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悪役令嬢の手下Aだけど何か質問ある?  作者: 松島 雄二郎
この何でもない日々に寄せて 編
214/713

騎士サーの姫

 この日、俺は朝から愛馬のカウンタッ君のお世話をしている。愛馬と言ったが馬じゃねえ、グリフォンだ。


 成獣グリフォンは体高三メートルとかなりでかいがよく見ると可愛い奴なんだ。目がキラキラ澄んでるし鳴き声もクルルクルルって愛らしいね。翼をブラッシングしたり毛並みに沿ってクシを入れたり世話をするとめっちゃ懐いてくるんだ。


 ベティがなぜかカウンタッ君に対抗意識を燃やしているがやめろ、ロリを厩舎に入れて世話する性癖はねえ。出てこい。


「午後は頼むぞ」

「きゅーん!」


 午後は遠乗りに出かける予定だ。今日は仕事を忘れてカウンタッ君と一日遊ぶっつーか性能テストだな。特別価格で安くなってたのに金貨300枚の超高級騎獣さまだぜ、絶対いい乗り心地だよな! やめろ、俺の髪をもしゃるな! カウンタッ君はどうして俺の髪の毛もしゃもしゃ食べようとするの!?


 愛馬のお世話をしてたらものものしい連中が厩舎に押し入ってきたぜ。黄金騎士団だな。


「義賊はいるか!」


 おい、何の迷いもなく冒険者リリウス君のところに来るんじゃないよ。当然のように義賊=リリウス君みたいな風潮はやめろ。


 お話を伺うとフェスタ軍情報部のカバー企業『オディール商会』、昨日俺がぶっ潰したところだな。ここの家宅捜索をしていたところ目録にある物品が幾つか紛失していたらしい。それで盗品の調査をしているんだってさ。


「しししし知らねえ! 俺はなんも知らねえ!」

「目録によればグリフォンが一頭いなくなっていたそうだが本当に知らないのか?」


 やめろ、そんな疑惑の目でカウンタッ君を見るな!

 ダメだ絶対にこいつは手放さないぞ! 俺氏超熱弁する。カウンタッ君とのありもしない思い出を語る。時には命を懸けてともに戦い、時には相棒のように共に眠り、俺とともに数々の冒険を潜り抜けてきた思い出をッ!


 全然信じてくれないッ、騎士団に人の心はないんですか!?


「騎獣の所有申請はしてあるか?」

「……ええと、午後には民政局に行こうかと……ダメ?」

「我々も細かいところまで一々口を出そうとは思わん」


 この後めちゃくちゃ説教される。


「貴様の姿勢を悪しきとは言わん。実際我々も助かっている。だが堂々と窃盗を働くなら貴様とて罪人と変わらんではないか。たしかにオディール商会はフェスタ軍とかかわりがあるが商業ギルドに名を連ねる歴とした商会なのだ。その財産をさしたる理由もなく個人が勝手に差し押さえては火事場泥棒ではないか。悪人だから奪っていいなんて理屈を認めれば暗黒社会の始まりだぞ。所有権に関する議論をしたいならまず三部会議の議員になれ、いいな?」


「……うす」

「ではこのグリフォンは回収する。文句や所有に関する証拠が提出できるなら王国裁判所に訴えをかけろ」


 たった六時間の相棒カウンタッ君が騎士団に連れていかれる。

 俺はカウンタッ君の名前を叫びながら、女に捨てられたハゲみたいになってる。せめて一回くらいは振り向こうぜ!? あんなにお世話してあげたのに!


「はははっ」


 ……乾いた笑いが出てきた。


「俺はすべてを失った……」

「私ガイル」


 藁の敷かれた厩舎の中にいるベティがヒロインムーブしてきた。でもお前に乗ることはできないんだよ。いや大人な意味では乗れるけど犯罪だよ犯罪。ロリに乗ったらタイーホだよ。


 ベティが光ったと思ったら小型のドラゴンに変身しやがった。パンフに予め設定してある姿に変身できるってあったけど……


 こいつやっぱり普通のお世話人形じゃねえ。軍用の戦闘人形だ。だって普通のお世話人形にドラゴンに変身する機能つけるわけがねーもん。だから俺の髪をもしゃるな!


