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魔からの召喚

 更新遅れてて申し訳ないです。

 新型が流行ってるせいで皆さんも色々気疲れされていると思いますが、どうかご自愛ください。


 テレワークの存在しない世界から愛を込めて 

 ハリファ太守府襲撃と同時刻、風にのってやってくる正門の騒ぎを耳にしたフェイは当初静観を決め込んだ。

 一個あたり十キロの重さに相当する鉄球を指先一つに重ねること七つ。それを十指に乗せてスローテンポで型稽古していると兵隊が駆け込んできて……


「ご助力ください!」


 なんて言い出したもんだから無視した。

 兵隊の中ではすでに和解が成り立っていると考えているようだが、未だ人質を取られて意に沿わぬ軟禁を強いられている現状で協力してやる義理はない。むしろ襲撃に乗じて太守府を殲滅してやりたいくらいだ。


(アホらしい。なんで僕が手伝ってやらにゃならんのだ……)


 型稽古を継続する。正門の騒ぎは治まるどころか増々ひどくなっている。どうやら相当な手練れがやってきたらしい。こうなると興味もある。好奇心でちょいと戦ってみたくもなる。しかし一度無視した手前いまさら手伝ってやるのは前言撤回みたいで恥ずかしい。


 トレーニングに集中できずにもやもやしたまま型稽古してると視線を感じた。

 離宮の外にある棕櫚の木の上だ。姿も気配も完全に隠してまるで一匹のハエがこちらを見ているような僅かな感覚だ。


「僕に何か用か?」

「きひひひ……わかるのか。俺がわかっちまうのか?」


 木から音もなく降り立ったのは矮躯の男だ。何の変哲もない町民の恰好こそしているものの、纏う邪気は尋常ではない。百人や二百人は殺している気配だ。


(四分の一リリウスはあるな。裏の仕事専門の輩か?)


 目の下に墨を塗り込んだような色濃い隈を持つ矮躯の男からは害意は感じないが、害意を感じないからといって悪魔と対峙して気分がよいはずもない。


「お前をさる高貴な御方がお召し抱えになりたいと仰せだ。話を聞くだけでもお前に付いている首輪を外してやると仰せだ」

「これか?」


 フェイの首には魔封じの首輪が嵌められている。年経た精霊獣の革に呪詛を施した強靭な造りの魔封じの首輪は対魔導師用の拘束具だ。その効果は魔法を行使しようと一定以上の魔力を溜めようとすると電撃が流れるものだ。これは高位の戦士系にも用いられる。


 特定の人物が文言を唱えて負荷をかける奴隷呪印ではなく魔封じの首輪を付けられている理由は、エギル太守のなけなしの誠意なのだろう。


「きひひひ……お前馬鹿か? 首輪ならもう四人付いているだろう。首都イス・ファルカの邸宅で軟禁されている娘っこどもを解放してやるんだ」

「話を聞くだけでいいのなら本当にうまい話じゃないか。裏はあるんだろうな?」

「疑り深いな。いいぞいいぞ、すぐに飛びつく馬鹿にはもったいない話なんだ。我らが主は素晴らしい御方だ、話を聞けばお前もきっとその気になる」


 この見るからに邪悪な悪魔でさえ我が主とやらに心酔しているらしい。どんな邪悪な化け物なんだ?


「お前には望んだすべてが与えられるぞ! 飲んだこともないような最高の美酒に最高の女、お前が夢想したこともないような最高の贅沢が与えられ、最高の環境で仕事ができるんだ。我らのようにな!」

「生憎同じような妄言を聞いた結果がこの軟禁でな、易々とは信じられない」


 俗物がッ、と心中で吐き捨てながら悪魔の甘言その意図を探るが狂信者の眼と口から真実など探り出せるものか。

 乗るか反るか二つに一つの博打でしかないが……


「もう一度だけ確認させろ。主とやらの話を聞くだけでベルカ、ロジェ、イスカ、ジャイロ四人の安全を確約するんだな?」

「確約する。我が主の御言葉は朝日が必ず昇るように絶対に覆らない」

「例え僕が話を蹴ったとしてもか?」

「きひひひ、お前馬鹿、物知らず。お前が何をどうしたからって朝日が昇るのを止められるわけない」


「……応じよう」


 フェイは心中に納得できないものを抱えながら悪魔の手を取った。


 何者にもこの意志を左右されないちからを目指してきた。究極武術の設計が成ればこの身この意志を挫くものなどないと信じてきた。

 だが現実はこの有り様だ。権力者の放つ強大な意志と意志が渦巻いて作り上げた運命という名の流れに小石のように翻弄されるだけだ。


(この無力感はどこまで高見に上がれば消え去るんだ……?)


