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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第3章 心折れそうな経験
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第19話 気合が俺の魔法だ!


「フェード……お前の気持ちも分からんでもないが、魔力が流れておらんのに炎の魔法と言われてもなぁ……」


「だから、俺はフォードだって。……で、コイツの力を見てみる気はあんのか?」


 ファウストは、長く手入れされた髭をさすりながら言った。あまりフォードの言葉が信用がならないらしい。

 魔力エネルギーを熱として出すのが炎なのだ。いくら魔法と言っても、何もないところから火を出すのは、この世界においても不可能な話だ。


「信じるか信じねぇかは別として、チョイと見てもらいたいものがあるんだよ。庭……借りてもいいか?」


「ちゃんと見せてもらえるなら、別にいいですけど」


 エマが言うと、フォードは意気揚々とレイジを連れて庭へと向かった。


「もう、せっかちじゃな……」


 ファウストは、重い腰を上げた。偏屈な爺さんではあるが、最低限の聞き分けはあるらしい。

 庭に着くと、フォードとレイジが向かい合って、距離を取っている。


「レイジ、これはあくまでも練習だからよ……」

 フォードは、レイジを諭すが、彼の脚は生まれたての鹿のように震えている。


「練習と言ったな? じゃったら、ちょうどいいものがある」


「おじいちゃん、それって……!」


「出てこい、悪霊フェレス!」


 ファウストが指を鳴らせば、レイジの目の前に、赤い三角帽子をかぶった小人のようなモンスターが現れた。

 彼が変人たる理由の一つが、本を開きながら指を鳴らすことで悪霊を出せることだ。言ってしまえば、本を媒介として口寄せできてしまうのだ。

 そんな悪霊たちを封じた本を大量に所持している。だからこそ、他人に渡すことも、ましてや捨てることができなかった。


 フェレスは、自分の身体よりも大きな鎌を担いで、にやにやしている。

 この程度のモンスターなら平気だろう、とレイジは甘く見ながらも構えた。


「言っておくが、このフェレス……ただの亡霊じゃ。火には極端に弱い」


 もし、レイジが本当に炎を使えるならば、このフェレスは取るに足らない敵である。

 先に仕掛けてきたのは、フェレスの方だった。大きく鎌を振りかざしながら、レイジに近づいてきた。


「“ファイア”!」


 レイジは、叫んだ。しかし、叫び声は、閑静な住宅街に空しく響いた。

 続いて、フェレスの攻撃。フェレスは、そのままレイジの首を狙って鎌を振った。

 レイジの首に傷。それでも、レイジはフェレスを狙って左手の拳を振るう。だが、身のこなしがいいフェレスには、素人のパンチなど止まって見えたことだろう。

 フェレスは、レイジの顎を狙ってキックを放った。レイジは、大きくのけぞった。それでも、フェレスが容赦なく襲い掛かってくる。


「確かに、俺なんかよりずっと適任だな」

 フォードは、フェレスの容赦ない攻撃に唸った。


「仲間やったら、どうしても情が出て追いつめられへんからなぁ」


「しかし、わしが呼び出せる悪霊の中でもかなり弱い部類なのじゃが……」


 一向にレイジの炎が出る気配がない。ファウストは、期待外れだったと言わんばかりのまなざしでレイジを見ている。

 フェレスの次なる攻撃は、黒い塊をぶつけるものだった。言ってしまえば、基本的な闇の魔法だった。

 レイジには直撃だった。黒いモヤのようなものが、レイジを取り囲み、心をむしばんでいく。


「フェレスもまともに倒せないようじゃ、彼はおじいちゃんに修業をつけてもらうなんて……」

 エマも失望しかけていたところだった。


 黒いモヤを振り払おうと、レイジはがむしゃらに腕を振る。しかし、フェレスの闇は深い。

 フェレスは、レイジに追撃。体のあちこちに鎌を突き立てる。レイジの悲痛な叫び声が響く。


「レイジはん、はよ撃つんや!」


