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闇の賢者

 魔導協会認定賢者の中でも最高位の六色称号は各分野の頂点と認められた魔導師にのみ与えられる勲章のようなものだ。


 いわゆる六大属性の思想に則った称号であり、祈りの都の都市長で有名な青の賢者サルマン・レスタは水属性のエキスパート。赤は火属性、緑は風属性、金は光属性……うん、簡単に予想できるね。ガバいね。


 このように大変古くさい考え方を基に認定されているので現代魔導師の感覚でいえば水属性魔導師(笑)な分類分けになる。


 多種多様な魔導をたった六種に分類できるわけがない。粒子加速系魔導師はどこなんですか!? 数法系魔導師は何色なんですか!? もうそういう時代じゃないんだよ。古いんだよなー魔導協会って。


 あれもう魔導っていう既得権益を貪るだけの、魔導師を搾取する団体だから無くていいと思う。協会を通さないと手に入らない試験薬があるとか確実に発展を妨げる要因になってるから。


 そういう古くさ~い思想において黒の賢者とは闇のちからを意味するらしい。ダークパワー(笑)だ。闇のちからって何だよ愛の月(日本ふうにいうとクリスマス)がやってくる度に俺に目覚める負のオーラか?って感じだ。


 でもちがう。闇属性はいわゆる金属の属性だ。あれ、それ土じゃね?ってそこのあなたは鋭い。土の系統の練達者が鉄や銅の錬成魔法を操るのと同じじゃねーのって思うのは正しい。


 でもちがうんだ。闇の属性は大昔に魔導協会創設のきっかけになった異世界の魔人王(そっちの世界では王名の七翼と呼ばれていたらしい)のレスタト師が使うトンデモ魔法を指すんだ。


 このレスタト師はいわゆる次元渡航者で魔導の深淵を求めて色んな世界を旅しているっていう筋金入りの魔導馬鹿だ。でもこの魔導馬鹿の魔法技能は驚くべきことに四百年先でも足りないくらいの高度な技術を持っていたらしい。


 というのも彼のオリジナルブランド『闇の属性』は現代においても戦闘の一点に限れば最優秀と呼ばれ、今後もその記録を更新していくかもしれないすげー魔法なんだ。何がすげーって習得難易度最高っていうね……


 第一に習得の過程で魔法適性を闇に特化させる必要がある。これを行うと他の魔法を操るのが難しくなるし最悪使用不可になる。これで闇属性を使えなかったらそいつはもう魔導師とは呼べない半端者になる。


 第二に要求される魔法力総数がケタちがいだ。いわゆる賢者クラスの保有量がなくては初級魔法すら発動できない。ってゆーか初級魔法が存在しない。異世界の魔人王が自分のために作り出した最強の魔法属性だからだ。


 第三に闇耐性が得られなかった場合使用に耐え切れずに発狂する。暗殺者育成の際に毒物を与えて体に少しずつ耐性をつける訓練あるよね。あれと一緒。精神混濁の副作用のある闇属性とかいう毒物に自らも耐えられないといけないんだ。


 この説明聞いて子供を闇の魔導へと送り出す親は絶対いないと思う。


 まとめると闇属性っていうのは適性がない奴には絶対に使えない最強の属性だ。こんなもん使おうって時点で頭おかしいんだよ。……黒の賢者ゾルタンは闇属性魔法の頂点だ。頭おかしい世界チャンプなんだよ。

 超戦いたくねえ……


 夜と海だけの固有世界。浮遊する黒の賢者ゾルタンがドクロの杖を掲げる。邪悪なる闇の光をまといし魔導杖からひと雫の闇が零れ落ち、水面に落ちる。


 すると青ざめた水面は闇の波紋に侵略されて俺らの足元まで闇色に染めていく……

 特大の悪寒に急き立てられるように俺は叫ぶ。


「汚染された! 飛べ、早く! この水から離れろ!」


 初手から足場破壊とかやってくれる。もう浅瀬に足をつけられない。精神を破壊される。

 つまりゾルタン戦においては空渡りが必須。飛翔魔法は一番の悪手だ。軌道を解析されて狙撃される。


 最速で仕留める他に生き延びる手がない!


