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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第13章 赤き戦士、再び
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第142話 ナーバス・トリップ

 カロイ・ラマからヴァレアーフの壁を回り込んで、先を進むフォードの一味。真夏のカンカン照りの中を突っ切り、進路を南南東へと取る。

 肌を刺すような日差しにも負けず、飛竜たちが大空を舞う。植物は、少ない水を求め、目いっぱい根を張っている。


 タズン島から最も近い港までは1600キロほど。順当よく行っても、三日以上はかかる距離だった。

 その道中、襲い掛かってくるモンスターたちを倒すレイジ。いずれも今の彼には相手にならないものばかりだったが、少しばかり違和感を覚えていた。


「こんなんじゃまだまだ……!」


「気迫は十分だけど、かなり力みがあるね。何か思うところがあるのかな?」

 アスクレーは、レイジに近づこうとした。しかし、後ろからフォードに肩を掴まれ、止められた。



「今は、下手な言葉をかけるな」

「フォードくん……」


「アイツの拳には、悔しさを晴らしてやろうという想いがこもっている」

 フォードは、神妙な面持ちで言った。


 思えば、この大陸に来てからというものの、レイジにとっては悔しい戦いの連続。

 VFマスク戦隊やカトルーアと死力を尽くしてディメテルを倒したまではよかった。その前は、エルトシャンとの再戦にも負けた。

 シバレーを離れ、ラージェストマーリン戦では無力さを感じる結果。復讐に駆られるエルフの子供にさえ、不意打ちを許す結末。


 さんざっぱらチームに迷惑をかけた。無用な血を流させたし、自身も流してきた。悔しくて悔しくてたまらない。その思いが、力みになっている。

 道中、同じようにモンスターを倒しては違和感を抱えたままのレイジ。強くなるため、一歩前へ進むための答えを見出せぬまま、港町にたどり着いてしまった。

 壁を越えてから倒したモンスターの総額は16万ルド程度。船旅をするには十分ともいえる金額。しかし、その額面にため息をつくのは、大蔵大臣でもないバハラであった。


「どうしたんだ、バハラ」

 フォードは訊いた。


「皆さん、ここで残念な話ですぞ」

「どうしたの、急に?」

 レイジは、優しい口調で訊いた。

「実はここ数週間、ジャンク・ダルク号には無理がたたり……」


 ディメテル戦以降、過酷な戦いを何度も経験してきたのは、このジャンク・ダルク号も同じ。

 それでなくとも、完成から十数年が経ったシロモノ。寿命も近かったのだろう。そもそも、バハラは長距離移動を想定して。これを設計したわけではない。

 ディメテル戦の潤沢な報酬で初めて、旅向けに改造しただけである。バハラは、労わるようにジャンク・ダルク号のボディーをなでる。


「ちょっとどころか、相当なメンテナンスが必要でして……」

「メンテには、どれくらいかかる?」

 フォードは、腕組しながらジャンク・ダルク号を見上げた。


「ぶっちゃけ、一カ月半はかかるでしょうなぁ」

「じゃあ、修業の件は……!」

 レイジは、血相を変えながら訊いた。


「中止する必要も理由もないよ」

 アスクレーは、なだめるような作り笑顔で言った。


「そうだぜ、俺たちは6人なんだ。3人ずつに別れりゃ、どっちもやれるだろ? 俺は、バハラの手伝いに残るぜ」

「そうだよな……」


「フォードさん。レイジさんのことは僕とアスクレーさんに!」


 ギュトーの提案に、フォードはうなずいた。

 レイジとしては平静を装ているつもりだった。しかし、わずかな顔色の変化を、フォードは見逃さなかった。

 タズン島でもフォードがいるものだと思っていたがための動揺。フォードは、レイジの背中をさすった。


「何も恐れるな、レイジ! お前は、俺がいなくたって上手くやれるぜ」

「アニキ……」

「何も無きゃ、修業にもなんねぇだろ。それと……お前なら、俺がいなくても十分にやってけるだろ」

