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ラタトナ離宮での夜会

挿絵(By みてみん)



 遡ること八年前、馬鹿で有名なブタ王子がリゾートを作りたいと駄々をこねた。

 皇帝が詳しく話を聞いてから財務官に算盤を弾かせると何と金貨三万枚程度の予算が必要だとわかったらしい。

 皇帝はブタ王子の「絶対に元は取れるから!」という言葉を信じて工事に着工。

 これが毎年餓死者を出しながらもカツカツの予算でやってる貧乏帝国のお話でなければ、親子の心温まるお話だった。馬鹿皇帝は馬鹿のついでに親馬鹿であるらしい。


 ブタ王子は二年の歳月と莫大な建設費を費やして完成したリゾートを自慢するため、帝国でも有数の貴族の子弟に声を掛けて一ヵ月の遊蕩の日々を送ったらしい。ここまではよくある金持ちの馬鹿息子エピソードだ。


 一ヵ月の享楽の日々を送ったせいで、すっかりリゾートの虜になった子弟は自発的に親兄弟友人にリゾートの素晴らしさを宣伝し始めた。


 そんなに素晴らしいところなら来年の夏にでも遊びに行こうかな?って多くの貴族が思い始めた頃に、第一王子派閥の貴族家だけにラタトナリゾートの別荘全77棟のパンフレットが届いた。


 写真付きパンフレットに載せられた素晴らしい別荘は最初は高くても金貨500枚程度の、金持ち貴族なら気軽に手を出せる金額だったらしい。

 これが来年遊びに行くし買っておこうかなって連中に飛ぶように売れた。


 噂が噂を呼んで何としても欲しい貴族が倍の金額で買い取りたいと言い出し、結局10倍の金額で売れてしまう。そんな噂が出回ると財テク代わりに購入する連中も出てきて、別荘は瞬く間に金貨数万枚の巨大資産となってしまった。そしてラタトナリゾートでは現在も幾つかの別荘が建築中である。当然全棟金貨うん万枚で売約済みだ。


 そんな大騒ぎをワイン片手に大笑いで見ていたブタ王子はこう言ったそうな。


「な、絶対に元が取れるって言ったろ?」


 そしてラタトナリゾートの丘の一番上には、どんなに金を積んでも手に入らないブタ王子の大豪邸が鎮座している。これこそがラタトナの離宮である。


 今宵ラタトナに滞在する貴族は諸人挙ってラウラの離宮へと足を運んだ。

 誰も彼もがとても楽しそうに「今夜の出し物は何かしら」とおしゃべりながら離宮の中へと入っていく。


 馬鹿で有名なブタ王子は女好きの放蕩者だが、人をもてなす遊興に関しては天才と呼ぶ外ない趣味人として知られ、権力者の取り巻きも多い。

 お飾りの王なら馬鹿なくらいが丁度いいという思惑から、宮廷最大派閥からも強い後押しを受けているのだ。


「イース侯爵家、ファラ・イース嬢! エレンガルド騎士侯家、リリア・エレンガルド嬢! マクローエン男爵家、リリウス・マクローエン! おなーりー!」


 ナイスミドルの執事がパーティーホールの入り口で大声を上げる。

 そして今明かされる驚愕の事実、ファラ様侯爵家のご令嬢だったんですね……


 帝国での貴族位は七段階、低い方から騎士侯、準爵、男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵でその上に皇族がいるけど公爵家は実質的に皇族の端くれなので、侯爵家が貴族のテッペンなのだ。

 つまりファラ様はマクローエンのような木っ端貴族からすれば雲上人なのだ!


 バトラの馬鹿野郎は初対面の侯爵令嬢相手に「おいお前俺の女になれ」とか言ったのか……

 あいつもやべー奴に追加だな追加!


「ほぅ、あれがイースの才女か」

「噂通りお美しいな」

「どうにかお近づきになれないものか……」


 ファラを見つめる野郎どもの視線がいやらしい……

 リリアもかなりの美人なのにファラと並んでは目にも入らないようだ。


「才女殿は男嫌いと聞いたがあの小僧上手いこと近づいたな、あやかりたいものだ」

「子供だからだろう。あんなもの男の内には入らんさ」


 へへへ、この優越感たまらねえぜ!