 俺は誰よりも早く空を踏んで走り、ゾルタンへと向けてアロンダイクの手斧を放つ。その寸前にゾルタンの足元からそそり立ってきた闇の壁に阻まれ―――アカンわ。逃げよう。


 壁をぶっ壊す勢いで手斧を叩きつけてもよかったが危険センサーが警報。攻撃を止めてゾルタンから距離を取る。するとゾルタンを守る闇の壁が津波のように前のめりに崩れていった。


 指一本触れただけでアルテナ神殿に入院確定っていう闇をあれだけ浴びたら二度と目覚めない昏睡状態になってもおかしくない。ナイス俺。


「ふふん、勘のいいガキじゃ」

「得意げなロリのくせに可愛げゼロとか最低だな」


 闇の壁は脆いとみてフェイが九式竜波動を放つ。一点集中したマナ粒子加速砲が闇の壁に阻まれる。今度は俺の時とちがって頑丈な設計だったらしい。フェイの魔攻仙術でもビクともしない。


 カトリが投げ放った投擲具も次々とそそり立つ壁に阻まれる。ゾルタンは身の丈ほどもある魔導杖をタクトのように華麗に操り、俺らの攻撃をしのいでいく。


 アタッカー三人の利点を生かして波状攻撃を仕掛けるがゾルタンの守りを崩せない。


「なんだあの魔法、流体金属か?」

「フェイ、もしかして闇魔法を知らないのか?」

「なんだそれ……?」


 どうやらイルスローゼ発祥の闇属性を知らないらしい。お前の弱点をこんな時に知りたくなかった!


「闇属性は簡単にいうと呪いの念を込めた流体操作魔法だ。気体でありながら重金属と同等の比重を持ち、触れれば熱、冷気、雷撃、精神混濁のダメージを受ける。単純に質量で押し潰される危険もあるんだ!」


「なんだその頭のおかしい魔法。そんなものあるわけが……」

「今実際に目の前にあってそいつが俺らを襲っているんだ! この世界とは異なる世界の法則に準拠した変態魔法だ。常識で考えてたら死ぬぞ!」


 フェイが舌打ち。その不満はゾルタンにぶつけてね!


 攻撃を重ねるもゾルタンの守りを崩せない。闇は防御超特化魔法だ。攻撃性能は低い。遅いからだ。気体金属とかいう謎の特性を持つせいで肉体から離れれば離れるほど制御は難しく、速度も遅くなる。バトミントンと一緒。初速特化なんだ。


 闇属性魔導師はその性質上闇以外の魔法がほぼ使えない。一定の距離さえ保っていれば理屈では安全なはずだが黒の賢者を侮る気はない。闇属性の頂点にいるロリ賢者がどんな隠し玉を持っているか……


 この距離なら安全。こういう認識を植え付けてから遠距離攻撃を打たれると一気に詰む。ここはゾルタンの固有世界だ。工房内での戦闘はアトリエマスター側の利点が多すぎる。


 俺の焦燥を見抜いたカトリが先に動いた!


「貸して!」


 俺から手斧を奪っていったカトリが幻影身! 

 五つの幻影と合わせて放つのは彼女の最大奥義だ。ゾルタンも勝負に乗るつもりだ。


「焦り動けばこちらの思うつぼじゃぞ? ≪汚泥よ槍と化せ、ハイドロ・ペネトレイター≫」

「クラウ・ソラス!」


 あれ? いつチャージしたんだ?


 そこら中の湖面から森のように垂直に突き出てきた闇の槍が五体の幻影とカトリが放った手斧を迎撃する。幻影の手斧は所詮魔法力で生み出したダミーでしかない。弾かれ、絡めとられていく……


 そうした守勢の最中にカトリが幻影と共に特攻する。本物のアロンダイクの手斧を幻影どうしで投げ放ってキャッチボールし、ゾルタンへと距離を詰めていく。速い! 


 まるで跳弾だ。フェイや俺でも目で追えない速度で後退と前進を繰り返しては宙を跳ね続けるカトリ×六体の速度にゾルタンが翻弄されている。幻影の手斧まで投げ合ってるので本物がどれかなんて俺にもわからない。


「まままま待てい! それは卑怯じゃあ!」

「トリトン・スロー!」


 六体のカトリが手斧をぶん投げる。ゾルタンが壁を築いて防ぐが今度も全部ダミーの手斧だったらしい。


 もはや光のラインと化したカトリの動きなんて追えるわけがない。フェイですらフォローできずにアワアワしてんだぞ!


