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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
外伝3 花の都のリーゼント
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EP10 一騎打ちとニッポン男児

 マガツと一騎打ちになったミカミ。マガツの隣には、ずっと助けたかったユナの姿があった。

 ユナは、右の袖を軽くたくし上げ、短刀(ドス)を逆手で構える。


「随分とドンパチ騒がしいと思えば、またアンタたちかい」

「どうも、ウチのダンナが、アンタを心底気に入ったもんでね」


 ミカミはため息交じりに言った。確かに、ユナは妖艶でスタイルもいい。だが、ミカミの好みからかけ離れているらしい。

 それでも、チームリーダーが助けるとあらば――ミカミは、鼻を鳴らした。


「女は下がれ……」

 マガツは冷たい口調で言った。


「だったら、親分の戦いぶりを見ることにするよ」

 そう言って、ユナは部屋を後にした。


「カッパ大明神」

 マガツの札から、武装したカッパのような生物が現れた。


「まずは軽めの召喚ですかい。じゃ、俺も……ブルズ天王!」


 ミカミも、軽めの挨拶。

 両者が出した式神は、がっぷり四つで組み合った。


「“ヒノエンマ”!」


 その名前で、ミカミの背筋を逆なでするように電流が走った。

 そのネームバリューとは裏腹に、幼い顔の女の子の姿が現れた。まるで、ミカミの好みを的確に突いているかのようだった。

 ミカミは、何度も首を横に振って邪念を振り払う。


「これはヒノエンマ。これはヒノエンマ! これは……!」

 ミカミは、奥歯に力をグッと入れた。そして、童顔のヒノエンマにグーパン。

 すると、ヒノエンマは、醜い龍のような女の姿に早変わり。


「いでよ、センジュ童子!」


 ミカミは、目の前のヒノエンマを睨みつけながら新しい式神を出した。

 センジュ童子の無数の手が、ヒノエンマに絡みつく。それでも余った手で、文字通りタコ殴り。


「出でよ、“天龍大御神”!」


「強くなったのは、大将だけじゃない……そう言いたげだね」


 ユナは、後ろからミカミを刺そうとした。しかし、センジュ童子の腕が、ユナの手から短刀を引きはがす。


「俺だって、臥薪嘗胆の一カ月を過ごしたんすよ。ダンナが気に入ったアンタをどうしても助けたくて、ね」

「馬鹿言っちゃいけないよ。アタイは、組じゃなくて親分に見初められ、致し方なく……」


「目、虚ろになってやすよ?」

 ミカミは、ユナを流し目で見た後、軽く口角をあげた。


「戯言も、それくらいにしろ」


「ファイヤー!」

 ミカミが叫ぶと、龍も吠えた。ヒノエンマも、負けじと炎を繰り出した。

 両者の出す熱波で、マガツもミカミも吹っ飛んだ。


「“ウシワカ明王”!」


 マガツの札から出されたのは、無数の武器を持つ牛の顔を持つ怪物だった。

 そのウシワカ明王から出される気迫を、ミカミはビリビリ感じ取っていた。間違いなく、奴らの切り札だろうと。


「“アウン羅刹”!」


 こちらも切り札で応じるべく、ミカミも大技で対抗。

 二体の厳つい仁王像のような怪物が、彼の後ろに現れた。


「行け!」


 まるで、鏡に映したかの如く一糸乱れぬ動き。ウシワカ明王は、無数の武器でいなすだけで精一杯。

 アウン羅刹が相手の脛を斬りつけると、ウシワカ明王は怯んだ。

 片方がウシワカ明王を止めている間に、もう片方がマガツを斬る。

 圧倒的なコンビネーションの前に、マガツたちは無力であった。


「が……はっ」

 マガツがダウンした瞬間、ユナの目の色が変わった。


「う……ウソ?」

 ユナは、気を失ったように倒れた。



 桐の花を背に交錯する刀とリーゼント。この日のために、イロハが考えてくれたキリュウ一派の紋章だ。

 ここからは、誰にも邪魔できぬ大将戦。キリュウは、額の汗を拭った。それからマント代わりのトレンチコートを脱ぎ捨てた。

 ソメイも、着流しの左肩をはだけさせ、刀を構えた。


「小僧、何があっても卑怯だ何だと喚くなよ……?」

「あらゆる手を尽くしてでも、勝つ……それが漢の真剣勝負ってモンだろが!」

 日本のヤンキーは吠えた。


「その心意気に応えねば、俺が恥をかくようだな」


 ソメイのその言葉を最後に、陣幕の内側は静寂に包まれた。隔絶された一騎打ちの舞台は、外界の喧騒の比ではないほどに緊張感に満ち満ちている。

 お互いにジリジリと動き、間合いを確かめる。額に汗することも許されぬ緊張が、数分間続いた。

 互いの呼吸の音さえ聞こえる中、キリュウが唾を飲み込んだ。


「貴様は、何を賭けて刀を振るう? 正直に答えよ!」

 ソメイは、キリュウの刀をはじき落とした。


「この、日本の血の誇りに賭けて!」


 キリュウは、落としかけた刀を左手の逆手持ちで持ち直し、ソメイの刀をはじいた。

