メモリーリーク
まいど感想ありがとうございます。励みになります。
ところで質問に近いようなご感想に返信をしてもよいのでしょうか? 松島は作品の世界観に浸りたい派だから著者の影が見え隠れするのが嫌だったりしますけど、不快感がないのでしたら、わかりにくい部分を返信で補足できればと思っています。
わかりやすい文章力で勝負しろというお話でもあるんですけど、リリウス君主観で進行するので彼の把握していない事柄は説明ががが(ひでえイイワケですわ
空も燃えるみたいに真っ赤に染まる夕暮れ。
ぼんやりとにじんだ夕日とどこかから聴こえる鈴虫の音色。目覚めると同時に視界に飛び込んできた光景は終わりを予期させるものだった。
握りしめる拳にちからが入らない。
少し前まで備わっていた灼熱のような気力の充実が無い。夏が過ぎていくみたいに消え失せている。あれほどみなぎっていた活力が消え去り、腕一つ動かすことも面倒だ。
これは喪失感と言い換えてもいいのかもしれない。
まるで原動力を失った気分だ。不公平と不平等を暴力的に是正するために怒りと憎しみをガソリンみたいにして走り抜けてきた。泣いてる誰かを俺のように扱い俺を虐げてきたすべてを圧倒する喜びに注力してきた。それは生き甲斐だ。俺の根源だ。俺の本質はアベンジャーではない、リベンジャーなのだ。
ちから振るう存在を悪としてきた。悪意振りまく者と敵対してきた。美しき男性こそが俺の怨敵だ。
弱者保護など建前だ。女の涙を見たくないなんて嘘っぱちだ。理不尽な暴力と悪意に怯える彼らの姿を見ていられなかっただけだ。でもそれは誰かのためなんかじゃない。すべて俺のためだ。
それは嘲られ、気まぐれに蹴られ殴られてきた俺の姿を見ている気がしたからだ。
だが今は戦いを終えた定年組みたいに何のやる気もわいてこない……
俺は終わってしまったのだろうか?
わかることはただ一つ、俺はどうやらこのまま朽ちていくって事実だけだ。神を殺したのだ、このくらいの代償はあるんだろうぜ。祟りの一つや二つあるだろうとは思っていたが最初の一つでこの様とは笑えやしない。
ノックの音にどうぞと答えればフェイが入ってきた。一月程度の別れだったはずなのに随分久しぶりな気がする……
記憶を整理しよう。俺は港町の埠頭で乗船チケットを買おうとして倒れた。だからこの不自然な再会はなんだろうね?
「そう不思議そうな顔をするな。ただの伝言さ」
「伝言?」
「金を渡してリリウスという目つきの悪いガキが来たら僕に連絡するようにとギルドに伝えておいた。イース海運で倒れたお前の荷物から職員が冒険者証を見つけてギルドに連絡をし、それが僕のところまでやってきただけだ」
考えてみりゃ当たり前の事だな。俺がオアシスの町やアルステルムでやったことをフェイもやっていたってだけの簡単な再会なんだ。……その程度にも頭が回らないとはね。
フェイは薬学や医療にも精通している。ならば当然俺の状態も診ているだろう。神妙な顔つきしやがってさ……
「やはり俺は長くないのか?」
「過労だ」
フェイが冴えない表情のまま言った。嘘へたすぎだろ。そういう純朴なところも気に入っているんだけどさ。
「隠さなくっていいんだ。俺のことは俺が一番わかっている、俺はもう終わりだ」
「……ただの過労だぞ?」
俺とフェイは見つめ合った。互いの認識を埋め、虚飾を振り落とし、曇りなき眼でじぃっと見つめ合った。……やっぱりわからん。
「ただの過労とは言ったが相当な衰弱だ。いったいどんな無茶をした?」
「どんなって……」
三日かけてハリファダンジョンの最深部行ったわ。女神ハリファの新生体とかいうクソやべー奴倒したわ。その後五日かけて87層から50層まで一匹残らず魔物駆除したわ。そういや睡眠取った記憶がねえわ。軽い食事休憩だけで不眠不休で八日間バトルしてたわ。
えっ、この重苦しい倦怠感マジの過労!?
「だがな、ちからが全然入らないんだ……」
「丸三日も眠りっぱなしで満足に動けるものか。軽食を取って数日安静にすれば問題ない」
[
普通の診断だな。ひねり皆無だわ。もっとボケろ。
こいつなんか土産物持ってるなーと思ったらバナナだったわ。ゴリラ一食分はあるぜ。俺どんだけバナナ好きだと思われてんだよ、大好きだけどね。バナナひと房放り投げてきたんでとりま食うわ。
食ってると元気出てきたわ。やっぱり過労なんだな。
じゃあお前の神妙な顔つきなんだったんだ?
