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悪役令嬢の手下Aだけど何か質問ある?  作者: 松島 雄二郎
この何でもない日々に寄せて 編
208/713

帰国 新たなる始まり

 新章開幕!

 新生フェスタ帝国が新都エアフォルクに移ってあれやこれやと大騒ぎしている間のお話になります。何でもない日常の記録みたいな感じで、穏やかな気持ちで最後の爆弾を迎えようかと思っています。



登場人物紹介


リリウス・マクローエン

 夜の魔王の呪具ステルスコート所有者なのにGランク冒険者とかいうダメな子四号。社会的地位が死んでるのを内心気にしてて、そろそろランク上げしたいなーって考えている。



リザレア・マクローエン

 マクローエン家長女。市内のアルテナ神殿で癒しを振るう新進気鋭のメッサー。外科手術の腕前はすでにゴッドハンドと呼ばれている……



バトラ・マクローエン

 主人公より五つ年上のマクローエン家四男。恋に冒険に正義執行にと大忙しな日々を送る主人公より主人公してる奴。そろそろBランク昇格審査を控えている。



フェイ・リン

 最近ちょっと調子に乗ってる九式竜王流の武術家。すっかりほったらかしにしていた現実と対峙し、少年は大人の階段をのぼる。



シェーファ

 ウェルゲート海の主だった戦場を渡り歩く悪辣冒険者『銀狼』だが現在はオフ。クランの主な構成員であるライカンスロープの一族が故郷の開拓に精を出しているので、今年いっぱいは付き合ってくれるらしい。



サリフ・フェンリル

 ライカンスロープの族長ナバールの娘。男所帯で育ったせいかガサツで大雑把で豪快な性格をしている姉御肌。なお恋愛には疎く、新参のエストヴェルタの猛攻撃にハラハラしている。でもフェイに頼るのは間違ってると思う……



エストヴェルタ・イルミリオ

 元フェスタ海軍大佐。シェーファを気に入ってついてきてしまったお姉さん。ローゼンパームの大都会っぷりに内心ビビっている。



ベティ・アルザイン

 ガレリアの子供のアサシン。ひょんなことからリリウスにべったり付いてくる。お世話大好きで炊事洗濯は任せろ! ただし料理はかんべんな! リリウスよりうまいの作っちゃうからな! 存在意義を奪われかけているリリウスから密かにライバル視をされている。どうしてこうなった……



レテ

 エルフの弓兵。自称フェイの恋人という感じだったが年末に喧嘩別れしたまま半年以上も放置されたので超怒ってる。現在はサ・トゥーリーに身を寄せている。



トキムネ

 本名は真田小十郎時宗とかいうサムライ野郎。クズでお調子者だけどたまに年長者らしい男ぶりを見せる時がある。本当にたまにだ。



クラウ・ヘンデルベルク

 平民出の凄腕魔導師。影の薄さには定評がある。



ラトファ

 エルフの弓兵。みんなの最近の成長ぶりに焦ってサ・トゥーリーのウルド様を頼った結果えらいことになっている。ハイエルフの特訓舐めていた系女子。なお私生活は全滅している。



ユイ・ファザンゼール・アルテナ

 堕猫。

 ルーデット市での潜伏が続くとある日の昼間、太陽の王家の王子様なのに庶民の恰好させると超似合ってしまうおっさん王子からこんな打診があった。


「次の便の都合がついた。ローゼンパームに戻るのなら乗れ」


 安酒場のバーカウンターでこんな話をしているとアングラな密談に聴こえるぜ。フェスタ攻略に失敗したレジスタンスのアジトで密航の話してんだ、何も間違ってねえ。


「おっさ…シュテル様はどーすんすか?」

「馬鹿野郎ッ、俺は逃亡犯みたいなもんだぞ、おっさんでいい。って誰がおっさんだ!?」


 どんな感情のぶん回し方だよ器用なおっさんだな。

 でもおっさん王子は42歳なのにまだまだ若い気でいるらしい。こないだ俺はアラサーだって言ってたし間違いない。


「おっさんはもう諦めなさいな」

「ええいコパ! 貴様と比べればまだまだ若いわ、というか貴様俺の父とおない年だろうが!?」

「私は自覚しています」

「ジジイが悟りやがって、俺はまだまだ若いわ!」


 13、42、69歳が並んで酒飲んでるんだ。見事な三世帯だな。


 とはいえさすがは太陽の王子様だ、殴り合いを始めるみたいな庶民っぽいことはしない。剣を抜く時は殺す時だけなんですねえ、怖っ。


「俺は総司令だぞ、帰国するのは全員帰す目途がついてからだ」

「ラストはさっさと帰しましたね?」

「プリンセスがしんがりはおかしいだろ」


 プリンスのしんがりもおかしいけどレディーファーストらしいね。紳士なんですね。


 コッパゲ先生は次の便で帰るらしい。今から帰れば期末試験までには戻れるらしい、つーか最近夜遅くまで書きものしてたのって答案作ってたの?


