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最後に動き出す馬鹿ども

 前回、時神の御座で俺はすべてを思い出した。


 俺は日本人の転生者松島ふとしではなく、自分のことを転生者だと思い込んでる異常者だと発覚したわけだ。だって俺来世の記憶を転写されただけのリリウス・マクローエン本人だもんね。


 停まった時が動き出し、俺は再びファンタジー図書館に戻ってきた。


 俺とシシリーとルルは入り口ふきんで畳んだ布団みたいに折り重なっていた。戻し方雑すぎぃ! あいつ一万年経っても繊細な作業できねえんだな!


「う~~~~ん、なんかすごいイケメンとお茶してたような……」

「我もトンデモナイ美形とファッションについて語り合っていた気がする……」


 あいつお前らにも接触したのか。そりゃあいつからすれば懐かしい面子だ、ちいさな頃かまってくれてたお姉さんとの再会なんて興奮しかしねえぜ。


「なんだったか、すごく使える着想を貰った気がするのだがな。かく…核分裂反応……?」

「その記憶は忘れろぉぉぉぉぉぉ!」


 ぼかん!

 ルルの頭を思いっきり殴ってやったぜ。


「どうして殴った!? あぁ、せっかく思い出せそうだったのにぃぃぃ!?」


 どうやら都合よく忘れてくれたらしいな。世界の平和は守られたぜ。

 ルルは人類の進歩のためとか言いながら大量破壊兵器作っちゃう困ったちゃんだから、余計な知識与えると世界滅亡するんだ。たぶん実験段階でローゼンパーム吹っ飛ばすだけで終わると思うけどそんな街に住みたかないわい。


 とりあえずルルの気を逸らすためにオタク特有のめっちゃ早口で説明するぜ。あのイケメンはクロノスだから心配すんなって程度の情報量だ。


「ほほぅ、立派な光の戦士に成長するのだな。似なくてよかった」

「アシェル様に似てよかったねえ」


 あれ、いま俺のせいでブサイクに成長しなくてよかったねって言われた?


 クロノスは相変わらず永劫の光の中で停止している。成長した方から特にお題も出されなかったので自力で何とかするんだろ。


 さてさて、俺は俺でやることやらないとな。超パワーアップの算段がついたからこの周回でパーフェクトゲームしてやるぜ。


「ルルー、シシリー、恩寵符パクりにいこうぜー!」

「なんだねそれは?」

「アシェラ神殿が秘匿する最重要機密さ。簡単に言うと読むだけでスキルが手に入るやべーマジックアイテムだ」


 俺が言い終える前にルルがダッシュで書架を漁り出した。いらん本をポイポイ投げながら目当てのスキルを探してる。へへ、俺もいくぜ~!


 書架から一冊抜いてパラパラめくるが、どうやら簡単に読めるものではないらしい。角ばった記号みたいな文字が描画されているだけだ。パッと見の感想はQRコードに近い。


 どのページもそんな感じで目次なんて親切なものはない。もっと親切しろ。


 唯一これが何のスキル本なのか示すものは奇妙な革装丁に焼きゴテで印字された『憎悪A』の文字のみ。ルル先生お願いします!


「特殊な用途のために作られた独自の魔法言語のようだな。古代の賢者の中には現行のアルファベットでは対応できない魔法大系のためにオリジナル言語を作る者もいたが、そういうものはだいたいが本人にしか読めず解読表もない」

「えー、つまり読めないってこと?」


 俺も恩寵符をどうやって使うかまでは知らねえんだ。

 前回は女神アシェラに捕まって、そういうものがあるんだと高笑いされながら機眼抜かれて死んだから。あの駄女神あと五回は踏んどきゃよかった。


「筆跡から著者を特定してパターン化をし解読する、そういう気の長い暇人が解読したりもするのだが時間は相当にかかる」

「どんくらい?」

「さて数年か十年単位か……」


 お手軽パワーアップかと思ったらこれだよ。


 SSスキル盛り盛りで無双するぜ!とか企みながらクロノスに今回で終わらせる発言したらこれだよ。はぁ~~~~~~やってらんね!


 ゴミ本を書架に戻すと俺の隣にアシェルがいた。


「いつの間に!?」

「そいつはね、恩寵符だよ」


 俺の驚きをスルーしないでくれます? それと恩寵符なら知ってるよ?