フェイがベッドの下に並べた木箱を蹴った。横倒しになった木箱から金貨がジャラジャラ飛び出してきたぜ。
「お前金貨さんには優しくしろよ」
「ハリファを攻略したな?」
してないよ。破壊しただけさ。
なんて詭弁を使う気はない。換金する時に俺の冒険者証を呈示してあるし、フェイに隠す理由なんてないんだ。
こいつの神妙な顔つきの理由がわかった。永遠のライバルであるリリウス君に大きく溝を空けられたって悔しがってるんだな?
「可愛い奴だな、そんな心配しなくても俺のライバルはお前だけだぞ」
「そんな心配はしていない」
ひでえ。
「素直になれよ、じゃないと勝手にライバルだと思い込んでる痛い奴になっちゃうだろ」
「事実を正確に認識できてよかったじゃないか」
「てめえ! お前の他に友達いねえんだよ、そろそろ友情を感じろぉ!」
「勢いで押し切ろうとするな。友だと思うならでんと構えていろ、ライバルと思うならなれ合おうとするな、何とも思っていない奴の旅に同行するほど僕だって暇じゃないんだ。察しろ」
急に素直になるんじゃないよ恥ずかしい奴だな。
しかしまあなんだ、今のはちょっと嬉しかったぜ。俺はバナナを食べながらゆっくりとハリファの話をしてやる。
「もがもがもがもがもごもごもご」
「もごもご何言ってるかわからん。食い終わってから説明しろ」
ボケに真顔でつっこむフェイは変わらねえ奴だぜ。
ちみっこブラザーズの大冒険を余すことなく語ってやるとフェイが手を打った。
「神狩りか、面白そうじゃないか。僕にも噛ませろ」
頼むまでもなく俺の意図を察するとか親友クラスの心の通じ合いだ。絶対やべー奴を倒したいだけだぜ。
「いいぜ」
しかしバナナ食ってたらまた眠くなってきたぜ。血糖値あがっただけだな。水、バナナ、水、バナナを相互にもしゃってると目蓋が閉店しちまった。
「お前馬鹿みたいに体力あるから明日には復活しているだろ。そのまま寝ろ」
俺はそのままぐーすか眠った。
そして翌朝、俺氏完全復活である。ジャキン! 先帝の無念を晴らす!
「変なポーズするな。かっこつけて塩振るのもやめろ、あぁ不死鳥の舞もだ」
俺のボケことごとく先回りして潰すのやめてくんない? 腹立ったからスーパーよさこいを高速ダンシングしてやる。
「どうやら本当に回復したらしいな。相変わらず体力だけは化け物じみている」
俺のスーパーよさこいをスルーするんじゃないよ。ちゃんとつっこんで!
俺は五分間踊り続けた。フェイはそれを黙ってじっと見ていた。俺そろそろ疲れてきた。病み上がりのスーパーよさこいは無理があるぜ……
「気は済んだか?」
「ひでえ。そういやお前カトリたん知らない? てっきりお前と合流してるんだと思っていたんだが……」
「姉御なら五分で看病に飽きて買い物に行った」
超フリーダムだな。さすがカトリたん。いつも底なしの体力フル活用して一日中遊び回ってるもんね。お金入るとすぅ~ぐコスメとお洋服買い漁りにいくもんね。
「そういえば姉御からこんなものを預かっている」
「手紙?」
ラブレターかな?
読んでみると二行目で早くも嫌になったぜ。だってお金借りますって事後承諾してくるんだもん。そういや木箱が二個ねえ、あれ一つに金貨七百枚入ってるのに……
『拝啓リリウス君へ、明けましておめでとうございます』
新年はあんたと迎えたがな。
ストラ神の大聖堂で鐘の音聴いたでしょー。
『ちょっと買い物したいのでお金貸してね』
ジュース代借りるくらいの書き方で金貨1400枚はねえよ。
いったいどんな高額商品を買い漁りに……
『ジベールのコスメは良品揃いなので本当に目移りします。特に乳液が最高なの。最高のあたしで迎えに行くから待っててね』
命懸けで稼いだ俺の金をパクってった理由ひでえ。
『リリウス君うしろ』
「!?」
これ志村うしろのパターンじゃね!?