 流れるような刀さばきで、次から次へと来るソメイの斬撃をいなす。


「はああああぁッ!!」

 ソメイの渾身の衝撃波。キリュウは刀を斜めに構え、同じく衝撃波で対抗。

 親分の気迫の前に、キリュウは吹き飛ばされた。ソメイは、立ち上がろうとするキリュウに刀の切っ先を当てた。


「ニッポンだと……? 知らぬ世界の誇りを掲げて何になる」


 自分より一回りも小さい男に軽くあしらわれている。ここまでは、5月と変わらない。

 ダルマのような顔ににらまれ、キリュウもにらみ返した。


「わざわざ、死ぬために戻るとは……愚か者だな」

「……ガフッ!」

 ソメイは、キリュウの腹を目いっぱい踏みつけた。全体重を乗せられ、キリュウはせき込んだ。

 腕に力が入らず、キリュウの左手からムロト丸が落ちる。


「ヤクザに喧嘩売って、タダで帰れると思うなよ。おい!」


 ソメイは、天井に向かって誰かを呼んだ。すると、隠れていた忍者が姿を現した。

 その忍者は、手裏剣を飛ばしキリュウを追い詰める。手裏剣で畳に磔にされたところに、紫色のクナイで斬られる。毒々しいその刃に、キリュウは青ざめた。


「ランッ!!」

 キリュウは、力の限り声を張った。


「血迷ったか」

 ソメイは、渾身の叫びを鼻で笑った。それから、刀を大きく振りかぶる。


 キリュウの叫びは、届いた。

 弾丸が、ソメイの左手をかすめる。ソメイの手から、刀が堕ちる。


 さらに、もう一発。

 今度は、忍者のクナイをはじき落とす。


 三発目は、忍者の眉間。忍者は、一撃でノックアウト。

 陣幕の内側、影しか分からぬ状況での狙撃。ソメイは、敵ながらその精度にうなった。キリュウは、その一瞬の隙を突いた。


「うらぁ!」

 キリュウは、脚を上げてソメイを蹴飛ばした。

 丸太のような脚で蹴られ、ソメイは陣幕に衝突。ソメイは、恨めしそうにキリュウを睨んだ。ダルマのような顔は、今のキリュウにとって怖いものでもない。


「貴様……!」

 ソメイは、歯ぎしりしながら立ち上がった。


「……何があっても、卑怯だとほざくのはシャバい。そう言ったよな?」


 キリュウは、刀を構えなおした。今度は両手で構え、豪快に一振り。

 床をもえぐるほどの衝撃波。ソメイは、踏ん張り切れずに、陣幕に背中を叩きつけられた。

 ソメイは、すぐに立ち上がり、額に青筋を浮かべる。


「ニッポンの男というのは、かくも狡猾な者ばかりか」

「あらゆる手を尽くしてでも勝つ……俺は、そう言ったぜ? それと……」


「お前は知らねぇけどな、日本は刀の国……サムライの国だ!」

「今度は、どんな構えを見せる?」


 三度、構えを変えた。今度は、右手だけで刀を持ち、フェンシングの要領で構える。

 ここからは己の技で。その思いが、キリュウの構えを変えたのである。


「“風裏銃《フーリガン》”」

 踏み込んで突きを繰り出せば、真空の弾丸が飛び出してきた。

 しかし、ソメイは小柄な体で軽くかわす。


「ハナノメ秘奥義……“夢幻桜”!」


 ソメイは、何度も刀で無限大を刻む。そのたびに、桜吹雪が吹き荒れる。

 花びら一枚一枚が鋭い刃となりて、キリュウの袴を切り刻む。

 キリュウは、何度も刀を振るうが、桜吹雪はひらりひらりとかわしていく。

 やがて花びらが一か所に集まり、一枚のしなやかな刃となって宙を舞う。キリュウは、それを睨みつけた。


「今こそ、あの修業の成果を……!」


 キビルの島で苦心して得た、ひとひらの紙を斬る繊細な技。

 ヒラヒラと舞う巨大な花びらに照準を合わせ、スッと刀を当てる。その先は、力など不要。

 一枚の花びらの刃は、儚く一刀両断されたのであった。


「“龍王一閃”!」


 今度は十字を切り、無限大を斬る。最後に目いっぱい踏み込んで突きを繰り出せば、巨大な真空の弾丸が誕生。

 真空の弾丸は、龍のように吠えながら、ソメイを巻き込んだ。


「ザポネに蔓延る悪をッ! 成敗!」

 最後は、日本で名をはせた剣道の構え方。

 真横に振り抜き、がら空きのソメイの胴を切り裂く。


「またしても……日本の血に負けるというのか……!」

 キリュウの中に眠る侍の心が、ソメイを切り伏せた。


 さらに、もう一振り。初めてキリュウが振るった時と同じ威力の突風が吹き荒れた。

 陣幕も壁も、何もかもを吹き飛ばす颶風(ぐふう)。その勢いに乗る形で、ソメイが屋敷の外に飛ばされた。


「親分!」

 戦場のド真ん中に降ってきたソメイの周りを、無数の子分が取り囲んだ。


「よ……四年ぶりに、ニッポンの血に敗れた」

「親分、これ以上喋らないでください!」

 ソメイを抱える子分の手のひらには、血がベッタリ。声がうわずっており、今にも泣きそうだ。


「あの日は、ユリアなる女に知恵で逃げられた。だが……力でやられたのは、初めてだ」


「その者を捕えよ!」

 ユラヒメの一声で、ソメイは捕縛された。

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