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殺害する本能(06)

 夏の夜。町はずれの廃屋で決着の時を待つ。


 ファウストの狙いは家の中を嗅ぎまわるジェシカだ。正直マクローエン家ごときに密偵を始末するほどの秘密があるとは思えないが、なんかどうでもいい秘密でもあるんだろうぜ。


 俺は町はずれの廃屋を見張れる位置の少し離れた茂みに隠れてる。ジェシカもいる。

 ファウストの性格からして遠距離攻撃を選ぶはずだ。廃屋を吹き飛ばして安心したところをドスッと気持ちよくしてやる。


「それがぼっちゃんの本気ですか……」

「そうだ。太くて逞しいだろう?」


 俺は竹やりの尖ってない奴を抱えている。

 散々苦労させてくれたファウストのケツ穴をこいつで気持ちよくしてやるのさ。


「ただの変態じゃないですか(ぼそっ)」


 そうだよ、俺ただの変態だよ。知らなかったの?


 そのうち冒険者らしき連中が廃屋にやってきた。十人とも見知らぬ連中だ、土地の者じゃないね。


「ごめんください!」


 普通にノックするんじゃないよ。

 完全武装してなければ野球のお誘いかと思うわ。この世界野球ないけど。


「留守かな?」

「居留守だろ。蹴破ろうぜ」


 蹴破りやがった。慰謝料請求確定だな。

 ぞろぞろ中に入ってってなんか家探ししてる音がするぜ。あとで掃除もさせるわ。てっきりファウストかうちの兵隊が乗り込んでくると思ったのに、なんなんだこいつら?


「ぼっちゃんのお友達ですか?」

「ドアぶっ壊す友達なんかいねえよ」


 むしろ友達なんていねえよ。


「その言い方だと普通のお友達がいるみたいに聴こえますね」

「普通の友達もいねえよ! 悪かったな!」


 調査済みの奴に見栄張ろうとしてごめんね! わかってるなら聞くな。


 うちの兵隊もわらわらやってきたぜ。五十名か、カウンゼラ市内の全兵力動員してやがる。


「なんだお前らは!?」

「お前らこそなんだ!?」


 冒険者と兵隊が廃屋の中で大ケンカ始めちゃったぜ……

 これは何のコントなの!?


「空き巣めぇぇぇぇええ! ここをどなたのお家と心得る、我らが領主様のご子息様のおうちだぞ!?」

「なんでご子息様のおうちに完全武装で突入してきたんだ!?」

「死ねええええ!」

「逆ギレしやがったー!?」


 馬鹿どもが超ケンカしてるぜ。あー、壁とかぶっ壊れてるよ。修繕費も請求するわ。むしろ新築建てさせるわ。めんどくせーなー。


「ぼっちゃんどこ行くんです?」

「大工のゲンガーに明日の予定聞いてくるわ。マジなんなのあいつら……」

「謎ですねー」


 大工の親方のおうちでめっちゃ早口で事情説明する。暇してるから朝一番で来てくれるらしい。


「そんで新築ならどうしやす、せっかくなんで部屋増やしますかい?」

「増やしても使う奴がいねー……」


 ゲンガー親方と奥さんがめっちゃニヤニヤしてる。これはジェシカと同棲するみたいな勘違いされてますね。でも今後を考えたら部屋は多くてもいいんだよね、土地は余ってるし。でも掃除が面倒なんだよなー、悩むぜ。


「とりあえず図面いくつかあるんで見てくだせえや」

「ふんふん」


 カウンゼラ市は平屋が多い。というよりもマクローエン領全体で民家には必ず地下室があり、比較的暖かい地下で過ごすことが多いんだ。技術的な問題でトイレや厨房などの生活インフラのほとんどは一階になるけどね。


「ぼっちゃんサウナ作りましょうよ!」

「暮らす気で提案するんじゃないよ。帝都に帰れ」


 ちなみに市内には三軒サウナ屋がある。浴槽にお湯を張るみたいな贅沢の許されない平民はサウナを風呂にしているんだが、サウナ屋はいつも大人気だ。


 ブラジルで店を出すなら花屋とはいうがマクローエンで店を出すならサウナ屋が儲かる。サウナ付きの家とか最高だな。寝冷えのする夜に急に入りたくなっても家にあれば入れちまうんだ。


