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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第2章 頼れるアニキと頼りないレイジと
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第9話 冒険者としてのリスタート


 フォードとレイジの二人旅に、ミクリア公子のアザミ姐さんが成り行きで同行することになった。

 レイジの何かに目覚めそうな必死の交渉の末に、レイジたちはアザミのヒモ同然ではあるものの、


 フォードたちが向かったのは、べチアの西部にある大衆食堂“べねべね亭”。これもまた安いところを選んだ。

 安い、早い、旨いが合言葉のこのお店。昼間にも拘わらず、ガチムチ体型の飲んだくれが大量発生。

 あまりにも男臭く酒臭い空間に、レイジは辟易していた。モヤシ体型にはあまりにも場違いな気がしてきたのだ。

 フォードとレイジは、適当なカウンター席に腰かけた。ここに来た目的は、腹ごしらえもあるのだが、もう一つ。


「よ、デモルトのおっちゃん! 相変わらず繁盛してるじゃねぇか」


「おう、久しぶりじゃねぇか、フォード! ギアとドゥバンさんがいないってことは……また抜け出してきたのか?」


 店長のデモルトは、これまた腕っぷしの強そうな男だった。フォードは、たまに軍の目を盗んでは、ここで旨いものを食っていたらしい。

 そのたびにギアやドゥバンに見つかっては説教される、ということで店長もフォードのことはよく覚えている。

 それにしても、このべねべね亭は、あまりにもむさ苦しい場所で女っ気の一つもない。客層は、ほぼほぼ屈強な男である。

 下品でデカい笑い声が飛び交う中、フォードとデモルトは、楽しそうに話を弾ませている。


「まぁな。レイゾン辞めて、コイツらと冒険することにしたんだ」


「……あの話、本当だったんだな。それにしても、そのボウズはちとなぁ……相方はもうちょっと選べ。頼りなさそうだぞ」


「んだよ、別にいいじゃねぇかよ。俺が好きで世話してんだからよ!」


「せやで、ウチらはこの子の保護者みたいなモンなんよ」


 ここでもレイジの評価は、頼りないの一言。相変わらずな評価に、少しばかり嫌気がさした。


「フォード……お前が冒険者なら、新進気鋭の“勇者”キャプテン・オールAをスカウトすると思ったんだがな」


「そいつ、そんなにすげーのか」


「ああ、とんでもねぇ奴だ……」


 キャプテン・オールAは、約40年ぶりに現れた伝説の勇者らしい。気高く天賦の才に恵まれた彼は、17歳の誕生日を迎えた日に、国王からの命令で魔王討伐の旅に出たという。

 キャプテン・オールA率いるチームの名は“オルアース”。噂によれば、彼のもとに集まった仲間もスペルにAを持つ人物らしい。

 彼らの行く先々で強力なモンスターを次々に撃破、冒険を始めてから一週間で稼いだお金はすでに20万ルドを超えるという。そんな彼は、今なお着々と仲間を増やして冒険しているのだろう。

