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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
外伝3 花の都のリーゼント
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EP2 ロリコンとミカジメ

 本殿にある18畳の客間。襖を開けりゃ、いかつい武者鎧像が二体、キリュウに「こんにちは」する。

 キリュウは、それに少し驚きながらも、囲炉裏をはさんでミカミと向かい合う。


「さっきは、どうもありがとう。俺……ミカミって言うケチな神主やってやす」

「俺はキリュウ。東京から来た、しがない高校生だ」

「トウキョウ? それ、どこっすか?」

 ミカミは、目を見開いた。裏声で訊かれたキリュウも、たまらず目を丸くした。


「いや……日本だろ? それか、ここは外国で偶然にもお前は日本語が分かる。そんなところだろ?」

「落ち着いてください、キリュウのダンナ。ここはニッポンじゃないっす。ザポネのイゼモ島ってところっす」

「聞いたことねぇ島だな。地球のどこだ?」

 なおも噛み合わない会話。キリュウは、腕を組んだ。ミカミの言葉を疑った。


「いや……チキュウじゃないっす。ここ、カルミナって言いやしてね」

「寝言なら――」

「俺、ウソ言ってやせんよ。ひょっとして、ダンナ……本当にチキュウ人とか?」

「そうだけど、それがどうした?」

 ミカミの目が輝いた。


「実は、たまに噂に聞くんすよ。チキュウ人はとんでもない力を持ってこの星(カルミナ)に来るって」

「そういえば、いつだったか……俺がシメてた陰キャ連中も、似たようなこと言ってたな」


 キリュウは、天井を見つめた。そして、レイジの他にもいた標的を思い出した。グレて、割とすぐの事だった。

 彼らが観念して「死にたい」と漏らしていた時だった。その時の彼らの言葉がこうだった。

 こんなヤツから逃げて、楽になりたい。生まれ変わったら、誰にも負けない力を神様から貰い、あらゆる美少女にモテたい。そしてあんな奴なんか――。

 ヨタだと思っていた話が、今こうして現実になっている。それを考えるほどに、やるせなさで胸がいっぱいに。視線も下がり、気が付けば囲炉裏の灰を見つめていた。


「アイツも、あんな事考えながらホームに飛び込んだんだろうか……」

「ダンナ?」

 ミカミは、上目遣いでキリュウの顔を覗き込んだ。


「いや、個人的な話だ。気にすんな」

 ミカミは、「ふーん」とうなった。絶対に裏があると、彼は睨んでいる。


「まあ、そうさせていただきやす。で、何すか? 訊きたいことってぇのは」


「まずは……この刀の事。何で、お前が持ってたんだ?」

「大した理由じゃないっすよ。たまたま安く売ってたところを、買い叩いただけでして」


 曰くつきのものだったので、安かった。それでも、彼は護身用として買った。

 が、キリュウに抜かれる今日まで、蔵の肥やしになっていた。



「お前、何であんな奴らに追われてたんだ?」


「実は、親分の娘さんにちょっかいかけたことがバレましてね。まだ12歳ですが、もう可愛くて美しくて……!」

「で、あんなシュミの悪いエロ本を隠してたわけか」


 ミカミを見る目が、一気にフケツなものを見る目に変わった。


「あんまり言いたかねぇけどよ……もう少し対象年齢(ストライクゾーン)は高くしとけよ」

「じゃあ、ほっといてくださいよ! 神に仕える者にも、夢見る権利はありますよぉ。そして、何事も新鮮な方がいい。野菜も、女も!」

 女子のへちゃむくれは、愛嬌。しかし、天パの野郎がやれば、ただただ腹立つしぐさ。

 キリュウは、ミカミの変顔を気にも留めず、話を続ける。


「お前、仮にも神様に仕える仕事なんだろ? なんつーか、そうとは思えねぇくらい、欲にまみれてるよな」

「いいじゃないすか。でね――」


 来る日も来る日も、徳が高いご老人方がお客様。今日も麓に降りては魔よけの道具などを売っていた。

 今日は、たまたま売り上げが良かった。これで旨いメシを食うつもりでいた。

 さらに、今日来た客の中に、あの少女がいたのである。乾ききった人生に一輪の花。100マイルの弾丸がド真ん中を直撃。しかし、それで言い寄ったのが、運の尽き。


「それでなくても、ミカジメ滞納してましてね」 

「アイツら、何者なんだ?」


