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激闘、アバーライン!

 ウェンドール804年六月十八日、ナルザシャーンを放棄した祖国奪還軍7000はヘンドアット子爵領の街道を東へ、カラール湿地帯を避けて迂回路にてラハン市を目指す。


 元海軍府長官ギャラハッド・ルーデット、ライアード・バーネット、ルキアーノ・ルーデットの名を掲げる祖国奪還軍は輜重隊列を曳いての遅々とした進軍であるが勇壮に歩く隊列を阻む者は現れなかった。


 祖国奪還軍と名付けたのはルキアーノだ。ニヒルに笑った彼はこう言った。


「看板なんて大げさなくらいがちょうどいいさ。俺達が取り返すものを明確にすると長くなりすぎるし、聞く者が勝手に想像してくれるくらいがちょうどいい」

「あんたは何を取り返したいんだ?」

「失われたこの十年を、あり得たはずの喜びや幸せ、人生や色んなものを皆に取り返させてやりたい。なんて言ったらかっこいいだろ?」


 この回答にはフェイも苦笑いしてる。ルキアーノって男をどうにも掴めないでいる、そんな顔だ。


 9000人を超える投降兵から祖国奪還軍に加わったのは八割程度。現政権に立てつこうって状況を考えたら多い方だ。イルスローゼからやってくる三万近い騎士団も加われば勝ち馬に乗りたがる貴族が兵を率いて合流するだろうし、幸先は良しと言える。


 幸先はいいのに不幸なニュースが一つある。俺ら冒険者四人とルキアーノだけが湿地帯を走り抜けてラハン市へと先行するらしい……これは嫌な予感しかしないぜ。

 偵察だけって言われたけどほんと嫌な予感しかしねえんだ。


「ルキアーノ、偵察だけだよね?」

「当たり前じゃないか、たった五人で何ができるっていうんだい?」

「そのたった五人で監獄兵と戦わされたわけですが……」


 だが師団相当というフレコミだったナルザシャーン駐留軍も蓋を開けてみれば大隊以下との戦闘で終わった。いや五人で千人近く相手するのも相当におかしいけど、ルキアーノは結果を出している。こいつクソほど強いんだ。パンチの風圧だけで雲が割れるし。あれ見た連中が一気に逃げてったしね。


 約二日間に及ぶ道中に驚くようなことは特に起きなかった。空渡りとか水面渡りとかいうちょっとだけ人外の領域に踏み入った面子だからかなりのハイペースで進めた。


 驚くことと言えばサリフの半獣人としての能力には驚かされた。もっふもふの子犬になれるんだこいつ。20センチくらいの柴犬になった時はマジでビビった。撫でた瞬間に噛まれたけど撫でないという選択肢がなかった。また噛まれたけど。神狼フェンリルの末裔とはいったい……


 苦労して湿地帯と草原を抜け、ようやく到着した港町ラハンは……


「これは驚いたね」

「壊滅してましたね……」


 丘の上から見下ろす港町はひでえ有り様だ。ガレキの山ってほどではないがあちこち崩れてるし燃えている。死体もわんさか……


 フェイ君はどうして俺の首を締めるんですかねえ……


「お前疫病神もいい加減にしろよ!」

「世の中の不幸はだいたい俺のせいみたいに言われても困るんだが……」

「いつもこうなのか?」

「こいつと旅をしてるとだいたいこうだ。嵐で立ち寄った島でモンスターパレード、アシェラ神殿は全壊、山賊に襲われてる最中の村に到着したことも何回あったか……」

「ほぼ言いがかりじゃないか」


 なおアシェラ神殿に限っては俺のせいと言えなくもな…くない。

 人生はいつも波乱万丈がリリウス君さ。


「アサシンギルドにも追われてるしな……」

「あんたアルテナでお清め受けた方がいいんじゃない? 呪われてるよこれは」

「待て待て、リックンを責めて何になるんだ。まずは原因を追い払おうじゃないか」


 ルキアーノしか味方のいないという。……原因?


 半壊した家屋から明らか海賊ふうなおっさんが出てきた。サンタクロースが背負ってそうな大きめの革袋を担いでいるところを見るにお仕事中みたいですねえ。


 この規模の町を襲うとは豪快な海賊だな。山間の寒村ならともかく人口2000級の港町なら領主の兵隊が駐在しているはずだ。港は金の生る木だ、税金を取るために兵を置かない理由はない。


 何よりこの世界の町民はけっこう強い奴もいる。冒険者あがりの酒場の店主とかね。そういうのが二千人も住んでる町を落とせる山賊はもはや小さな軍隊であり、それは国家が軍を出して征伐する対象だ。……フェスタ治安悪くね?