「サウナはつけるとして……ニヤニヤすんじゃないよ」

「だってー」

「初々しいじゃあないですかい。いやね、俺もカミさんと暮らし始めた頃はサウナでムフフフ……」

「やだよあんた!」


 この後めちゃくちゃノロケられた。

 夫婦仲良しっていいよね。愛人に逃げてる親父殿マジカス。


 とりあえず平屋の四LDKサウナ付きの図面を選び、明日実際に土地を見て詳しく詰める事にしたぜ。軽く酒も飲んだので約二時間はかかったわ。

 さてそろそろ廃屋に戻るかな。席を立つと……


「ぼっちゃん、なに帰ろうとしてんだよ。夜はまだまだこれからだろ!」


 袖グイグイひいて引き留められたぜ。まだ呑み足りないんだな。

 家で武装勢力が衝突してるんだがなー……


 でも奥さんが追加の炙り肉持ってきちゃったぜ。このラキシュって肉料理は鉄棒に肉とパン生地撒いてグリルでグルグル回しながら焼いた奴なんだ。マクローエンの郷土料理じゃ一番うまいんだ。


「じゃあもう少しだけ」

「ぼっちゃんいいんですか?」

「ちょっとくらい平気平気」


 一時間後。


「じゃあそろそろ……」

「ぼっちゃん!」

「はーい、お酒もってきたわよー」


 三時間後。


「でな、俺はその時ピーンときちまったのよ。この女しかいねえってな!」

「やだよあんたぁ!」


「で、すぐコクったのか!?」

「あたりめえよ。森中の花かき集めて俺の妻になってくれって即コクったぜ!」

「やるなあ!」

「ぼっちゃんそろそろ……」

「で、いつヤったんだ!?」

「ぼっちゃんもやだよぅ!」

「いつってそりゃお前よぉ、オッケーもらったその日よ」

「やるなあ! 親方は男だな!」


 俺氏口笛ピーピー吹いてる。


 そして深夜。俺はすっかり酔い潰れて寝ちまった。ジェシカが揺さぶって起こそうとしてるが断固拒否。断固リリウス!


「うふふ、うちの人もぼっちゃんもこれはもう朝まで起きないよ」

「いやー、ぼっちゃんにはまだお仕事があると思うんですけどねー」

「そんなもの明日にしておしまいよ。今夜はあんたも泊っておいきよ、ぼっちゃんと同じ部屋しかないけどね」

「それは困るんですけどー」

「初々しいわねえ。ちょっとくらいうるさくしても大丈夫だからさ。ほらほら」


 そして翌朝。 

 なんか知らんが俺氏ジェシカと一緒に寝てたの巻である。すげえビビってるぜ、これがハニトラって奴か。何の記憶もねえのが損した気分だわ……


「おい、これ責任とらなきゃダメな奴か?」

「なんも起きてないですよ。ぼっちゃん朝までぐっすりでした」


 俺の貞操観念最強だな。酔い潰れてただけだわ。

 そして朝食をごちそうになってから大工のゲンガーと一緒に廃屋に行くと……


「おらぁキビキビ歩けえ!」

「マクローエン兵舐めんじゃねえぞラァ!」


 二十人近い冒険者が連行されているところだったぜ。最初見た時より人数多い、増援でもあったのかな?


 廃屋の周囲では負傷した兵隊どもがぐったりしてる。冒険者二十人に対して負傷者六人か、うちの兵隊もやるじゃん。アロゥン隊長がいたんで声掛けてみる。


「ぼっちゃん、どこにいたんですか……?」

「ゲンガー親方のおうちで飲んでた」


 すげえ切なそうな目をされたぜ。

 アロゥン隊長の目が俺とジェシカと親方を交互してる。


「あの状況の後で、のんきに酒盛りしてたんですか?」

「だってよぉ、お前らが家壊してっから修理してもらわないと困るだろ。新築の建築費全額を損害賠償請求するぞ。ダメとか抜かしたら帝国法院に駆け込むからそのつもりでいろよ」