 後日ラサイラでは授業が脱線しないプリント授業のおかげでスムーズに試験範囲が終わっていることが判明する。配られたプリント全部初回で終わらせた連中が余った時間を自己研究に費やしたとかなんとか。


「次の便ってのはいつですかね?」

「明日だ。乗らないなら他の奴を乗せる、乗るなら八人まとめて帰してやる。この場で決めろ」

「こっちは縦割り軍組織とちがって仲良しこよしの冒険者ですよ、夜まで待ってくださいよ」

「保留はすかん。仕事は溜めない口なんでな……だが民間人にあれこれ指図するのもちがうか。よかろう、夕刻までは待ってやる」


「おっさん優しい」

「彼見た目は狂暴な熊ですけど義理人情の人なんですよね」

「貴様ら貶すか褒めるかは統一しろ」


 俺もコッパゲ先生も口と性格が悪いだけで褒めてますよ?


 安酒場を出るとそこいらの道端をガキンチョどもが笑いながら走っていった。ルーデット市は雰囲気がいい、食糧事情が安定しているっつーのもあるんだろうが、フェスタの町では一番穏やかな空気してるね。


 潜伏している宿に戻るとカトリがまだ拗ねている。ベッドの上で膝を抱えてぼんやりしてて、こっちを見ようともしない。


 この部屋にシシリー、フェイ、シェーファらを集めて帰国会議する。


「では第一回帰国会議をします。議題は……」

「帰国のタイミングについてだろ。なんだい出オチじゃないか」


 サリフが超速度でつっこみ入れてきた。せめて最後までしゃべらせてくれませんかねえ。

 なお次にシェーファが段取りつけてきた。


「船の都合がついたか。いつになる?」

「明日の明け方だ。八人まとめて帰してくれるそうだ」


 特に反論もなさそうだ。


 カトリだけ意思表示がないけど強制的に連行されるなら反論しても意味ないじゃんっていう投げやりな態度に見える。

 愛情深い女だから父と兄をいっぺんに亡くしたってのが相当に堪えているらしい。いや、自分が犠牲になればうまくいったなんて妄想まだ信じてるのかもな。


 最後に俺らは特大の厄ネタに確認を取る。子供のアサシンだ。以前ルキアーノがギガントナイト破壊して中からひっ捕らえた捕虜がいたんだが、トライデントを経由して俺らに管理責任が回ってきたんだ。


 一見パンピーのローティーンだからトライデントも扱いに困ったらしい。めっちゃ大人しいしね。暇潰しに炊事洗濯してたくらいだしね。子供のアサシンが洗濯物干してた時はマジでびびったぜ……


「ベティ、お前どーする?」

「行く」


 来ちゃうかー……


「おい、本気か?」

「放り出すわけにいくか? 仕方ないだろ……」

「おい、もう一度確認しておくぞ。僕らに危害を加えるな、絶対にだぞ、いいな?」

「もち」


 ちから強いサムズアップされたぜ。こんな危険な奴を同行させるなんてどうかしてるぜ俺。でも殺すのは何かちがうし、放置するのもなー……


 翌朝、トライデントのフロント企業『ブロンターレ商会』所有の商船で俺らはローゼンパームに帰国する。風足の良さもあって十二日後の、七月十八日にリスグラ港へと到着する。


 半裸マッチョな担ぎ屋のお兄さん方が船と倉庫を行き交う港は超むさくるしいぜ。もう真夏だからな、海のにおいなのか汗くさいのかわかんねえんだ。ただただくせえんだ。


「どうする? もう解散する?」

「あ、お姉さんギルド寄らないと。有給じゃ済まない連休とっちゃったし」

「僕もギルドだな。冒険者証の再発行って幾らかかるんだ?」

「Eランクなら銀貨三枚だよー」

「私達もギルドだな。小銭でも稼いでな」

「あんたのそれ病気だね。ま、生活費くらいは稼がないとね」

「わたしは登録からだな。冒険者か……軍にいた時は厄介な連中だと思っていたがまさか自分がなるとはな」

「私は軍を知らぬが気楽でいいぞ」

「気楽なのはいいな」


 全員一致で冒険者ギルド直行だぜ。のんびり歩けば三時間をのんびり歩いて向かう。ベティが超荷物持ちたがるんだけどアサシンってMなの?