 と言いたいところだが貴族から妬まれると後々洒落にならない事態に陥るから小さくなっておこう。しかしファラ様人気すげえな、これただの美少女ってだけではないぞ。本人に聞いてみるかね?


「ファラ様、ご自身の人気についての理由を聞いてもいいかな?」

「うち海運業で財を成したから家だから」

「リリウス君知らないの? イース海運って言ったら西方五大国でも商売してる世界有数の財閥なのよ」


 マジかよ、バトラのやつよく暗殺されなかったな……

 世の中金持ってるやつが強い。金さえ積めば汚れ仕事でも引き受ける強いやつを金で雇えるからだ。


「っていうのと血の関係かしら」

「青いの?」

「やだ、化け物じゃないの!」


 地球の皆さまノーブルブラッドは異世界では化け物扱いですぜ。


「大おじいさまはサン・イルスローゼの王女を娶ったの。その血のせいよ」


 確か中央文明圏と呼ばれる西方諸国家の超大国だったな。

 え、待って、もしかしてこの御方王位継承権持ってらっしゃる!? 超大国の!?


「その顔、持ってないわよ」

「そりゃよかった」


 ホッと胸を撫で下ろす。王位継承権まで持たれていたら俺が口説いていい相手じゃない。

 ホッと胸を撫で下ろして安心していたらファラに笑われてしまった。


「持ってないって知った人からさ、よかったって言われたの初めてよ」

「初めての男になれて光栄さ」

「……おっぱい揉まれた時点で初めての男だわ」


 血統書付きの侯爵令嬢におっぱい揉ませろっつー無礼者俺くらいだわ。

 ウエルカムドリンクならぬウエルカムワインでのどを潤し、談笑しながらよさげな料理を探していると……


「マクローエン男爵家、ファウル・マクローエン男爵! リベリア・マクローエン夫人! ファウスト・マクローエン! ルドガー・マクローエン! アルド・マクローエン! リザ・マクローエン嬢! おなーりー!」


 なんだと!?

 ついさっき感動の別れをしてきたところだぞ!?


 おい、そんな気まずそうな顔をしてこっち見んな親父。こっちまで気まずくなるわい。

 どうも親子の縁なんてものは、切ろうったって簡単に切れるものではないらしい。


「リリウス、あんたッ!」


 おお怖え、姉貴がドレスの裾引き上げながら百人くらい殺してそうな目つきで近寄ってきやがる。


「この馬鹿! あたしに断りもなく家出るんじゃないわよ!」

「むかぁし早く出てけっつってたじゃん」

「幸せになんなさいって言ってるの! 冒険者なんていつ死んでもおかしくないのよ、あんたまだ子供なのに!」


 手を振り上げやがった! ビンタか、ビンタなのか!?

 と思ったら抱き締められてしまった。


「あんたがいなくなったらあたし、あの屋敷で独りぼっちじゃない……」

「姉貴、近親相姦はよくないよ。イタタタ! 耳引っ張るのやめろよ!」

「あんたが人聞きの悪いこと言うからでしょ!」


 ハッ、殺気!?


「リリ兄覚悟ー!」


 背後に回り込んだアルドがスプーンカンチョウ仕掛けてきやがった。くそ、天使のようだったこいつにこんな陰湿な技を教えた奴はどこのどいつだ!?(俺です)


「フッ―――だが甘いな」


 この五年間暇さえあれば領内の魔物狩りでレベルを上げ続けたこの俺の反射神経を舐めないでもらおうか、レベル七の攻撃なんて止まって見えてるぜ。


 俺はバク宙で空中に跳び上がり、アルドの顔面を両ひざに挟んで必殺のフランケンシュタイナーを炸裂させる。


 投げ技で倒れ込んだアルドへの追撃がためにさらに高く跳び上がる。

 二階ぶち抜きの大ホールのシャンデリア付近まで跳躍し、月面宙返りからのフライングニードロップを炸裂させる!


 崇めよ、神はここにいる。


「兄より優れた弟などいねえ!」


 親指下にして上下関係をハッキリと突きつけてやる。


「「やっぱり虐待してる!」」


「いや、俺は被害者だから」

「「嘘をつくなー!」」


 ファウスト、ルドガーの魂の咆哮が大ホールに響いていった。

 はた迷惑な奴らだ、ここは紳士淑女の社交場だぞ。見ろよ注目を集めてるじゃねーかって思ったら視線の先はファラでした。


「バートランド公爵家、ガーランド・バートランド伯爵! ロザリア・バートランド嬢! おなーりー!」


 マジすか?


