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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
外伝3 花の都のリーゼント
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EP4 無口と陰キャ

「堂々と“工面する”なんて言った手前、何かいい考えでもあるんすか?」

「冒険団を結成する。そしたら、クエストなんてのが受けれるらしい」


 キリュウは、ヲタク文化に詳しかった仲間との話を思い出していた。彼曰く、どこか遠くの世界に飛ばされりゃ、まずはギルドでクエストというのが相場らしい。

 このカルミナを地球とは異なる遠くの世界とすれば、このファンタジーに乗る価値は大いにあるだろう――そう判断して、キリュウは大マジメに切り出した。しかし、ミカミは、糸目でキリュウを見つめては呆れていた。

 冒険団とは、この世界でもなかなか安定しない仕事。よほどのコネが無い限り、これで稼ぐのは難しい。ミカミのイヤな予感は、失敗することだけではない。



「ダンナ、もしやとは思いやすが……」

 ミカミは、上目遣いでおそるおそる聞いてみた。


「もちろん、冒険“団”だからな。お前にも来てもらうぞ」

「ですよねぇ……」

 聞くんじゃなかった、とミカミは(こうべ)を垂れた。


「この三週間で二万ルド……それと仲間だ。少なくとも、あと5人は欲しいところだな。特に、隠密行動できるヤツと狙撃手だ」

「分担作業ですかい。ダンナが“くえすと”なるもので稼いでいる間に、俺が仲間の目星をつける……と?」

 キリュウは、うなずいた。

 捕らぬ狸の皮算用にしか聞こえなかったので、ミカミはため息をついた。


「まあ、善処いたしやすが……。帝都の方がいい仲間を集められそうっすけど」

「ちょっと難しいな。敵地だぞ?」

「……言われてみれば」


 帝都は、ここよりさらに東。ザポネ一番の街ではあるが、ハナノメ組の本拠地でもある。誰が彼らの息がかかった者か、分かったものではない。

 したがって、仲間を募集するならば、帝都より400キロほど離れたこの場所の方が向いている。キリュウは。そう考えたのだ。


「何はともあれ、まずはギルドっつー場所だ。それらしいところは、あるか?」

「それなら、大衆食堂“ろまん屋”がいいかと」


 その途中でキリュウは異変に気付いた。


「さっきから、気配を感じる……」

 キリュウは、立ち止まった。辺りをキョロキョロ見回している。

「どうしたんすか、急に。慣れねえ旅で疲れてるんじゃないすか?」

「いや、気のせいとかじゃねぇ」

「ま、まさか……」


 バレた。背筋が凍った。

 昨日の船のなかに、ハナノメ組の構成員かスパイがいた。そうとしか考えられなかった。


「そこ!」

 交差点の対角線上のビル。その企業看板の陰から、銃口が見え隠れてしている。

 キリュウは、歩道橋を駆け上がりビルを見上げた。観念したのか、狙撃手がビルから飛び降りた。

 二人は、慌ててビルの真下へと向かおうとした。しかし……。


「……!」

 狙撃手は、茂みのなかへと姿を消した。


「ちょっと! 女の子に飛び降りさせるなんて、どういう了見っすか!」

 ミカミは、キリュウの肩を強く揺さぶった。


「大丈夫だ。ありゃ、自殺の飛び方じゃねぇよ」

「確かに、少しのためらいも無かったっすけど」


 ミカミは、彼女が飛び降りたであろう場所をくまなく探した。しかし、交差点に狙撃手の気配はない。


「ミカミ、道じゃねぇ! 百貨店だ!」


 漢字の丸を四角で囲ったロゴが特徴の“かどまる百貨店”。その入り口付近に、キリュウは銃口の気配を感じた。

 ミカミの腕を引っ張り、キリュウは百貨店の中へと入っていった。この日のかどまる百貨店も大盛況。

 レストランを覗けばオムライスやとんかつ。オモチャ売り場にはブリキの人形が並ぶ。どれも、ザポネ人にとっては目新しいものだ。

 狙撃手を捜しているうちに、ミカミとキリュウははぐれてしまった。


「くそ……どこだ!」

 キリュウは、あたりを見回しながらエスカレーターを駆け上がった。

 三階にある婦人服売り場。和服が三割、洋服が七割といったところか。しかし、売っている洋服はいずれも、よほど体型に自信がないと着られそうなデザインばかり。