 冒険者ギルドでの大騒ぎは割愛。新顔な馬鹿どものケツを蹂躙して姉貴に殴られてハグしようとしたらボディにいいの貰っただけさ。

 ひでえ……


 エストヴェルタ大佐の冒険者登録やらフェイの再発行やらシシリーの職場復帰やらを済ませて、みんな揃ってフェスタ脱出打ち上げ会をやる。音頭はシシリーだ。


「ではわたしの職場復帰とみんなの無事を祝して、かんぱーい!」

「「シシリーさんは仕事をしてぇえええ!」」

「せんぱぁ~~~~い、手伝ってくださいぃぃぃぃ~~~!」


 受付嬢一同から総ツッコミがやってきて、シシリーが捕獲されたエイリアンみたいに引きずられていったぜ。


 夏場の冒険者ギルドは過労死寸前の忙しさらしい。半年以上無断欠勤してた奴をウエルカムするくらいだから相当ひでえわ。なおルーがいつもみたいにバタバタ走り回ってる姿がほんわかするね。アシェラ神殿脱出の時にすっかり忘れてたのに生きてたんだね。


 みんなしてワイワイ酒を飲み、食事を楽しむ。

 でもこのワイワイムードの中で姉貴だけ怪訝な顔つきしてるぜ。


「あんた指名手配されてるけどいいの、ここ冒険者ギルドじゃないの」


 個人が懸賞金をかけた指名手配犯を狙うのは冒険者だ。で、ここには俺の首にかかってる高額賞金を狙う理由のある奴がうじゃうじゃしてる。姉貴の心配はこの点だな。


「俺の首が獲れる奴がいるとは思えないよ」


 あっちの冒険者を見、こっちの冒険者を見る。全員サッと目線を逸らしやがるんだ。恐怖しみついてるんですか? 30ダイヤの賞金首はここにいるぜ!


「どんだけ暴れてるのよ。みなさん困った弟ですが、どうか見捨てずにお付き合いくださいな」

「……なんか、まともそうな姉貴さんだな」

「たしかにきちんとした女性にしか見えない」

「リリウスの姉って情報だけじゃ信じられない人間性だね……」


 なおこうした反応の合間に冒険者さんたちが「騙されるな」とばかりに首をブンブン振ってるんだ。姉貴ナニヤッタノ?


「姉貴?」

「失礼な連中に毒を流し込んでやっただけよ。でね、治療費ボってやってるの、フフフフ」


 姉貴が毒メスをキラーンってさせてるぜ。俺より姉貴の方がひどそう。


「スプーンが毒付きのメスになってるだけじゃないか!」

「やっぱりこいつの姉か」

「むしろ性質が悪い気がするね」

「リリウス君の一族ってみんなこうなの?」


 打ち上げ会はいい雰囲気なんだ。途中から悪魔の一統を見る目つきされたけどね。


 いい雰囲気で打ち上げを終えて、それぞれが帰途につく。でもいい気分なのはここまでだった。ローゼンパームで俺らを待ち受けていたのは残酷な現実って奴だったんだ……



◇◇◇◇◇◇



 俺とカトリとシシリーが夜道をのんびり歩いてる。足向きは空中都市の方角で、最初はシシリーを送っていくのかなーって思ってたんだ。


 空中都市へとつながる空中回廊(という名前の超絶急こう配ののぼり坂)の前でクルリと振り返ったカトリが冷たい目をしてる。……これ超恨んでる奴だな。


「リリウス君のしたこと、間違いとは思ってないよ」


 いつかの晩にカトリが泣きながら言った、何もできなかったって言葉がいまさらになって突き刺さる。


 誰にも何もできなかった。超人的なルキアーノにも超越的なルーデット卿でさえもフェスタに敗れた。ライアードもだ。


 すげえ連中ばかりだった。彼らと比べれば一段も二段も劣るカトリに何ができたはずがない。何度も説得してきた……


「でも何もなかったことになんかできないよ」

「結論の出てる言い方だね……」

「うん。コンビ解消しよ? あたしシシリーと暮らすね、ばいばい」


 あっさり捨てられたぜ。

 シシリーさん出番ですよ? 有能レディーの仕事する時ですよ? 目をハートマークをしてる場合じゃないですよ?


