ファウスト・マクローエン、その真価
マクローエン男爵家の長子にも関わらず何年も領地に帰らず国境ラインで羅刹の日々を送るラキウスに代わり、ファウスト・マクローエンは父の名代として忙しい日々を過ごしている。
とうの男爵様は何してるんだよ!
本当に働かないなあの親父!?
などなどの様々なご意見もあるだろうがファウストはこの立場に満足していた。将来的に兄ラキウスの代わりにマクローエン男爵家を継ごうと考えているファウストからすればこうした忙しさは将来のためのお勉強だ。目指すは領地経営のエキスパートなのだ。
帝国をあげての大祭に父の名代として参加するファウストは帝都に入るなり愛しのリリアに会いに行くわけでもなく、父の友達にして派閥の長であるバートランド公爵に挨拶に行くわけでもなく、まっさきに騎士団本部に向かった。
「訪問の目的は弟との面会……失礼ですがなぜ文も出さずに?」
「サプライズというやつですよ。可愛い弟の驚く顔を見たい、それだけのことでこうして不愉快な想いをさせてしまったのは謝罪させてください」
女性の衛兵は訝しがったがファウストの王子様オーラ全開の微笑みに気を許してしまう。何も知らない女性から見れば彼は輝くばかりの美男子だ。
「ではボディチェックを。失礼ながらこれは形式的なものでして……」
「理解しております(にっこり)」
正門に詰めた三人の女性騎士が神降臨とばかりに合掌する。野郎からは当然のような舌打ちに迎えられ、ファウストが手荷物を渡す。といっても持参物は一つだけだ。
「これはスプーンですか?」
「マイスプーンだけは持ち歩くことにしているんです」
(……腰に剣も帯びず、この方はどうしてスプーンだけを……?)
正門のチェックを易々と抜けたファウストの口角があがる。三日月のようなその微笑みは邪悪なものだった。
騎士団本部という軍事拠点にも関わらず堂々と潜伏魔法を使い、早歩きでリリウスが参加しているという訓練の行われる中庭へ向けて廊下を行く。
(私はたしかに他の兄弟に比べ劣っているのかもしれない)
夏の離宮でルドガーの言った負け癖という言葉はルドガーが考えるよりも遥かに重く彼にのしかかっていた。数ヵ月もの間折に触れては思い出し屈辱に震えるほどにだ。
ファウストは肉体的には脆弱であるものの才能に恵まれていないわけではない。むしろ魔法能力という一面においては長兄ラキウスをも凌駕する。だが強すぎる魔法力に肉体がついてゆけず、散乱する魔力に負けて寝たきりの日々を送ってきた。
そんなファウストからすれば他の兄弟は羨望の対象だった。ラキウスは言うに及ばずルドガーもバトラもアルドも健康そのもの。一回りも二回りも大きくなって帝都から帰ってくるルドガー達の成長を、喜んでやることもできず苦しげな想いとともに眺めていた。
(だがあいつに劣ることだけは認めるわけにはいかない!)
少し前から領民はリリウスを頼るようになった。手強い魔物が現れれば領民は冒険者ギルドに依頼を出すよりも正式な手順を踏んで領主マクローエン家に派兵を求めるよりも先に、庶子であるリリウスに相談する。
あいつは何の報酬も求めずにすぐさま家を飛び出して冒険者でも苦労する強い魔物を狩り殺してくる。誰に頼まれなくても近隣の魔物の間引きもする。山賊も解散させてしまう。これまでギルドと分担で担ってきた領内の治安維持という仕事をリリウス一人が負担した結果、領民の間で元々薄かったファウストの存在感はないも同然となった。
(あの野良犬に劣るなどマクローエン正統の嫡子として看過できるものではない!)