「まずは調査からだ、各自で適切な行動を!」


 瞬時に気配を畳んだルキアーノが断崖から降りていく。大雑把な指示に従って俺らも町へと降りていく。


 破壊痕、血だまりのガレキ、踏み潰されたみたいな家屋の残骸、命の気配のない町を走っていく……


「気づいたか?」

「賊徒というよりも巨大モンスターに襲われた跡だな」

「お前見たくない事実は絶対に見えない奴だよな……」

「まだ結論には早いな。ドラゴンの可能性が微妙に残ってるさ」


 埠頭まで行くと生き残りの住人が集められていた。パッと見で数十人か、町の規模から察するに相当数の避難は完了してたらしい、と思いたい!


 縄で拘束した住人を見張っているのは如何にも海賊らしい連中だぜ。埠頭には如何にもな海賊船が二隻停泊してるし間違いないな。


 海賊船長らしき黒髭が、街中から次々戻ってくる手下どもの集めたお宝に喜んでやがる。積みあがったお宝の山にダイブするのをウズウズしながら堪えてるね。気持ちはわかる。札束風呂みたいなロマンがあるよね、あれ実際に目の前にして飛び込まない奴いる?


 あー、飛び込んじゃったよ。すげえ愉快そうに馬鹿笑いしてやがる。


「いやー、素晴らしい稼ぎだな諸君。爪に火を灯すようにチマチマ稼いでいたのが嘘みたいな大漁じゃないか!」

「頭ぁ、ご機嫌っすね!」

「あたぼうよ。こんな時くらい喜ばないで海賊なんざやってられるかってんだ!」


 お宝風呂でガハハ笑いしてる船長が人質を見てる。じーっと見てる。


「お嬢さん方、どなたか俺とお宝風呂しない?」

「……」

「……」

「……」

「……」


「じゃ、君でいいや。ボナンザ君あそこのレディーをご招待したまへ」


 不潔そうなでかい海賊が、口よりも先に拳が出てきそうないかにも港の酒場の看板娘っぽい大柄な女性の腕を引く。


「いやだね、離しな!」

「その元気がいつまで保つかねえ」


 眼前に引き立てられた看板娘を船長がじーっと見てるぜ。不思議とデジャブ。あれ悪党を吟味してる時の俺の目つきだわ。何をどうすれば一番嫌がるか考えてる時の俺じゃん……

 すげえ悪い顔してやがる。俺なんなの? もしかしてド悪党なの?


「お嬢さん、風呂に入る時は脱ぐもんですよ?」

「クソ野郎。ヨソじゃどうか知らないけどラハンじゃ服着て入るもんだよ! そんな事も知らないのかいこの田舎海賊が!」


 パァン!

 看板娘が手下の海賊に平手打ちされた。同時に俺の隣にいるフェイが乱入しようとしたからとめる。


「レディー、紳士にはきちんとした言葉遣いをしないといけないよ。さあもう一度よぅく考えてからお返事をしましょうね?」

「げへへへ!」

「ふひひひ」

「いひひひ……」


 う~~ん、THE海賊。海賊って下っ端はともかく船長クラスは似非紳士多いよね。やっぱり知識階層が多いんだろうな。機械化されてない時代の航海ってめっちゃ頭良くないとできないし。


 そろそろフェイが限界らしい。殺さんばかりの目つきで俺を睨んでやがる。


「なぜ止めた?」

「いや、だってスタンバってるし」


 俺が指を差した海賊船の舳先。真紅のマフラーをたなびかせるルキアーノがあのクソ寒い光景を見下ろしている。

 バサバサと風になびいたマフラーが最高に昭和ライダーしてるね。


 俺氏、監獄で事前に渡されたハーモニカを吹く。

 切なくも哀愁に香るメロディーを奏でる。


「なんか聴こえるような……?」

「あそこだ!」

「なんであいつハーモニカ吹いてんだ!?」

「うめえ……」

「けっこういいな。俺これ好きだぜ」


 なんで海賊と俺の感性が一致しちゃうかな。

 俺がルキアーノの方を指差すと海賊が一斉に奴へと向いたぜ。ノリもいいなあ!?