「じゃ、そういうことだから! またねーリリウス君!」


 元気いっぱいのシシリーとカトリが身を寄せ合って去っていったぜ。

 え、これマジの奴ですか?



◇◇◇◇◇◇



 サ・トゥーリーはハイエルフの女王ウルドが束ねる冒険者クランだ。ウェルゲート海近隣の主だった部族から行儀見習いの形でエルフを集め、エルフ保護条約に違反しているフトドキ者を始末する仕事もしている超危険なギルドである。


 同時刻、フェイは空中都市にあるクラン『サ・トゥーリー』の共同住居の玄関を叩いていた。


 明るい返事とパタパタと軽快な足音で、扉を開いたのはレテだ。

 彼女の花が咲いたみたいに明るい笑顔が途端に暗くなった……


「どちらさまですかー?」

「お前……」


 フェイは恋愛関係の経験値が死んでいる。数値化すると五歳児とそんなに変わらないレベルだ。しかしそんなフェイでもこの態度の理由くらいはわかる。長い事放置してたからキレているのだ。


「あー、いつかの喧嘩だがな。悪い、あれは僕にも落ち度が……」

「だから、どちらさまですかー?」


 レテは一貫して他人を装う。じつは僕は何にも悪くないぞって思ってるフェイが怒り出すには充分な態度だ。


「わかった。そっちがその気なら僕も何も言わん。じゃあな」

「……! フェイの馬鹿!」

「僕なんか知らないんじゃなかったのか!」

「そんなわけないじゃん! ばか、もう―――ばかぁー!」


 フェイは怒ってずんずん足音立てながら去っていった。レテは泣きながら叫んでる。エルフのお姉さま方は窓から顔を出しながら修羅場の光景を楽しんでる。

 ウルドは「青春じゃのう」なんて言いながら、ニシシと笑ってる。



◆◆◆◆◆◆



「ふざけやがって! あんな女もう知らん!」

「そうだそうだ、言ってやれフェイ!」

「僕は悪くない!」

「そうだ、俺だって悪くない!」


 女に振られたリリウスとフェイはクラン『グランナイツ』のハウスに駆け込み、バトラを相手に愚痴ってる。さっきまで散々飲んでたのにまたお酒を飲んでいる。


 ようやく帰ってきた馬鹿どもに付き合わされてるバトラは酒のツマミにちょうどいいと考えたのか、ニヤニヤしながら聞いている。

 真面目に心配しているのはラトファくらいだ。


「この感じだと変な方向にいきそうねー、アドバイスしないわけ?」

「冷静になる時間も必要だろ? 熱くなってる時はお節介なんて聞きたくないさ」

「体験談?」

「俺にもそういう時があったのさ」


 バトラが超余裕こいてる。余裕のない男にとってこういう余裕ある男ってのは敵に見えてしまうもので、二人ともバトラを睨み始めた。完全に八つ当たりだ。


「美人の彼女とうまくいってるからってよゆーですかー?」

「やだ、もう美人だなんて正直者ぉ!」


 ラトファに背中を叩かれたリリウスが撃沈する。テーブルに突っ伏して泣き始めた。


 フェイはぶすっとしながら手酌で飲んでいる。リリウスのペースに付き合ったものだから目つきがかなり怪しくなってる。アルコール度数20%は酒ではない、飲料水だと言い切るドルジア人のペースに付き合えばこうなりもする。


「バトラ、僕はどうするべきだったんだ? 何が悪かったんだ?」

「お前は何も悪くないさ」

「じゃあ、どうしてあいつは怒ってるんだ……? くそっ」


 フェイが酒杯を持ったまま寝息を立て始めた。バトラとラトファは毛布をかけてやるだけで済ませた。


「で、バトラ的にはどうすればいいと思う?」

「好きなようにするしかないさ。どうしたいかなんてこいつらが選んで、受け入れるしかないんだ」

「大人ねー」

「よせ、俺なんて諦めてるだけだ」


 翌朝は憂さ晴らしがてらにD級クエストを一つこなした。エレクトラ候からの依頼で王都北の街道、その脇にある森でオーガらしき目撃情報があったらしい。


 本当にオーガならC~B級クエストだが、慌てた行商人の目撃情報なんて宛てにならない。平常心を失っている彼らは茂みから猫が出てきても虎に見えることもあるからだ。つまりは本当にオーガなのか調べてこいっていう調査だ。