 穏やかな微笑を浮かべながらもどこか暗いアシェルを見れば心も沈む。まるで抱えたくない秘密を抱えこんでしまったみたいな姿だ。


「符に手を重ね、魔力を発し内部から増幅して返ってきた魔力波を受け入れればスキルを授かる。アシェラの秘儀の中でも最も本質に近い品……ちょいとリリウス」


 アシェルが話し終える前に俺とルルは書架を漁ってる。魔法習得率アップを探せ!

 健康体Sか、一応貰っておこう。知性Sいいじゃん。剣術SSキタコレ!


「ルル、トレードしようぜ!」

「よかろう。知性Sが欲しいな、このへんのと交換しないか」

「投擲SSあんじゃん。なんで? いらねえの?」

「バトルポテンシャル系はいらん。ディアンマには惹かれもするがね」


 美貌と引き換えにメンヘラになる奴じゃん。やめとけ。

 わいわい交換してたらアシェルが怒り出したぜ。


「あのねえ、恩寵符は神殿の財宝なんだ、勝手に交換始めないどくれ」

「却下する!」

「我々はすでに神殿と敵対している。いまさらグダグダぬかすな!」

「もう、居直るんじゃないよ。それはあんたらが考えてるほど便利なもんじゃ……」


 ルルは六冊。俺は十五冊。さあ手を当てて魔力を通そうという瞬間、危険センサーが警報!


 ……これもしかしてやべーブツ?


「もしかして副作用が?」

「スキルが上手く定着しない時にかぎり肉体に害が及ぶこともあるらしいね」


 拒絶反応かな?


「確率で言ってくれ」

「百人に一人くらいは成功する。失敗しても五人程度の生存が見込める」


 ピックアップ一パーセントの五パーセント生存ガチャかな?

 無理すぎるよ、そんなん〇イジでもやらねえよ、いやカイ〇ならやるな。でも俺ギャンブル嫌いなんだ。


 結論ゴミはやっぱりゴミだった。

 よろしい、そろそろ現実と向き合おう。


「アシェルは神殿側についたの?」

「あらがって何になるんだい……」


 そう答える可能性は理解していた。人はそう簡単には意識を変えられない。アシェラの巫女として生きてきた彼女が、どうして神殿と敵対できるのか。それは彼女の人生を否定することに等しい。


 何者かが入り口からやってきた。頭を綺麗に反り上げた禿頭の、筋骨逞しい壮年の男だ。背格好でいえばコパ先生に近いが、眼に宿る卑しさが俺の危険センサーを刺激する。


 男は近寄ってくるなりアシェルの肩を抱き寄せた。こいつ敵だな、間違いない。


「お決まりの文句ですまないが、大人しく投降してほしい」

「あんたは?」

「しがない研究者さ。名をラケスという」


 こいつがフェニキア第一王子か。

 如何にも賢者を気取る傲慢そうな野郎だぜ。じつにスプーンのねじ込み甲斐がある腹立たしい顔つきだ。そんなラケスがアシェルの肩をどんと押して、俺の前に突き出した。


「あのねリリウス、ラケスはなるべく穏便に済ませてもいいと言っているんだ。差し出すものを差し出せば、命は保証するって……」


 アシェルがいつになく気弱だ。というか彼女は旅に出た頃からずいぶんとナーバスだった。産後の体調不良でだいぶまいってるところに神殿の武力を背景に説得されたのだろう。逆らうなら気力が戻ってから、みたいな考えがあるのかもしれない。


 だが俺を今までのリリウス君と思ったら大間違いだぜ。俺は四度の周回の記憶を受け継いだパーフェクトリリウス君なのさ。


 アシェルの後ろでニヤニヤしてるラケスに言ってやるぜ。


「おい、アシェラの武力を当てにしてるならもう無理だぞ」

「!?」


 おいおいそんな何故アシェラの存在を!?みたいな顔されても困るな。上から交渉したくなるだろうが。


「アシェラならうちのクロノスがしばいて時空の牢獄に幽閉済みだ」

「ば…馬鹿を抜かすな! アシェラ様がそう易々と……アシェラ様、アシェラ様! おわすならご降臨ください! アシェラ様!」


 哀れに叫ぶ馬鹿王子の背後にサッと回って―――

 ドドドドドス!