男爵家の嫡子としての誇りを奪われた。
トイレの近い生活を余儀なくされた。
お小遣いを盗まれ続けた。
イケメンは死ねと意味もなく発作的に殴ってくる。
初めて好ましいと思った女性は尋ねてもいないのにリリウスの近況報告を添えてくる。どうしてあいつの太ももにあるほくろの形が面白いとか知っているのか! 寝たのか、まさか彼女と寝たのか!?
あいつはどこの腹から出てきたかも知れない野良犬だ。品性の欠片もない卑しい野良犬だ。私がまともに相手をするようなやつではない。ケツにスプーンをねじ込まれる度に何度も己にそう言い聞かせてきた。
(だが認めようあいつは私にとって乗り越えねばならない壁なのだと! あいつに勝利して初めてリリア嬢にこの想いを伝えられる!)
ファウストは右手のスプーンに渾身の想いを込め、廊下の角を曲がってリリウスのいる中庭を目指し―――
「どこの馬鹿者か!」
凄まじい破壊力の蹴りがファウストの腹部を蹴りつけた。
蹴りつけられた瞬間に肋骨が粉砕される嫌な音が体内から鳴り響き、その勢いのまま壁に衝突して左腕も折れた。
「ぐぁあ……!?」
密かに訓練を積んだ潜伏魔法を見破られた衝撃も大きいが痛みも大きい。意識を手放させないほどに! いま意識を手放せば即死すると確信するほどの激痛が痛みだ!
壁に衝突してバウンドで戻っていったファウストは漆黒の手甲に包まれた腕に首を絞められる。宙吊りになったファウストの目に飛び込んできた人物は信じられないほどの大物だった。
(が、ガーランド・バートランド!?)
「騎士団内で潜伏魔法とは堂々とした賊徒め、その背後関係洗いざらいしゃべるまで死ねぬと思え!」
ファウストを片手で宙吊りにしているのはリリウスが見た事もないほどガチキレしているガーランド騎士団長閣下だった。ファウストは一瞬で矜持を砕かれ、哀れなほど情けない顔で手足をバタバタさせて僕は悪い事してませんアピールである。
「……君はたしか痔の?」
最高に嫌な覚えられ方をしていた。
首から手が離れると自由落下でしりもちを着き、不名誉なことに衝撃でちょっぴり漏らしてしまった。
「げほげほっ、ふぁ…ファウスト・マクローエンです閣下」
閣下が顔を顰める。おそらくは彼から漂ってくる悪臭に気づいたからだ。
閣下は無言でファウストの襟首を掴んで持ち上げ、中庭で手押し車百キロメートル走をやらされているロザリアを筆頭とする三馬鹿トリオの前に引きずり出して一言。
「この馬鹿者の処刑方法を提案しろ」
「えぇぇぇ軍事施設内で潜伏魔法使うとか……」
「バトラ君といいリリウスのお兄さまって馬鹿しかいないの……?」
「失敬な、人殺し大好きな羅刹もいますぜ」
「やべーやつしかいないのは変わりないんだね」
規則だ法律だ以前に軍事施設内で怪しい行為をすれば拷問部屋確定だが、吐かせてもどうせしょうもない理由だろうと察した閣下は即刻処刑を選んだ。英断すぎる。どうせ一秒でゲロするのは弟のケツにスプーンねじ込みに来たとかいうしょうもない真実だ。
しかしここでリリウスが意外な発言をする。
「今回だけ命だけは大目に見てはもらえませんかね?」
これに一番驚いたのはぐったりしているファウストだった。
死を前にして手にした一縷の希望は卑しい野良犬と蔑んできた腹違いの弟の助命だった。
「お前はどうして……」
「馬鹿、俺達兄弟だろ」
リリウスがファウストの手を取り、立たせてやった。
その瞬間ファウストの心から憎しみや恨みのような悪しきものが抜け落ちていった。代わりに芽生えたのは羨望だった。
取るに足らない小者だと信じてきた。少し本気を出せば容易く踏み潰せる矮小な存在だと信じてきた。いや、そう信じたかっただけなのだ。