 D級クエスト『北の森の調査』の報酬は銀貨二十枚。危険を冒してオーガを討伐しても追加報酬は無し。本当にオーガかどうか調査に徹するのが正しい依頼だ。


 バトラ、ラトファ、フェイ、リリウス、この四人で奥深い森を歩いていく。

 どうもリリウスには見覚えのある森らしい。


「ここ前にも来たよな?」

「あー、そんなのもあったわねえ」


 ラトファも思い出したらしい。以前カジノでの負け分を取り返すためにオーク狩りをした森だ。奥にはオークの砦になってた未発見遺跡があって、ギルドにも報告したがガセだと疑われて情報料が貰えなかった。


 説明するとフェイが訳知り顔で頷いてる。リリウスにはそうとは知らずに廃都イルテュラやベルサークの結界を打ち破ってきた実績がある。いや、ベルサークに関してはエルフの長老トトノーセの案内がなければ完全に迷わされていた。


「お前のふざけた抗魔力に対抗できる幻術は少ない、おそらくは強度の迷彩を掛けられた遺跡だったんだろうな」

「面白そうだな、行ってみないか?」

「いやいや、俺も偶然たどり着いただけで往き方なんて覚えても……」


 ステルスコートが反応する。闇刃の触手を林道から外れた奥地へと伸ばしていった……

 突然の挙動に全員どん引き……


「ステ子が知ってるってさ」

「魔王の呪具を使いこなしてやがる」

「最近自己主張激しいんだよねこいつ。フェニキアで大勢の命を吸ったおかげで、本来の機能を取り戻したってところかもな」


 ステルスコートは相変わらず従順で逆らう気配もない良い子をしている。だが時折リリウスをどこかへ誘おうとする。この感覚は何とも油断のならない友人が一人増えた感じだ。


 弟がいつの間にか持っていたボロいコートが魔王の呪具なんて初耳なバトラが根掘り葉掘り尋ねてきたので、道中に説明しておく。

 バトラ的には父ファウル男爵のお古か何かだと思っていたらしい。


 やがてたどり着いた森の深部。苔生すままに森と一体化した石造りの古代遺跡は陽だまりの中で荘厳に佇んでいる。


「相変わらず超ファンタジーしてやがるぜ。注意しろよ」

「ああ、いるな」


 フェイも察知したらしい。遺跡の内部に強力な魔物の反応がある。バトラと同等の気配が数人分、それを大きく超えるのも一つ、有象無象も三十はいる。


 リリウスは実力を大きく引き上げた事で計るちからまで正確になったらしい。ちからへの理解度が深まったため、漠然と格上だと思っていたものを性質で分けられるようになった。


 バトラは旅から帰りいっそう頼もしくなった二人の頭をぐしゃぐしゃに撫でてやった。野郎どうしの敬意っていうのはこうした荒っぽいものだ。


「頼もしいな。いくぞ、俺についてこい」


 ミスリル銀の大盾を押し立てるバトラを先頭に遺跡に入る。


 野性的なにおいが鼻につく。腐敗した肉と乾いた血と汗、そうしたものが混ざり合った臭気は肌をピリピリとさせる。危険センサーを持たないバトラにも強い警鐘が聴こえるほどの危険度だ。


 すり減った石床に鳴子の仕掛けがされている。


「こんなの前に来た時はなかった」

「オークよりは頭の良い連中が住み着いたってことだな」


 フェイはすでに疑似スキルでオーガの異形を確認していたがあえて口には出さなかった。どうせ気づいているからだ。


 入口からまっすぐに進むこと二分。慎重に進んだ80メートルの先は大広間だ。割れた天井から日が零れ、ベースボールスタジアムみたいに窪んだ広間で大きな鬼三体が何やら談笑している。


