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世界大戦の始まりと変わらない日常

 リヴァイアサン級宇宙戦艦エアフォルクを空中帝都としたフェスタ帝国は二ヵ月間を軍備増強の時間とした。


 古代魔法文明のテクノロジーはすさまじいもので、最初は戦場になるから避難しろと言われて艦内の市街地に移動した帝都民も今ではすっかり現状を受け入れている。


 内部の食糧生産プラントでは日産200万食をゆうに超える食料が生み出され、帝都民なら誰でも飽食を享受できる。ボタン一つで稼働する工場を幾つも備えるここでは労働の必要もない。

 楽園のような暮らしを人々が受け入れるのにさしたる時間はかからなかった。


 軍備増強も順調である。副砲の修理こそ不可能だと匙を投げるしかなかったが、ロット生産で組み上がる機械巨人の量産は順調。軍から志願者を募り、機械化師団はすでに百機を超えた。


 あまりにも慣れない技術系統の機械巨人を操縦するのはフェスタ軍人をしても困難だったが、訓練の繰り返しでどうにか形になるところまで持っていけた。そうした意味でいえばトライザードの適性はずば抜けていた。


 精鋭部隊レッドウォーリアーズのエースパイロットとして多くのパイロットの手本となり尊敬を集めている。居丈高で傲慢な親の七光りの少年はたしかな自信に裏打ちされて一角の将としての風格を備えつつあるらしい。


 パイロットは戦術運用艦レリアーズでの訓練に勤しむ。ひと握りの秀でたパイロットだけで行われる模擬戦はスコア制となり、その映像は市街地のどこでも見られる帝都民のエンターテイメントとなった。


 軍の主流はパイロットだ。横並びの今ならまだエースになるチャンスがある。日々高まっていくそうした風潮に、ストラートは戸惑いながらも肯定せざるを得なかった。


 最後まで機械化師団を拒んでいたフェスタ十二神将筆頭のバルザックが相談に訪れた日に、ストラートもまた決意を固めた。


「私は武人です。このまま旧時代の置物になるくらいなら操縦兵という形であっても生き延びたいのです」

「卿の気持ちは理解はできる。俺も心では拒んでいてもあの兵器の有用性だけは認めている」


 ストラートの懸念は発言力の低下であり、このままではトライザードがすべてを掌握しかねない。弟はまだ子供で、過激な性質だ。手綱を握る者が必要だ。そう考えればこそストラートもパイロットの道を決意する。


 月と星のように彼に寄りそう飛蘭もパイロットとなることを決めた。


「あんたじゃ平々凡々なパイロットになるだけ。あーしも付き合ってやるよ」

「よいのか?」

「ば~か、あーしが寂しいからだってーの」


 パイロット転向は整理券配布の順番待ち状態だがイザールに相談すると二つ返事で適った。どうにもうさんくさい男だと思っていたが話してみるとそう悪い輩でもない。


 知性と常識を備え、どことなく諧謔を重んじる趣味人といった人物だ。悪く言えば母に似ていると思った。


「私はこれでも忖度のできる男と評判でしてね」

「自信満々に言うが決して美徳とは言えんぞ」

「それを横車押してきた方が言います? ええ、悪徳のわかる男ということにしてパイロットコース三名を受け入れましょう。これ、契約書なのですがよく目を通してください」


 古代語で書かれた一枚の用紙を渡された。

 要約すると三つ、操縦兵になるにあたりフェスタ軍の規律に従う事、機械巨人を私的な欲望に用いず軍の意向に沿って扱う事、機械巨人を操縦するために必要な訓練・措置をきっちり受けて訓練課程を終えるまで出撃は許されない……


 じつにまっとうな内容だ。軍に入隊する時にもサインさせているものとよく似ている。こんなもん要るのかって思うほどだ。


「違反するとどうなる?」

「機械巨人から降りていただく、のが適切なんでしょうね」


 つまり実質罰則なし。

 緩いというか規範なのだろう。規則は大事だ、これを守らねば軍隊は山賊と変わらない存在にまで落ちる。ストラートはおぼっちゃんなので戦争略奪のような行いは厳しく取り締まる性質だ。