「ぐぁあ!」

「ふっ、閃光五輪挿し」


 ケツ穴ミスリルソードが華麗に決まったな。


「きたない技よね……」

「あいつのセンスどーにかならんのか」

「うるさいよ」


 戸惑うアシェルへと手を差し出す。戸惑い、怯え、俺の手を拒絶する理由を逆算する。つまりは俺が頼りないせいだ。どうせクロノスを助けてほしくば的な条件を出されて自分で何とかしようと思ったのだろうが、子供の世話は夫婦の問題だ。母親だけが背負うもんじゃない。


「女神なんて俺がぶっ飛ばしてやる。神殿なんて俺が破壊してやる。クロノスとアシェルに手を出す奴は全部俺がどうにかする。俺にできなきゃクロノスがやる」

「でもね……」


 アシェルの目は永劫の輝きの中で停止するクロノスにあった。

 あの姿を見てどうにかしたいと思うのは親として正しい感情だ。でも信じてやるのも親の役割なんだ。


「俺とお前の息子なら大丈夫だ、あいつを信じてやってくれ」

「わかったよ」


 俺の手を握ると決めたアシェルを引き寄せる。抱きしめたその温もりに誓いを立てる。


「信じる、あんたもシェラザードも信じるよ。もう諦めない」

「その信用だけは絶対に裏切らない」


 その刹那、永劫の光が徐々に弱まっていった。


 俺にはそれが息子からの俺ら両親への信頼に思えた。自らさえも巻き込む時空間停止現象の終了を俺らが揃ってあいつの前に立つ条件としたのは、俺らならどうにかしてくれるっていう信頼なんだ。……すまん、どうにかしたのは未来のお前なんだほんとすまん。


 最後に一際輝いた永劫の光の跡地に立つクロノスが誇らしげに笑ってやがるぜ。ほんとすまん。


「愚物め、やるではないか」


 ほんとすまん!


「リリウス君なにかやったっけ?」

「ハゲのケツに剣をねじ込んだだけだな」

「シエラザード!」


 アシェルと息子が抱き合っていい雰囲気だな。〇戸黄門ならここで終われるんだが、残念ながらまだ色々残っているんだよな。


 それからすぐファンタジー図書館から脱出すべく地上階層を目指していたらミスリルの門に行き当たった。まるでシェルターの隔壁だ。こいつを突破するのは骨が折れるな……


 ガチャン!

 鍵が開く音がした。門の向こうに誰かがいる?


 開いた門の向こうからオネエさんが出てきた。神妙な顔つきをしている。


「ついてきてほしいわけ」


 オネエのグリードリーの案内ですげえ複雑な迷路みたいな道を歩いたら無事に祈りの座まで着いちゃったよ……


 罠も疑ってたんだがな。ブラック業務で忠誠心下がりましたか?


「あんたさ、悪徳信徒だろ。いいのかい?」

「いいのよ。ほんとはこんなことしたくないもの」


 前回の記憶になるがアシェラの悪徳信徒ってのは女神アシェラ直轄の実行部隊だ。恩寵符使用による超抜スキル保有者ばかりの、一人一人が英雄クラスの実力を持つやべー連中だ。


「SSホルダー、あんた子を売る親なんているわけがないって言ったわね。アタシ売られた子だからさ、ちょいとグッときたよ」


 おおぉぉぉ、みんなからやるじゃんみたいな尊敬の眼差しがきてるぜ。やはり裏でいい働きするとかっこよさ三倍増しなんだな。


「アタシが手伝えるのはここまで。シエラザード、あんた両親と仲良くやるんだよ」

「うむ。そちも元気に過ごすがよい」


 グリードリーと別れて祈りの座を出ると僧兵がドタバタ走り回っていた。よほど焦っているのか俺らに目もくれない。神殿長行方不明だもんな。


 ずーん!

 ずずーん!

 めっちゃ神殿が揺れてるぜ。いったい何事だ?


「魔法が何も効かねえ! いったい何だあの化け物は!」

「神殿長はどこだ、指示を―――」

「あのババア肝心な時に使えねえな。どうせそこらで寝落ちしてんだろ、探せ探せ!」


 俺とシシリーとルルが見つめ合い、心を一つにして放置してた最後の問題を思い出していた。


 ステルスコートだー!?