 尊き竜への道は未だ遠く、懸命に足を動かしてのぼりつづけてきた道がまちがいなんじゃないかと疑うほどに遠く……

 握りしめた拳はあまりにも無力だった。





 俺は思った。太守さんは何か勘違いをしているんじゃないかって思った。

 ボロボロになった兵隊が三度目の報告にきた時、太守さんが超気軽にこう言った。


「様子を見てきてくれまいか?」


 襲撃者がけっこう手強いみたいなんで倒してこいって奴だ。俺あんたの私兵じゃないよ? 脅迫されてここにいるイタイケな少年だよ? って思ったけど応じる。だって人質がいるもん。


 小さいが贅を凝らした小集落みたいな太守府の正門では兵隊がわーわーやってる。ミスリルのこん棒を振り回す身の丈三メートルはあるハゲ頭の大男に群がっては蹴散らされてるぜ。


 オーガかな?って思うような凄まじい形相をした、重装甲歩兵の甲冑に身を包んだハゲ大男へと魔法掃射が為されているが蚊でも刺したように何のダメージもないぜ。さてはレジスト特化の超高レベル戦士だな?


「リリウスさんだ!」

「リッリウス、リッリウス!」

「ハリファ攻略者が援軍にきてくださったぞー!」


 お前ら俺を乗せるんじゃないよ。調子のいい連中だなあ。


 太守さんはともかく下っ端の兵隊はマジダンジョン攻略者を素直にリスペクトしてくれてるから悪気ゼロなんだ。普通にいつも敬語だしね。太守さんのやり方は気に入らないけど兵隊さんはいい奴らだから助けるのに抵抗はないんだが……


 潮が引くみたいに兵隊が円を作り、自然に俺VSこん棒使いのハゲ大男の舞台が整っちまったぜ。


「冒険者リリウスだな?」

「おいおい俺のファンかい。握手してほしくて押しかけたのかな?」


 握手はいらないですみたいな顔されたわ。


 旅の武芸者かもしれないね。貴族の継承子ではない三男四男には武者修行の旅に出る奴も多い。己を鍛え、鍛えた技で高名な戦士を倒して名を挙げ、誰か俺を厚遇で雇って~~って連中だ。

 で、この場合の高名な戦士ってのは高難度ダンジョン攻略者である俺だな。


「ハリファを攻略したというそのちから見せてもらおうか」

「いいぜ」


 それを戦闘開始の合図としてミスリルの大戦斧とこん棒が衝突する。


 ガガガァン!!

 この手応えアカンわ。単純なちから比べなら五倍差はある。カトリたんの掲げた短剣に打ち込んだ時みたいな絶望的な腕力差だ。


「ならばスピードで翻弄してやる!」


 秘儀ルパインアタック! 得意の敏捷性を活かして相手の周りをグルグル回って背後から奇襲する以上!


 へへへ、対応が超慣れてやがる。さては腕力で敵わない連中から似たような戦法取られまくってきたな? 背後が隙だらけだけど完全に誘いだわ。


「秘儀、ルパインアタァ―――ック!」


 というのはウソで背後からハゲ頭へと大戦斧ぶん投げてやった。

 瞬時に振り返ったハゲ大男がこん棒で大戦斧の投擲を弾いたが、俺いまお前の後ろにいるよ? 不用意に振り返るべきじゃなかったね?


 戦法は見破られても、見破られたことを察していれば逆手に取れるんだ。いいお勉強になりましたね?


「い・ま! 渾身のケツ穴ミスリルソォォォォォド!」

「うぐっ!?」


 刃を返し、さらに突き入れる!


「奥義、ケツ穴十字裂傷!」


 説明しよう、お尻に十字の傷をつけることで大便時の痛みはなんと四倍の超奥義なのである。


「うがああああああ!」


 ケツの痛みに耐え抜いたハゲ大男がこん棒振り回して暴れるけど遅いわ。リリウス君はとっくに避難してるぜ。


 こん棒ブンブン丸と化したハゲが暴れに暴れた後で、肩で息をしながら……


「こんな技を使う奴は初めてだ……」

「うん、俺も見た事ないわ」


 ちょっと泣きそうじゃねえか。でもお前が本当に泣きながら俺に挑んだことを後悔するの毎日のトイレの時だからな。やめときゃよかったって一人悲しくトイレですすり泣けよ。


 最初は復讐とか威勢のよかったローゼンパームの冒険者さんたちも日に日に元気がなくなっていった。俺を敵に回すってことは毎日が楽しくなくなるんだ。なおアルテナ神殿で治療を受ける場合は銀貨六十枚する! 俺を敵に回すと一回あたり一年間の生活費がかかっちまうんだ!