危険センサーを研ぎ澄ませる。うん、いるね、フェイが指さす俺の背後に潜伏魔法使ってるダメな子一号がいるわ。全然わからんかった……
振り返ると椅子に座ったカトリたんが手を振りながら自己主張してる。化粧バッチリ最新のファッションバッチリじゃねえか。ワニ革の細身のパンツ、帯みたいなチューブトップの上から絹のシャツに意味をなさない斜めかけのファッションベルトを三巻きしてる。長い髪をシュシュでまとめて垂らして、サングラスまでしてる……
「イエーイ、悪戯大成功!」
「奇襲成功だな!」
カトリたんとフェイがハイタッチで喜んでるね。お前ら仲良くなりすぎだろ。
でも気になるのはカトリたんのファッションだ。
「おいくらでした?」
「いつでも美しいあたしがいることがリリウス君への最高のプレゼントだってさ、あたし信じてるの……」
値段を言いなさい。言いたくないの? 言えない額なの?
カトリたん金銭感覚が公女様時代のままだからマジで怖いぜ。こいつ莫大な散財しておいてなんて済んだ眼差しを……
カトリたんは結局値段を白状しなかった。
とりあえず現状報告会をする。ルルが飛空艇の自爆スイッチぽちっとな、の大爆発の後は大砂流域に迷い込んだらしい。そこでよくわからん化け物と戦っている内にイス・ファルカまで飛ばされたとか。
「化け物?」
「とは言ったが女だ。凄まじい手練れのハイクラスウィザードだった」
「あれ人じゃないよ。気配が魔法生命体に近かったもん」
その女は合わせ鏡のアリスリートと名乗ったらしい。不思議と聞き覚えのある名前だ。なぜかファラを思い出してしまったが、帝国の奴かな?
実体を持つ分身の術を使うアリスリートには相当苦労させられたらしい。
「戦ってたらいきなりイス・ファルカ近郊の砂漠に放り出されてさ、あの時は本当に何が起きたかわからなかったわよ」
「殴ったと思った瞬間には転移させられていたんだ。おそらくは自らに触れた対象を強制転移させる術法なのだろうが……」
この件に関しては二人とも説明がうまくない。どうやら未だに何が起きたのか解明できていないらしい。で、その後は闘技場で船代稼いでたらしい。
こっちの事情も説明すると……
「いいなー、大冒険じゃん」
「そーゆー面白そうなことをする時は僕も呼べと言っただろ」
「お前らが勝手にはぐれたんじゃないか」
「「ブーブー!」」
息ピッタリ。お前ら仲良くなりすぎだろ!
頼れる者のいない遠い異国の地で愛が深まったのか!? って思ったけどカトリたんの故郷すぐ隣だわ。東に八百キロくらいだわ。
故郷で思い出したけど俺里帰りしたいんだったわ。そういうお話をすると二人とも乗り気ですね。絶対帝国で神殺しするみたいな勘違いされてるぜ。
まさかロリにセクハラするために帰ろうとしているなんて誰も思うまい。
「では次はドルジアか。長旅の前に一つ二つダンジョンを落とさないか?」
「ジベールにはもう二つ高難度ダンジョンあったよね」
「お前ら気軽にダンジョン落とすとかいうんじゃないよ。帝国にもやべーのあるから我慢しなさい」
「どんなだ?」
「馬鹿と勇者しか挑まないと噂の未攻略ダンジョン様さ。冒険王レグルス・イースでさえ十五層で引き返したって噂のやべー場所だ」
若き日の冒険王はソロで潜ったため冒険者ギルドはレグルス・イースの大記録を認めなかった。なにしろ三層以降の帰還者ほぼ皆無のやべーダンジョンなんだ。記録をフイにされた冒険王はこう言ったらしい。
『断念した記念にちょいとラクガキしてやったんだ。俺が本当に潜ったかどうかは後世の誰かが証明してくれるだろうさ』
あの夏にファラがラタトナに行こうって言い出したのは大祖父の記録を見たかったってのもあるらしい。十五層に書かれたラクガキを読んできたら魔剣『凍てつくリューエル』を貰う約束をしたらしいんだ。
みんないい面構えをしてるぜ。やべーダンジョンのお話で気合い入るなんて頼もしいな。
「じゃあリリウス君がハゲる前にダンジョンにいこっか!」
「うおおお、やるぞー!」
「僕らとの温度差どうなってんだ?」
さっそく宿を引き払ってイース海運に向かうぜ。道中おしゃべりしてたらフェイに色男疑惑が出た。というのも皿洗い仕事仲間のベルカちゃんについてだ。
「ベルカちゃんにお別れ言わなくていいの~~~?」
「こいつを迎えに出る前にそういう話は済ませてある」
「何のお話?」
「ベルカちゃんフェイ君好きみたいなの」
お顔立ちは俺と大して変わらねえのにこいつけっこうモテるんだ。やはり性格か? それともスプーンか?