「アザミ……黙ってみてろって。あいつは、まだ限界なんかじゃねぇ!」

 フォードは、したり顔でアザミの心配を振り払った。


「フォードさん、レイジ君は大丈夫なんですか……」


「もし、ここでレイジが死ぬようだったら……あいつはそこまでの男だった、というこった」


 庭に血が飛び散る。どれも、レイジのものだ。レイジは、すでに防戦一方。

 エマは、顔を手で覆った。この中でただ一人、フォードだけが、フォードこそがレイジの勝利を信じて疑わない。


 フェレスの鎌が、レイジの脇腹をズブリと突き刺す。レイジの悲鳴が、再びこだまする。

 相手は、ファウストの所持する最弱の亡霊。そんなヤツにすら負けていては、エルトシャンの背中は遠のく一方だ。

 自分で打ち立てた目標がとん挫すると思ったとき、レイジはヤケクソになって叫んでみた。


「くそったれえええええ!」


 火事場の馬鹿力が爆発。それを示すかのごとく、レイジの右手に炎の玉が現れた。

 フェレスは、急激に表れた炎に巻き込まれて、一瞬にして消え去った。

 レイジは、あまりの出血量に、思わず膝をついた。もう、力のすべてを出し切った。彼の安堵した顔が、それを物語る。


 ファウストの目にも、確かに見えた、レイジの拳の輝き。その目で確かめたのなら、もうフォードの言葉がウソだとは言えない。

 しかし、それでもファウストが打ち立てた理論に反する。ファウストは、苦虫でも噛み潰したような顔をしながら、悩んだ。


「分からんなぁ。魔力エネルギーもないのに、本当に炎を出しおった」


「それより、レイジはんの治療が先や! 考えるんは、あとでもできる」

 そう言ってアザミはレイジの体に手を当てると“キュアー”の魔術で治療に取り掛かり始めた。





「おじいちゃん……ひょっとして、彼……」

 そう言ってエマは、思い出したように書斎まで走っていった。


 しばらくして戻ってきた彼女は、ファウストに一冊の本を渡した。背表紙には、“魂の炎を燃やせ”とあった。

 ファウストは、それをひったくるように取ると、ぱらぱらとページをめくり始めた。


「おお、思い出したぞ。レイジ君じゃったな……お前は、確かに魔術のようで魔術じゃないものを持っておる!」


「な、言ったとおりだろ? コイツには火事場の馬鹿力があんだよ」

 フォードは、レイジの底力を証明できてからというものの、ずっと調子がよさそうだ。


「魔術のようで魔術じゃない。じゃあ、俺が持っているものって……」


「……キアイじゃ! あるいはド根性と言ってもいいかもしれん。精神を燃やしながら出す炎じゃ! 何度か本で読んだことはあったが、実物を見るのは初めてじゃ」


「気合が俺の魔法……!」


 ファウストは、いいものを見たと大喜び。レイジの炎は、奇跡ではない。それが分かっただけでも、レイジには強くなる道が開けたようなものだ。

 レイジが炎を出す一瞬、彼の心に眠る力……いうなれば精神のエネルギーが爆発しているのだ。ファウストは、本を読みながらレイジの特性をそのように考察した。

 全く素質がないどころか、完全に異質の特性。それを知ったファウストは、腕を組みながら一人うなずいていた。


「それで、レイジに出す課題じゃが……今の炎を一週間で千回出してもらう事じゃ!」


「い……! 一週間で千回も!」


 火事場の馬鹿力を千回も出す。今のレイジには無謀もいいところの課題。

 それでも、デズモンドを倒す事、エルトシャンを超える事と、それ以上に無理難題をこなそうとしている。

 それに少しでも近づきたかったから、彼にはやるという選択肢しかなかった……。


「名付けて、千本ファイアだぜ! もちろん、やるよな?」


 フォードに訊かれて、レイジはうなずいた。


「さて、レイジ君よ。千本ファイアに挑む前に、お前の意気込みを訊こう。何ゆえにお前は強くなりたいのだ?」


初めて感想をいただきました。毎度のことながら、読んでいただいて感謝です。

届く人に届けという思いを胸に、日夜燃えながら文章を練っております!

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