 階段から正式に騎士団長に任命されたガーランド閣下と立派なレディーに成長しつつあるロザリアお嬢様が降りてきた。目が合ってしまった。


 あ、ロザリアお嬢様の笑顔可愛い。閣下やめて、その逃げるなよって目はやめて!


「すまない、ちょっとトイレに」


 ファラとリリアに一応断わりを入れてから俺は全力ダッシュ。

 皇族の離宮だろうが構うものか、一面の壁ガラスを割ってでも逃げる!


「あばよ! とっつぁーん!」


 ルパ〇ばりにガラスを割ろうとした寸前、シャツの襟首を掴まれてしまった。恐る恐る振り返るとガーランド閣下が笑ってました。


「久しいなリリウス・マクローエン、息災で何よりだ」

「リリウスー!」


 おわ、お嬢様飛び込んできやがった!

 てゆーか何で怒ってらっしゃるの? 可愛いお顔がモッタイナイお化けだよ。


「リリウスの馬鹿! なんでいつまで経ってもうちに来ないの、何年経ったと思ってるのよ!」

「げえ、忘れてた!」

「わすっ忘れてたですってー!」


 ロザリアお嬢様から放出された憤怒の魔法力が俺の頭上で炎鳥の形となって顕現した。


 こうしてお嬢様を泣かせた不埒物は成敗されたのでした。はい俺のことです。


 黒焦げになった俺はロザリアお嬢様に、熊のぬいぐるみみたいに抱き抱えられてしまった。すんません腕がチョーク気味に嵌ってて苦しいです。


「やーよ、緩めたら逃げるくせに」

「信用ないなあ……」

「信用なんてあるわけないじゃない!」


 ですよねー。


「もしゃもしゃ、あれー? リリウス君だー、もしゃもしゃ」

「そのもしゃりっぷりは―――デブお前もいたのか!」


「もしゃもしゃ、相変わらず名前で呼んでくれないなあ、もしゃもしゃ」

「お前は相変わらず食い意地が張ってるな。今は何してんだ?」

「ロザリアお嬢様のご友人ってことで帝都でのんべんだらりと暮らしてるよ。二週間くらい前からはダディやママンとここの別荘にいるけどね」


 ダディって金持ちの馬鹿息子かよ、って金持ちの馬鹿息子だったわ。

 マジでいいご身分だなこいつラタトナリゾートに別荘持ってるんかいな。


「死ね」

「あははは、ひどいなあ、もしゃもしゃ」


「リリウス、わたくしだけを見なさい!」

「ねえそこのあなた、リリウス君が困ってるから離してくれないかしら?」

「あなたは?」

「そーゆー君はどんな関係なのかな? お姉さんたち興味あるなー」


 お嬢様にファラとリリアが絡み始めた。俺を挟んで火花散らし合うのやめてくんない?

 そして徐々に押し負けていくお嬢様である。


「むきー! なによこのグラマー女ッ、欠片も敵う気がしないじゃない!」

「お嬢様首が! 首締まってるから首ぃ!?」


 地団太踏んじゃうお嬢様の細腕が俺を殺しかけているよ!?

 やめてリリウス君は繊細に扱って!