「アハハハハッ!」


 アロゥン隊長が笑い出しちゃった。

 ストレスかな? こいつ真面目君だから将来ハゲそう。


「……これは敵うはずがない。まったく出来が違いすぎる。ファウスト様あなたの弟君はかくも器が大きいのです。あなたはきちんと理解されておられるのですか……」


 どいつもこいつも深刻に悩みすぎなんだ。


 俺もバトラとは年中殺し合ってるし「ぶっ殺す!」って口癖みたいに言ってるけどマジで殺したりはしない。ルールがあるからだ。ここまではオッケーだなって殴り合う内に互いに学び、越えちゃいけないラインは順守する。だから安心して殴り合える。


 ファウストは生真面目な馬鹿だからその辺の線引きができてない。義母もだ。敵対したら殺し合わなきゃいけないなんて誰が決めたんだ? 家族がケンカするなんて当たり前の事だろ?


 つまりは躾のお話だ。躾なんて言うとえらそうだけど、ケダモノみてえな馬鹿どもを叩いて泣かせてごめんなさいさせて許してやる。何度も繰り返す内に学ばせる。本当は幼児期に済ませておくべき幼児教育なんだけどね。


「ぼっちゃん、こいつは新築しかないっすね」


 廃屋はガレキの山になっていたぜ。武装集団がひと晩たっぷり暴れたんだから当然だ。そこらで荒い息をしながら休んでる兵隊どもにガレキの撤去をさせるぜ。


 ブーブー文句言われたがスプーンちらつかせて黙らせた。話せばわかるのが人間だよな。





 兵隊を掌握した俺氏、町の広場でめっちゃ演説する。


「好機である!」


 俺プレゼン超得意。昔から調子の良い単語並べ立てその気にさせた結果できあがりは案外ショボかったりするんだけど、説得だけは超得意なんだ。文化祭のフランクフルト屋の失敗は俺のせいじゃねえ。雨のせいだ……


「ファウストが馬鹿やらかしたおかげで慰謝料がっぽりせしめるチャンスだ。立てよ領民! 戦いはこれからだ。一糸乱れぬ隊伍を組んで勝利の日没まで共に戦おうではないか! 俺ことリリウス・マクローエンの勝利の暁には、二十四時間営業の公共サウナの設置を約束しよう!」


「うおおおおおおおおお!」

「ぼっちゃーん、ぼっちゃーん!」

「ふっ、あいつは俺が育てた」

「あいつはやる男だと思ってたぜ! 二十四時間サウナのために!」

「二十四時間サウナのために!」

「二十四時間サウナのために!」

「我らはサウナのために戦う!」


 お前らサウナ目当てすぎるだろ。

 うん、煽っておいてあれだが俺のためにも戦おうぜ。でもそーゆーこと言うと冷めるから言わないね。むしろ盛り上げとくね。


「合言葉は無料開放!」

「無料! 無料!」

「無料サウナだー!」

「開放者リリウスのためにー!」


 現金な連中だぜ。


 俺は掌握した兵隊三十と冒険者三十、領民一千を率いて逆に屋敷に攻め上がった。

 さあ苦しむがいいファウスト。守るべき領民一千が兵隊で人質だぜ? 高貴なるお前には絶対に思いつけない、最低の方法だろう! ノブリス・オブリージュなんてクソ食らえだ、てめえの魔法力を民衆の肉の壁と数の暴力で突破してやるぜ!


 暴動する民衆は屋敷を囲んでギャーギャー言ってる。


「ファウストを出せー!」

「リベリアを出せー!」

「うおおおおお! 開放者リリウスのためにー!」

「我らの慰謝料のためにー!」


 バーンズの肩に乗った俺氏、降伏勧告を行う。


「諸君らは完全に包囲されている! 我らが要求は二つ、リベリア・マクローエン並びにファウスト・マクローエンが俺との一騎打ちに応じることである! 繰り返す!」


 さあ出てこいファウスト、リベリア、これが野良犬のやり方だ!

 領民の前でケチョンケチョンにしてお高くとまったそのプライドを完膚なきまでにへし折ってやる。てめえらを平民のテーブルまで引きずり降ろしてやるぜ!

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