曇りの失せた眼で改めて見つめる腹違いの弟は、己よりも遥かに大きな心を持つ男だった。
「お前は大きいな。目先の優劣にばかり囚われていた私などと違って……」
「そんな卑下するようなこと言うなよ。兄貴にだっていいところはあるじゃないか」
我が身を振り返る兄とその背中を優しく叩く弟の光景は胸に迫るほどに温かく、騎士から拍手が送られた。
「あの小僧立派なことしたよ」
「あの年でさ、ああまで言える奴中々いないよな」
「訓練も真面目にやってるし、俺あいつ気に入ってるよ」
「俺もだ。やっぱ閣下の見る目に間違いはねえな」
「デブは?」
「お嬢様の目は腐っておられるんだ」
騎士の中には涙を流しながら拍手する者までいる。
そんな感動の光景の最中にロザリアがトコトコと愛らしい小走りで閣下に近寄る。
「意外だわ、おにーさまが温情をお掛けになられるなんて」
「温情だと?」
すると閣下はクククと低い声で笑い始めた。
その様子がとても楽しそうなのでロザリアは自分が何かおかしなことを言っただろうかと首を捻ったくらいだ。
「お前はリリウスの何を見てきた?」
「彼は優しい子よ、お友達のわたくしにはちゃあんとわかっていてよ?」
「無理解極まるな。俺は処刑方法について提案を打診し奴は命は取らぬ形での相応の処罰を提案したと理解している。玩具は生かさず殺さずが一番長く楽しめる、そうではないかな?」
「……すごく納得したわ」
そして感動の拍手に包まれる二人はこんな会話をしていた。
「だが兄貴、罪には罰が必要で俺に出来るのは助命だけなんだ。すまない」
「悪いのは私なのだ、何を謝るんだ。私は罰を粛々と受け入れようと思う」
「ちからのない俺を恨まないでくれよ……」
「わかっている。お前には何の責もない! お前は、私を助けてくれたじゃないか!」
この瞬間リリウスの微笑みが三日月の形になった。
邪悪なマクローエンの悪魔の微笑みがさらに深くなる。
「皆様聴いてください! たしかに兄貴は大きな罪を犯しました! ですがッ! 寛大にも! ガーランド閣下から助命をいただき九死に一生を得ましたが罪が軽くては皆様に対しあまりに! 申し訳がなさすぎる!」
「お、おい……?」
「申し訳がなさすぎる! それは兄にとってあまりにも良くない! 罪には罰ありと教えねば兄はこの先何度も何度も皆様のお手を煩わせる愚か者になってしまうでしょう!」
話の雲行きが怪しくなるどころか未来に暗雲が立ち込め始めた。
明日という未来さえ見えないほどの暗黒がファウストの頭上を覆い隠していった。そんな気分だ。
「ですのでこのように提案させてください、皆様の手で兄貴のケツにスプーンを一回刺していくのです! 皆様一人一人の手で刑を執行することで、愚兄は真人間に生まれ変わるのです! どうか皆様のおちからをお貸しください!」
リリウスの目に涙が……
こんな恐ろしいことを言い出している最中でなければ感動的だったのに!
「皆様の清き一刺しをどうか! 愚かな兄を更生させるためにどうかァ!」
「み、皆様って!?」
ファウストの視線が泳ぐ。中庭には数百名を越える騎士がいる。そのほとんどが訓練を止めてこちらを見ている。皆様って数百人を越えるみなさまの事なのか!?
「り…リリウス!?」
狼狽するファウストが逃げようと後退る。
閣下が「やれ」と顎を上げるとアメフト系ガチムチ騎士二人が両側からファウストを取り押さえ、四つん這いの大勢にさせる。
「さあ兄貴! 罪を償い立派な人に生まれ変わるんだ! 俺は兄貴のためになら涙を呑んで―――悪魔にもなる!」
「悪魔めぇぇええええええー!」
さっとズボンを脱がすと女性陣から黄色い嬌声があがり、一本目のスプーンはリリウスが容赦なくいった!