 今度はデブの親父の大デブまで出てきた。昔一回だけ会ったことがあるけど超いい人だよ。お小遣い山ほどくれるんだ。

「おお、ファウルじゃないか!」

「はは、相変わらずデブだなおい」

「恰幅がいいと言ってくれい。そいつらはお前の子供か、でっかくなったなあ!」


 さらにルドガーの学友まで現れた。

「よぉ、随分と大家族だな」

「半分は他人だぞ。なんだルーカスそっちの美人さんがご自慢の婚約者か?」

「へへ、俺にはもったいないだろ?」

「素直に羨ましいよ。式には呼べよ」

「当然、親友だろ? ……ってガーランド団長閣下がなんで!?」


 カオスだ……

 登場人物増えすぎて収拾つかねえやつだこれ。


 火花バチバチやってるロザリアお嬢様とファラ達の間にガーランド閣下が割り込んでくる。


「随分と活躍しているようだな、ラタトナダンジョンの四層まで行ったと聞いたぞ」


 そういえばリリアが騎士団に報告したって言ってたな。


「なんだと、お前あんな危険なダンジョンに手を出したのか!?」

「ややこしくなるから入ってこないでくれよ親父殿」

「息子を心配するのは男親の義務だぞ馬鹿たれ、お前は昔っからやばい遺跡ばかり挑みやがって! 以前も俺を騙して夜の魔王のアトリエに突入させやがったな!」


「リリウス君レザードの遺跡の話ほんとう!?」

「まさかやばいアイテム持ち出してないよね!?」


「ほぅ、マクローエン卿のお話には興味があるな。帝国領内に夜の魔王の遺跡が?」

「ラタトナか、リリウスでもいけるなら俺も一回くらい……」

「ヴァカンスの最中だぞ」

「負け癖のついたファウスト兄さんにはわからないだろうけど兄貴として意地があるんだよ」

「なんだと、私のどこに負け癖がついているというんだ!?」

「どこってそりゃケツにね……」


 あー、もう、誰が何言ってんだか全然わかんないよ!


 みんなはしばらく談笑していた思えば思い思いの面子と一緒に離れていった。


 ルドガーは学院の仲間が隣のガンルームでカード遊びしているので混ざるらしい。

 アルドはそこら辺のちっこいのと一瞬で仲良くなってかくれんぼを始めた。

 親父殿は大デブと肩を組んでじっくり飲むべくバーカウンターへ。

 リリアはなぜかリザ姉貴と話し込んでいるが領地経営に興味あるんかい、遅れてやってきたデブのお袋さんに色々尋ね始めた。やりての鉱山経営者だもんな。


 正妻殿とファウスト兄貴は交友のある領主のところへ挨拶回り。

 ガーランド閣下も後援者のみなさんのところへ挨拶回り。


 貴族とは本来こうあるべきなのに親父殿は大デブと一緒にバーカウンターで、どっかの貴婦人に声掛けてやがるぜ。


 デブはテーブルを回って皿一杯に料理を持ってきてはまた出かけてと大変忙しそうだ。


 そうこうしている内に噂のブタ王子が現れた。


「皆の日頃の忠義に感謝してこうして―――」

 から始まるさほど長くない挨拶を終えると見た事もないようなフルーツと氷菓子が次々と運ばれてきた。


「余はこれで失礼するが皆は飽きるまで楽しんでくれるがよい」


 挨拶も短め、気遣いからのあっさりした引き様、料理を食べ飽きた頃にスイーツの解放、遊びの達人と呼ばれているだけあって見事なものだ。原作未プレイだったら好感度高めだぞ。


 って! アイスクリームじゃんこれ! しかもうまそうなジャムまでこんもりかかってやがる、つかアイスあったんだなこの世界。


「これ超うまいやつだぞ!」

「ほんとだ!」

「んんぅ~~~ほっぺが落ちそうね。これなんてお菓子?」

「ミルクアイスだねえ。あ、このマンゴージャムは初めての味かも」


 博識だなデブ。


 おおっパイナップルの中にアイス詰め込んだやつ誰だよ。シェフを呼べ、感謝を伝えたい!

 なんとパインシャーベットまであるのか!


 甘味には場を繋ぐパワーがあるらしく俺達はすっかり意気投合し、近況報告を始めた。


「リリウス君にはついこの間ランダーギアダンジョンで危ないところを助けられたの。まいったわよ、暗闇の中からいきなり子供の暗殺者が現れたと思ったもの」


「もしゃもしゃ、リリウス君目つき悪いもんなぁ。僕も初対面の時はびびったよ、すごく嫌われてるんだと思ったもの、もしゃもしゃ」

「お前のことは今も嫌いだ」

「ひどい!?」


「一応真面目に頑張ってたんだねー。何層まで行けるようになったの?」

「十五層最深部に行ってボス面倒だから帰ってきました。倒そうにも火力足りなそうでして」


「……リリウス君しばらく会わない内にマジ化け物になっちゃったんだね、もしゃもしゃ。レベル幾つ?」

「最後に見てもらった時は二十二だったかな」


「…………(どん引き)」

「…………(どん引き)」

「…………(絶句)」


 おいこら引くな!


