。


 竜の谷の入り口は海岸線から二里も離れた奥深い山林の中にある、地面にぽっかりと空いた大きな穴だ。まるで地這い竜の大口だ。


 午後九時にこっそりと洞窟拠点を抜け出した私は竜の谷の入り口を見下ろしながら、傍らを浮遊する亡霊に確認する。


「ここが私達の源流の地か、そう考えるとワクワクするな」

『お金の話じゃないなら同意するわ。方針は?』

「交戦は徹底的に避ける。当座は霊脈を目指すが臨機応変にいこう」

『ほぼ何も考えていないじゃない』


 それはそうだがクラリス様に言われると腹が立つな。


『それとね、わたくしの指摘は他の方々へと対するものよ?』

「邪魔をする気はなさそうだ。放置する」

「へえ!」


 無視するつもりだったが声をかけてきやがった。

 私の立つ草地から見て斜め後ろの大岩に、高度潜伏魔法を用いる二人の男がいる。傲岸な王者の顔立ちをする策士ふうの超剣士は背筋を伸ばして愚民たる私を睥睨し、大岩にしゃがみこんで軽薄に笑う超魔導師はニヤニヤしている。


 どちらも行軍中に見た顔だ。砂のイルドシャーンとムハンマドだ。


「ボクのハイディングマジックを通したか。やるねえ」

「看破をかけられた気配はなかった。どういった手管だ?」

「手の内を素直にさらす気はない」


 私の反抗的な態度にイルドシャーンの目つきが凄惨に細まる。だが争いの無益さを悟り瞬時に自制したようだ。


 この面倒な話題を避けるべく先に疑問を投げかけておく。


「砂の王子二人が揃って散歩ではあるまい。何用か?」

「俺達とお前の目的は同じだろうよ。三大魔境の一つ『竜の谷』が目の前にあって呑気に眠れる男児がいるものか」


「つまり逸る心の任せて来てしまったわけか」

「そういう事だ。男子の心は常に冷静さと相反する。最適解を軍による攻略だと理解していても俺は竜の谷という伝説を自ら踏破したくてならないのだ」

「で、ボクはそんな兄貴のお手伝いってわけだ。無謀な兄貴を持つと苦労が絶えないよ」


「ついて来ずともよいと嗜めたであろ?」

「興味がなかったといえば嘘になるさ」


「まぁ! ではわたくし達は仲良しさんとなるわね!」


 パンと手を打ち鳴らす音が響いて初めてその女の存在に気づけた。

 山林の暗闇の中から漆黒の甲冑姿の女騎士が現れた。暗闇の属性に似た性質の暗黒を纏わりつかせた女騎士の美貌は満面の微笑みを浮かべているのに、見ている私の本能がピリピリと警戒を呼び掛けている。


「ラスト、君もきたか」

「ええ、来ちゃった!」


 私が言うのもどうかと思うがこいつら王族の癖にフットワークが軽いな。軍を率いる身でありながら自軍を放置して単身竜の谷に来てしまうトンデモ野郎どもだ。


 千里眼を広域に放って新たな闖入者がいないか確認する。


「どうやら竜の谷を単身で攻略しようという馬鹿者は私達だけのようだな」

「うふふふ、じゃあトライザード様とサフィーノ様は仲間はずれね」

「ハハハ! ラストよそこは賢明な連中と言ってやるべきだぞ」

「奇しくも四人の無謀な勇者が集まったわけだ」


 変な流れになりそうだな。

 先に明言しておく。


「足手まといは要らない。私は一人で潜るぞ」

「そういうな。これはもうダーナの織り紡ぐ運命かなにかであろうよ」

「そうそう! 仲良く行こうじゃないか!」

「うふふふ、じゃあわたくしもご一緒させていただこうかしら」


 イルドシャーンで背中をどかんと叩いてきた。ムハンマドには肩を組まれ、ラストには腕関節を極められている。


「なんでこんな事に……」

『頑丈な肉壁が三枚手に入ったと前向きに考えたらどうかしら?』


 クラリス様は相変わらず最低だ。


 竜の谷への大穴は鍾乳石のように滑らかな岩肌でできた緩やかな傾斜だ。私達四人+亡霊一人は暗い谷底へと降りていった。

 守銭奴93%

 装備:聖銀の胸甲鎧(228金貨) 白飛竜革のシャツ(20金貨) 聖銀糸のスラックス(45金貨) 純聖銀のディフィンダーソード(280金貨) ライフエッセンスポーション(500金貨)×4

 所持金:約4592金貨

 総資産:大型ホテル9軒 40万金貨(未受け取り)

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