表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第3章 心折れそうな経験
26/165

第26話 アニキに届け!本気も本気の千本目!!



 レイジたちは、レテング公園に向かった。郊外の比較的大きな公園には、雨の夜にもかかわらず、何十人もの人が集まっていた。

 フォードがレイジからの手紙を受け取った後、周囲に知らせて回ったらしい。

 野外でのタイマン。周りに何人いようと知ったことではない。ただ、アニキを見返してやる。その一心だけで、フォードと向き合った。


「俺を倒すんだって? 青二才が粋がった事言ってんじゃねぇよ」


 フォードは、腕組しながらレイジを挑発。彼の声に煽られて、周りもヒートアップ。

 レイジたちは、明らかにビジター側だった。足が震えた。武者震いだと思いたかった。


「勝つ自信があるから、来たんだ。千本ファイアも、残り一回までやった……!」


「ハンパじゃねぇか!」


 レイジが言葉を発せば、ヤジが飛んでくる。エマとファウスト以外は、敵とみていいだろう。

 雨が降りしきるなか、ここレテング公園は熱気の渦に包まれている。レイジは、あまりの熱さに、Tシャツを脱いだ。


「お前も漢なんだ。ケンカなら……サシでやるってのがスジってもんだろ?」


 フォードもタンクトップを脱ぐと、アザミに投げ渡した。


「……もちろんだ。やるぞ!」


 レイジは、ぐっと握りこぶしを作ると、構えた。

 漢なのだから、もちろん一本勝負。フォードは、手招きしてレイジを挑発した。

 レイジは、拳を振りかぶりながら、突進した。しかし、フォードは素早く右に避けて、裏拳で反撃。

 ここまで鍛えたとは言っても、所詮たった一週間やそこらのこと。何年も荒波に揉まれた軍人の一発は、素人には重かった。


「ぅおおお……!」


 レイジは、今度は飛び蹴りを狙いにかかった。しかし、これもフォードの前では無意味。

 フォードは、レイジの右足をつかむと、そのままジャイアントスウィング。

 倒れたレイジに待っていたのは、4の字固め。早くも、フォード優勢でケンカが進んでいる。


「お前……本気出せよ? 俺を倒すってんなら、それがスジってもんだろうが!」


「も、もちろんだ……!」


 レイジは、もがきもがいて、フォードの拘束から解放された。スッと立ち上がると、フォードに右手をかざした。

 できれば最後の最後まで取っておきたかった、千本目のファイア。レイジは、ここで使うことに決めた。


「“ファイア”!」


 燃え滾る心を開放し出された炎は、野球ボール大だった。初めて実戦で……それも、自分のコントロールで出した炎。

 だが、フォードは、それを避けた。それから、険しい表情でレイジを見た。

 この程度の炎なら、ここ一週間の修業の中で何度も見せられたものだった。そんな生ぬるいものが本気だとは、到底思えなかった。というより、信じたくなかったのだ。


「甘いな、甘すぎるぞ!」


 フォードは、レイジの顔面にグーパン。のけぞったレイジだったが、何とか立ち上がった。

 奥の手も通用しなかったレイジに勝ち目はないと知ってか、ギャラリーからすでにフォードコールが巻き起こる。


「ぅらあぁっ!」


 レイジは、もう一発だけフォードに向けて炎を出した。しかし、それでも、フォードは涼しげな顔でかわしている。

 何度でも……当たるまでは諦められない。その執念で、レイジはフォードに真っ向から挑む。


「そんなヤワなモンじゃねぇだろ、てめぇの炎ってのはよ!」


 フォードは、レイジの頸動脈を狙って飛び膝蹴り。鋭い衝撃が、レイジの身体を駆け巡る。

 レイジは、そのキックの勢いのまま倒れた。目が霞んで、頭がふらふら。とても、立てるような体調ではなかった。

 しかし、フォードは、そんなレイジを無理やり立ち上がらせた。


「ほら、立てや! まだイケるだろうが!」


「うう……」


 フォードの往復ビンタが、レイジの両頬を襲う。ほとんど気絶に近い状態の相手には、まさしく追い打ち。