 一枚の書類に三人揃ってサインを入れる。明日から戦術運用艦レリアーズに移動になるから荷物をまとめておけとだけ説明された。


 ストラートはその足で母へと謁見を求めた。戦艦のエーテルリアクターに夢中な母はきちんと聞いているか怪しいものだったが、最後にこう言った。


「トライザードを支えてやれ。あれでお前を頼りにしている」

「だとよいのですが」


 それは母の願望だろうと思ったが口には出さなかった。


 三人の息子はいずれも母の求める理想まで届かなかった出来損ないだ。こうあって欲しいと願うのは勝手で、現実に息子たちは功を競っていがみ合っている。俺もあいつもライアードにはなれない。英雄(ルーデット)にはなれないんだ。


 ストラートは諦めの気持ちで退室した。


 戦術運用艦レリアーズでの日々は刺激的だった。初めて操縦する機械巨人は歩く前に顔面から床につっこんだが、小一時間も整備ドッグを散歩していると基本的な挙動は理解できた。中でも飛蘭は別格だった。武術の心得があるせいか、誰よりも早く自在に使いこなしていた。


 次の訓練に移行する。恐ろしくはあったがバーニアを噴かせて飛翔する。最悪落下しても助けてくれる、訓練済みのパイロット一名に付き添われての補助輪付き飛翔だが歩くよりもよほど簡単だった。


 加速、減速、幾つかの訓練工程を反復練習してからの集大成ともいえる着艦が一番難しい。慎重に減速しながらレリアーズと速度を合わせて着地するので三つの計器を見ながら操縦する必要があったからだ。


 訓練後は艦内の談話室でおさらいをする。チュートリアル・モーションに沿った行動ができているか?という採点が行われてストラートは47点だった。どういったアクションが得意で何を苦手としているかを字幕映像で見せられ、今後の訓練プランが印刷される。生憎全部古代語なのでストレリア付きの文官がパイロットコースアドバイザーに付いている。


 ドリンクバーから出てくるサービスドリンクを飲みながら先ほどの訓練VTRを確認して、あれやこれやと言い合う。ストラートのギガントナイトが顔面から床に突っ込んでいる。


「ひどいもんだな、生まれたての仔馬だってもう少しまともに歩ける」

「あんたもあーしも生まれたて半年は地面這いずってたさ」

「何事も初めてはこんなものですよ」

「貴様らの気遣いがな……」


 ちなみに飛蘭は97点、バルザックは84点。これは新人パイロットしては稀にみる優秀な適性を示している。


 パイロットの集まる戦術運用艦レリアーズには新しい秩序ができている。ここにいるのは新しい主流を早くから受け入れた連中だ、軍の中でも特に若くて優秀なのが集まっている。


 みんな何もかもが初めてで、何をどうすればうまくやれるのか手探りなんだ。上も下もなく活発に意見を交わして、トライザードの語る世界を制覇する軍隊を目指している。


 四つの公爵家が要職を占める閉塞しきった軍の中で出世を諦めていた若者たちでもギガントナイトに長ければ新しい軍の主流になれる。そうした空気の中ではみんな異例なほど気安く、だが良い雰囲気で交流を楽しんでいる。


 追加兵装、拡張パック、模擬戦の成績の良い者へと優先的に回されるそれらのご褒美がほど良い競争心を煽っている。これはトライザードの考案した方式だ。見かたによっては自分に都合よく武装を回そうとしていただけかもしれないが、何が功を奏するかはわからないものだ。


 九月一日、フェスタ帝国機械化師団総帥トライザードが四つの大国へと宣戦布告する。この宣言は親書なんて生易しいやり方ではない、四国それぞれの地方都市を壊滅させ、帝国の旗を打ち立てることで宣言とした。