 魔の眷族と呼ばれる魔物にも言語はあり、そうした研究は案外進んでいる。この場の四人は知らないが彼らは本来邪神ロキの眷族である来訪異種族48氏が一つ、オールドガリアンというヨトゥン族の罪人だ。


 彼らはトールマンと比べても身体的魔力的に強大な種族だが繁殖力の面で劣り、トールマンが町や国家を形成して大きな集団となるのに比べて少数の部族単位で行動する狩猟採集民族だ。


「フェイ、何を話してるかわかったりする?」

「なんで僕に無茶ぶりを……古カルステン語に近いがだいぶ簡略化されているな。わかりそうでわからない」

「あー、あたしわかるかも。でも大した話してないよ」


 古カルステン語はそもそもエルフの言語だ。源流を辿ればヨトゥンヘイムの王国にあるとされているが現代では失伝している。


「なんて?」

「ババラン?が俺のケツを汚えって言いやがったからファックしてやった。おいおいてめえのミニサイズじゃババランが可哀想だぜ、そこらのウロでもファックしとけよハハハハ。だってさ」


 エルフの美少女の口からとんでもないシモネタが出てきた……


「めっちゃ小粋なジョークかましてんじゃん」


 人知を超えた巨体と恐ろしい顔かたちこそしているが、性格的にはそこいらのチンピラと変わりなさそうだ。問題なのは彼らは雑食で、食材に人肉も含んでいる点だ。適性種族に情けをかける気はない。


 だがバトラはあえて選択肢を用意する。


「倒しても倒さなくても報酬に変わりはない。危険を冒すか?」

「冷静な判断だ。だが僕は武術家であり損得で戦ったりはしないさ」

「俺とフェイで一体ずつ、バトラとラトファで一体。これでいこう」


 奇襲はひどくあっさり終わった。姿を消したリリウスが背後からミスリルの大戦斧で首を落とし、フェイが跳躍からの急降下打撃でオーガの頑健な肉体をミンチにし、バトラがシールドバッシュで押し倒したオーガの首に魔剣ラタトゥーザを差し込んで終わりだ。


「へへ、やるじゃん兄貴。もうちょい苦戦すると思ってた」

「お前らこそ腕前あげすぎだろ」

「長旅で激戦続きだったからな、僕もこいつもオーガなんぞに苦戦はしないさ」

「俺も成長したかったな。次からは誘えよ」

「ラトファと破局する気があるならな」


 旅に出て愛を失った非モテどもの背中に哀愁が……

 孤高のオーラが虚しく漂っている……


 戦闘は一瞬だったがけっこうな物音が出た。奥にある暗い大穴の向こうから殺気だった気配がやってくる。ラトファが矢を番える。


「次はあたしの分も残しときなさいよ」

「早い者勝ちだ。六体、いずれもオーガだ、来るぞ」


 非モテの悲しい拳が遺跡に巣食う生命を食らっていった。

 悲しい……



◆◆◆◆◆◆



 オーガは流浪する少数部族だ。稀に部族を追われた単一個体との遭遇もあるが、だいたいは十から五十程度の群れを形成している。史上最も巨大な群れを率いた偉大なるオーガキング・ドドスドーンは三千のオーガ族を束ね、ベイグラントと百年に渡って戦い続けたらしい。


 三十六体の群れはかなり大きい。A級クエストにカテゴライズされ、本来ならシェーファのような凄腕冒険者が仲間を率いて討伐するものである。報酬も金貨二百枚が妥当。


 遺跡の奥で四天王のようなオーガロードに守られていたオーガスローンへと不可視の大戦斧が走る。アロンダイク製の大戦斧は単分子結晶で作られたすべてを両断する刃で、オーガ族の女族長の首を刎ね落とす!


「!?(意訳:なんやて!?)」

「◆△×!!(意訳:ママがやられた、どうなっているんだ!!)」


 警戒していたにも関わらずあっさりと族長の首を落とされたオーガロードが動揺している。そこへと大盾を押し立てるバトラが突撃する。


 オーガ族は魔法能力に優れている。攻魔1800級のファイヤーボールをポンポン投げ放つ程度には恐ろしい敵だ。


 がんらい強力な魔法というものはちからの弱いトールマンが苦心の末に生み出した強種族に対抗する武器であり、強種族からすれば莫大なちからを単純な術式で放つに勝る戦術はない。単純にして強大、それこそがちからの最も優れた原理であるのだ。


