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逃亡者リリウス

 騎士団の突入によって人質の保護が完了し、事態は次のフェーズへと移行した。

 つまり残敵の掃討である。


「逃亡者はいたかー!」

「絶対に逃がすなと閣下のご命令だ!」


 ひぃぃぃぃぃ! どこもかしも騎士だらけだやべえ!


 月明りの浜辺は魔法灯を掲げた騎士に占拠され、もはやアリの子一匹逃げる隙もない。いやアリの子どころか沿海州の暗殺ギルドのアサシンさえ逃げられない。


「発見!」

「排除だ排除!」


 薬物によって身体能力を超強化されたアサシンはシターラと呼ばれる湾曲した殺人ナイフで抵抗するが、暗殺が本業という工作員が真っ向勝負で騎士に敵うはずがない。二合と交わさぬ内に切り倒されていく。


 哀れな連中に黙とうを捧げながら血塗れ死体の横をすり抜け、俺は自由の方角へと足を進める。具体的には砂浜をダッシュで西へ!


「そこだな」


 !?


 シャツの襟首を掴まれる。ステルスコートで透明化しているはずなのに!?

 振り返れば名前を言ってはいけないあの人みたいな閣下が呆れた表情をしていた。


「無事人質救出を成功させておきながら逃げるな馬鹿者」

「ですが閣下、調書を取るために俺を帝都に連行なさるおつもりでしょう?」

「なんの問題がある?」


 そこが! 大問題なんだっつーの!


 あんたのいる騎士団本部なんかに連行されたらなし崩し的に騎士団に入れられそうで怖いんだよ! あんたが、怖いんだよ! どうしてわからないかな!?


「ヴァカンスはもう十分楽しんだろう?」

「いやあああああああああ! 人さらいー!」


 俺はこうして誘拐されることとなった。

 騎士団本部でウェーバーさんなる真面目な堅物なのにフェロモンむんむん出てる女性みたいに美形の騎士から人質救出作戦における取り調べを受ける。帝都まで連行しておいて十分で終わるんですね……


「暇なら訓練していけ」


 当然のように閣下のしごきが待っていました。

 何人かの騎士と試合を組まされ、六戦四勝二敗という成績で終わると閣下が少しムカっとしました。え、全勝しないといけない感じでしたか? さすがに正騎士には軽くひねられたけど学院あがりの一年目には四勝したのに……


「やはりか……貴様はその年齢にしては強すぎる」


 褒めてます? とてもそんな口調ではなかったんですが。


「だがそのレベルにしては弱すぎる。基礎能力値が低すぎるのだ、鍛錬法を間違えたな……」


「あのぅ、これでもルドガーから教えてもらった騎士学院のメニューをきちんとこなしていましたよ?」

「馬鹿者が、レベルの低い連中と同じ鍛錬をしても意味はない。素人に多い過ちだが高レベルならそれなりの鍛錬をせねば基礎能力は上がらぬ」


 えー、そんなー。


「これを使え」


 閣下が漆黒の甲冑の手甲を外して、地面に落とす。


 ドス! ……手甲からやけに重量感のある音がしたんすけど? え、まさかドラゴ〇ボールの胴着みたいなやつなんですかこれ!? まさかこれ甲冑じゃなくて大リーガー養成ギブスだったんですか!?


「これ一つで五十キロある。お前はこれと同じ重さを四つ装着して過ごせ」

「俺本体の五倍重いとか……」


 手甲一つで五十って閣下のフルアーマー何百キロあるんすかね……


「それくらいでなくては意味はない。ぐだぐだ言うな、まずは走り込みだ!」

「先生、何メートルですか!」

「俺が良しというまでだ!」


 超スパルタ!?


 俺は二百キロ超の重りを付けて騎士団本部の中庭を延々と周回する騎士の列に混ざる。一周あたり三キロはあるらしい……やめてリリウス君が死んじゃうよ!


 のそのそと走る俺は軽快に走るロザリアお嬢様には追い越されてあっと言う間に三周遅れ。後ろからやってきたデブにもまで並走されてしまう。屈辱だぜ!


「何キロ?」

「二百キロ……」


 おいデブ俺を憐れむな!