 何も持っていない、誰かに頼りっぱなしのレイジとは対照的な旅の始まり。レイジは、話を聞いただけで負けた気分になった。


「悪かったな、俺がキャプテン・オールAとかいうやつじゃなくてよ」


 レイジは、頬杖をついてスネた。


「俺は、レイジでいいと思う。いつかは、勇者さえも超える……そんな気がする」


「で、このボウズにその気があるんなら、冒険者ギルドに登録してやるよ」


 ただの浮浪者と冒険者とでは、響きが違う。さらに、この世界での身分証明に困らなくなるのは、とても大きい。

 レイジは、冒険者という言葉に心を躍らせていた。目を輝かせながら、レイジはフォードたちの方を見た。


「レイジはやる気みてぇだが、アザミはどうすんだよ?」


「ウチは、()()ええわ。店員はんの読んではる雑誌……オトンもよう読んどるんよ」


 デモルトが読んでいたのは、週刊アドベンチャー。ここに世界各地の冒険者たちがどのような活躍をしたのかが載る。

 今週号は、まるで密着取材したかの如く、勇者一行の記事が満載だった。アザミにとっては、これに載るということは、父親に足跡を知らせるようなものだ。


「んじゃ、俺とレイジの二人で」


「あいよ、チョイと書類を埋めてもらうけど、ちょっと待ってくれよ」


 これで、いよいよフォードたちも冒険者として正式に認められる。それを思うと、レイジは少しばかり不安だった。

 レイジは、どこかで聞いたことがあった。異世界なる場所にはステータスと呼ばれる、自分の能力を数値化した概念があることを。

 さらに、異世界転生すれば、神様からとんでもない力とともにそのステータスの数値も高くしてもらえる……らしかった。

 しかし、それは夢物語。喝だけもらったレイジが、身体能力の低いレイジが、ステータスの数値が高いわけがない。


「もし、ステータス見られるとしたら……」

 ぶっ飛んだものはないだろう、と諦めのため息が自然と出てしまう。


「んなもん、所詮は他人が勝手に決めたモノサシだろ? どうしても気になるんなら、自分で勝手に想像しやがれ!」

「せやね。あったとしても、みんなレベル1からのスタートや。気にすることあらへんて」


「ボウズ。あのフォードが将来性を高く買ってくれてるんだ、自信を持ちな」


 フォードとアザミは、落ち込んでいるレイジをフォローしてくれた。

 最初は、誰だってうまくは行かない。誰だって、下手っぴな状態から始まる。頭でわかっていても、レイジには納得できなかった。

 ステータスの議論を少し終えたところで、デモルトが書類とともに分厚いスマートフォンのようなものを持ってきた。


「これに、署名してくれ。あと、どうせ新しい冒険団なんだから、何か名前つけとけ」


「アニキの名前使って、何かカッコいいものにしようよ!」


「いや、つけねぇ。どこでどう呼ばれようと、俺たちの知ったこっちゃねぇ」


 フォードは、書類に目を通し、必要事項を埋めながら気軽に返した。


「そうかい。んで、これがお前らの新しい冒険者パスだ。どこ行っても身分証明書代わりになる」


 スマートフォンに似た物体は、冒険者パスと呼ばれるものだった。ここに来て、またしてもハイテク機器。

 レイジが触れると、パスが光った。ここから個人情報を入力するだけで、すぐに使えてしまうようだ。


「もし……」


「失くしたら再発行は30万ルドだな。これはデズモンド社が冒険者に向けて、特別に提供してるんだ」


「デズモンド……」


「知ってるだろ、ハイテク企業。人類の生活を豊かにする開発が第一。だったら、冒険者も豊かにしてやらねぇとな!」


 急に店長がデズモンドの回し者に見えてきた。しかし、これがないことには、この先ずっと苦労することだろう。

 それを考えたときに、レイジは復讐心を抑えた。それを振りかざすべき時は、その本人にあった時だけだ。

 冒険者パスを眺めていると、ただの身分証明ではないことがわかった。クエストと呼ばれる依頼の数々が表示されている。


 ここも、レイジがいつか思い描いていたものとは微妙に違った。普通、クエストというものは酒場かギルドの掲示板を見て受けるものだと思っていたのだ。

 報酬や文面こそ違えど、同じ内容のクエストが並んでいるのも珍しくはない状態。難易度の高さに反して、報酬が割に合わないものが多い。


「いつでもどこでも、クエストは受けられる。ただし、断念したら違約金は発生する」


 中には、高い報酬に目がくらんで受注したはいいものの、依頼主の期待に応えられないことも多いという。

 たとえ成功したとしても、武器のメンテナンスやケガの治療費、クエスト中に壊したものの弁償などで報酬額が吹っ飛んで赤字……こともザラ。

 それを繰り返して、借金ないし自己破産した冒険者を店長は知っている。デモルト曰く、特に異世界から来た人間は、そうなる傾向が強いらしい。

 それでも、レイジは違うと思いたかった。今の自分には頼れる現地民がいる事。そして、自分の力のなさを知っているのだ。


「煽るわけじゃねぇけど、それまでに受け取った報酬額が冒険者としての質を端的に表している」


 受けたクエストと報酬額は、この冒険者パスに自動で記録されるらしい。もちろん、失敗したクエストと違約金の額も。

 冒険者パスを受け取って最初の一年で一億ルドを稼いだ冒険者は、ゴールデンルーキーであるといえるだろう。今、それに最も近いのが例の勇者である。

 稼いだ総額が、ある意味冒険者としてのステータス。これを上げたくて、異世界に夢見た地球人が無謀に挑む。だから、破産する地球出身の冒険者が後を絶たないのだとか。

 最初は、軽めの依頼から……レイジがそう考えていた矢先に、フォードはいきなり喜びの声をあげた。


「さてと……お、ザ・シーギンスーからの依頼があるじゃねぇか! ロケトパス討伐か……腕が鳴るな」


 早速、報酬に目がくらむ男がいた。アザミに必要なお金を工面してもらえるとはいえ、自由に使えるお金が欲しいところ。

 それで選んだのが、高級料亭と漁協が共同で出してきた依頼。最近、このチェアノの近海にロケトパスという怪物が現れた影響で、質のいい魚が獲れなくて困っているとのこと。

 その報酬は12000ルド。二人で自由に使うには十二分な額である。このチェアノで受けられるクエストの中では難易度が高い部類だ。


「お前なら絶対選ぶと思った。しかし……元軍人とはいえ、今は少人数だぞ?」


「行こうぜ、レイジ、アザミ! 冒険者の第一歩だぜ!」


 早速、受注した。フォードは乗り気だが、アザミは呆れていた。


「ちょっと、ウチも巻き込まんといてや」


 そういいながらも、アザミはフォードについていく。どうせ海の上でのクエストなのだから、といったところか。

毎度ながら稚拙な文章を読んでいただき感謝でございます。

アツく疾走感のあるナンバーを聴きながら、毎日筆を進めている次第であります。よろしければ、評価、感想、レビュー並びにブクマのほどを……。

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