 この過激な宣戦布告を行ったトライザードは天空を往く宇宙戦艦の甲板で、大規模な閲兵式を行う。


「時は来た! 雌伏の時は終わりを告げ、我らがフェスタが世界を制する時が来たのだ!」


 漆黒の軍服で着飾るトライザード総帥の前には四つの方面軍、その元帥が並んでいる。

 イルスローゼ方面軍元帥ストラート・バーネット。

 ジベール方面軍元帥イレーネ・イルトゥーク。

 ベイグラント方面軍元帥バルザック・ウェルロンド。

 トライブ方面軍元帥エザド・ワースラウ。


 彼らの背後には量産されたギガントナイトとパイロットたちが整列する。


「鍛え上げた四つの軍団を貴様らに預ける。精強なるちからを束ね、見事ウェルゲート海を制覇してみせろ!」


 フェスタによる侵略戦争が始まる。


 四隻の戦術運用艦レリアーズを本拠地とする各国方面軍は日に日にその支配領域を広げていった。


 各国も応戦したがその強大な軍事力をもってしてもギガントナイトの軍団には抗えず、じりじりと戦線の後退を強いられた。


 混迷の世界大戦の始まりだ。



◆◆◆◆◆◆



 エントア市付近の東方国境線『大城壁』に無数の死体が積みあがっている。無残に敗れたジベール兵の屍を踏み潰して五機の機械巨人が新生フェスタ帝国の軍旗を大地に突き立てた。


 逃げ往く兵も勇敢に立ち向かった兵も等しくビーム砲の餌食となり、大地に死が満ちていった。

 ジベール最強の奴隷戦士団を物言わぬ肉塊に変えたイレーネ元帥はこんなものかと呟いた。


「まったく手応えのない。もう少し骨のある連中だと思っていたんだけどね」

「無理を言いますな。我らとて生身でこれの相手など御免こうむるというのに」


 ホロモニターに映り込んだ副官ベナウィの苦笑に同質のもので応じる。生身でギガントナイトの相手など絶対に嫌だからだ。扱う側だからこそ機械巨人の性能を熟知している、これに敵う人間などいるはずがない。


 ベイグラント方面軍は苦戦していると聞いたが何かの間違いだろうと思うくらいだ。


「では拠点に戻るか。次は内陸に攻め込むぞ」


 部下に命令を発し、バーニアを噴かせて空中に出た瞬間に月が陰っていった。

 何か分厚い雲に遮られるみたいに月夜が闇夜へと変わる。だがギガントナイトには暗視フィルターがあるので一瞬の明滅の後は元通りの有視界環境が戻ってきた。


 生体レーダーに反応あり。頭上だ。


 天を見上げるイレーネの頬が一瞬でひきつる。雲などではなかった。天を覆うものは雲なんて生易しいものではなかった……

 天を覆うほどに巨大な巨人が月を隠していた……


 馬鹿馬鹿しいサイズだ。ドラゴンなんて比較にすらならない。あんな生物存在するはずがない。存在したならば世界はとっくに滅んでいる。計測器に出てくる数字は巨人の全高を二万メートルとしている……


 まるで天地創造の古き神々が降臨したかのようだ……


 その巨大な肩に腰かける少年がいる。黒髪と赤い目をした、どこか厭世的な雰囲気の少年が興味深そうな目つきをしている。


「へえ、古代兵器か。じつは前々から興味あったんだよね」


 巨人が動いた。その巨体からは想像もできない速度だ。イレーネが操縦桿を動かす暇もなく、僚機を掴んで握りつぶしてしまった。


「思ったより脆いね」

「撃てッ、撃てぇ!」


 四機のギガントナイトがガンブレードからビーム砲を連射する。

 だが巨人には何のダメージも与えられない。まるで幻影のようにビーム砲が貫通していく。干渉結界による防御なら理解もできる。物理防壁による防御もわかる。だが当たったのに何の効果もなく突き抜けてしまうのだけは理解できない。


 スナイパーライフルに持ち替えたイレーネ機はしつように巨人の肩に座る少年を狙っているがやはりダメージもなく貫いてしまう。


 イレーネはあの少年を知っている。軍から支給された要人リストに載っている。

 あれは砂のイルドキアだ。砂のジベールにおいて最大最強の人間兵器であり、絶対君主の血筋にのみ発現する血統スキル『砂のザナルガンド』を持つ男……


 ライフルが焦げ付いて銃口が曲がるほどに撃っても何も起きない。倒すどころか手立てさえ見つからない。イルドキアは子供みたいに無邪気に笑いながら抵抗されることを楽しんでさえいる。


