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番外編④ 盗賊ギルドの音楽家

 死の街の探索で本日のアイテム回収は終了となった。そろそろ夕方だっていうのもあるがさすがに疲れたぜ。この後も疲れるのは確定だからここまでにしておく。

 そうアイテムの換金が方法は問題だ。これが確実に面倒くさい。


「出所が出所だから下手な売り方はできないわね。金は鋳つぶすし装飾品は外国で売りさばく、マジックアイテムも外国行きね」

「え、お願いしていいの?」


 俺はまだ帝都で高額盗品を売りさばく販路は持っていない。

 足がつかないように帝都から出る商人に売りさばこうにも妙に高価な品物なので帝都で仕入れを行って余所の街で売ろうとしている連中が欲しがるとは思えない。こういう品は帝都で商いをしている豪商向きの品なんだ。

 それでも売ろうとすれば行商人は品物の出所が悪いと踏んで買いたたきにくる。連中もけっこう手強いからな。実際品筋は悪いし高値で売り切る自信はない。


 だがイース海運が買い取ってくれるなら最高だ。外国と貿易をするイース海運の巨大販路に任せれば曰く付きの品でも問題ない。帝国では盗品でも世界の反対側に持っていけばクリーンな異国の品に大変身だ。

 まぁ本当に売る手段がなかったか?と言われたら当然奥の手はあるのだが、今回はファラの提案に乗ろう。盗賊ギルドはね、事前に面通ししないといけないキャラもいる上に足元を見られるだろうし面倒くさいからね。ギルド加盟の儀式という名のおつかいクエストがね。……盗賊ギルドの会員になっちゃう聖女さまってマジで大丈夫か?


 そもそもムジークが今この時期に帝都にいるか?っていう不確定要素もあった。でも可能ならガロード・アレクシスとは今冬の内に接触しておきたかった。奴を早い段階で始末できるならそれに越したことはないんだが……

 まぁいい、今は売却益だ。


「それでいくらで買ってくれるんだい?」

「査定は後日になるわ。まぁ買い叩くわよ、けっこうな手間がかかるんだもの当然よね?」


 うーん、厳しい。しかしここでグダグダ言っては男が廃る。

 女の前ではカッコつけるのも男の心意気だ。


「手加減はしてほしいね」

「ええ、ちょっとくらいはね。とりあえず手付はこのくらいかしら」


 金貨三百枚の約束手形を貰ってしまった。

 え、買い叩かれる上に査定前にこれだけの大金になるとは……


「もしかして今日の儲けって相当な感じ?」

「まぁ安く見積もっても四桁かしらね」


 最低でも金貨千枚!


「もちろん適正価格の話よ。買い叩くから実際には三分の一くらいになるかも?」


 それでも最低金貨三百枚! デス教団ってやっぱ金持ってんだな……

 これはイイかねづるになりそうな予感。



◇◇◇サトラーside◇◇◇ 



 サトラー・バリス・イースはイース侯爵家においては筆頭家令の地位にあるため財団内での高い地位は持たない。精々が警備部の非常勤顧問程度の役職で、精々が警備部の人員を顎で使える程度の権力しかもたない。

 だが彼はイース財団において落雷のごとき発言力を有する財団総帥の腹心である。

 表向きの役職はどうあれ、彼の言葉は総帥レグルスと同質の重みを持ち、また彼の心はイースの秩序維持へと向いている。


 支配人室の窓から見える路上で、総帥レグルスが掌中の珠のように可愛がるひ孫娘と野良犬のような少年が手をつなぎ、別れを惜しんでいる。

 そんな光景を窓から見下ろしながらサトラーはコーヒーをすする。まだ湯気の立つコーヒーの苦みは彼の心のままに苦々しい味わいだ。


「こそこそと隠れて会うだけならば気づかぬフリもできたがね」


 匹夫は簡単に増長する。ここまでは大丈夫だったならこの辺りはどうだろう?と少しずつ自制を緩める。頭の足りない自分の頭で判断する。……じつに愚かしい。

 こちらが見逃してやってるのも知らずに増長を重ねて、最後にはどこまで思いあがるつもりだろうか?