「もしゃもしゃ、僕らはやっと七になったとこだよ。最近はガーランド様に稽古つけてもらってるんだけど地獄のようにきつくてねえ、このままだと痩せちゃうよ。もしゃもしゃ」

「痩せろ」


「わたくしはけっこう楽しいけどな。そうだ、一緒にダンジョン行きましょうよ!」

「いいねえ!」

「お嬢様とは行きたいけどデブはなあ」


「ひどい!? いつもいつも当たりきついよリリウス君、僕だってやる時はやるよ!」

「いや食料余計に食われそうだから」

「ダンジョンに何日こもる気!? 考え方がガチすぎるよ、日帰りでいいじゃん!」


「行き返りで半日かかるダンジョンを日帰りはめんどい」

「まさか歩く気なの? 馬で行けばいいじゃない」


 ははは、ロザリアお嬢様は初心者だなぁ。さては俺と同じ失敗をする気だな。


「知らないのですか、ダンジョンの近くに馬を繋いでると盗まれますよ?」

「見張りを置いとけばいいんじゃない?」


 セレブかよ、いやセレブだもんね。

 その発想はなかったが見張りを連れていくなんて発想貧乏人にできるわけがなかった。


「リリウス君馬盗まれたもんねー」

「まさか無人で放置してたの?」

「もしゃもしゃ、馬鹿だなあ、もしゃもしゃ」


 本気で呆れるのやめてもらえます?

 デザートもあらかた食べ尽くすとロザリアお嬢様がパンと手を叩いた。超可愛い。


「パーティーなんて抜け出して作戦会議しましょ」


 俺達はさっそく離宮を出る。帰り際に離宮の使用人から……


「ささやかですがお土産を用意しております」


 パイナップルを二つも貰ってしまった。

 くぅ、やりての遊び人とは看板に偽りねえな。こんな高いフルーツを二つもくれるなんてブタ王子神かよ。


 ファラの別荘で地図を広げて作戦会議。

 ラタトナから近いダンジョンといえばランダーギア、フォルトナ、アレクシス……


「アレクシスなら半日よね」

「私たちとリリウス君なら大丈夫だけどあなたたちには厳しいと思うわ」

「むっ、平気よ!」

「レベル七が何言ってるのよ。フォルトナも厳しいしランダーギアの低層なら」

「でもあそこでかい蛇がいるだけで何もねえぜ。いや、でかい蛇にチャレンジするか!」

「なに普通に最下層まで行こうとしているの……?」

「リリウス君が遠い……」

「もう少しマイルドな階層でレベル上げさせてほしいんだけどー」


 作戦会議をしている内にデブ寝落ち。

 その数分後にロザリアお嬢様も寝落ちする。せっかくだからパンツ覗いとこう。


 白のドロワーズか……あんまり嬉しかねえな。


「ねえ」

「白だよ」

「色なんか聞いてないわよ」


 では何でしょうか?

 見上げるファラは少し酔っているのか顔が赤い。


「ちょっと外歩こっか」


 酔い覚ましですね。


 昼間はあれほど騒がしいのに夜の浜辺は誰もいない静かなものだった。

 打ち寄せる波の音を聞きながらの散歩はとても風流だ。


「わっ、冷たい!」


 浅瀬を走り出したファラは子供っぽい。普段のツンな雰囲気もいいけどギャップでさらにいいね!


「ねーリリウス君もこっち来なよー! 気持ちいいわよー!」


 よっしゃ、渾身のダイブを披露しちゃる!


「とう!」

「とう!?」


 見よ、この華麗なる後方伸身五回宙返り三回半ひねりを! レベル補正のおかげで五輪代表さえも凌駕するぜ!


 ざぱーん!


 着地に失敗したが見事にファラをズブ濡れにしてやったぜ。


「こんのっ、やったな!」


 この後めちゃくちゃ水かけっこした。最高に青春してるぜ!


 美少女と夜の浜辺で水かけっこなんて最高のイベントを終えた俺達は井戸水で着衣のまま海水を落として、びしょびしょの服をそこらに脱ぎ散らかして一緒にベッドに入った。


 残念ながら何もなかった。一秒で熟睡したからな!


 朝になるとデブが起こしに来た。


「リリウス君しばらく会わない内にマジ大人になってるね……」


 ラタトナリゾートでのイベントの自重しない日々は楽しくも刺激的で、だからすっかり忘れていた。


 俺達は忘れていたのだ。

 この楽しい日々に水を差すためだけに存在するあの男の存在を、すっかり忘れていたのだ。

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