 このエリアだけは、額が他より一桁も二桁も違う。庶民にとっては手が出しづらく、閑散としていた。

 黒髪のマネキンにまぎれて金髪がひとつ。キリュウが睨みを利かせると、金髪が動いた。


「ぁ……ヤバ」

 ミディアムのワンレンが、フワッと香った。

 逃げようとしたが、キリュウに肩を掴まれて阻まれた。


「お前、名前は? 歳はいくつだ」

「ラン、22歳。ハナノメ……」


 すべて言い切る前に、キリュウは刀をランの首にピタリと当てた。

 ランよりも、ミカミのほうが慌てている。これ以上彼女にに苦しい思いをさせるのか、そう叫ぼうとした時だった。


「…………!」

 ランは、刀身を左手の人差し指と中指でつまむと、軽くひねった。

 自分より頭一つ大きい男が、空中でグルっと一回転。売り物を巻き込んでキリュウの背中が打ちつけられた。

 それから、ランはすぐに馬乗りになった。右手で彼の首を抑えて、左手で機関銃を構える。銃口がピタリと、キリュウの額に。


「お前、只者じゃねぇな」

 タイトな白キャミに浮かぶランの割れた腹筋――キリュウは、それを見ていった。


「あはは……君も」

 全く物怖じしない彼を見て、ランは首から手を離した。


「不純異性交遊反対! 愛がないのにシッポリとか、どんだけ節操ないんすか!」

 婦人服をかき分け、キリュウの身を案じたミカミだった。しかし、キリュウを見るなり、青筋を浮かべた。


「大体ねぇ……」

 ミカミの説教は、一度始まると止まらない。ねちっこいのが彼なりの説教。


「そろそろ降りてくれねぇか。勘違いされてるぞ」

 ミカミが顔を真っ赤にしているなか、キリュウは毅然とした態度で言った。

「分かった……」


「お前は、ハナノメ組とどんな関係だ」

「……姉の仇」


 ランは多くを語らなかったが、目を潤ませていた。

 目的が同じと分かれば、肩の力が急にぬけた。キリュウは、刀を戻した。


「場所を変えよう。ここじゃ人の目が気になって会話どころじゃねぇ」


「事情をよく聞かせろ」

「言ったとおりの意味」


「多くを語ろうとしないのは分かるが……。俺らもハナノメ組の親分を狙っている」

「8年前、斬られた。私を逃がした身代わりで」

 ランはうつむき、静かに涙を流した。


「仇を討ちたいなら、なおさら俺たちと来るべきっすよ。それに……」

「それに?」

 ランがまじまじと見つめると、ミカミは赤面した。さらに、過呼吸。


「ら……らら、ランちゃん。ちょ、ちょっとカワイイし」

「ちょっとキモいぞ」


 ランは、右手で胸元を抑えると、左手に持った機関銃の銃口をミカミに向けた。

 ミカミがハナノメ組に狙われる理由が、何となく理解できた。


「悪ぃ、自己紹介が遅れた。俺はキリュウ。こっちの変態がミカミ……根は決して悪い奴じゃねぇから大目に見てくれ」

「そうだ。私、元レイゾン……」

 この事実を知って、ミカミが両腕でガッツボーズした。


「レイゾン? そんなにスゴイ組織なのか?」

「そりゃあ、もう! 国境なき軍隊の異名を持つ組織っす。世界中からえりすぐりの兵士たちが集まり、世界一厳しい鍛錬に勤しんでいるとかいないとか」

「フランスの外国人部隊みてぇなモンか。ランさえよけりゃ、すごい戦力じゃねぇか!」

 キリュウの目も輝く。


「全ては、ソメイ親分を倒すため」

 ランが、握りこぶしを作った。


「おう!」

 キリュウは、ランの前に握りこぶしを作った。ランは、涙を人差し指で拭うと、握りこぶしを合わせた。


「コイツの強さは、悔しいくらいに分かった」

「そうでしょ! 元レイゾンがいれば百人力ですから! ですからぁ……ですからぁ…………」

 ミカミは、天を仰ぎながら拳を強く振り上げた。しかし、そのセルフエコーは、街の雑踏に空しく消えた。

 キリュウとランは、さっさと目的地へと歩き出す。


「行こ。ミカミ」

 ランは、振り返ると、ミカミの裾を引っ張った。



 ランと同行し、キリュウ達はこの街で冒険者が最も集まる“ろまん屋”に着いた。

 ザポネの食堂では、寿司や練り物、煮物が定番である。しかし、この店の看板メニューは、とんかつ、カレー、オムレツ。ザポネ酒よりも炭酸の方が売れるなど、ザポネの中では異色の食堂。