「……僕をからかってもつまらんだろ。ほっとけ」
いやお前をからかうと楽しいよ? この後こいつの周りをダンシングしながらからかってやった。五秒でぶん殴られた。
埠頭のイース海運事務所で乗船チケットを購入する。受付してくれたのは以前のハキハキしたステキレディーだ。
「ご無事だったのですね。いきなり倒れてしまわれるから心配していたんですよ」
美人のお姉さんから心配されるとか俺も隅に置けない奴だな。
「ベイグラント往きでしたね。ちょうど二日後に入港する船の一等船室が……」
はい、商売根性でしたね。九日間五十金貨する一等船室をおすすめされてるぜ。なんか保険とか色々オプション提示されてるぜ。三千枚の金貨見られてるから上客認定されてるんだ。ケータイ買い替える時くらい説明長い。右から左だぜ。
でもお姉さんのグッジョブでカトリたんやフェイと再会できてるし断れないぜ。
「こいつらも同じ部屋なら何でもいいです。一番お高いコースでお願いします」
「お客様が無事で本当によかった」
お姉さんの営業成績も良さそうですね。三人分合わせて金貨180枚のお支払いだぜ……
金銭感覚超マヒってるけどこの金額整備の滞ってる故郷の三つの街道の補修工事してもお釣りが百枚くる金額なんだ。五人家族が一生そこそこ贅沢に暮らせる金額なんだ。
カトリたんのお美しさを引き立てるファッションはいったいお幾らなんですか!?
「自分のした散財ながらもうほんと世界観がちがうわ」
「オリハルコンの武器が買えそうだな」
「今のリリウス君なら本当に買えるよ」
馬鹿が大金持ってもロクな使い方をしないという好例だな。絶対二等船室で済ませてオリハルコン購入した方が賢いわ。でも完全予約制の数年待ちなんだよね……
港町で二日間の暇を潰す。その間にハリファ領主アディファトラの使いがダンジョン攻略者を求めて押しかけたりもしたが煙に巻いてやった。
そして出港の日。中型船舶がひしめく二番から六番までの埠頭ではなく、一番埠頭に鎮座する巨大帆船がお出迎えしてくれたぜ。
地上四十階建ての高層ビルディングが横たわっているに等しい全長144メーター級巨大帆船は見る者を圧倒するスケールだ。256の船室を備えるグランドペリエ号は戦艦ではない商船の用途では二番目にでかいらしい。
俺はキュっと痛む胸を押さえこみ、大丈夫だと自己暗示。
「さあさっそくの乗船だ!」
「「おー!」」
この二人仲良しになりすぎじゃない!?
タラップに足をかけると動悸がしてきた。
地上二十メーターのタラップの途中で眩暈がしてきた。
タラップをのぼり終える頃には吐いていた。俺はいったい……?
動悸が治まらない。加速していく。火事を告げる早鐘を打つみたいに加速していく鼓動が俺の視界を真っ暗に染めていく……
刹那閃いたのはこことはちがう場所、ちがう時間の夜景。
返り血を浴びたみたいな赤い月の夜。白銀の狼のように精悍な剣士がその剣で俺を刺し貫いた。雷撃みたいに鮮やかに俺の心臓を抉り取った。
『吠えるだけが能の野良犬はここで去れ』
『クリスト…ファー……』
地上で溺れるみたいなその声は俺の声に似ていた。
心臓を奪わせまいと刃を掴んだ武骨な指は血に塗れて、俺は……
『お嬢様だけは……頼む』
『ならん。古き者その象徴であるバートランドは今夜潰える』
どうしてだ?
なんでだ? なんでお前なんだ? シェーファ、なんでお前が俺を……?
重力に引かれて俺が落ちていく。側頭部からダンッと大きな音が鳴った瞬間に聞こえた悲鳴はカトリたんのものか? それともロザリアお嬢様のものなのだろうか……
「ロザ……」
意識が暗転する。
心が地よりも深いどこかへと引きずり込まれていく。
夜に闇に時に引きずり込まれていく。俺は……