「ドラゴンライダーしちゃう?」

「する~~~~!」


 ロリに乗るのは犯罪だけどさ、ドラゴンライダーの魅力には勝てなかったよ。


 なおベティ竜に乗ってギルドに出勤すると騒然とされた。みんなすげえ目でビビってるぜ。

 ふっ、ドラゴンライダーリリウスと呼んでくれ。


 依頼の張り出しをしているアビゲイルちゃんのお尻をすれちがいざまに触ってからルーの窓口にご出勤。二十人は並んでたがみんな譲ってくれたぜ、モーセかな?


「ふっ、魔物ぶっころころすればいいだけの仕事を見繕ってくれ」

「自分で探せって言いたいところですが、いいですよ」


 話が早いじゃんルー、さては成長してるな?

 E級の討伐クエストを六つ貰ったぜ。どれも王都からは少し離れていて報酬は安め。足のない冒険者には不人気な依頼ばかりと見た。


「こんな露骨な在庫処分初めてだぜ」

「飛竜ならひとっ飛びですよ! がんばってくださいですぅ!」


 ルーって悪気なくこういうの笑顔で言えちゃうから憎めないんだ。人気の理由はそこだな、悪気が無いから許せちゃうんだ。愛嬌ともいうね。


 シシリーには昨夜のA級クエストの報告をしておく。報酬はおっさん王子の帰国後になるそうだ。

 アビゲイルちゃんが殺意の眼差しで睨んでくるのは放置して、さぁてお仕事といきますか。


 後日近隣ではドラゴンに乗った目つきの悪い魔導師が高所から魔法ドッカンドッカンぶっぱなして暴れているという噂が流れるがそいつは真実だ。


 ローゼンパームには夕方には帰れた。本日は大活躍だったベティには焼きそばクレープをおごり、買い食いしながら雑踏を歩いてく。


 ギルドの前でユイちゃん発見! 久しぶりだな、相変わらず可愛らしいな!


 グランナイツのアルテナ神官のユイちゃんはほわほわした愛らしい系の女の子で、男を知らない初心な感じがじつに微笑ましいんだが……

 なんかイケメン三人に囲まれてるぅ……


「今日も素晴らしい冒険ができたな。感謝する」

「いえいえ、みなさんの実力があればこそです!」

「僕らが勇敢に戦えるのはユイ姫がいてくれるからさ。また明日もお願いできるかい?」

「はい」


 良好な関係を保っている感じですね。びっくりするくらい仲がいいんですね。


 こっ、これはいったいどういう事態だ? ユイちゃんもしかしてグランナイツ辞めちゃったの? そういえば話題に出した時バトラが苦い顔してたが……


 俺はギルドを目前に踵を返し、ダッシュでバトラの下に急行する。



◇◇◇◇◇◇



 時は遡り、去年の十二月。世間が五大国会議で沸いている頃、一人の少女が泣き腫らす日々を送っていた。


 原因は最近ちょっといい感じになってた少年で、元カノと復縁するって言って捨てられたのが原因だ。


 彼に関しては元々色々言われていた。


 彼の兄からはやめておけ、傷つくだけだと諭された。

 その恋人からは今が楽しければいいんじゃないって楽観視された。

 姉の元婚約者からは絶対にやめておきなさいってお説教された。


 なおトキムネには最初から聞いてない。


 会議の最中は冒険者業のオヤスミで、彼女はずっと泣いていた。二日くらい泣き過ごしたら何かもうどうでもよくなった。笑顔はまだぎこちないけど、大丈夫だって言い聞かせて仲間達との冒険の日々に戻っていった。


 冒険の日々は相変わらず刺激的で、日々の成長が過去の自分を置き去っていった。でも心にぽっかり穴が空いたみたいな空虚さだけはいつまでも残り続けた。


 この苦しみを吐き出すみたいにバトラに相談した。


「俺にもそういう時があった。運命の女と信じた女性から引き裂かれ、国を追放されても彼女の笑顔だけがいつまでも目蓋の裏に焼き付いていたのさ」


 彼は身分違いのご令嬢と恋をし、大勢の大人たちから関係を引き裂かれたのだという。

 恋の相手がイース財団の後継者だというから驚きだ。彼はきっと本来はユイなどでは口も利けない身分の貴公子様であり、雲上で行われる謀略に巻き込まれて祖国を追われたのだろう……


 どうでもいいがこの時ユイの中でバトラの評価が上限を突破したのである。彼女の妄想の中のバトラはどこぞの国の王子様くらいになってる。それでいいのか? 誤解が加速していくぞ?