「面白いおもちゃだ。全部握りつぶしてしまう前に一機くらいはコレクションできるといいな♪」


 天地創造の巨人の足から飛び出してきた無数の腕がイレーネ機と僚機を捕獲する。僚機は瞬時に鉄塊になってしまったがイレーネ機だけは捕縛された。みしみしと押し潰されそうな気配を感じながらイレーネは震えが止まらなかった。


 ザナルガンドには誰も敵わない、戦場で長く語られる格言を思い出すしかなかった……


 イレーネはそもそも対応を間違えた。あれは巨人などではなく砂粒の集合体に過ぎない。イルドキアの気まぐれでそうした形を取っているにすぎない物をビーム砲で撃つこと自体無意味だ。


 そしてイルドキアを撃つ事も無意味だ。粒子を操る砂の権能からすれば己の肉体でさえ細かい砂粒も同然で、分子結合をいじってあらゆる攻撃を無効化しているのだ。


 ではどうすればイルドキアを倒せるのかと言えば高位アンデッドに対する方法と同じく存在力に直接ダメージを与えるアフェアリーキラーを用いる他にない。……まず無理だろうが。


 従ってイレーネがとるべき手段は一つしかなかった。逃げるしかなかったのだ。

 砂の地においてザナルガンドに敵う者は絶対にいない。



◆◆◆◆◆◆



 イルスローゼの地方都市レファナカン郊外で始まった会戦は小一時間で決着が着いた。機械化師団イルスローゼ方面軍の全戦力が投入された二十二対三万という戦争はイルスローゼ軍司令官アルダートン戦爵の討ち死にで瓦解、指揮系統は混乱し兵が勝手に敗走していった。


「敗軍を追う必要はない、つまらない行いで勝利を汚すな!」


 ストラート元帥はまさしく王者の資質を示して部下を統率、イルスローゼ東の国境地帯ボードワーズ地方の平定を宣言した。


 だが実効支配をするかという話になると悩みどころだ。

 拠点となる戦術運用艦レリアーズは機械化師団の運用に特化しており地上部隊を載せていない。新生フェスタ帝国は、代官と兵隊を置いて支配するという旧態依然とした支配制度には向いていないのだ。


「武力で土地を支配するという古い考え方を改め、新しい支配制度を考えねばならんな……」

「トライザードはなんて?」

「地上部隊の再編成よりも機械化師団の兵員増強が急務だとさ。実際ジベールやベイグラントでの苦戦を考えれば間違いではないが、せっかく占領したのにこれではな」


「焦る必要なんてなかったじゃん。どーしてまた急いで宣戦布告しちゃったのあいつ?」

「新しいおもちゃで早く遊びたかったんだろ」


 レファナカン市の外壁に軍旗を打ち立てようとした僚機が崩れ落ちた。


 軍旗を掲げていた僚機は突然何の予兆もなく胴体に大穴が空き、歩く勢いそのままに市外壁へともたれかかっていった。頑丈な外壁を崩して町の中へと倒れていったそれを攻撃だと判断した飛蘭がバーニア併用の長距離ジャンプで僚機に駆け寄ろうとして―――


 ガァン!

 強力な打撃に打たれて後退する。


 これはまったくの油断であり、やはりギガントナイトへの習熟が足りていない。彼女は武術の天才だが理論よりも感覚を重んじる。機械巨人の中に居ては悪意や殺気のような肌から得られる情報が無い。だから迂闊に一発もらってしまったわけだ。