 異国情緒あふれるこのお店、やはりと言うべきか、大盛況。キリュウ達は、人混みを避けながらカウンターへと向かった。


「三名様、本日はどのような御用で?」

「俺たち、冒険団を結成したいんだ」


「だったら、この書類にサインを。それと……」


 ハゲオヤジは、三人分の書類に加えてスマホに似た物体をカウンターから取り出した。


「これは?」

「冒険者パス。お前らにとっての身分証明書のようなものだ」


「じゃあ、お前ら三人でいいな?」

 ハゲオヤジが確認を取る。キリュウとミカミが書類を提出しようとするなか、ランだけは書類に手をつけていない。

 そればかりか、あたりをキョロキョロ見回している。銃口を吹き抜けの天井に向けている。


「お嬢ちゃん?」

「私、子供じゃない。それに……変な気配」


「こんだけ冒険者がいりゃ、変な奴の一人や二人はいるだろ」

 キリュウはランにペンを渡そうとするが、彼女はそれどころではなかった。


「……そこ!」

 ランが(はり)を指した。すると、黒装束の男がワイヤーを伝って降りてきた。

 鎖帷子にカラスマスク。無造作に整えられた黒髪。少しモヤシではあるが、見た目通りのニンジャといったところか。


「拙者を看破するとは、なかなかに見どころが……うっ!」

 忍者は、うっすら浮かぶランの谷間を見て悶絶。

 しまいにゃ、うずくまってしまう始末。


「……?」

 ランは、忍者に近寄り、かがんだ。


「ち……近づくな。ふ、不埒なものを」

 忍者は、ランから視線をそらし続ける。


「あ……兄ちゃんたち?」

 困ったような顔で、店主がキリュウ達を見る。

 心配する眼差しだが、今は忍者に辛く突き刺さる。上ずった声で独り言を始める。


「拙者も冒険団なるものを組みたく思うのだが、どうにも緊張して声を掛けられぬ日々」

「お前、まさかとは思うが……」

「自己紹介で噛んだらどうしよう。オナゴの胸に目がいったらどうしよう。第一印象で嫌われたら……。そして、仲間のノリについていけなくなった時にどうすれば」


 完全に己の世界に入り浸っちまった忍者。真っ赤な顔を両手で覆い、ずーっと独り言。

 失敗したときの事を恐れ、かれこれ数週間。新しく組まれる冒険団を見ては、枕を濡らす日々を送っていたらしい。

 もし、このキリュウ達と同行する機会を逃せば、これで80組になる。


「拙者、どうすれば……!」

「うるせぇな! 俺の前でそんなのが堂々と言えるんなら、もっと早く何とかなっただろ」

 キリュウは、たまらず忍者の襟元を掴んだ。


「ぼ、暴力反対」

 蚊の鳴くような声を聞き、キリュウは忍者を離した。

「だったら、来るのか、来ねぇのか。今すぐ、ここで決めろ」


 忍者は、口から心臓が出そうな感覚に耐えながら、考え込んだ。

 これを逃せば、二度と冒険団になれぬ。目でそう言われているような気がしてたまらない。

 ますます悩んだ。無理やりにでも連れていくのではないか――そんな疑念すら覚える。


「お前、今までそうやって何人との出会いを不意にしてきた?」

「か、数え切れぬ……」

 忍者は、何度も指折り数え、うろたえた。


「オッサン、コイツの分の書類も!」

「お……おう」

 狐につままれたような顔で、オッサンは書類と冒険者パスを渡した。


「案ずるより産むが易し、だ! 俺たちと来るなら書け。でないと、お前……冒険団なんて夢のまた夢だ」

「ダンナ、ちょっと言葉が過ぎやせんか?」


 ミカミの横やりも気にせず、キリュウは真っすぐ忍者を見ていた。

 その熱いまなざしに、忍者は耐えられなかった。


「せ、拙者にも! 拙者にも、居場所はあろうか?」

「ああ、大いにある」

「……なれば!」


 忍者の唾を飲み込む音が、キリュウにも聞こえた。今度は、忍者の方から熱い視線を送っている。

 その覚悟のほどがうかがい知れて、キリュウは思わずはにかんだ。


「なれば、この機会……逃すまい。拙者を! 不束者な拙者であるが、ぜひお主らが一派に加えていただきたい!」


 忍者は、恥も外聞も捨て、キリュウの前にひざまずいた。

 勇気を振り絞った嘆願。キリュウは「いいぜ!」の二つ返事で快諾。


「みんなとなら、楽しいよ?」

 ランが手を差し伸べると、忍者はその手を借りて、ゆっくり立ち上がった。


「自己紹介が遅れた。拙者、イーキャと申す者。こう見えて、シノビでござる」

「見りゃ分かる。にしてもお前、結構いい才能してると思うぜ?」


 80組ほどある一階のテーブルが満席な事に加え、二階もほとんど埋まっているような状況。ランに見つかるまでは、人混みの中で隠れていたのだ。キリュウは、それを評価して言った。

 彼としては、なんてことはない一言のつもりだった。だが、イーキャをスキップさせるほどの効力があったらしい。

 イーキャとランが書類に目を通してサインを終えたら、いよいよキリュウ一派の旗揚げ!


「じゃあ、改めて……四人で冒険団を結成だな」

「乾杯!」

 四人は、ジョッキで乾杯。浴びるようにコーラを飲む。


「しかし……せ、拙者が同じグループで浮かぬだろうか」

「心配するな。良くも悪くも濃いチームになる……気がする」

「俺を見て言わないでくださいよ!」

 ミカミの額に脂汗が浮かぶ。キリュウは大笑い、ランも微笑む。


「しかし、たった一日で狙い目の仲間と出会えるなんてな」

「何はともあれ、幸先いいっすねダンナ!」

 ミカミは、キリュウの肩に左腕を回すと、右手のジョッキで乾杯を強要した。


「色々といい方向に運びすぎだ」


 口では無愛想に言ってみせたが、嬉しさは隠し切れなかった。

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