「未練だな、だが心だけは部屋を整理するみたいに片づけられない……」

「バトラはどうやって忘れたんですか?」

「新しい恋を見つけたんだ。浮気な話に聴こえるかもしれない、情けない奴と笑ってくれ」

「ううん、あなたは立派です」


 バトラは素晴らしい男性だ。恋をするならこういう人がいいに決まっている。でもユイの目蓋に焼き付いているのは別の少年の笑顔だった。


「私も立派になれるかな?」

「ユイなら大丈夫さ。ユイが素晴らしい女性だっていうのは俺達も知っているが、それ以上にアルテナ神も知っている。いずれ良い縁を運んでくれるかもしれない」


 この日からユイは冒険者業にますますのめり込むようになった。

 依頼の後にはバトラに訓練をつけてもらって前衛体術の訓練もした。いつかの王都地下迷宮二十層では足手まとい扱いを受けたが、もうあんな無力感はいやだった。


 仲間どうしなのに守られるのはおかしい。支援だけでもありがたいなんて何の慰めにもならない、戦う術を身につけるんだ。そういう気持ちで頑張ってきた。


 瞬間火力を補うために爆裂の鉄棍に持ち替え、クラウから簡単な魔法を教わり、バトラ仕込みの体術はメキメキと上達して彼を驚かせるほどになった。夕食あとの軽い手合わせてトキムネを倒してしまえたほどだ。


「次からは前衛も任せるぞ?」

「はいっ!」


 認められたことが嬉しかった。強くなれることが嬉しかった。積み上げる研鑽の先に明るい未来があるのだと信じていたからだ。


 五月の半ば頃、神官時代の上役を通じて指名依頼を貰った。上級貴族のお得意様(神殿に多額の寄付をしてくれる意味)の子弟が騎士学院に入学し、実戦経験を積むために安息日だけ冒険者業をしているらしい。ユイが頼まれたのは彼らの子守りだ。


 息子を心配する親御さんが神官長を通じてアルテナ神官派遣してくれって無茶を言い、神殿を出て冒険者をやっているユイに白羽の矢が立ったというわけだ。グランナイツが貴族に紹介しても安心な優良ギルドだというのも理由の一つだ。


 クラウド・ラース。ラース伯爵家の三男で、ニヒルぶってはいるが中身は真面目な熱血漢だ。将来は黄金騎士団への入団を希望している。彼の他に二人の学友もいるらしい。


 やや男性恐怖症気味のユイは当初断ろうと考えていたが、伯爵家ご当主様直々の依頼とあって報酬は格段に良い。ちょうど聖銀の魔法棍のためにお金を貯めているところだったというのもあり了承した。


「クラウド・ラースだ。こちらは学友のノヴァ・レーヌ、エイリーク・バラン」

「ユイです、助祭の資格を持っています」

「……驚いたな、助祭というともっとお年を召した方のイメージだった」


 会ってみるとクラウド・ラースは貴族らしく偉ぶったところこそあるものの、極めて紳士的な青年だった。一流冒険者の登竜門と呼ばれる王都地下迷宮二十層をクリアした新進気鋭のクランの専属神官という肩書きは彼のお眼鏡に適ったらしく、風下には置かない丁重な態度で接してくれる。


 風の魔法剣を自在に操るバトラの存在も大きかった。入学したばかりの彼らからすればバトラは目指すべき目標のようなものだ。


「冒険者はとかく支出が多い、がすべて必要な支出だ。アンチドーテ、ポーション、野営用の天幕、魔物除けの護摩、食料もそうだな。こうした準備を怠らず整え、それでも利益を出さねばならない。おぼっちゃんのお遊びなどと罵られたくなければきちんと利益を出すことだ」

「もしや貴方もこちら側か?」

「身に余る恋慕に敗れて国を追われた身さ」


 一回の冒険を終える頃にはみんなバトラ殿になってた。実戦で磨きに磨いた魔法剣は学院で教わるものより苛烈で、極めて実用的だ。これに加えて高威力の遠距離魔法まで自在に使いこなす。現役の騎士と比べても遜色のない実力だ。