「正直に申告するなんて馬鹿だなあ。僕はちゃんと三つ下のレベルを申告して、ほら上下合わせて四キロだよ?」


 くぅぅぅ世渡り上手め!

 だがゲームでこいつが弱かった理由もわかった。そこそこ良いスキル持ちにも関わらず弱かったのは、ズルして基礎能力を上げなかったせいだ。許せんな! こいつだけ楽するなんて許せんな!


「閣下、デブがレベル申告を虚偽しております!」

「リリウス君なに即座に裏切ってくれちゃってるのッ!?」

「報告ご苦労。おい、そこのデブに重りを追加せよ!」

「ハッ!」


 デブ用の重りを手にしたアメフト部系ガチムチ騎士がものすごい勢いでデブにタックルをかましにいった。ザマアミロだ!


 中庭を周回しているのは俺達だけではなく正式な騎士もいる。騎士になるために訓練して、騎士になっても仕事の合間に訓練して、休日も訓練するという見上げた連中だ。彼らの休みはどこにあるんですか!?


 閣下は書類仕事をしながらそんな連中の指導に回り、疲れて俯いた馬鹿野郎が出る度に竹刀ならぬ真剣のみね打ちで喝を入れている。やべーよ騎士団やばすぎんよ!


「いいか俺が監督する限り絶対に体を壊したりはさせん。適度な運動、適度な食事、適度な睡眠のみが頑健な肉体を作るのだ!」


 なんだか本当に運動部のスパルタコーチみたいだな!

 この人こんな体育会系だったの!? 超違和感!


「体に異常のある者はすぐに自己申告せよ、輜重部隊付きの治癒魔法実習生が貴様らの脱落を手ぐすね引いて待っているぞ!」


 やべええええええええ! あいつらマジでおいでおいでしてやがる!

 あの一角だけ暗黒のオーラ出てんぞ。

 人体実験か、人体実験が待っているのか!?


「合言葉は死なない限りは訓練できるだ!」

「「死なない限りは訓練できるぜイヤッホぉぉぉおおお!」」


 走り込みをする騎士団が爽やかな声で唱和する。訓練された騎士かな?


「貴様らの口癖が『あぁ訓練の後のメシはうめえぜ、これなら死ぬまで鍛えられるな』に変わるまで俺はしごきを辞めない!」

「「喜んで!」」


 訓練は走り込みから腕立て伏せに変わり、何十何百という重しを付けた騎士が汗水たらしながらゲロを吐くまで腕立て腹筋手押し車を繰り返す。


 ゲロを吐くまでと言ったな? あれは嘘だ! ゲロを吐いても五分休憩したら泣いても喚いてももう少しだけ休ませてと懇願しても訓練に戻される。近隣諸国最強の帝国騎士がこんなんなるなんてやべえぞこの訓練!


「辛いか! 辛いだろうな俺も辛かった、だが己の限界も知らずに戦場に出た馬鹿は真っ先に死ぬ。死ぬ気で己の死ぬ限界点を肉体に叩き込め!」

「先生ッ俺もう限界です! 死んでしまいます!」

「お前の限界はまだまだ先だ」


 限界が限界じゃないと!?

 三時になるとおやつならぬお昼寝時間。一時間たっぷり休んだ後は夕暮れになるまで走り込み。途中で脱落しようものなら再び走り出すまで閣下のみね打ちが待っている。


「憎みたいなら俺を存分に憎め! 憎しみと怒りで立ち上がれるのならその殺意甘んじて受けよう! 戦場に出た貴様らが無事生還することだけが俺の喜びだ!」

「「閣下の優しさに感謝します!」」


 俺はこの日朝から夕方になるまで走らされた。


 騎士ってもう少し優雅なお仕事だと思ってたんだけど野球部かな? 本気でメシ食って走らされてお昼寝して走らされてメシ食って寝るだけの生活してんだけど……

 騎士団での生活は超健康! 心身を限界まで鍛えればどんなハードワークも鼻歌混じりにこなせる!

 国家の守護神帝国騎士団は超ブラック労働だった……

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― 新着の感想 ―
[一言] 白衛隊のエリートな方々はフル装備して朝から晩まで走れるらしいね
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