「くそっ、また強くなってやがる!」

「どんな反応だよ……」

「お前にはわからんだろうが姉御と僕の間で色々あるんだ」


 彼氏にナイショでどんな交友があるというのか。殴り合いだろうけど。


 流麗な竜巻のようにゾルタンを包囲するカトリが今度こそ最大の超級攻撃スキルを放つ。このチャージ時間を稼いでたんですね! さすがカトリ!


「クラス・ソラス!」

「通さぬ!」


 ゾルタンが闇を束ねたドリルアローで迎撃する。アロンダイクの手斧は一瞬で闇のドリルに呑まれて消えちゃったぜ。ダミーですもんね。


 そしてゾルタンの背後に出現したカトリが青い炎を宿した本物のアロンダイクの大戦斧を構え―――


「これぞルーデットの奥義、鏡面刹那、いいもの見たと思って死んでね♪」


 放った。

 閃光のように、空間を切断する斬撃がゾルタンの肉体を一撃で両断する。天地を分かつかのように固有世界も二つに分かれて青の波濤に消し飛ばされていく。


 一瞬の空間がたわむみたいにぐにゃりと伸縮した後、俺らは無限図書館の最上階に降りたった。


 俺とフェイとレテ(一人だけ離れていた)が喜色満面でハイタッチ。一斉にカトリへと駆け寄る。


「すごーい、ほんっとうにすごーいね!」

「殺ったか!」

「フェイ君それ殺ってないフラグだよ」

「鏡面刹那は完全に入ったけど……」


 カトリさんそれも殺ってないフラグです。


「魔水晶を殺したことないからわからないなあ。あいつらの本体ってアストラルボディだし。依り代の魔水晶は砕いたしアロンダイクなら確実だろうけど……」


 この自信のなさは殺ってないな。

 俺はもう心の中に問いかけることにした。プライドを放棄するか否かである。


「ステ子、やってくれ」


 ステルスコートから夜刃が走る。無限図書館の採光窓の若干手前の空間に突き立ち……

 ドロリと闇が零れてきた……


『許さぬ……』


 それは肉声ではなかった。憎悪を塗りたくった思念の声だった。


 黒の賢者ゾルタンの本体ともいうべき霊体が可視化する。採光窓に張り付いた闇の塊だ。カーテンのようなボロきれのような闇を纏う不気味なガイコツ。


 昆虫のように幾つもの関節を持つ巨大な七本の腕で採光窓に張り付いているゾルタンの霊体が雄たけびをあげる。


『殺す殺す殺す殺す殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺ァァAAAAAAaaaAAAAA!!』


 怖っ、ロリ賢者の唯一いいビジュアルが欠片もなくなったぞ!?


 そしてアストラル・ゾルタンをいい感じに切り刻んでくれているステルスコートさんである。しゅき。


 斬る。再生する。斬る。再生する。ステ子とゾルタンがこれを繰り返していると……

 次第にゾルタンが弱り始めた……


「どうなってんだ?」

「ほら、ステルスコートの攻撃って魔法力吸収攻撃だからアストラルボディ特攻なんだよ」

「あたしがんばった意味あった?」

「姉御はがんばったぞ!」

「カトリさんさすがです!」

「すごかったよ、なんで落ち込むの!?」


 軽く落ち込み始めたカトリの背中をさすってあげる俺達なのでした。


 なんかもう全盛期の十分の一まで縮小しちゃったゾルタンが採光窓を割り、ビビってる感じで逃げていくな。


『許さぬ許さぬ許さぬ、お前だけは……』

「何ができるんですかー?」


 ゾルタンはもう死に体だ。もう何もできない。……忘れていたんだ。

 この場には敵がもう一人いた事を俺らはすっかり忘れていた。


「何ができるか? せめてひと刺しといったところだね」


 コーネリアスの声と共に放たれた闇の剣がレテの胸を貫く。誰も反応できない間に彼女の胸に突き刺さり、倒れていっ……


「レテ!」


 フェイが反応。ゆらりと前のめりに倒れるレテの体を支えることだけは間に合い、他は何も間に合わなかった。


 飛翔魔法で空中浮遊するコーネリアスが情けない面をしている。せめてひと刺しってのはそれだけ情けない結果なんだろう。俺らを全滅させるつもりが這う這うのていで逃げ帰るはめになり、最後に一人殺していくってわけだ。


