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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第13章 赤き戦士、再び
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第141話 情熱チリユク

 ディメテルを倒し、シバレーを出たフォードの一味は、医者を求めてカロイ・ラマへ。

 その途中、ゴレイユ荒野において、ラージェストマーリンと交戦。その後、砂漠を超えてイリアーフへ。だが、レイジとバハラは、ニンゲンを特に忌み嫌うエルフの組織・アンチサピエンスに捕まってしまった。

 フォードは、種族の壁を超えて結成された冒険団・ボーダレスと、先のラージェストマーリン戦で大活躍のバルディリスらと手を組み、レイジを救出。


 救出された後、カロイ・ラマで治療を受けたレイジとバハラ。二人の担当医となったカーダの腕を買い、仲間に勧誘するがカーダはこれを断り、代わりにアスクレーへの紹介状を渡した。

 カーダの兄弟子であり、冒険王の仲間に師事していたアスクレーは、かねてよりフォードの一味に興味を持っていたことを明かす。そして、彼らとともに冒険する道を選んだ。


 この過程において、力不足を痛感したレイジは、さらなる修業を決意。その場所としてうってつけなタズン島を目指すのであった。

 そして、その彼を狙うべくデズモンド社が再び動き出す。それも、娘のコレスの仇討ちの想いを巻き込んで――。

 7月某日、赤道付近のとある孤島。

 ルベールとアズールの前には、見たこともないような生物が二体。無数の触手が集まってできたような左腕、無数の右目。筋線維むき出しのような上半身が特徴の生物・パンプクルス。

