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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第3章 心折れそうな経験
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第18話 魔力のない男


 エマが掃除を始めてから二時間後、相変わらず老人の部屋は汚いままだった。

 長らく読んでいない本まで整理したため、ホコリが舞って仕方がない。


「……おお、その本じゃ。わしが今日読みたかったのは」


「読むなら、本を整理してからにしてよね!」


 エマは、老人から黒い表紙の本を取り上げた。老人は、ため息をついてうなだれた。まさか玄孫に「待て」を食らうとは思わなかったようだ。

 相当積み上げた本の中には、ただただ手に入れただけのものもあるらしい。そこまでして紙に執着する理由が、エマには理解できなかった。


「……で、こっちは捨ててもいいよね?」


「ダメじゃ! そっちは、そのうち読み返すかもしれん」


 老人の小言で、片付けが思うように進まない。しかし、この男の家、本以外のものは片付いているので、決して片づけられない男というわけでもない。

 一度は売ることも他人に譲渡することも考えたエマだったが、それを提案するたびに老人は今のように“読み返す可能性”を示唆してくるのだ。

 このままでは家が本でいっぱいになり、生活もままならなくなる。それを危惧したエマは、老人の了承もなく状態が悪くなった本を譲渡している。

 しかし、それでも減らした分だけ……いや、それ以上の勢いで、この家には本が増えている。誰も呼びたくない、とにかく恥ずかしい。そんな家の扉を、フォードたちが叩いた。



「ここがファウストの家でいいんだな? 俺たち、その爺さんに用があって来たんだ」


「いえ、違います。おじ……ファウストさんなら3ブロック東の家じゃないですか?」

 エマは、追い返すことにした。


「おかしいなぁ。地図じゃ、この辺りだって……」

 レイジが首をかしげる。


「それから、本に囲まれる生活が好きな爺さんって話だそうじゃねぇか。お嬢ちゃん、嘘はいけねぇぜ?」

 フォードは、縛ってまとめられている本の束を指しながら言った。


「それから、アンタ……ファウストはんの事を“おじいちゃん”って言いかけたやろ? アンタが孫娘なんはバレとるで」


「……見え透いたウソをお許しください。私は、エマと申します。ファウストは、私の高祖父なんです」


 このままウソを貫き通そうとしたエマだったが、アザミの目敏さに負けて、申し訳なさそうな顔で正直に言った。

 レイジは、スレンダーなお姉さんを相手に思わず赤面してしまった。色白で目鼻立ちが整っている美人に胸の高鳴りを覚える。

 日本ではテレビの向こうでしか見たことのないような人が、今まさに目の前にいるのだ。そんな彼女が、フォードたちを客間へと連れて行った。


「……汚いところですが、どうぞ」


 ファウスト氏の趣味が高じすぎたのか、平積みされた本の山があちこちにある。加えて、家具に全くこだわりがないようで、テーブルも椅子も安物で買いそろえてあり、統一感のかけらもない。

 客間だというのに、半分物置と化した部屋。いささかの飾り気さえもなく、レイジたちには居心地が悪かった。確かに、エマの言葉通り、汚い部屋に思えてくる。

 エマは、ファウストを呼びに二階へと上がった。彼女がファウストを連れてくるまで、レイジたちは話を始めた。


「それにしても、思った以上に変わりはった人やねぇ。どこ見ても本だらけや」


「そりゃ、120にもなる爺さんだ。この中には、思い出の一冊……なんてモンもあるだろうぜ」

 フォードは、山積みにされた本をぱらぱらとめくっていった。彼の持っている本は、今から40年も前に発行されたものだった。

 あまり内容を理解する気がなかったようで、フォードは分厚い本を一分足らずで元の場所に戻した。


「エマさん。はぁ……エマさん」

 フォードが二冊目の本に手を出そうとしたとき、レイジはため息をついた。


「お、おい……どうしたんだよ」


「あ、あんなに綺麗な人、初めてだなぁって」


「ま……マジか。あんなに捻くれていたお前が……なぁ」


 レイジは、病にかかってしまったのだ。それも、以前のレイジからすれば無縁だったものだ。

 助けられたところに素直に感謝もできないくらいに捻くれていたレイジを知っていただけに、フォードはレイジのその変化の速さに驚いていた。



「アンタ、あれは高根の花っちゅうもんや。振り向かせるんは……」


「その辺にしておけ。レイジは……本気だぞ」

 フォードは、腕組しながら言った。今回ばかりは、男としてレイジを応援したい。アザミに言われようと、固い意思は変わらない。



「あ、連れてきました。高祖父のファウストです」


「俺は、フォード。こっちがアザミとレイジだ」


「わしが、えーと……ファウストじゃ。で、君たち、何の用かね」


「ああ、コイツのことでよ……。ぜひ、アンタに魔法の修業をつけてもらおうと思ったんだ」

 フォードは、レイジの方を親指で指した。しかし、当の本人の視線は、明らかにエマに向いている。


「レイジはん、話はちゃんと聞かんと」

 アザミは、肘でレイジを小突いた。


「ほう、魔法の修業とな。それでわしを選ぶとは、フォワード君! 若いのに、なかなか目の付け所が鋭い!」


「フォードだよ。……で、どうなんだ? こいつに見込みはあるのか?」


 フォードにせかされて、ファウストはカッと目を見開いて、レイジの方を見た。

 まじまじと爺さんに顔を見られて、レイジは気味悪がった。それでも、今より強くなるためには、彼に師事するほかないのだ。

 しばらく視線を合わせていると、ファウストは急に驚きだした。


「……な、なんと!」


「どないしたんや、急に」


「この少年には、魔力なんてものは流れておらん。可能性はゼロじゃ!」


 ファウストは、言い切った。しかし、レイジは意図せずして炎を出したことがある。

 アレを魔法と言わずして、なんと呼ぶべきなのだろうか。


「……だとしたら、あの時に出た炎の魔法はなんだったんだろう」


「俺は、見たんだぜ……こいつがギリギリの土壇場で炎出したのをよ」

 フォードは、自分の目を指しながら言った。嘘など言っていないと、強気に出た。


「魔力エネルギーが流れておらんのに、どうして炎の魔法が出せようか! 若造よ、ウソをつくなら墓場までバレずに持っていくもんじゃぞ」


「俺がウソを言ってるってのか? だったら、レイジ……今ここで見せてやろうぜ!」


 急に言われたレイジは、うろたえた。コントロールが全く効かない炎。果たして、ファウストに証明できるのだろうか……。


毎度毎度読んでいただき感謝です。

もし、主人公レイジを気に入っていただけたら、と思います。

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