 しょんぼりしちまったハゲがお尻を押さえながら帰っていくぜ。強く生きろよ!


「俺らがあんなに苦戦した大男をおちょくり倒しちまうとは……」

「リリウスさんさすがッス!」

「すげえッス!」

「一生ついてくッス!」


 俺褒められ慣れてないから兵隊どもの尊敬の眼差しが気持ちいいぜ。もう士官しちまうか士官! 美人のお姫様と結婚できるしな!


「ハハハ、まあ俺に任せとけよ!」

「「リリウスさんマジパネぇ~~~~!」」


 超いい気分で離宮に帰るとフェイがなんか知らんやべー奴と一緒にいた。一目でわかる、アサシンだ。それも相当なハイクラスのやべー奴だわ。


 で、なんでそんなやべーアサシンが俺に怯えてるんですかね?


「きひひひ……俺より恐ろしい奴久しぶりに見た。お前どれだけ殺してきた?」

「裏の仕事専門の殺し屋からビビられるなんてお前いい加減にしろよ」


「いい加減にするのはお前らだよ。こんな愛らしい妖精さんのどこが怖いんだ」

「……お前ものすごい数の亡霊背負ってる。きっと楽には死ねない」


 見た目に反して繊細な奴だな。さてはおとめ座だな?

 ちなみに俺まだ二人しか殺してない。たぶん。その後を確認してない奴多いけど。


 お話を聞くとどっかのおえらいさん(まだ名前は明かせないらしい)の使者で、正門で暴れてたハゲのお仲間らしい。本当なら混乱に乗じて俺らを連れ出す手筈だったらしい。ごめんね。


 太守府は割り札を持たない者が侵入すると麻痺する結界に守られているんだが、すり抜けてくるとかやるじゃん。


「僕は話に乗るつもりだ。話を聞きに行くだけだがな」

「フェイが判断したなら俺も付き合うよ。ダチだしな」


 露骨に嫌そうな顔すんなし。


 未だ多少の混乱を残す太守府を颯爽と脱出する。俺さ、ステルスコートに頼りきりに見えて素で隠形も得意なんだ。半径50メートル以内なら誰がどこにいるかとか気配でわかるしチョロいぜ。


 ささっと脱出するとハリファ市の外の砂丘にグリフォンが二頭いたぜ。ハゲもいた。しょんぼりしてる。

 ハゲは俺を見るなりすげえ剣幕で叫びだした。


「こいつを後ろに乗せるの嫌だ! 絶対に嫌だからな!」

「……トロルがここまで嫌がるか。お前なにした?」

「ケツを掘ってやっただけだ」

「……お前らそういう関係なのか?」

「断じてちがう!」


 フェイが迫真つっこみを入れたところでグリフォンに騎乗する。二人で一つのグリフォンに相乗りだ。小柄なアサシンがすげえビビってるぜ。


 ちなみにハゲ頭の大男がトロル。小柄なアサシンがヴェノム。コードネームだねぇ。


 グリフォンの羽ばたきはちから強く、瞬く間に上空に飛び上がった。向かい風に乗るように滑空するグリフォンに騎乗する俺は前に座るアサシンに小粋な質問を投げかけてみた。


「ちなみに俺にコードネームをつけるなら何がいいと思う?」

「ゲイソード」

「ケツソード」

「汚い刃」

「大喜利やってんじゃないよ!」


 どうやら悪い連中ではないらしい。ギャグセンスのお話だ。

 夜空を飛翔する俺らは夜の大地に落ちた太陽みたいなイス・ファルカを目指した。





 チビとノッポのデコボココンビの他にも部隊が動いていたらしい。

 王宮街の中心、金蠍宮にほど近いお屋敷の前に降り立ったグリフォンから飛び降りるとベルカちゃんが飛びついてきた。フェイにね。


「フェイ!」

「無事だったか!」

「ふぇ~~い!」

「フェイー!」

「フェイー!」


 誰一人として俺の方に来ないのは人徳ですか? 怒っていいですか?


 真夜中だってのにピッカピカにライトアップされた白銀のお屋敷を見上げる。観光スポットかな?


「さあ行け、主がお待ちかねだ」


 トロルとヴェノムはそう言い残して夜の闇に溶けていった。

 地系統の隠形魔法の熟練者か。コミカルな連中だったがまともにはかち合いたくはねえな。


 さてさて、このお屋敷で俺らを待ち受けているのは何者なんだろうな?

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