 ファラ・イースには輝かしい栄光の未来が待っている。世界に冠たるイース財団の総帥を継承し、太陽の王家から婿養子を迎え、名実ともに世界の支配者になるべき未来だ。そして彼は世界の女王にまとわりつくハエでしかない。

 多少の火遊びくらいは見逃してもいい。二人が特別に気を遣って自制を心掛けている間なら見逃してもよかった。

 だがこのように人目も憚らずに会うことが増えれば要らぬ噂が立つ。醜聞になる。それは世界の女王の汚点として長く彼女にまとわりつくことになるであろう。


「吾輩の管轄内であれば見逃せるが……」


 噂が広がれば、いや噂なんてものが出回る兆しを見せた瞬間にサトラーは事の経緯を報告しなければならない。

 怒り狂ったレグルス総帥がマクローエン家に対して何を行うかは想像に難くない。マクローエン家全体の処分だ。……それが今ならまだ少年一人で済む。


「貴女の悲しむ姿など見たくはなかった。ですが吾輩に手を出させたのは貴女の浅慮なのです。……ファラ様、火遊びの時間はおしまいです」


 彼女は悲しむだろうがいずれ時が悲しみを拭い去る。若き日のただ一度の過ちと笑える日もくるだろう。

 だがそれでも許されることは無いであろうし、貴女のためだったと弁明するつもりもない。そして、これは何よりも悲しむべきことに彼女はきっと永遠に心を開かなくなる。


 老剣士が未来に抱いた悲しみを先に忘れようとするように苦いコーヒーをあおる。サトラーにとって彼女に嫌われることはこの世のどんな悲しみよりも辛く苦しいものであった。


「貴女はあまりにもあの御方の若き日に似ている、似すぎている。年老いた老人の心さえ惑わすほどに……」


 サトラーは心の中でこれは忠義だと唱え続ける。

 初恋の女性にどこか似た彼女の容姿がために私情を挟んだわけではないが、それでも彼には己の忠義を信じ切ることはできなかった。


 財団副総帥アストライア・イースの面影があるのは彼女をイースの継承者に押し上げた大きな理由なれど、古くからイースに仕える者どもにとってそれは最上の証なれど、サトラーにとっては苦しみであった。



◇◇◇◇◇◇



 ファラとはイース海運デパートで別れた。別れ際にリッチーの呪いの首飾りを神殿に届けるようにと念押しをされたが……

 俺はアルテナ神殿とは別方向、旧市街の酒場を適当に渡り歩いていた。目当ては盗品を扱う吟遊詩人ムジークだ。こいつが盗賊ギルドの窓口になる。


 もう雪も降り積もる季節であるが夜の帝都は賑やかだ。繁華街の表通りと裏通りを適当に探しているが目当ての人物は見つからない。これまでも軽くは探してきたが見つからなかった。

 見ればわかるとは思わない。ゲーム的に描写された人物と実際の人物のビジュアルはだいぶ違う。二次元美少女そっくりそのままのロザリアお嬢様がおかしいんだよ。実際デブは目の前にいてもそうとはわからなかった。


 裏社会はああ見えて結束が強い。普段はお互いにいがみ合っているのに外敵に相対しては結束する。国内リーグで順位を争っている野球チームもWBCでは一丸となって戦う的な現象だ。

 だからこの一ヵ月のあいだ裏の住人とコンタクトを取ってきた。……まぁ彼女を裏社会の住人扱いするのは風評被害な気もするがな。かなり表寄りの裏というか裏の入り口らへんをうろうろしている程度の人だ。


