90曲目 エルザ
「「「えぇーーーーーーーーっ!」」」
「なになに?」
「どういうこと?」
「なんで場外の人が勝ったの?」
周りはざわついている。
「ご説明致します。只今行われた準決勝第1試合、アカネ選手対ワカバ選手、場外に出たアカネ選手に対してワカバ選手の風魔法を感知しました。よって魔法を使った攻撃の為、ワカバ選手を反則負けと致します」
「「「なんじゃそりゃあーーーーーーーーっ!」」」
白熱した試合の結果が、まさかの反則負け!しかしこんな観客もいた。
「ワカバ様の天然も素敵ね」
「流石は師匠!」
「まぁワカバちゃんならあるわね」
ワカバを知っている人からはほのぼのした声が上がった。
一番困っているのは審判、何とかブーイングが出る前に、上手く次の試合へと事を進めた。
そして午前中、最後の試合、武術大会準決勝第2試合、エルザ対アオイの戦いが始まろうとしているしていた。
リング中央では、普段無口のエルザがアオイに話しかけていた。
「アオイさんでいいかな?あなたも先程戦っていた二人の仲間で間違ってないよな」
「そうですが…」
「そうか、ふふっ、それは楽しみだ」
よく見るとエルザは二つの剣を持っていた。
まず見ることのないエルザの二刀流、噂だけで嘘じゃないかと囁かれていた。
それが今、目の前には二本の剣を持ち構えているエルザの姿があった。
「おお!あれがエルザの二刀流か!!」
何も知らないほとんどの人が優勝候補のエルザの勝ちを確信している。
しかし…
「それでは準決勝第2試合、始め!」
「我が剣は我流、そして初めて本気を出せる相手に出会えた事を感謝する」
アオイが構えをとる。
「乱舞・花の舞い」
それはエルザの不規則で速い剣撃、アオイはバックステップで下がるも、エルザは回り込んで止むことのない斬撃を繰り返す。
それは息もとまる様な猛攻、時間にして数分、見ている観客もまるで数十分もの戦いをしているように感じていた。
最初はアオイも腕に着けた防具に氣を纏わせ防御していたが、少しずつ変則的な蓮撃を躱し始めた。
「流石だ。これだけでは足りぬか。乱舞・蝶の舞」
今度は身体の動きが変わる。
目の錯覚か?スローモーションの様な動きにも見えて速い。
全く捉える事が出来ず、アオイの拳打は空を切る。
攻撃に転じたアオイは、躱されると同時にエルザの攻撃を喰らう。
そして遂にアオイは吹き飛ばされる。
何とかアオイはリング端でリングアウトせずに踏ん張るが、エルザは更に追い込み斬撃を放った。
「終わりだ!乱舞・風の舞」
あらゆる所からかまいたちの様な斬撃、しかしアオイは躱せないのならと斬撃を喰らいながら突進していく。
「やはりまだ終わらないか。これが最後だ!終の型、乱舞・月の舞」
エルザの最終の型、それは躱す事の出来ないカウンターだった。
アオイとエルザが交差する。
そして、
「まだ足りぬか…」
エルザが倒れた。
「準決勝第2試合、勝者アオイ!」
「「「うぉーーーーーーーーーー!」」」
決着がつくとせき止められた水が流れるように一気に歓声が湧いた。
「大丈夫ですか」
アオイはエルザに手を差しのべた。
「ああ、思っていた事だが、やはり勝てなかったか
」
「試合では私が勝ちましたが、実戦ならあなたの勝ちです。私はその剣が斬れないからまっすぐ向かう事が出来たのですから」
最後のぶつかり合いはダメージをいえば、アオイはエルザが受けたダメージの2倍近いダメージを受けていた。
たとえ斬れなくても普通の人ならそこで終りだった。
乱舞・月の舞は普通の人なら見えない剣撃、Sランク冒険者でも見えるのは一筋の一撃、だが実際は二撃で、それはSランク上位でも見えない二撃目、一度喰らった者なら霞んで見えるかもしれない受ける事が困難な技である。
そして威力も絶大な技である。
しかし剣は斬れない粗悪品でも、エルザの放つ一振りは剣の切れ味なんて関係なく斬れる!斬れなかったのはアオイの基礎的な肉体と纏わせていた氣の量の多さがダメージを阻んでいた。
(ふっ、たとえ実戦でも…たとえ私の剣でも、今の私では勝てないだろう)
エルザは優しく差しのべたアオイの手を借りて立ち上がった。
そして肩を借りてエルザはアオイと退場した。
この試合を見ていたミラとヒルダは思った。
まさかアカネ達以外にも竜人族に渡り合う人間がいるとは…と、いや、アカネ達の基礎能力は明らかに上、実戦経験がなくて自分こ力を半分も出せていないだけ、ただエルザという人間の女は、まだ強くなる可能性がある。
まさか里を出て、こんなにすぐ心を踊らす様な事が短い間におこるとは思わなかった。
改めて自分を鍛え直そうと思った二人だった。
そしてこの日、エルザは伝説のSSランク冒険者への道を歩き出した。
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