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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第3章 心折れそうな経験
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第21話 千本ファイア


 二日目の朝は、フォードと一緒にディーニの街を走る。その後、腕立て伏せやスクワットに反復横跳びと、基礎的な筋力を鍛える特訓。

 何をするにも体力が要る。たった一度きりの炎だけで倒れていては、とても一週間で千回など達成できない。こうして、トレーニングだけで一日の大半が消えていく。


「どうした、レイジ。もう音を上げるのか?」


「まだまだ……! 俺はアニキにも追いつきたいんだ!」


「それでこそ、俺の弟分だ! 千本ファイア……お前なら出来るぜ!」

 フォードは、レイジの背中を励ますように叩いた。


 基礎体力の特訓が終わってからは、瞑想の修業。普通の魔力ではなく、その精神力の強さに呼応するように炎が出現するからだ。ならば、精神面から鍛えることも効果的であろう。

 夜は、身体を休める。三日目は、ひたすら炎を出すことを繰り返すトレーニングだ。それに備えて、今日は21時に寝る予定だった。

 しかし、レイジは、就寝予定時間を過ぎたというのに、街へと繰り出していた。あまりにも体が痛むので、眠れなかったのだ。それと、もう一つ。


「……“ファイア”!」


 今日は、千本ファイアに挑戦する予定はなかった。しかし、昨日のあの感覚を忘れたくなかったのだ。

 精神を高ぶらせる。もう一度、エルトシャンに負けたあの夜を思い出した。


「うおおおお!」


 まだ、力のほぼすべてを振り絞らないと出せない状態。だが、自分の意思で少しずつ出せるようになっている。

 相変わらず身体が汗でびっしょり、息も絶え絶えなのも変わらない。それでも、ふらつきながらも、レイジは立っていられた。

 丸二日間。アニキに、ファウストに鍛え抜かれたことにより、体力と精神力が少しずつ向上しているのだ。

 今なら、もう一回だけ撃てそうな気がした。喜びに浸りたい気持ちを抑え、ぐっと精神を集中させる。


「ぐぬぬ……!」


 もっと、もっと、高みへ……! その意識で頭をいっぱいにさせたとき、右手が再び熱くなった気がした。

 しかし、この日のトレーニングで疲れ果ててしまっていたレイジは、その場で倒れてしまった。

 冷たい風が、レイジの背中をなでる。心身ともに疲れ切ったレイジのもとに、エマが駆けつけてくれた。


「探したわよ、レイジ君」


 エマは、レイジの背中を揺すった。


「う……うぅ」


 レイジは、うめき声をあげながら立ち上がろうとした。しかし、あまりの脱力感ゆえに体が動いてくれない。手足で体を支えることもままならないほど。

 待てど暮らせど動くような気配を見せてくれない。しびれを切らしたエマは、しかめっ面になった。


「もう……男の子なんだから、情けない声出さない! ほら、肩貸してあげるから……」


「エマさんの前で、俺……カッコ悪いなぁ」


「今は、そんな事気にしない! ほら、もっとしっかりして」


 エマは、レイジの右腕を強引に引っ張ると、肩を組んで歩き始めた。

 レイジの足取りはおぼつかない。というより、ほとんどエマに引きずられているような状態だ。

 自分とそう歳の変わらない彼だが、エマが肩を担いで引っ張れるくらいには軽かった。


「ウチらのレイジはんが迷惑かけたみたいで、ほんまカンニンな」


 レイジは、エマに連れていかれる形でファウスト邸へと戻った。

 エマは、力が抜けたのか、ソファーに体を投げうつように横たわった。


「いいんですよ、アザミさん。彼が無事だっただけで十分です」


「お前……ちょっと気ィ張り詰めすぎだ。確かに残り5日で990回ってなれば、時間がなくて焦っちまうのもわかる」


 フォードは、レイジの体をほぐしながら言った。あまりの筋肉痛に、レイジは思わず悲鳴を上げている。


「でもな、ちゃんとこなせるように計画は立てているんだぜ! さぁ、明日は早いんだ、早く寝ようぜ」





 三日目の朝。レイジは、いつになく早く目が覚めた。相変わらず、身体は重いままだった。

 今日は、レイジがずっとやりたがっていた千本ファイア。眠れなかったのは、疲れすぎというよりは楽しみ過ぎたからだ。

 霧を払うかの如く、朝焼けがまぶしい。レイジは、ぐっと体を伸ばすと、冷たい風を目いっぱい吸い込んだ。


「レイジ君、えらく早いのう……」


 ファウストも、すでに起きていたようだ。フォードたちは、まだ眠っている。

 朝の日課である体操をはじめながら、ファウストはレイジに問う。


「……どうじゃ、感覚は掴めそうか?」


「大事なのは、ハート……ですよね? まだ、思ったよりコントロールできていないかな」


 レイジは、自信なく答えた。


「心配せずともよい。必ずわしが導いてやるぞ。まずは、自信じゃ! 自信はあるのか!?」


「ある。いや……」


 レイジは、天を仰ぎ、息を深く吸い込んだ。ファウストは、首を傾げた。その直後だった。


「絶好調おおおお!!」


 郊外に、レイジの雄たけびがこだまする。いつか、フォードとやってみせたことだ。上手くやれる自信がなくても、“絶好調”と叫べば、やれそうな気がしてくるのだ。

 ファウストは、ありったけの意気込みを受け止め、誇らしげな笑顔を見せた。

 今、レイジの体中を暴れているほどに、自信が溢れている。レイジは、右手を前に突き出しながら、暴れだす自信に心を任せた。


「“ファイア”!」


 心が燃えている。圧倒的なまでの自信が、熱となりて、レイジの身体から炎として現れる。

 昨日は身体にムチ打っていた影響も少なからずあるだろう。それでも、レイジは倒れる寸前で踏ん張った。


「ほぉ、確かに絶好調のようじゃな。続けて、もう一回出しなさい」


 レイジは、腕で汗をぬぐうと、もう一度神経を集中させた。手のひらが、再び熱くなってきた。

 昨晩は、ここで倒れて、結局エマに運ばれる結果になってしまっている。カッコ悪い自分を見られてしまった。

 もう、あの子に無様な姿を見せぬためにも……昨日の自分を超えたい。その思いが、届いた!


「“ファイア”!」


 再び、炎がレイジの右手から飛び出した。相変わらず、息が絶え絶えなのは変わらない。

 過去のレイジを超えた。それを見たファウストから、惜しみない拍手が贈られた。


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