「この地にか弱き人々の涙が零れる時、俺は現れる」


 マフラーがバサバサなびいているぜ!


「悲しみが、怒りが、俺を呼ぶ声が満ちる時アバーラインが現れる! とうっ!」


 ルキアーノが華麗なる前方宙返り!


 話は変わるが俺はルーデットなる名前を昔から知っていた。でもローゼンパームでルーデット卿という言葉を聞いてもピンとこなかったんだ。


 実家に置いてあった絵本に出てくる死神キャプテン・ルーデットとルーデット卿を繋ぎ合わせることができなかったんだ。その理由は絵本の中の人物だからとかフィクションだからってのもあるが、最大の理由は挿絵には描かれたキャプテン・ルーデットは骸骨の顔をしていたからだ。


 いわゆる亡霊船のアンデッド系海賊だと思い込んでたんだよね。でもそれが勘違いだっていうのは監獄でのルキアーノの戦いを見てよくわかったんだ。


 前方宙返りするルキアーノの全身が光輝く。一瞬の閃光の後に着地したルキアーノは全身を黒い装甲ボディスーツで覆われていた。何より顔面には生々しいまでに生白いドクロの仮面。


 これが神代の魔法具ティルージュ・アバーラインを装着した姿なんだ!


「俺を恐れよ、俺を恐れるがいい! ティルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」


 ルが長い……


「ゥゥゥゥジュ! アバーライン、見参!」


 ルキアーノが最高にかっこういいポーズ決めたぜ。

 うん、簡単に言うとね、あいつ特撮ヒーローなんだ。あれ特撮ヒーローになる魔法具なんだ。古代にもロマン武器職人がいたんだね。本当に驚いたよ。


「あ、あれはウェルゲート海の死神!?」

「馬鹿な、ルーデットならとっくに追放されたはずだ!」

「そっ、そうだな。あれはニセモノだ、野郎どもやっちまえー!」


 やめときゃいいのに海賊どもがルキアーノへと一斉と殴り掛かっていったぜ。うん、武器も持ってるよ。でもあいつに武器とか通用しないっていうか逃げる以外の選択肢はマジ致命的なんだ。逃げられるわけないけど。


 こうして始まるアバーラインVS海賊六十人。拳を覆った三枚の刃の付いたナックルで、ルキアーノことアバーラインが海賊どもへと立ち向かう。いいタイミングだ。


『愛を! 夢を覚えていまーすーかッ! 心! いまも震えていまーすーかッ!』


 うん、この魔法具ね、戦闘が始まると熱いテーマソングが流れ出すんだ。古代人マジ何やってるの……

 すげえかっこいい男性シャウトの直後に激しいギターの間奏が入るんだ。もう世界観がニチアサなんだ。


『怒りの渦で目覚める朝、傷つき挫けた日の夢で、僕は隠れて震えてるだけだぁったー』


 テーマソングでノリノリなルキアーノの拳が海賊を真っ二つに両断した。

 回し蹴りで吹き飛んでいった海賊が遠くの崖にめりこんだね。


『あの日の誓いまだこの胸で、燃える怒りをちからに変え、纏う正義の衣ひるがえしたー』


 腕から出すタイプの無属性魔法弾が容赦なく人体を引きちぎっていくんだ。

 ふざけてるみたいに見えるけど実力だけはほんとやばい。


『砕けた体に叫ぶんーだー!(まだやれる) 立ち上がれ、何度でも立ち上がるんだ。怒り、ちからに変えて放つんだ。燃える、心、意志を、炎に変えて放つんだー(アバーライン・フェニックス!)』


 うん、炎の鳥みたいに飛び上がったルキアーノがライダーキックで大地を薙ぎ払っていったね。


 触れただけでね、人体が炭を通り越して灰になっちゃうんだ。これが海賊だからまだ笑ってられるけどナルザシャーンの城壁と高レベル騎士まで灰になるの見ちゃうとマジ笑えないから。