 ユイも前衛戦闘・後衛支援をきっちりこなした。グランナイツの戦闘を見通しの良い後方からずっと見てきたのだ、何をどう動けばいいかは身に沁み込んでいる。彼女に戦闘指揮を任せれば危なげなく事が進むと三人の学生が学ぶのに一日もかからなかった。


 最初こそバトラが立ち会ってくれたが人となりを確認して二回目からは任せてもらえた。こうしてユイの安息日だけの移籍仕事が始まった。



◇◇◇◇◇◇



「騎士サーの姫ぇ~~~~!?」


 グランナイツの共同住宅に俺の悲鳴が轟く。

「そうだ、騎士サークルの姫だ」

「いやいや、何となくはわかるんだけどその先の問題だっつーの」


 ユイちゃんは週終わりの安息日二日だけ騎士学院の学生と仕事をしていたらしい。

 からの姫はなんやねん? オタサーの姫みたいなもの?


「どうもあの連中ユイにすっかりのめり込んでしまったらしく、プレゼントを贈り合ったりと好意を競っているらしい。で、付いた呼び名が姫だ」

「完全にオタサーの姫じゃねーか」

「オタサーはなんだ? オタクか?」


 説明する気もなかったのに一瞬で見抜きやがった、やるなバトラ。


 説明によるとどうやら騎士学院生三人がユイちゃん一人に手玉に取られているらしい。

 うん、小悪魔。ユイちゃん俺がいないとダメだなっていい気分にさせてくれるところがあるから、自信過剰な野郎ほどハマる魅力があるんだ。スキンシップ多いし。


 問題はここからだ。

 ユイちゃんはグランナイツを脱退しちゃったらしい。というのも高給が問題だ。


「ユイは元々安定した生活を送りたいと考えていたんだ。そして騎士サーの依頼を受けているだけでそれが叶うと勘違いしている」

「日当二ユーベルだもんなー」


 週休五日制で百万円稼げる仕事だもんなー。


「騎士サーでは大事にされるだろ、わざわざ危険な冒険者をやる意味はないんだとさ」

「イケメンたちから姫扱いだもんなー」


 乙女たちの理想の職場じゃん。わざわざグランナイツ来ることはないわ。週休五日制なら大人しく五日間ゴロゴロしてるわ。


 悲報、全部聞いたけど連れ戻す理由が何もねえ……


「バトラはいいのか?」

「ん? 生きて引退できる冒険者は賢いよ。遅いか早いかのちがいさ」


 冒険者ってのは長く続けられる仕事じゃない。年を経れば衰える、実力が落ちれば不覚を取る確率も増す。この職業は新人の死亡率も高いが、ベテランもそこそこ高いんだ。


「冒険者だけが人生じゃない。長くしがみついていけるほど甘い職業じゃないのは俺もお前もよく知っているはずだ」

「ガウンズのことか?」


 昔ガウンズっていう冒険者がマクローエンにいた。血気盛んで豪壮ないかにも冒険者って感じの男で、決して弱い冒険者じゃなかった。なのに彼は死んだ。希望を夢見て帝都に出ていって、女を取り合って若い冒険者に刺殺されたらしい。


「実力はあった。だが無茶をすれば彼のようになる」


 しんみりしちまった空気を取り払うみたいにバトラが頭に触れてきた。撫でるっつーか叩く感じだった。


「ま、頭の片隅くらいでもいいから身の振り方は考えておくといい。十年も二十年も先の話だ」


 生きて引退する冒険者は賢い。だが俺もバトラもユイちゃんもまだ上がり調子の冒険者だ。まだまだ先に行ける、栄光だって掴めるかもしれない、なのに引退はモッタイナイ気がする。


 翌日、俺はどうにも気になったので冒険者ギルドで待ち伏せしてみる。

 ギルドの開店時間である朝七時から待ち続けること二時間、ようやくユイちゃん登場。けっこうな距離走ってきたのかだいぶ息が切れてるぜ。


「みなさんお待たせしましたぁ~~~!」


 その瞬間に立ち上がる三人のイケメン。お前らそこにいたんかーい! そういえば五分くらい前に酒場に来てたなこいつら、見落としてたわ。


「いま来たところさ。待ち遠しくて心だけは昨日から待ってたけどね」

「おいクラウド、恰好つけるなよ」

「気にしないでくれ。本当にいま来たところなんだ」

「ごっ、ごめんなさい!」

「まったくユイ姫は朝に弱いなあ!」


 本当に気にしてない連中がアハハと笑っていい雰囲気ですね。三人で一人の女を取り合ってると聞いたからもっとギスってるかと思ったけど仲良さそうじゃん。


 談笑してる連中の爽やかな微笑みのシーンに一つ違和感発見。ユイちゃんの呼吸が整ってる!