「うぐっ!?」
こうして騎士団一個大隊によるドキドキスプーン危機一髪大会が始まった。何がドキドキかってケツから噴き出すものは汚いものに決まっている。
「真人間になれよ!」
「あんま弟困らせるなよ」
「罪を償ったら騎士団に来い、その腐った根性叩き直してやるからよ。っけ、俺も甘くなったもんだぜ……」
「そうよ騎士団に来なさい。わたくしが特別に可愛がってさしあげてよ?」
騎士一人一人から温かな激励とともにスプーンがねじ込まれる。
ズボズボズボズボ……みんな良い事した気分でスプーンを刺しては引き抜いていく。百人を超えたところでリリウスが泣き出した。
「閣下、このままでは兄が死んでしまいます! 何卒実習班のサディストどもの治癒魔法をお使いくださいますようッ!」
「よかろう! サイアスを呼べ、奴の治癒魔法は激痛を伴うが治りは格段に速い!」
「リリウス君も閣下もマジ鬼だね」
「……これわたくしも刺していいのかしら?」
「「お嬢様は興味持たないで!?」」
「でもみんな楽しそうだし♪」
「「絶対に楽しくないの見ればわかるよね!?」」
「ロザリア、お前は禁止だ!」
閣下のナイスプレーによってお嬢様の性癖が歪むのは断固阻止された。
そんなこんなあって夕刻、記念すべき最後の一刺しは騎士学院の女子寮から連れてきたリリア・エレンガルド嬢が選ばれた。
何も知らずにリリウスに連れて来られたリリアが目撃した光景は真っ赤に染まった芝生! 血塗れの芝生の上で四つん這いになる文通相手!
いい顔をする騎士団の皆様の拍手に包まれながら、リリアは戸惑い果てている。
「こんな…こんなことって……!?」
リリアは肝の据わった少女だが、あまりの光景に卒倒しかけたほどだ。
そしてリリウスが記念すべき最後のスプーンを持ってきた。
「りっ、リリウス君こんなのはおかしいよ。間違ってる!」
「何も間違っていないよ。これも兄貴を想えばこそ……俺だって心で泣いているんだ!」
「嘘だぁー、そんな悪魔みたいに笑っててさあ!」
「さあリリア」
「頑張ってください!」
「リリアさん、これもこの方のためなんですの!」
ロザリアを筆頭とする三馬鹿トリオからの熱い後押しを受け、リリアがファウストと向かい合う。いや向き合ってるのは彼のお尻とだけど。
「ファウスト……」
「いいんだ」
何がいいのだろうか?
「君の手でこの苦しみを終わらせてくれ」
「この様でなんで格好いい感じのセリフを……うぅぅぅぅぅこんなの絶対に間違ってるよ……」
リリアがスプーンを右刺突に構える。やる気だ。いいのか!?
「これもファウストのため、これもファウストのため、これもファウストのため―――えーい!」
ドス!