 もう一方は、巨大な腹に炎のような模様が入っているのが特徴の火属性の生物・魔人ファーレン。


 そして、その後ろには、病的に白い青年・マイスと異様に肥った女・コレス。

 2vs4の状況下、数の少ないルベールたちはダメージを負いながらもなお、立ち上がる。


「“アクア・スラッシュ”!」

「“フレア・ウィング”!」


 蒼と赤、水と炎。二つの斬撃がモンスターに向かって飛んでいく。

 しかし、魔人ファーレンの前には無力。水を伴った斬撃は蒸発。炎の斬撃を腹で受けてなお、平然としている。


 さらに、パンプクルスの左腕の触手が、ルベールたちの腕をからめ取る。

 ルベールは、アズールに目配せした。


「俺なら構わん」

「っしゃあ!! 全力で行くぜ!」


 ルベールは全身にグッと力を込めた。彼の周りを灼熱の炎が取り囲む。

 触手が一本、また一本。アズールをも巻き込みながら、触手が焼き払われていく。

 二人が自由になったところで、パンプクルスは触手をひとまとめにして巨大な拳を作った。


 ルベールは、大剣でそれを受け止めようとした。しかし、ジワジワと押され、最後には岩盤に激突。

 彼が踏ん張った跡は、まるで電車道のよう。


「な、なんて強さだ……」

「ふふふ……」

 マイスは、勝ち誇ったように笑った。その小馬鹿にしたような顔に腹が立ち、ルベールは思わず舌打ちした。


「何を嗤ってやがる!」

 ルベールは、いきり立ってパンプクルスに突撃した。大剣を大きく振りかぶって、豪快に一振り。

 だが、やはりというべきか、触手がからめ取ってくる。そして、大剣ごとルベールを振り回した。

 その力は強く、まるでレーザービームの如くルベールは岩盤まで投げ飛ばされた。


「なぜ、俺たちを執拗に狙う?」

 アズールが訊けば、コレスはファー付きの扇で口元を隠しながら笑った。


「それは、あなたたちが一番ご存知でなくって?」

「質問に質問で返しやがって……!」

 ルベールは、大剣を杖がわりに立ち上がった。


「察しの悪い男は嫌いだわ」

 ため息交じりにコレスは言った。それから、指を鳴らした。

 苦し紛れに出したルベールの炎を、一本の樹が受け止めた。その樹は、決して燃えることなく……。


「こ、この樹は! まさか……」

「そう。私は、あのディメテルの娘。どうしても仇を取りたくって、こうしてあなたたちの前に現れた」

 コレスは、拳を震わせた。


「次は、あの死神女。そして、最後は……」


 最後はフォードの一味、と言い切る前にルベールは走り出していた。

 魔人ファーレンの吐く炎をその大剣で振り払いながら、コレスへの接近を試みた。


「ルベール、早まるな!」


「殺れ、魔人ファーレン!」

 マイスが右手を前に突き出すと、魔人ファーレンの腹から火球が飛んできた。

 その火球にルベールは押された。フォローに回ったアズールも、その火球の威力を相殺することはできず……


「ここで我らデズモンド社と貴様らの明確な差を見せてやろう」



「あなただけは、楽に死なせない。“ヤング・ユグドラシル”!」


 ルベールたちの前に現れたのは、飛竜の形をした植物であった。かつて、カトルーアやレイジたちと共に総力を結集して倒したモンスター。

 大きさこそ、あの日のホンモノには及ばない。だが、小さいながらも、そのスピードは健在。

 そのユグドラシルの子供が、魔人ファーレンの炎をその身に浴びて、ルベールたちに何度も突撃する。



「ほら、立ち上がれよ……それがVFマスク戦隊の力なはずないだろ」

 マイスは、ルベールを見下し、毒づいた。鼻で笑ってもみた。


 パンプクルスの左手が、無理やりにでもルベールを立たせる。無数の右目が、威圧感たっぷりに睨んでくる。

 とても自然界に存在するとは思えないキメラの姿に、ルベールの口元が震える。


「“ファイア”」


 少しでも臆すれば、負け。いつもの力は、出ない。

 苦し紛れの抵抗も、出来なかった。パンプクルスの触手が放つ、拳の嵐に撃たれっぱなし。


「ルベールを離せ……!」

 アズールは、よろよろと立ち上がりながら、左手に刀を構えなおした。

 だが、彼も彼で、力をそれほど残していない。重さに振り回され、泳ぐような剣筋では、パンプクルスの触手を切ることもできない。


「まだ抵抗するか。これが、我らデズモンド社の力と思い知れ!」

 マイスの左手の文字が妖しく光っては(うごめ)いた

 彼の手のひらから、光線のようなものが射出された。ルベールをかばおうと出てきたアズールだったが、無意味だった。

 アズールの右肩を貫き、さらにルベールの左腕をも射抜いた光線。


 さらに、魔人ファーレンの腹が大きく開くと、そこから火球が飛んできた。

 その火球が通れば、周りの植物をも焼き尽くし、岩肌をも融かす。それほどの熱を持った一撃がルベールたちに直撃。

 爆発に巻き込まれ、あえぐ二人に憐憫のまなざしをくれてやると、マイスはクルリと背を向けた。



「コレス。何かの間違いだったのではなかろうか」


 あまりにも簡単にいたぶることが出来たので、マイスは訝しんだ。

 しかし、コレスは首を強く横に振った。


「ルベールじゃないとすれば、残った三人の仲間やフォード。あるいは……」

 コレスは、ノートを開いた。そのページには、母親(ディメテル)が敗れた日の記事の、彼女を倒した者たちの写真が貼られていた。

 そのページにある、ルベールとアズールの写真に×印を入れた。


「カトルーアだな。勇者の一味なら、可能性はあっただろう」


 マイスとコレスは、次なるターゲットを求め、去っていく。

 動く力も残っていないルベールは、かすれた目でその背中を追うしかできなかった。

 いつかリベンジを――そんな気力すら出せぬまま。





 場所は変わり、シバレーの工業地帯にあるVFマスク戦隊の秘密基地。その地下室。

 リュイの目の前には複数台のコンピュータ。そして、そのコンピュータに繋がれているのは、巨大なドラゴンのような形をした戦闘機だった。

 レッドセラフィムに次ぐ、新しい飛行戦力。その開発をリュイは急いでいた。今日も今日とて、キーボードを叩く音が地下室にこだまする。

 その作業の傍らで、彼は左肩で挟むようにVフォンを耳に当てていた。


「どういう事だ……!」

 リュイの左耳には、呼び出し音だけが虚しく届く。


「Oh! ミスターリュイ。ランチタイムなのに来ないと思ったら、ここでしたか」


 作業現場にアギアスが入ってきても、リュイは全く気付いていない。

 リュイは、一度Vフォンをかけ直した。しかし、それでも呼び出し音だけが聞こえることに変わりはない。


「ミスターリュイ!」

「ちょっと、リュイ。()える料理が冷めちゃうってば!」

「そうですよ、リュイさん。ここは少し、休憩なさいませんか?」


 メレとサクラまで降りてきた。サクラの提案で、リュイはキーボードを叩くのをやめた。

 リュイは、椅子をくるりと回すと、ゆっくりと立ち上がった。


「ああ、すまない。心配かけたな」

 リュイは、大きく背を伸ばした。それから、階段を上がった。

 すでに他の三人は食べたらしく、テーブルにはカレーが一皿だけ。色とりどりの野菜がゴロゴロ入っているカレーに、リュイは恍惚のため息をついた。


「ね、映えるでしょ!」

 メレは、誇らしげに笑った。新兵器の開発を始めてから偏った食事ばかりしているリュイを気遣って作ったものである。

 見た目的にも栄養的にも嬉しい、この一皿。メレの優しさを噛みしめるかの如く、リュイはゆっくり食べる。


「ああ、旨い」

 何度もうなずくリュイの顔を見て、メレはガッツポーズ。


「そうだ。トークテーマ、チェンジしても?」

「何? どしたの?」


「先ほどはミーが呼んでも、ノンノティス。何かバイヤーな事でも?」

「ああ。何度かけても、ルベールが応じない」

 スプーンが止まった。リュイは、頭を抱えた。


「それ、やばたにえんじゃん!」

「普段はすぐ応答してくださるのに……。何かあったのでしょうか?」

 サクラは、Vフォンを胸の前で抱きしめた。


「よほどのことがあった。そう考えるべきだろう」


 リュイは、パプリカの素揚げをフォークで突き刺した。そして、それを勢いよく口に運んだ。

 イマイチ飲み込めない現実に、メレの唇が震えた。彼女の視線の先にはコートハンガーにかけられたルベールの上着。彼が修業に出かける前、「戦隊のリーダーとしてではなく、ルベールとして修業する」と言って掛けたものである。


「ルベール……」

「Oh……いつになったら、6人で戦えるのやら」

 アギアスも、ルベールの上着を見てはため息。


「アギアス。その6人での初陣、覚悟しておけ」

 リュイの諫言に、アギアスは唾を飲み込んだ。


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