 え、さっきまであんなに息切れてたのになんで? え、走ってきたフリだった? 何のために? わからん、わからんが気づいてはいけない闇を見てしまった気分だぜ……


 騎士学生のクラウド君たちは俺と同じFランク冒険者らしい。Cランのユイちゃんを通してD級の高額依頼を受けているね。なるほど引率役をそう使うか、実力さえあるならいい手段だな。


 お、ベルクス君たち発見。レイラが羨ましそうにこっち見てますね。


「いいなー、あたしもカッコいい兄貴欲しかったなー」

「っせーな」


 舌打ちを残してゴブリン退治に出かけてったぜ。毎日ゴブリンゴブリンゴブリン、ゴブリンスレイヤーかな?


 ユイちゃん団はそのまま市場へ、冒険の準備を整えるみたいだ。

 ノヴァ君が仕切って友人二人にあれやこれやと買ってくる物を指図し、二人がいなくなったところでユイちゃんの手を握ったぞ? と思えば彼女の手にはネックレスに似せた抗魔の護符が……

 ノヴァ君が超照れてる……


「昨日見かけてさ、よかったら使ってくれよ……」

「嬉しい、ありがとう!」


 ほっぺにキスされてるね。うん、俺は何も見なかった。

 二人は他の連中が帰ってくるまで手を握りながら待ってたんだ。過去の自分を見ているようで猛烈に痛々しい。


 四人が向かったのは王都地下迷宮だ。八カラット以上の魔石の収集となればダンジョンを選ぶのは妥当だな。


 騎士学三人組はけっこうやる。学院入学前のバトラより強いぞこいつら。

 迷いのない足取りで四層まで降りていき、ここで狩りを続ける気だ。


 イノシシみたいに突進していくエイリーク、攻魔を使いこなす万能剣士のクラウド、後衛寄りながら冷静に残敵を叩くノヴァ、戦況を見極めて前衛戦闘もこなせるヒーラーのユイちゃんか。思ったよりバランスがいいな。ユイちゃんがすべてを高いバランスで維持しているってのもあるが、手足の三人組がかなり強い。


 上級貴族の中でも武門のおぼっちゃんは生後すぐにエリート教育叩き込まれてるが、こいつらもその部類なんだろうな。剣聖マルディークの流れを組む術理をきちんと理解している。つか剣技に関しちゃ俺より上だ。ここいらの雑魚グリッターじゃ苦戦しないね。


 ちなみにグリッターっていうのは人の形をしたスライムみたいな粘性魔法生物だ。鉱物食なこいつらは野生で見かけると驚くべき成長を遂げている進化個体もいて、ミスリルグリッター級になると騎士団でも苦戦するらしい。


 むかし究極進化グリッター製造してそいつに乗り移ろうとして失敗した賢者がいたって話だ。その究極グリッターどこいったんだ?ってなると謎なんだよね。これけっこう有名な話で何百年も前の話なのにギルドは600ユーベルの懸賞金をかけ続けているんだ。


 二時間かけて第四階層をぐるぐる練り歩いて十数匹のグリッターを仕留めたユイちゃん団はノルマを達成したのか、お帰りになるらしい。


 外はもう夕方だ。ワイワイ言いながら楽しそうに帰ってるね。


「んんぅー! けっこう頑張ったな、さすがに疲れたよ」

「それだけの甲斐はあったね。レベルが上がった感じがするよ」

「おっ、やるじゃん。そろそろ十八だったか?」

「これで十七だ。わかってて言ってるだろ……」


 ギルドに依頼の魔石を渡して本日は終了だな。と思ったら中層区の高級レストランに入ってった。おい君達、本日の稼ぎより高そうな店に入るんじゃないよ。


「おいい! ここに置いといた俺の賄い食った奴は誰だー!?」

「俺の秘蔵のワインなくなってる!?」

「あれ、俺のコック帽はどこ?」


 打ち上げをやってる四人組。透明化してそれを立ち見してる俺とベティ、おいコック帽はなんでパクってきたんだ。気に入ったのか? 気に入ったんだな?

