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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第2章 頼れるアニキと頼りないレイジと
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第8話 下手くそすぎる交渉

 まさかのボーイミーツボーイ。レイジのアザミを見る目が少し変わった。あまり美人に思えなくなったのだ。

 彼は、レイジが一時期ハマっていたファンタジーでは珍しいオネエである。もちろん、現実でも見るのは初めてだ。

 まるで女性のように化粧して、着物も華あるものを選んでいる。


「女にしか見えねぇぞ。ウソだろ?」

「俺が言えたことじゃないけど、どうして?」

「ザポネには、全部男が取り仕切る芝居や踊りがあってな……ウチは、それで食っていこう思うとるんや」


 ザポネにも、歌舞伎に近いものがあるらしい。レイジは、ザポネ文化に感嘆の息を吐いた。




「そういえば、さっき俺たちを連れ戻しに来たヤツと勘違いしたって言ったな?」

「その事で少し頼みを聞いてほしいんやけどね……ちょっとの間でええから、匿ってくれへん?」


 アザミは、ようやく本題を切り出した。その内容は、先ほどまで蛮族っぽい見た目だったレイジには無理のある内容だった。

 それ以前に、先ほど騒ぎを起こした相手に頼むようなことでもない。アザミからすれば、そんなことはなりふり構っていられないようだ。


「急にんな事言われてもなぁ……もうちっと詳しく話せ」


「さっきも言うたとおり、ウチは公爵家の跡取りなんよ。……家が厳しゅうて、抜け出したんや」


「それだけじゃなさそうだけど……どうする、アニキ?」


 レイジには、家を抜け出した理由を言いよどんだように聞こえた。レイジがアザミの顔を見ると、これ以上は聞かないでとばかりにアザミが首を横に振った。

 フォードは、左手の親指と人差し指で輪を作った。さらに、不敵な笑みをアザミに向けた。


「アザミ、交渉しようぜ。……報酬はいくら出る?」


「ええ……本当にやるの?」

 レイジから素っ頓狂な声が出た。


「やんなきゃ、俺たちオケラだぞ」

「そりゃそうだけど」


 出会って間もないために、レイジはあまりアザミのことが信用できないのだ。それに、先ほどまで互いに誤解していた間柄。

 なぜ、よりにもよって自分たちに依頼するのか――それが気になって、レイジはすぐに乗り気というわけにはいかなかった。

 それでも、フォードはやる気だ。


「二択だ。金が無くなって餓死するか、このオネエのヒモになって報酬をもらうかだ」


「報酬なぁ……って! やっぱ、アンタら金目的やないの!」

 アザミがすごむと、レイジは肩を小さくして「ごめんなさい」と呟いた。


「あのなぁ……俺たちだって、善意でタダってわけにはいかねぇんだよ。金の持ち合わせもそんなに無いもんだからよ」


 フォードは、ぺらっぺらな財布をテーブルに叩きつけた。

 これまでは、サバイバルで食事も服も何とかなった。だが、ここは都会。金がないことには何も始まらない。

 今、二人が持っているお金は合わせて60ルド。1ルドでおよそ120円といったところである。

 なけなしの金のうちの25ルドがレイジの服に消え、カフェ代金で15ルド。残りはメシを食うための金、及び食事処までの運賃に消えてしまう。

 つまり、せっかくチェアノの街に来たというのに、今度もホームレス同然の生活がすぐそこまで迫っている状況なのだ。


「頼む、アザミ! ザポネのブランドを着ているお前なら、俺たちの一宿一飯くらい、どうって事ねぇだろ?」


「相変わらず、頼みごとが下手くそな人やねぇ。ザポネ人に頼み事というか、誠意見せるときはな……」


 そこから先は、皆まで言わずともレイジにはわかった。アザミに対して土下座をするのである。

 レイジは、勢いよく席を立ったかと思えば、地べたにしっかり膝をつけた。


「お願いします、アザミさん! どうか、この件に報酬を……っ!」


「レイジはんやったかいな? アンタ……人の靴が好きなんやね。ええ趣味やわぁ」


「……ぐぬぅ」


 1/fボイスから繰り出される皮肉交じりの誉め言葉は、レイジの胸にズブリと突き刺さった。ザポネの国にも、イケズな事をサラッと言ってのける文化はあるらしい。

 土下座しただけで話が進むわけがないのは、日本では親の説教よりも身に染みて分かっていることだった。

 アザミは、まるで本気でレイジを見下していた。その凍てつくような眼差しは、一部の人からは至高の悦びかもしれない。だが、レイジにとっては不良との嫌な日々を思い出すものだった。


「おい、レイジ。それくらいにしとけ」

 フォードが止めても、レイジの頭は上がらない。あの嫌な顔を見るかと思えば、より卑屈になってしまう。


「元を正したら、アンタの頼み事が下手くそやから、こうなってるんや!」


「こーいう面倒なことは、ほとんどアニキがやってくれたからなぁ。形にもなりゃしねぇ」


 フォードは、頭を掻きむしった。レイゾンにいたころは軍の訓練に明け暮れる日々だったのだ。交渉事も、書類手続きも、全部ドゥバンのアニキがしてくれていた。

 それを初めてまともに自分でやるようになってから、フォードはドゥバンの凄さを痛感したのだ。

 フォードの方から持ち掛けてきたはずの交渉だったが、逆にアザミが主導権を握ることに。


「ほな、逆にアンタらに訊きたいんやけど……ウチの依頼にどれだけの誠意があるんや?」


「そりゃ、匿う日数にもよるけどよ……日当1000……」


「お気持ちだけで結構でございます! 先ほどは報酬などと、出過ぎたマネをして申し訳ございませんでしたっ!」


 やはり、卑屈において右に出るものはいないレイジ。食い気味に叫んだ。

 今度は額を地べたにこすりつけ、何が何でも土下座をやめないつもりだ。より一層、良心が痛む。


「そこまでされたら、逆にウチが悪者になるやないの……。もうええから、頭上げて」


「ご容赦ありがとうございます」


「今回ばかりは、レイジの卑屈さに助けられたぜ。よく分からねぇけど、ありがとよ」


 やっとレイジが土下座をやめたことで、フォードがホッと胸をなでおろした。


「しばらくの間やけど、必要なお金は出す。それしか出来ひんけど、それでもええどすか?」

「……上等だ。そのついでに、俺たちのやりたいことにも付き合ってもらうが、それはいいか?」

「身を隠せるなら、なんだってええよ」


 ひとまず話がまとまった。報酬は以下の通りだ。

 アザミたちを匿うため、あるいはフォードたちがやりたい事に必要な金額。

 それから、フォードたちの服や食、宿――身の回りの世話に必要な金額。


 フォードたちとアザミの交渉が成立。レイジたちは、しばらくの間、三人で行動することとなった。


二件目の評価ありがとうございます。

ヒロイン? 何それ美味しいの? な状態で書いてますが、それでも良ければ……。

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