 コーネリアスとゾルタンの体が霞みのように薄くなって消えていく。ガラテアを逃した時と同じ位相空間転移ってわけか。


「コーネリアス……コーネリアス!」

「激高はすれど無駄な攻撃はしてこない…か。ハッタリかと思ったけどガラテアを倒したというのは本当だったみたいだね。まいったな、これじゃあ留飲が下がりもしない……」


「どこへ逃げる。トライブ七都市同盟のいずこかか? それとも五大国のどこか、いや、イル・カサリアか?」

「追ってくる気かい? それはやめたほうがいい。本国は文字通り僕らのホームグランドだ。今回のようなマグレは千に一つも―――」

「気づいていないのか?」


 指摘するともう幽霊みたいに半透明になったコーネリアスの顔が疑問に歪む。


「何にだい?」

「お前さ、嘘つく時だけペラペラと長話になるんだよ。怖かったか、そんなに、俺が! 俺に追われる理由を作っておいて今更失策だとでも後悔しているのか!?」


「……好きにとりなよ」


 コーネリアスとゾルタンが消える。傷ついたレテを残して……

 フェイは意識のないレテの頬をぺちぺち叩いてる。動揺してるんだ。


「レテ、おい目を開けろ。お前もなんだかんだでしぶとい女だろ。なあ」


 ずっと頬ぺちやってるフェイの肩に触れると触るなとばかりに肘で押しのけられた。だがフェイもそれで正気に戻ったようだ。すがるような目つきで俺を見上げてくる。


「おい、何か名案はないか。お前頭はいいだろ。何かあるだろ、お前にはいつだって何かが!」

「落ち着け」

「落ち着いてなんて!」


 悲壮な顔をするフェイの頭をカトリがたたく。ぱこーんっていった。


「姉御……?」

「フェイ君、ここは祈りの都だよ。ウェルゲート海一の最先端医療が受けられる町なんだよ。さあレテちゃんをアルテナ神殿に連れていこう!」

「そっ、その手があったか。あったな!」


 最上階からダイブして図書館の閉め切られた扉を蹴破る。さあアルテナ神殿にダッシュだって時に……


 闇夜が人の形に固まるみたいにアルルカンが出てきた。お前もうちょい早く出てこいよ!


「なんだまだここにいたのか」

「話は後にしてくれ!」


 フェイがレテを抱き締めたままダッシュでアルルカンを通り過ぎる。俺にはそうとしか見えなかった。


 だがレテはアルルカンの腕の中に現れ、フェイは誰もいない腕をお姫様だっこの形にしたまま走っていった。アルルカンの真紅の両眼が浅い呼吸をするレテを見下ろす。


「重傷だな。闇の系統魔法か」

「わかるのか!? 治療の方法とかもわかるなら教えてくれ!」

「とりあえずはこれで保つであろう」


 アルルカンがレテの口に逆さにしたポーションをジャバジャバ……

 マジ助かるんだけどその流し込み方はどうかと思う。女の子に対するやり方では絶対にない。……あ、超焦りながらフェイが戻ってきた。


「レテがいなくなった! どこかに落としてしまったかもしれない!?」


 いやいやここにおりますがな。


 アルルカンの雑な説明によれば刀傷じたいは心臓を逸れていたのでポーションでどうにかなるレベル。問題は精神混濁の付与にあるらしい。レテの意識はいま覚めない悪夢の中を彷徨い続けているらしい。


「どうすれば治せるんだ……?」

「確実に治す方法ならある」


 どうして心の平穏を得たみたいな顔してるんですか!?


「大変面倒で厄介な女に貸しを作ることになるがそれでもいいというなら」

「紹介してくれ! 頼む!」

「うむ!」


 フェイが超反応で承諾した。アルルカンが我が意を得たりと嬉しそうな顔で頷いた。だから何なのその顔は!?


 絶対面倒な案件抱えてきてるぜこいつ……

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