「それも、そうかな」

 レイジは、自信なさげに返した。


「バハラ、アニキ、姐さん。ジャンク・ダルク号は任せた」

 任せろ、と言わんばかりにフォードは親指を立てた。


 タズン島へ行く船は、客船というよりは軍艦に近かった。

 四つのプレートの境目が島の下に位置することに加えて、天気も極めて不安定。並の乗客船では、近づくことさえままならないのだそう。


「レイジ、頑張ってこい!」

 フォードは、レイジの背中を押した。

 レイジとギュトー、アスクレーの三人は、船に乗った。レイジは、しばしの別れを惜しむように、ずっと船尾にいた。

 船は、うねりを伴った波を突っ切りながら進んでいく。普段であればこの揺れで酔いを感じるレイジだが、上手くいくかどうかの心配で酔うどころではなかった。


「大丈夫ですよ、レイジさん。フォードさんが、ああ言ったんですから」

 ギュトーの言葉に、レイジは憂鬱そうにうなずいた。それからレイジは船室へと戻った。

 船の旅は、思うより長く退屈なものだった。三日三晩、大海原を進み続ける。


 朝焼けの海、西のはるか遠くにガレオン船。その帆には月と太陽とドクロがあしらわれており、海賊団だとすぐにわかった。

 この海賊船は、三つの船頭を持っているフリゲートである。レイジたちが乗っている船よりも、いくばくか大きい。数百人単位の戦力がいることは、一目で推測できる。



 その船長室での出来事。航海士の男が血相を変えて入ってきた。


「エイヴリー船長! 本当にタズン島にジオ・グローブなんてあるんですか」


 船長室は海賊らしく宝箱が積み上げられており、船長の玉座の後ろには天井まで届くワインセラーがある。

 玉座に浅く腰掛け、両肩に女を抱いている男こそがエイヴリー船長。酒と女とロマンが何よりの好物な男である。

 エイヴリーは、宝箱にかかとを乗せて、不気味に笑った。


「その話は何回目だ? 俺の言葉を疑ってるのか?」

 エイヴリーは、マスケット銃を航海士に向けた。航海士は、ゴクリと唾を飲み込んだ。

「いや、別に……」

 航海士は、他に何か言いたそうな感じだったが、ぎらついたエイヴリーの目に負けた。


「お宝があると信じて旅するのが海賊ってもんだろ」

 エイヴリーは、自分の胸にでっかく刻んだ海賊旗を指さしながら言った。


「次なる目的地はタズン島。ずっと前から決めていたことだ」


「それと、そこの女!」

 エイヴリーは、一気に開けたラム酒の瓶を女に投げた。指名された女は、何食わぬ顔でかわした。

 彼女の顔につけられたいくつもの宝石が、ギラリと輝く。さらに、彼女は口元を拳で押さえる。


「……お呼びで?」

 濃いアイシャドーに囲まれた青い瞳が、エイヴリーを捉える。

「“お呼びで”じゃねぇんだよ! てめぇ、本気で俺の女になるつもりねぇだろ!」

 エイヴリーは、声を荒げた。


「ふふ……アンタも、同じ話を繰り返すのが趣味なんだね」

 女は、エイブリーに悟られないように口元を隠した。

 エイブリーも、同じ態度をとってやろうと、女の冗談を鼻で笑った。


「抱かれる気がねぇなら、それでも構わねぇが……ひとつだけ」

「何か要求でも?」

 女は、流し目で訊いた。


「……せめて、海賊旗を背負うくらいのことはしてほしいもんだ」


 確かに、この船にいる者は、エイヴリーを含めタトゥーか上着として、海賊旗を掲げている。

 しかし、彼女だけは、新聞紙柄のチューブトップにデニムのショートパンツ、花柄の網タイツ。海賊らしくない格好ならまだしも、どこにも海賊旗を掲げている様子がない。


「俺は、大抵の女は好きだ。だが、俺にも好き嫌いはある」

 エイヴリーは、胸に大きく刻んだ海賊旗を親指で指した。


「この海賊旗に誇りを持てねぇってんなら、降りてもらうぞ」

「アタイは、いつでも降ろしてもらっても構わないけど?」

 女は、勝ち誇ったように笑った。


「誇りを持てねぇどころか、とんだ尻軽だな。それとも、ただの二枚舌か?」

「さぁ? ホントに二枚舌なのは、どっちだろうね?」


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