 おっさんのコック帽かぶってるもんだから鼻までずり落ちてやがる。


「さすが高級レストラン、超うめえな」

「勝った」


 ベティが勝利のサムズアップしてる。こいつプロ料理人を超える技術持ってるんだ。香辛料を組み合わせて新しい調味料を開発しやがったんだが、魔法の粉って名付けたわ。普通の肉が神になるんだ。


 俺も料理には自信があった。でも俺は所詮スーパーで売ってる調味料を使いこなすのが上手な素人で、食材から何でも生み出せる料理人のレベルじゃなかったんだ。


「こんなもんが泣くほどうまいんかハゲ?」

「……いつか絶対勝ってやる!」

「ハゲには無理」


 今日の冒険のお話をワイワイしてるユイちゃんずに差す不穏なハゲ……影だわ。

 近くの席で一杯やってた酔っぱらいの貴公子どもが絡んできたぜ。


「うるせえガキどもだな、ここはいつからこんなガキどもが来れるほど陳腐な店になったんだ?」

「せっかくいい気分で飲んでたのに台無しだぜ。おら、出ていけよ」

「なんだとてめえ!」


 立ち上がりかけたエイリーク君をクラウド君が引き留めた。


「よせ、酔漢の戯言に付き合うな」

「黙ってる気か!?」

「馬鹿どもに付き合ってやる気はない。こいつらがラース家に手を出す意味を理解しているとは思えん」


 クラウド君おっとなー、格好いいじゃん。

 でも貴公子どもが爆笑してるぜ。ラース家の威光が死んでるんですが……


「ラァァスゥゥ? あのラースか、知ってるぜ腰抜けラース! てめえの親父はジベールで艦隊放り捨てて逃げ出した腰抜けだろう!?」

「……」


 クラウド君の眉がピクリと動きはしたが平素な顔は崩さない。耐えてるね。男らしいわ。

 俺こらえ性がないからダメなんだよな。馬鹿に付き合ってやる必要はないんだ。


「あぁそういえば俺も聞いたことあるな。五年かそこいら前に一人だけ逃げ帰ってきた艦隊司令がいたっけな、そいつがラースだったか」

「三千の部下を置いてだろ? 領地の没収と爵位の降格、それとなんだっけ?」

「宝剣を取り上げられたんだろ。立派なご先祖様の面に泥を塗った貴族の恥さらしだ!」

「……戦場の何たるかも知らんゴロツキは気楽でいいな」

「てめえだって知らねえだろうが!」


 がしゃん!

 クラウド君が酒瓶で叩かれちゃったぜ……


「てめえ今どこにいるんだ、騎士学か?」

「…………」

「学生がいい気なもんだぜ。ラインズ、てめえんとこのじーさまは学院に顔が利いたよな?」

「はははっ、貴族の面汚し一人放逐するくらい簡単さ」


 う~~ん、義賊顔負けの悪辣な笑い方するぜ。

 優位に立った人間ってこんな顔ができるんですね。俺の鏡かな? 耐えに耐えていたエイリーク君がそろそろ限界だな。


「てめえら……クラウドに手を出してみろ、ぶっ殺してやるからな!」

「いいよ? できるの? ほぅらやってみなよ~~~~?」


 すげえ腹立つ顔で自分の頬をペチペチやってる貴公子さん。このあおりスキル、なぜだろう他人とは思えない……


 それでも耐え続けるクラウド君はすげえよ。フェイならもう殺してるぜ。


「けっ、腰抜けラースがおままごとか。似合いだぜ」


「……なんだと?」

「チンチクリンの小娘一人かこんでおままごとだろうが」

「この後は四人一緒にベッドでおままごとか? 何をするんだろうなあ」

「よせよせ、このヘタレどもにナニができるかよ」


「俺への侮辱はいい、だがユイ姫への侮辱は許さん。撤回しろ!」


 クラウド君が酔っぱらいの胸ぐら掴んで凄んだ! 徹頭徹尾格好いいなこいつ。


「はぁ~~~姫ぇ? この平民くせえチンチクリンが? 冗談はよせよ」


 酔っぱらいが逆にクラウド君を突き飛ばしてユイちゃんに絡み始めた。顔が超近いぜ……


「何マジになってんだよ馬鹿くせえ。平民の女なんて食いもんだろうが。おい、ヘタレどもに代わって俺が食ってやろうか? このカルザスール様が抱いてやるよ。下賤な野郎どもじゃ絶対に味わえない天国に連れてって……」


 カルザスール君あうとー。

 ずどん!