この後二人の人生を変えるショッキングな出来事が起き、二人はまるで結婚を祝福される新郎新婦のような温かな拍手に包まれるのだった。
後日~~~~
ファウストからカフェに呼び出されたリリアはなんとも言えない沈痛な面持ちでティータイムをすることになった。ファウストが色々しゃべってる。先日の醜態を吹き飛ばそうと必死だ。
「というわけなんだ」
「…………」
「領地経営というのはやってみると難しいが苦労に勝る面白みもあってね、やはり数字で良くなっていくのがわかると充実感を感じるよ。私はいずれあの痩せた土地を豊かなものにしたいと考えているんだ」
「…………」
「その時に、その時に……あなたが隣にいてくれたらと思うんだ」
「ファウスト」
それまで重く口を閉ざしていたリリアが一言彼の名前を呼ぶと、彼はパァっと明るい顔で前のめりになった。鼻息がめっちゃ荒い。
「あたしたちは距離を置いた方がいいと思うんだ」
そう言い捨て、彼の止める声も無視して女子寮に戻る。
女子寮ではウキウキで明日の建国祭りのデートに使う洋服を選んでいるファラがいた。
リリアは無言でベッドに座り込み、重苦しいため息をはいた。
「あれ、ファウストとデートだったんじゃ?」
「…………お尻にスプーン突っ込まれながらママを呼んじゃう男ってどー思う?」
「ひどっ……誰のことか知らないけど相当な変態ね。そいつ絶対マザコンの変態だわ」
「だよねー……はぁ」
また陰鬱なため息が出てきた。
「ところでファウストとのデートは?」
「ない」
夏に始まった一つの恋は冬の半ばにクソみたいな形で終わった。
◇◇◇◇◇◇
冬の訪れはあっと言う間も与えぬほどに早い十月の夜。九月末にはちらほらと降り出した雪も十月ともなれば深い積雪となり帝都を冷たく閉ざしている。
バートランド公爵家から宛がわれた客間で目を覚ましたリリウスは窓の外を覗いてまだ夜なのだと知る。
「嫌な時間に起きちまったもんだ」
一度寝てしまえば気にならないが目覚めてしまえば寒さが身に染みる。
あれほど強く吹雪いていた夜はしんみりと静まり返り、雪も止んでいる。
「寝酒でもあれば寒さなんかどうとでもなるんだけどね」
帝国では女子供も暖を取るために酒を常用する。そのせいか帝国民は総じて大酒飲みで、近隣諸国では赤鬼と蔑まれているらしい。
「外に買いに行くか……」
渋々と靴を履く。これがマクローエンの屋敷なら厨房から酒をパクってくるが、客人として迎え入れてくれるバートランドから酒をパクる気は起きない。使用人に頼めば嫌な顔一つせず用意してくれるだろうが、あまり借りは作りたくない。
ガラス窓を開き、二階からひらりと飛び降りる。
冬夜の帝都は神殿のような静寂に満ちていた。普段であれば夜更けであっても人も馬車も行き交う帝都であるが、三日三晩続いた吹雪の後では出かけようという物好きも少ないらしい。時折娼婦と二人コートを共にする酔漢を目にするくらいだ。
「お熱いねえ、熱いのは男の方だけかもしれんが羨ましいもんだぜ」
歓楽街の酒場からアルコール度数だけは高い安酒を調達して一口やる。
グビリと喉を鳴らして飲む最初の一杯は旨い。
「二口目からは飲めたもんじゃないってのは不思議なもんだ」
だいぶ踏み固められているとはいえブーツのくるぶしまで埋まる歓楽街をのんびり歩きながら、遥かな丘の中腹にある屋敷を目指して歩いていると……
『助けて……』
子供の声がする。
風に消えそうなくらい微かな声に振り返れば、無人の路上に青白い子供が立っていた。
ただの子供ではない。ぼんやりと青白く光る子供の姿は風に揺れてその輪郭も曖昧だった。
「幽霊……はは、どうやら酒が過ぎたらしいや」
しかしこの子供どこかで見た覚えがある。
暗い瞳をした目つきの悪い、年のころ六つか七つの子供の顔は……
その正体に全身の毛が総毛立つ。
「お前はまさか……?」
『助けてやってくれ……』
「……誰のことだ? 誰を助けろというんだリリウス。俺ではない本物のリリウス・マクローエン! 答えろ!」
その名を口にしたからか、はたまた別の理由なのか幽霊の姿は風に吹き散らかされるみたいに四散していった。
雪混じりの一陣の風が吹くとその破片さえも跡形もなく消え去った。
どれだけ立ち尽くそうとリリウスの幽霊が出てくることはなかった。
「まさか姉貴の身に危険が?」
遠いマクローエンの地で何かが起きようとしている。
そんな言い知れない恐怖が、彼を支配した。