 レイジは、ただただ攻撃を受けるサンドバッグのようだった。


「アカン、もう見てられへん……」


 アザミが思わず、目を背けた。ギャラリーも、あまりの出来レースに、次第に飽き始めてきた。


「何をしとるんじゃ、レイジ君! 君は、目の前の男に本気を見せるはずじゃったろ!」


「……レイジ君、頑張って!」


 誰もがフォードの勝利を確信する中、ファウストとエマだけがレイジを信じていた。

 これまでの修業で培った自信と技術。そして、逆境に立たされれば、自分でもコントロールの利かないほどの爆発力。それを見せてくれると。



「……“ファイア”!」


 苦し紛れの一発。フォードが、少し距離を取るくらいだった。

 追いつめられている状態にしては、明らかにヌルい。フォードは、レイジをにらんだ。


「まだまだ、こんなもんじゃねぇだろ!」


「“ファイア”!」


「それで本気のつもりか!」


 フォードは、レイジに右ストレートを浴びせた。胸に強く響く一発だった。

 レイジは、何度も攻撃を受けた。上半身の至るところにあざが出来るまで、フォードの拳の雨が打ち付ける。

 もう、ボロボロだった。限界も限界の状態だった。それでも、レイジの目は死んでいない。


「うおおおお!」


 レイジの拳に炎が灯った。フォードは、それをあっさりと受け止めると、それを押し返した。

 まだ手ぬるいといわんばかりに、手首を振った。煽られたように感じたレイジは、再び炎の拳を振りかざす。


「……まだまだ!」


 拳を振っては、受け止められる。その応酬が何度か続いている。それでも、フォードには余裕があった。

 ファウストとエマの応援にも熱が入る。レイジに、もっともっと本気を出させたくて、声を枯らしながらも。


「そんなんじゃ、ダメだっつってんだよ! もっとだ、もっと!」


「“ファイア”!」


「もっとだ、もっと! まだまだ、まだまだ甘いぜ!」


 もう、レイジの体力は限界を迎えている。もう、精神力だけで戦っている状態だ。

 炎は、少しずつ大きくなっていたが、回数を重ねるごとに威力が落ちてきている。

 フォードの顔が、少しずつ呆れているように見えた。レイジは、ここで意地を見せなければ本当に負けると思った。



「アニキ……受け取れえええええ!!」


「……やりゃ、出来るじゃねぇかよ」


 会心……熱烈! 負けたくない一心が、奇跡を呼び寄せた。

 レイジの拳から、今までにないほどの炎が溢れた。夜の公園さえも明るく照らすほどの、燦然と輝く炎だ。

 フォードは、その拳を受け止めた。ひしひしと、レイジの熱さが伝わってくる。それが、たまらなく嬉しかった。


「いや、まだだ……! アニキに止められてちゃ、本気なんかじゃない!」


 レイジが叫べば、爆発を起こした。それでもフォードは、レイジの拳を離さなかった。

 フォードは、レイジの心意気を喜んだ。心の底から笑ってみせた。


「ああ、そうか! だったら、もっと見せてくれよなぁ!」


「……だああああああああ!!」


 再び叫べば、真昼のように公園が明かく灯るほどの爆発を起こした。

 フォードとレイジが、吹っ飛んだ。背中から身体を打ち付けたレイジに対し、フォードは受け身を取った。

 レイジの身体からは大粒の汗。息も絶え絶えなところを見るに、あれは起死回生の一発だったのだろう。


 ギャラリーから、いつの間にかレイジコールも湧きあがる。

 しかし、その本人は、ぐったりと体を大の字にして倒れている。


「レイジ……確かに受け取ったぜ、お前のガッツ!」


 フォードは、レイジに向けてサムズアップ。本気の本気に、“いいね”。

 結局、レイジの挑戦は失敗に終わった。だが、フォードを納得させるだけの力をみせることはできた。レイジは、それだけでも満足だった。


毎度のことではありますが、ご愛読いただきありがとうございます。

灰すら残らず燃えた人も、まだまだ燃え足りない人も、評価や感想、ブックマークを残していただけると私も燃えます!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