「なっ、カルザスールが……」

「見た事もないような恍惚の顔で昇天している」


 そりゃ繁殖の神の加護マックスにした神の金的だからな。痛みは快楽だ、500倍の感度の中で昇天すれば気絶くらいするだろうぜ。


「てめえら何をやりやがった!」

 ずどん!


「ひいっ、たっ、助けてぇぇええ!」

 ずどん!


 最高の痛みと喜びの中で昇天していった酔っぱらいどもへと合掌する。いい夢見ろよ。


 打ち上げって空気じゃなくなったので四人はすぐに解散した。独り暮らしを始めたユイちゃんのお宅は花吹雪き通りの閑静な住宅街にあるマンションみたいだ。


 そこには無人の部屋に向かって大声を出してるトキムネ君が……


「ユイー! グランナイツに帰ってこいよー、ユイー!」


 え、この馬鹿野郎いったい何時からここで叫んでるの?

 ご近所の住人にうるせえって怒鳴られても、パンピーの主婦にフライパンで叩かれても隣の家の子供が泣いててもトキムネ君は叫ぶのをやめない!


「ユイ、俺達の絆はこんなもんだったのかよ! 不満があるなら言ってくれ、俺にわりいとこあったら全部直す、直すから! また一緒に冒険に行こう! ユイー、戻って来いよー!」


 日本に帰ろうよ水島ーって叫ぶ日本兵みたいな奴だな。トキムネ君こういう熱いハートを持ってるから見捨てられないんだよな。デメリットの塊だけど仲間想いなんだ。


 でも傍目には完全にストーカーなんでクラウド君に取り押さえられ……お、腕を振り払えたか。成長してるな。


「おい騎士サー、てめえらのせいでユイはッ、ユイは!」

「トキムネさん、帰ってください♪」


 騎士サーに挑もうとしたのに横合いからバケツの水ぶっかけられてる!

 悲惨だ……


「ユイぃ……マジか、もうマジの奴なのか?」


 トキムネ君がシクシク泣きながら帰ってったぜ。おい、東方移民街の方に帰るのはやめろ。今夜は大人しくクランハウスに帰りなさい。 


 騎士サー三人組はユイちゃんを自宅に送り届けて本日はこれまで。

 俺も帰るかーって思ってたら……


「ユイ!」


 なんだ! クラウド君が走って戻ってきたぞ!?


「どうしたんですか?」

「忘れ物をした」

「???」


 クラウド君忘れ物はしてねえよ。俺が言うんだから間違いねえ。


「ユイの中に俺の心を忘れてきたんだ。部屋に入れてくれないか?」


 第二ラウンド!

 唐突に始まったなラブゲームが!?

Name: ユイ・ファザンゼール・アルテナ

Age: 18

Appearance: 純白の乙女

Height: 156

Weight: 48

Weapon: アルテナ神の法杖(品質C) バーストロッド(C)

Talent Skill: 未来視E 友情の輪B 体術C 

Battle Skill: アルテナの秘儀(熟練度A) ハイランド流体術(C) ブライトアロー(B) ブライドランス(C)

Passive Skill: アルテナの信徒A 信仰心D 絶望B 研鑽C


LV: 20(前回の鑑定結果との比較14)

ATK: 448(178)

DEF: 348(121)

AGL: 488(242)

MATK: 987(542)

RST: 1474(653)


 研鑽の効果により新規に習得した技能が高いレベルに昇華されている、と言えば努力を否定するようで好かない。誇るといい、これは君の努力の賜物だ。肉体を練磨することは後衛魔法職にとっても有益だ。実際ハイクラスウィザードと呼ばれる者どもには肉体的に脆弱な者など存在しない。

 信仰心のランクダウンにより術全体の威力がダウンしているがレベル補正値の方がうわまわったため実感はないだろう。全体の印象で言えば総合戦闘力と引き換えに回復能力の減少が見られるといったところか。

 バーストロッドは使い勝手が悪いためにお勧めはしない。へたな魔法付与武具を購入するくらいならクラウ君に頭を下げて教わる方がよほど良い。もっとも頭を下げる必要はないだろうがね。

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