 ミスリルの大盾はトールマンという種族が強種族に対抗するために生み出した最も優れた武器だ。彼らの強大な魔法力を弾いてくれるからだ。


「うおおおおお! 引き裂け、インパクトスマッシャー!」


 弾幕みたいに炸裂するファイヤーボールの的になっているバトラが、ラトファの矢がオーガロードの眼球を射抜いて作った隙を突き、伸びる斬撃で一体の左腕を切り落とす。


「△〇!? ××◆!(意訳:やるぞあいつ、撃て撃て!)」


 再びファイヤーボールの弾幕がバトラを襲う瞬間に、リリウスが即死呪術を解き放った。パイロマニアックス・アプリケーションから生み出された死の風ともいうべき即死砲弾がオーガロードの横っ面に直撃するがレジストされた!


「お前魔法攻撃向いてねえんだから大人しく斬っとけよ」


 一歩の跳躍で時間さえも超越するみたいに八十メートルの距離を埋めたフェイが水平蹴りを仕掛ける。四人のオーガロードの足をまとめて両断したフェイは、そのままブレイクダンスみたいな器用な動きで一体の首を切り落とす。


 彼の蹴りはすでにオリハルコン並みの切断力を有しているらしい。轟ッ!と吹き荒れる死の蹴りに怯えて距離を取ったオーガロードは首を射抜かれ、だが致命傷ではない。肌一枚を破るにとどまり、肉までは届かなかった。だが遅れて放たれたインパクトスマッシャーに首を落とされた。


 その間にフェイとリリウスが一体ずつ始末した。

 終わってみれば圧勝だ。バトラがちょっと煤けてるくらいだ。


「う~~~ん、お見事。ねえねえあんたたちもグランナイツ入りなさいよ。うち純アタッカーが手薄で困ってるの」

「わかるが」

「うん、トキムネ君だけだもんね……」


 二人して思い浮かべたのはすぐにバテる体力のないゴミアタッカーだ。バトラは司令塔という役割もあるので遊撃には出にくい守勢寄りの戦い方をしなくてはならない。敵の数を減らすのは遊撃アタッカーの役目だがゴミ。


「そういえば勧誘とかしてないのか?」


 何気なく言ったらすげえ睨まれたのである。

 すべてはケツを蹂躙する義賊の兄だと知れ渡っているせいだ。無敵の狂人の兄となんか絶対に関わりたくないらしく、声を掛けた冒険者は漏れなく奇声を発しながら逃げていくのである。


「これお前のせいだぞ。入ってやれよ」

「いや、俺は俺でクラン作ろうって思ってるんだ」

「は? 初耳だぞ?」


 なんで僕を誘わないんだくらいの勢いだ。


「サプライズで作ってから教えようと思ってたんだよ。まず資格満たしてねえし」


 シシリーから教えてもらったギルド規約によればクラン結成にはDランク、王都地下迷宮十層の攻略、これらを満たした上でギルドの承認を必要としている。素行の悪い冒険者では実力はあっても認められないケースもある。


 もっともクランを名乗ってはいるが自称なんて連中も多い。きちんとギルドが把握している管理クランは三分の一もないらしい。


「へえ、クラン作るんだ。うんうん、いいじゃない、今ランク何だっけ?」

「黙秘させて」

「なんで黙秘するわけ? そんなに恥ずかしいランクなの?」


 まだゴミランとは言えないのである。一般的にFランクから一年以内に脱出できない冒険者は才能がないと言われている。つまりGは論外。

 リリウスは断固黙った。成長して帰ってきたつもりだったので恥ずかしかったのだ。


 オーガの巣食う遺跡を片端から調べてみたが高値で売れそうな品物はなかった。古代遺跡といってもフェイター朝前期のもので、ローゼンパーム遷都前のローゼン伯爵領時代のものでしかない。歴史的価値と言えば当時の建築様式にあるくらいだ。