『戦え、炎のちから込めて。貫け、ちから残る限り。仇を討つその日までー。戦え、心滾る限り。ぶつけろ、悪がいる限り。巨悪を討つその日までー』


 あー、海賊六十人程度だと一サビまでかー……


 灰しか残ってない埠頭でルキアーノがすげえかっこいい勝利のポーズしてるぜ。


「フェスタの民よ嘆くな、お前達が絶望し諦めぬ限り! 千の顔の(ティルージュ)アバーラインは何度でも立ち上がる!」

「ルーデット様だ……」

「キャプテン・ルーデット様だ!」

「おおっ、ルーデット様がお帰りになられたんだ!」


 誰一人としてアバーラインって呼んでくれないけどルーデット家の象徴だから仕方ないね。覆面ヒーローなのに正体モロバレとか覆面が機能してねえ。


 なんかもうラハンの埠頭で僕と握手みたいになっちまった。


 ハーモニカでナイスフォローした俺へといい仕事したな!みたいなサムズアップしてくるんだ俺の義兄(予定)がさ。


 普段はチャラ男、誰かの涙が零れる時にヒーロー、もうチャラ男部分が役作りにしか思えない……


 自分から人前で変身解いて素顔見せてるし、覆面ヒーローとしては最悪だけどいい仕事したよあんた。キャラはブレてるけど。看板娘から熱いキッスされてるけど。


 落ち着いたところで住人からお話を聞いてみると三日前の遅くにでけえマシュマロマンに襲われたらしい。人の魂だけを食べる化け物が散々暴れて一度は街から避難してたけど、もういなくなったので戻ってきたら今度は海賊が襲ってきたんだそうな。


 フェイの予想が当たったな。トロル・ゴーストだ。肉体という基盤を持たないゴーストは魂を食べて生き永らえるタイプのアンデッドだ。死んでまで他人様に迷惑かけるとかさ、今度こそきっちり殺してやらないとな……


「トロルめ、生き汚い奴と言っていいかはわからん。この惨状を見て喜ぶのもおかしい。だが奴を殺せる機会が僕にも与えられたことだけは感謝してやる」

「フェイ」

「……友だと思うなら口を出さないでくれ。今回だけでいい」


 フェイにも考えがあり、怒りがある。

 フェイの形をした怒り。俺の形をした怒りは同じように見えても別物だ。お前が誰を許せないのか、それは俺が許し分かち合えるものではない。


 ベルカと弟達と一番長く過ごしたのはフェイだ。俺と同じなわけがないんだ……


 予定とは違う形となった港町ラハンの押さえに成功した。俺らは数日後に合流する祖国奪還軍と共に、これからやってくるイルスローゼ艦隊を待つ。


 アサシンギルド、トロル・ゴースト、幾つもの不安要素を思い出しながらすべてが始まる前に終わらせる機会が訪れる事を願う俺もまた……


 俺の存在はたしかに不幸を呼ぶらしい。ったく、何なんだろうな……

Name: 千の顔のアバーライン

Age: 26

Appearance: ドクロ面の義賊

Height: 192

Weight: 88

Weapon: ルードの剣(品質A) ティルージュ・アバーライン(S)

Talent Skill: ライラの加護A 剣術S ルードの秘蹟B 魔力増大C エルドビア流転B etc 

Battle Skill: ルーデット流槍術(S) ビクティム・スマッシュ(S) 

Passive Skill: 戦闘センスS 踏破者A 憎悪D 闇の理B ルードの末裔A


LV: 100

ATK: 12145

DEF: 9588

AGL: 6584

MATK: 13252

RST: 12125


 命のベルトが光る! うなる! 暑苦しい正義の心と共に夜を駆けるアバーラインが悪を討つ!

 正義に敗北は許されない。不屈の心で何度だって立ち上がれ! そもそも怪我を負わせられる存在は少ないのだがね。

 ティルージュ・アバーライン、キャプテン・ルーデットの象徴ともいうべき全身装甲だ。非常に強力な強化効果があり、着装時は全パラメータが常時1.5倍。滾る正義を充填することでさらに倍増する。これは少し変わったアロンダイク魔法具で通常魂と魔力を融合させて高出力を得るはずが、アバーラインは正義の心をエネルギーにして発動する。

 正義の心を失った瞬間にアバーラインとなる資格を失うらしい。よくできているね、製作者の情熱が怖いくらいだよ。私は鑑定できちんと視えているが野暮はやめておくよ。

 元ネタは古代魔法王国で流行っていた冒険活劇アバーライン・ザ・ジャスティスハートのようだ。つまりは虚構のヒーロー譚だね。そんなものがなぜ実在しているかは不明だがいつの時代も金を持て余した好事家がいるものだ。稀に発見される軍用品よりも格段に高性能なのがね、いつの時代もルル君のような間違った才子がいるということだね。私もこのノリは嫌いではないよ。

 テーマソングは『激闘、アバーライン』らしいね。

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