EP11 東と旅立ちと7人
ソメイ親分率いるハナノメ組を倒した報酬は総額2100万ルドであった。
その報酬のほとんどは、キリュウとミカミの意思により、ハナノメ組の被害に遭った市民たちへの補償にあてられた。
このニュースは、ザポネを超えて海の向こうへと伝わるところとなった。
抗争から二日後、帝都のとある病院。その一室。
ようやくユナの目が醒めた。
「あ、あれ……アタイは?」
「ああ、よかった……!」
ミカミは、涙ながらにユナの両手を包んだ。
その感動の声が病室の外でも聞こえたようで、キリュウ達も入ってきた。
「……ここ何ヶ月かの記憶がないわ。確か、ハナノメ組の男に襲われて……」
ユナは、頭を抱えた。
「マガツとかいう男に洗脳を受けていたみたいっすよ」
ミカミは、外で起こっていたいきさつをユナに話した。
「もう、戻るのは無理そう」
ユナは、夜の街でナンバーワンを獲った栄華に、想いを馳せた。
彼女が艶めかしいため息をつくと、キリュウは目の前に手を差し伸べた。
「もし、アレだったら……俺と来るか?」
「アンタら、アタイを分かってて誘ってるのかい? 仮にもアタイは夜の女だよ?」
ユナは、キリュウの手を振り払った。
「んなの、俺らの知った事じゃねぇよ。ハナノメ組倒さなきゃ、お前を路頭に迷わせることもなかったから、こうして……」
責任を取るつもりだった――そう言おうとしたが、ユナは食い気味に口を開いた。
「二十歳に満たないくせに、女の扱いを少しは分かってるじゃない」
キリュウは、少し誇らしげに鼻を鳴らした。
「来るか? 俺たちの冒険団に。それも、全員何かしらのコンプレックスを抱えてる、“風変わり”な集団だけどな」
コンプレックスも風変わりも、誇りとして名乗ったキリュウ。
ユナは、口元を抑えて笑いをこらえた。
「前言撤回。やっぱり女心くすぐるの下手だね。顔と体格がいいってだけでモテた……そんな感じじゃないかい」
「仕方ねぇだろ。大人の女を口説くの初めてなんだからよ」
キリュウの唇がへの字に曲がる。交際経験こそ多数あれど、勝気な年上の女だけは苦手だった。彼の母がヤンママで、気が強すぎたのが原因である。
責任を果たせないと分かると、途端にキリュウは頭をがっくり落とした。それでも、ユナは変わらず笑っていた。
「でも、アンタについていくのも悪くはないけどね。アンタがアタイを本気で気にかけていたこと、おぼろげだけど覚えてるよ」
「じゃあ……!」
キリュウの目が急に輝いた。
「責任取るんだろう? アタイも連れてっておくんな」
ユナははにかんだ。キリュウは、たまらずガッツポーズ。
キリュウ一派に新たな仲間。夜の街の元ナンバーワン・ユナの加入を祝って、この日はちょっとしたパーティーとなった。
◆
数日後、ユナが退院した。
「で、目的のハナノメ組の親分討伐も終わった事ですし……これからどうしやしょう?」
「そうだな……ザポネの外に出てみねぇか?」
キリュウは、ドヤ顔で言った。自分たちは冒険団だから――そう思えばこその言葉だった。
それに、彼だけは地球人。カルミナの事をもっともっと知りたい。探求心は、留まるところを知らない。
「私、賛成」
「拙者も行きたい。誰が相手であろうと、臆することなく会話ができる勇気と技術が欲しい」
「アンタが望むなら、アタイはどこへなりと。西かい? それとも東かい?」
「東だな。理由は、何となくだ」
「お、オデも海外の技術には興味があるど。だども……」
四人の視線がダーレンに向かった。
「何か心配事でもあんのか?」
キリュウは、神妙な面持ちで訊いた。
「ザポネより東には、奈落があって……」
「そんな事、行ってみなきゃ分かりやせんよ」
ミカミは、ダーレンの背中をさすった。
「行かなくても分かるだろ。世界は丸いんだよ。ガキでも知ってる常識だ」
キリュウは、ダーレンの杞憂を鼻で笑った。
「じゃあ、もう東に行くって事でいっすよね? だったら、船がいりやすね」
ミカミ曰く、ザポネはカルミナの極東に位置する島国である。
東西南北どこだろうと、ザポネを出たけりゃ船は必須となる。
「ミカミ、ここから一番近い東の陸地は?」
「エデンの島じゃないすかね。まともな街、って意味ならメルドベラになりやすが。いずれにしても、かなり長期の航海になりやす」
ミカミは、世界地図を広げた。そして、指で航路をなぞる。
ザポネ国外で最も近いエデンの島ですら3000キロ。メルドベラに至っては、赤道を超えて6500キロほど。
「長い海の旅か……」
「何だか、海賊みたい」
ランがボソッと呟くと、キリュウは高笑いした。
「何度も海難事故に遭うような海賊なんて、ゴメンだろ」
「縁起でもないこと言わないでくださいよ」
ミカミは、冗談を笑い飛ばした。
そうしてたどり着いた帝都の港。一隻のガレオンとともにユラヒメとリャンソーが待っていた。
「リャンソー、ユラヒメ! 元気そうじゃねぇか!」
「おお、遅いぞ。待ちくたびれたぞ」
ユラヒメは、へちゃむくれになって言った。
「すまねぇな。ちょいと仲間の回復を待ってたモンでよ」
キリュウは、苦笑いして何とか機嫌を取ろうとした。
「ああ、そうだ。先日は力を貸していただいて、あざっした!」
ミカミは、頭を下げた。そして、キリュウの頭を無理やり押した。
「まぁ、良い。それで、お主らに頼みたいことがあるのじゃが……」
ユラヒメは、リャンソーに目配せした。
「実は、キリュウさんたちの事が少し気に入ったもので……」
「連れてけ、ってか。俺らが断れるわけねーだろ」
リャンソーは、喜びに打ち震えた。
願ってもみない六人目の仲間は、船乗り。肩がすれ違った程度の縁ではあるものの、それでもキリュウを選んだ。
「で、キリュウ一派最初の仕事だが……」
「大将の頼みとあらば、どこへなりと船を出す所存! 目的地は?」
「とりあえず東へ」
そう言ってキリュウは、船へと乗り込んだ。