 遺跡の前で軽く食事休憩を入れ、夕方になる前には王都への帰途に着く。

 日帰りの依頼で一人頭銀貨五枚なら悪くはない。午後八時の受付終了ギリギリに窓口に滑り込み、ルーへの報告はバトラがやった。


「え……オーガがいて、倒してきちゃったんですか?」

「無駄骨なのは理解しているさ」


 重ねて言う、追加報酬はない。依頼主のエレクトラ候コルトレイスの依頼は噂の確認のみであり、確認が済み次第騎士団が派遣される予定だった。


 追加報酬はないがグランナイツの名声の一つとなり、ギルド内での評価は上がった。それだけだ。でもルーはいい人と恰好いい人には優しい少女である。


「働き者なバトラさんにはこっそり良い依頼回しますね。今はないんですけどッ!」

「楽しみにしている」

「ルー、お礼に鑑定してくれていいぞ」

「あなたは相変わらず失礼なのですぅ」

「フェニキアで裏切ったの見逃してやっただろ。眠り薬仕込みやがって王家の犬め」


 一日の労働を終えてワイワイ酒盛りをしていた冒険者どもがざわめく。

 ルーはけっこう人気者というか無害なお嬢さん扱いなので、そうした醜聞はダメージになりえるのだ。


「ああああああああああ! はいはい、鑑定ですね! わかったからやめろですぅ!」

「これマジの反応だな。ルー、お前なにをやったんだ?」

「フェイさんは忘れてください!」

「主人であるアシェルを裏切って王様の……名前忘れたけど売ろうとしたんだ」

「あなたねえ、やめろって言ってるんですよ!」


 鑑定してもらったところリリウスがレベル49、フェイが61、バトラが26、ラトファが24まで上がっていた。


 仙丹でレベルブーストしたリリウスらはともかく、この数値はグランナイツの努力を物語るものだ。魔物を倒しているだけで九ヵ月で五上昇というのは相当にレアケースだ。ラトファなどは七も上がっている。


 リリウスはついでに冒険者ランクの昇格について尋ねる。ルーはもう残業に突入しているので、諦めた面持ちで教えてくれる。


「あなたは昇格に必要な依頼が足りていないんですぅ。GからFに昇格するためにはG級クエスト十、F級クエスト五つ、最後にギルド指定のF級クエストで審査して昇格なのですが……」


 辞典みたいに分厚いルーズリーフに記載された冒険者リリウスの項には……


『 リリウス G級冒険者 SRGG80309280012 』


 東方の大ドルジア帝国はマクローエン領出身。非常に強力な潜伏魔法を操り、おそらくは高い暗殺技能まで備えている。コンビで地下迷宮二十層の攻略も成し遂げている。


 相棒のカトリーエイル・ルーデットとのつながりでトライデントと親しくし、個人的な裏の仕事も請け負っている可能性がある。市内で頻繁に出現する謎の義賊ではないかとも噂がある。


 ジベールはハリファ太守府から賞金首指定を受ける、金額は300ダイヤ。罪状は主にハリファダンジョンの破壊。他にも王族襲撃、イス・ファルカ内での破壊活動とされているが未確認。なお滞在時にイルドシャーン王子子飼いの準国家英雄数名が殺害されており、首謀者ではないかと目されている。


 同時期にジベール国内の中小ダンジョンが三つほど攻略されているが攻略者として名乗り出る者はおらず、現状では最も有力な攻略者と思われる。


 戦闘能力評価A+

 人格評価G-

 総評 超危険人物、要注意


 依頼履歴 G級6 F級1 ハリファダンジョン攻略=破壊


「「うっわ……」」


 バトラとラトファがどん引きしている。完全に裏の凄腕仕事人の経歴だからだ。国家から指名手配されていないのが不思議なくらいだ。


「実力的には申し分ないのですぅ。つまり依頼件数が足りてないのですぅ」

「なるほど、コツコツ仕事しろってことだね」

「特例とか言い出さなかったのは褒めてあげますぅ。彼のルーデット卿も一からコツコツ積み上げてスペシャルランクまで昇格したのです、気長にやるといいのですぅ」


 ちなみにルーデット卿は二年でSランクになったらしい。ルキアーノもだ。


 つまりリリウスはG級を四つ、F級も四つクリアすれば昇格審査を受けられるのである。


「フェイ、手伝ってくれるよな!?」

「馬鹿をぬかせ、僕は僕でランクを上げるに決まっているだろうが」


 現在EランクのフェイはE級依頼を17こ達成すれば昇格審査を受けられるとか。

 現状リリウスのランクが低すぎて手を組む価値がないのである。


「真面目にコツコツね、超得意分野だぜ。よぅし明日から本気出すぞ!」


 みんなからウソツキを見る目で見られながら、リリウスは昇格を決意したのである。

 明日から本気出すって言ってる奴はだいたい信用されないのである。

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