 とりあえず状況を探ろうと神殿四階の神殿長の部屋にいくとシェーファとサリフがめっちゃ泥棒してた。


「小銭、小銭、小銭、これも高く売れるぞぉぉぉぉ!」

「あんたねえ、そんなやかましい泥棒がどこにいるのよ」

「不満を口にする暇があれば手を動かせ。小銭はいくらあってもいいんだぞ!?」


 うん、こいつらのことすっかり忘れてたけど救助なんて必要ねえんだ。マジ逞しいなこいつら。

 シェーファの足元には人間が入ってそうな頭陀袋が五つも転がっている……

 姿が見えないなー、と思ったらネコババに励んでいたんかーい。


「おいシェーファ」

「おお、君か、そっちはどうだった!?」


 すげえキラキラした目で金目のもの見つけてきたんだろうなってゆわれた……

 いやもうほんと、ブレないねキミ。ここまでくると尊敬するよ。


「なんか神殿が騒がしいけど理由知ってる?」

「アレだ」


 窓の下を見れば大勢の逃げ惑う参拝客と、大橋から神殿へと突撃してくる夜色の化け物が入り乱れていた。


 ステルスコートはまただいぶ命を吸ってきたらしい。以前砂漠で遭遇した時より三倍四倍も肥大化した貯水タンクみたいな体を、闇刃の足で支えてムカデみたいに僧兵を蹂躙している。あぁ闇刃に貫かれた僧兵が体液を吸われてミイラに……


 戦況は圧倒的に見えてじつはまだ神殿への侵入を許していない。大橋で抑え込めているのは僧兵に混じった悪徳信徒のおかげだろう。目に見えてレベルが段違いな四人がステルスコートを攪乱している。


 だが悪徳信徒の振るうスタンロッドでさえステルスコートの外皮を貫くには至らない。今思えばフェスタのチャラ男本気でやべー奴だったわ。ステルスコートをサクサク切ってたもん。


 え、あんなやべー奴潜り抜けて神殿脱出しなきゃいけないってマジ?

 対話とか絶対無理だよ。暴走中の〇号機に話しかけるようなもんじゃん。アンビリカルケーブルはどこにあるんですか!? 電力無限の初号〇に誰が勝てるんですか!


「おや、よいタイミングですね」

「その声は――――伯爵!」


 姿見えねえなーと思ってたら、飛翔する伯爵が肩に四機のリフター担いで屋根の上にいやがった。脱出用のリフター先に確保してたとか有能かよ。


「では音頭をどうぞ」

「ま、ここは少年の役目だろうな」

「リリウス君」

「リリウスに任せるよ。信じるって決めたからね」

「君の判断は良い結果を招くからな、私達も従おう」

「ま、あたしもシェーファに従うよ」


 全員から運命を委ねられた俺氏、まるで将軍のようにえらそうに言ってやる。


「総員撤退! あんなやべー奴放置だ放置!」


 のりこめー!

 みんなしてリフターに乗り込むとクロノスだけ残った。こんな時くらいパパの言うこと聞こうぜ。


「あれなる者とは縁を感じる」


 そりゃ俺が長年愛用してたからね。パパの香り染みついてるからね。いや、未来のクロノスが疑似人格ほうりこんだって線かな?


「少しばかり相手をしてやろう。愚物らは先に往くがいい」

「クロノスが残るのなら我もサポートしよう」


 どうやらルルと伯爵も居残り希望らしい。魔法使いとステルスコートは相性悪いんだがなあ……


「おい、ステルスコートは手強いぞ」

「手に入れたばかりの玩具を試すにはよい相手だ」


 クロノスの右手には夜色のレザーグローブが……

 自発的に指抜きグローブに魔改造するとか。完全にルルの悪影響だ……


 クロノスが夜色のグローブで虚空を掴む動作をずると遠く離れたステルスコートの本体がゴリッと削れる。任意の空間を削り取る能力か、魔王の腕に相応しい超威力だぜ。


「往け、母の身は任せたぞ!」

「お前は無理すんなよ!」


 俺らは神殿の平たい屋根からリフターで出発。何を忘れている気がするが、まあ忘れるくらいだから大した事ではないな!





 一方その頃、ルーは地下水路で泣いていた。

 誰も助けに来てくれないから泣いていた。


「ぐすっぐすっ……コンラッド様ぁ、アシェル様ぁ、ルーはどうしたらいいんですかあ!?」


 ルーはいつまでも膝を抱えて泣き続けた。

 裏切り者に助けなんて来ないって気づくまで……

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