102曲目 夜更けの森
「誰だ!」
微かに落ち葉を踏んだ音が聞こえた。
「どうしたんだドミニク」
「少し音が聞こえたんだ」
「あまり気を張り過ぎると体に良くないぞ」
「すまない」
「しょうがないかっ。うちのリーダーは真面目すぎるからねぇ」
ヒュドラのメンバーも男2人、女2人の4人チームになっていて、男女のバランスが1番オーソドックスなチーム作りになっている。
リーダーのドミニクは両手剣の使い手、ホルストは槍使い、女性の2人は魔法使いでノラは攻撃魔法、ネリーは支援魔法を使う。
「気持ちはわかるけどさぁ〜、ドミニクが周りに良く思われないのは、私は耐えられないなぁ〜」
「ネリー、それは俺も一緒だ」
「私も私も!私、リーダー大好きだもん」
「ああ、ありがとう。だが、俺が嫌われる位で何事もなく任務が遂行出来るならそれが一番だ」
「でもさぁ〜」
「気持ちだけありがたくもらっておくよ」
ドミニクは笑顔で応える。
ほとんどの人は見たことがないドミニクの笑顔は優しさに溢れていた。
★ ★ ★
あぶねぇ〜
何とかバレずに抜け出す事が出来たな。
しかし良いものを見つけたよ。
まさかあんな希少な薬草がすぐそばに生えているとは思わなかったよ。
今回護衛する商人の一人であるヤンは森の中央の広場に着く前、たまたま外をボーっと見ていた時に見つけてしまったのである。
希少な薬草【月光華】
夜営場所から200メートル離れた場所、あまりにも無造作に生えている草、花も咲いていないので植物の知識が無い者にはわからない。
だが、ヤンはわかってしまった。
それは間違えなく月光華だった。
その花は月の光を受ける様に花が咲き、月が沈むと花は閉じる。
ヤンは咲いている花全てが月に向かって咲いているので月光華と確信した。
「はははっ、こりゃあ〜取りきれんぞ」
一束一束、丁寧に根本から掘り取る。
「これだけ状態が良ければ取り引き値で一束最低でも銀貨1枚になるな。上手く乾燥させて直売すれば銀貨2枚でもいける。笑いが止まらんぞ。はははっ」
1時間が経ち、持ってきた籠に丁寧入れた月光華が40〜50束、入りきれなくなり一旦部屋に戻ろうとしたその時、獣が草をかきわけ歩く足音が近づいてきた。
咄嗟に木の影に隠れるがこの時間の魔物はほとんど夜行性、人の目には見えにくくても、魔物の目からはまる見えだった。
グルルルルルゥ〜
ゆっくりと唾液を垂らしながら近づいてくる。
グルルルゥ〜、グルルルゥ〜
ヤンはまだ見つかっていないと思い、持ってきたアシタバ草の入った籠を背負ってゆっくりと後退りをした。
ヤンは焦る。
自分の身と月光華、どうやってこの場を乗り切るかを…
早く戻り月光華を保存しないと!
月光華は月の出ている間に綺麗に洗い、清潔にして乾燥させないと腐って使い物にならなくなってしまうからである。
魔物との距離はおよそ30メートル、走ってバレたら助けが来る前に殺されてしまう。
魔物との距離を変えずに同じ歩幅でバレない様に後退り。
しかし魔物は急に襲いかかってきた。
ガァガァーーーーッ
「ひーーーぃ、た、たすけてくれぇ〜〜〜」
魔物に背を向け走り出した。
魔物の一撃!
その一撃は運よくヤンの背負っていた籠だけを破壊した。
そして飛び散った月光華が目眩ましになり、数秒の時間を稼ぐ。
それはヤンにとっても生死の分かれ目となった。
★ ★ ★
「後ろから声が!」
ホルストが声を出し、ノラとネリーが振り向く頃にはドミニクは既に走って向かっていた。
月の光で動く影と叫び声、そして大きく広がる影、その方角にただひたすら一直線に走る。
だんだんとはっきり近づく声と同時に人の姿は目視出来た時、その後方に広がり襲いかかる影に向かい、走りながら一本の短剣を投げつけた。
その短剣はヤンを襲う魔物の右手が防御にまわったことにより、ヤンは間一髪!死を免れたのである。
「ひぃひぃひぃ、た、た、助けてくれ〜」
ドミニクは背中の剣2本を手に取り、剣を構えて魔物の前に立つと、その魔物は標的をドミニクに向けて立ち上がった。
魔獣【ルビーアイジャイアンベア】
通称ルビーアイ
ジャイアンベアの上位種
同じAランクの魔獣だが、ジャイアンベアは下位、ルビーアイは上位にランク付けされている。
同じランクでも上位と下位ではかなりの強さの差があり、どんなランクだろうと、ランクだけを見て相手にすると大変な目にあう。
「ルビーアイかよっ」
今度は後ろからファイアボールがルビーアイを襲う、がしかし魔力障壁で簡単に防御される。
Aランク上位の魔物になると、ほとんどの魔物が魔法を使う。
そしてルビーアイの魔力障壁はBランク冒険者程度の魔法ではダメージを与えることは出来ない。
ルビーアイ vs Bランク冒険者ヒュドラ
ドミニクが先陣を切る。
何とかルビーアイの攻撃を剣で受け流した所にホルストの槍が胴を刺す。
ガァーーーーーッ
ルビーアイの雄叫びと同時に強風がホルストを襲う。
ぐわぁ〜〜〜
ホルストは吹き飛ばされると同時に無数の切り傷を負い、後方の木に打ちつけられた。
「ホルストーーー!」
咄嗟にネリーは魔力障壁を貼り、再びノラのファイアボールが放たれる。
今度はファイアボールが的中!怯んだルビーアイにドミニクの剣が届く。
グガァーーーーー
運が良かった。
たぶんルビーアイの中でも弱いほうだろう。
ルビーアイから放たれた風魔法の威力はさほど強くなく、放たれた真空波も大して深い傷を負うことはなかった。
もし強いルビーアイの魔法ならホルストの腕が半分斬られてもおかしくはない、
勝てる!
だがホルストのダメージもかなり大きい。
「ホルスト、そこの商人を連れていけ!そして全員起こして警戒態勢、もしくは避難する準備をさせろ」
「…くっ!わ、わかった。あとは頼むぞ」
「ああ、ネリー、ノラ、援護を頼むぞ」
「任せて」
「オッケー、リーダー」
ホルストはヤンを連れて野営地に戻った。
「行くぞ」
ホルストがヤンを連れて離れたのを確認し、改めて気を引き締めルビーアイと向き合う。
怒りに満ちたルビーアイ、よく見るとホルストの槍の傷はほとんどない。
当たったファイアボールも軽い火傷程度、まともなダメージはドミニクが斬った傷ぐらいで、3人で倒すには時間がかかりそうだ。
ヒュンヒュンヒュン、グサッ
グガァーーーーー
ルビーアイの左脇腹に斧が刺さる。
「私もまぜてくれ」
そこにはグレータの姿があった。
次話も月曜日更新予定です。
ここまでのお付き合い、誠にありがとうございます。
これからもご愛読してもらえる様、頑張っていきたいと思います。
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