 飛蘭が市外壁の上に立つ少年の姿を見た瞬間に感じたのは懐かしさだ。

 数年前はまだ子供だった門弟の一人の成長した姿を見た瞬間に浮かべた表情は喜悦。竜の子としての本懐ともいうべきバトルへの喜びだ。


「フェイ、けっこういい男になったね」

「あんたは巨大になりすぎたな」


 機械巨人の中にいる飛蘭の姿は見えていないはずなのに瞬時に察してくれたのは嬉しい。戦えるのも嬉しい。何もかもが嬉しい。


 だから彼と彼女は殺し合う。それが運命だからだ。


 ギガントナイトは他人の手を借りなければ下りられない。それだけが残念だ。


「修行の成果をきちんとみせてやりたかったね」

「要らん。こちらも少々卑怯な武器を使っている」


 沈黙した僚機を見やる。腹部に穴が空いている。だがアロンダイクにあれだけのダメージを与えられる攻撃力は飛蘭ですら備えていない。


「へえ、それってプライムGTに穴を空けた技?」

「あんなものは殴っただけだ」

「あんた可愛かったのに化け物になっちゃったね」

「それは誉め言葉だな」


 言葉はもう要らない。

 定められた運命のままに殺し合うだけだ。ただ己の肉体で戦えないことだけが残念だった。


 大師ロゥからは競い合えとは言われたが殺せなんて言われていないから、殺してしまうことだけが本当に残念だった。



◇◇◇◇◇◇



 九月を迎え、フェスタが長い沈黙を破って動き出した。

 五大国に向けて侵略戦争を仕掛けたんだ。イルスローゼの王都に戻った俺は冒険者業とかいう忙しい日々を送っている。


 対外戦争の真っ最中でも庶民の暮らしは変わらない。精々食料品の値段が上がるくらいで、商人が儲け話を探して目を皿にしているだけだ。


 俺も国家間の戦争になんか関わらない。そーゆーのは国のお偉いさんと騎士さんのお仕事さ。


 カトリはまぁ元気を取り戻した、というか家族を一斉に失ったという現状を受け入れ始めている。でもトライデントの残党に接触してはフェスタの動向を探っている。弟のレイシスの行方を気にかけているんだ。


 ライアードもレイシスも行方不明だ。国家首脳が一夜にして宇宙戦艦に居住を移した混乱でフェスタ本国はひどい有り様になってる。三公の一角イルトゥークが兵を挙げ、ベルフィオーレ公、トライデント残党を味方につけたラザイラ公との三つ巴になってる。


 新生フェスタ帝国は本国の支配権についてすっかり忘れているらしい。灯台下暗しっつーのか、巨大なちからに溺れている連中らしいぜ。


 俺は俺で冒険者ランクを上げるためにコツコツ真面目にお仕事してる。今日も今日とてつまらない仕事だ。ローゼンパーム・ベーリングラウ間の街道に敷かれている魔物除けの結界がきちんと稼働しているかどうかを確認するだけの安い仕事だ。


 俺とカトリの頭上高くを三機のギガントナイトが飛んでいく。飛行機雲をたなびかせて王都へと向かってるぜ。カトリがそれを呆れ気味に見上げてる。


「うひゃ~~、たった三機でローゼンパーム攻めかぁ。どんだけ自信あんだろあいつら」

「威力偵察かもね」

「どーする、戻るの?」


 ダメな子一号は超気軽に戦争に介入しようとするね。でもしない。

 それがカトリにはどうもご不満らしい。


「このままあいつらが世界獲ったらのんきに冒険者業もできないと思うよ?」

「それはないよ」


 だって俺は知らないんだ。


 繰り返してきた俺の記憶はもう封印した。コッパゲ先生に頼んで処置をしてもらった。その時に起きた奇妙で不思議な経験についてはいずれ語る時もあるだろう。


 でも記憶の断片というかゲーム内の知識では五大国は存在してた。ゲーム開始時点は現在から二年後、その世界においても世界一の超大国はサン・イルスローゼのままだったんだ。


 俺が何か余計なことをしたぐらいで歴史なんて変わるわけがない。だからあいつらは何かヘマをこくんだろうさ。


 九月を境に世界は混迷の戦争に突入した。でも俺ら庶民にとっては国境線や王都がたまに賑やかになるくらいの些事でしかない。


 飛行機雲をひいて飛翔するギガントナイトを見上げる。日常にこういう光景が混ざるようになった、それだけの事なんだ。

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