 馴染みの酒場でたむろしている娼婦たち。その顔役の赤毛のレジーナに声をかける。

 酒場でも一等目立つまんなかのテーブル席で景気よく飲んでいるレジーナ姉さんがパァっと輝く瞳で振り返り、リリウスくんだと気づいて露骨にがっかりしてら。


「なんだい、あんたかい……」

「あんたの景気のいい恋人じゃなくてごめんよ」

「本当にね」


 娼婦さんは一晩幾らの商売だから今夜の恋人にありつけるか否かで生活水準が変わるんだ。酒場の二階の個室に行く前にメシも食えば酒も飲む、それが恋人の財布から出るかどうかは大切な部分なのさ。

 不貞腐れた様子で半分だけ振り返っているレジーナには機嫌を直してもらおう。テーブルに銀貨を二枚ぺたり。


「ひゅうっ、気前がいいねえ! 恋人に隠れて一発ヌキにきたってわけだ」

「そいつも魅力的だがそうじゃない。ムジークって吟遊詩人を知っているかい?」

「あん? なんだい、あいつに財布でもスられたのかい?」


 吟遊詩人の裏の顔はスリ師なのかよ。


「最近ギターを始めてね、一度プロのご指導を受けてみたいと思ったんだ」

「あのヘボ詩人に習うのなんておよしよ。あいつは歌い出せば猫だって跳んで逃げ出す勘違い野郎さ」

「勘違い?」

「あのヘボ詩人は自分が上手いと思い込んでるのさ。自分の声は自分じゃ聞けないし、あいつは他人の言うも聞きやしない」


 ジャイアンかな?

 猫も逃げ出すジャイアンリサイタルか。そりゃあ盗賊ギルドに堕ちるわけだ。歌じゃ食えなかったんだ。


「そいつは大した自惚れ野郎だ。で、どこにいる?」

「今の時分ならまだ馴染みの女の寝床に潜り込んでるんじゃないかねえ」


 おおっと、おつかいクエストの予感!

 女のところに行く→いなかった上に居場所を教えてほしければ頼みを聞けとか女が言い出す→じつはそいつは諸々がテストで合格すれば盗賊ギルドに口を利いてくれるというイベントだ。


「その女の居場所は?」

「……ねえ、気のせいだったらいいんだけどさ、厄介事なら関わりたくないんだけど?」


 レジーナが渋る様子を見せた。


 ①脅す

 ②説得する

 ③最終兵器『買収』を使う←


 俺は財布を開いた。するとレジーナの視線が俺の魅惑の指先に吸い寄せられる。


「一枚、二枚、三枚……」


 テーブルに銀貨一枚一枚をぺたりぺたりと置いていく。

 四枚の銀貨を置いたところで動きをとめる。


「その女の居場所は?」

「ええっとぉ~~」


 俺の指は財布に入れたまま動かない。断固動かない。


「あいつはイングリットっつってね、冒険者崩れで一時期は色町にもいたんだけどぉ」


 俺の指が銀貨を一枚テーブルにぺたり。

 レジーナ姉さんの口が勢いを取り戻す!


「生意気な女だったんで色々あってね、すぐにやめたと思えば安酒場の給仕娘を始めたりと色々と仕事を転々としていてね、そんな時にムジークの情婦になったのさ」

「へぼ詩人の情婦とかカネに困りそうだな。逆に稼いでやらなきゃいけない気がするね」


 また銀貨をぺたり。


「ムジークは顔しか取り柄のないへぼ詩人だけど金回りのいい男だからね。他人様には言えない稼業に手を出してるって噂さ。……ねえ、やっぱりこれってそういう関係の話になるのかねえ?」


「深入りはしない方がいいよ。あ、でもイングリットの居場所は教えてくれる?」

「……言われなくてもやばい話には関わりたくないんだがねえ」


 渋るレジーナ。俺は二枚の銀貨を摘まんで目の前でひらひらさせる。

 さながら綺麗なちょうちょの如く目の前を舞う二枚の銀貨にレジーナの視線が右往左往。さあごらん綺麗だろう?


「迷惑はかけないからさ、ほら」

「……本当に迷惑はかけないでおくれよ」


 よし、ムジークの女の住所をゲットしたぞ。

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