「奴ら、ハナノメ組と言いやして。俺からすれば、理不尽な言いがかりっすよ」

「で、屈して払った事は……」

 キリュウが訊こうとしたとき、ミカミの目の色が変わった。

「あんな金! 1ルドたりとも、奴らに払うもんか……ッ!! そして、取り返してやるんす……無垢なる市井から強奪した金を!」


 鼻息荒く、ミカミは拳を作りながら言った。

 チャランポランな俗物だったが――だからこそ、弱者を思う正義感が人一倍強いのかもしれない。

 キリュウは、ミカミの想いを噛みしめ、唸った。


「お願いです、キリュウさん! 俺を助けた腕を見込んで、俺と一緒に……ッ!!」

 ミカミは、土下座した。


 本気度の高さがうかがい知れる。しかし、すぐにイエスとは言えない。

 イキってヤクザにケンカを売って、一度は命を落としたのだ。それがトラウマだった。

 先ほども、たまたま刀にチカラがあったから上手くいったようなもの。キリュウは、ムロト丸を抱えた。



「キリュウさん! あなたの剣の腕は確かだ、誰かのために剣を奮えぬほど腐っちゃいないはずですよ」

 ミカミは、なおも頭を下げたまま。納得のいく答えを貰えるまで、というか我を通せるまで、ずっとこのままでいるつもりだ。

 向こうが強硬策に及ぶのならば、こちらも。そう言わんばかりに、キリュウは口元を歪ませた。


「誰かのためだぁ? そんなの、まっぴらゴメンだ。背中がかゆくて仕方がねぇ」

「ならば、あの力は何のために!」

「俺の力は、俺のためのモンだ。誰にも負けねぇ漢になるために……な」

「ウソでしょ、キリュウさん! “力は使いよう”ですよ!」


 ミカミにも同じことを言われ、キリュウはハッとした。

 力の使い方を間違えたから、東京湾に沈められた。そう考えるのが妥当なように思えてきた。

 もし、妖刀ムロト丸のチカラを正しく使うとしたら――キリュウは、後頭部をかきながら深呼吸を一つした。


「いつまでそうするつもりだ? 頭、上げろ」

「考えてくれるんすか?」

 頭をあげた瞬間、ミカミの目が煌めいていた。


「条件がある。ただ闇雲に挑んだって、簡単に返り討ちに遭うだけだ。それで、だ」

「ダンナが本気出せるように、何でもする所存っすよ!」

 ミカミは、両腕に力こぶを作ってみせた。大したデカさではないものの、その意気込みは鼻息から分かる。


「俺が望むのは、まずはコイツの修理だ」

 キリュウは、刀を鞘から抜いて、目を細めた。

 ぱっと見ではよく出来たシロモノだ。しかし、よく見れば刃こぼれも酷ければ、刀身もかなりくすんでいる。

 こんなナマクラでは、親分を倒すことなど不可能。そう思っての事だったが、ミカミの眉毛がハの字になっている。


「ウチ、刀は専門外でして。ましてや妖刀だなんて……」

「ダメか……」


「待てよ。そういえば、ザポネ人じゃないけど腕が確かな鍛冶屋さんが、海を超えて東の街にいたような」

 ミカミが試案を巡らせていると、キリュウは不敵な笑みを浮かべた。

「じゃあ、決まりだな。まずは、そこへ行こう!」


「それから、新しい服と整髪料が欲しい」

 キリュウは、ボロキレ同然の学ランを脱いだ。そして、手櫛でリーゼントを整えるが、治らない。

「だったら、ウチの風呂使ってくだせぇ。着替えも用意しときやす」


 キリュウは、ミカミに案内され、浴室へと向かった。昔懐かしのゴエモン風呂。

 帰ったらすぐに入るつもりだったのか、いい具合に沸いている。  


「じゃ、ごゆっくり」

 ミカミは、タオルをと着替えを置いて出て行った。

 湯船に肩まで漬かり、ため息ひとつ。今日は、激動の一日だった。


「“かの者”って、誰なんだ?」

 カルミナに飛ばされる前、神様が言っていたことが気になった。

 自分でも信じられないくらい、敵は作ってきた。その数は、両手でも足りない。

 神は、すべて御見通し、と言っていた。


「どうやったら、俺は地球に帰れるんだ?」


 思案を巡らせども、答えにはたどり着かぬ堂々巡り。

 そこで、悔いていることを思い出すことにした。だが、これも両手では足りない。


「もし、叶うなら……」

 過去に自分が酷い目に遭わせた者への謝罪。真に望むこととは、それかもしれない。キリュウはそう思った。

 これが出来れば、地球に帰れるのでは――その仮説を立てたときには、キリュウの身体は赤く染まっていた。。


「おお、袴か……!」

 キリュウは、嬉々として袖を通した。

 成人式を迎えたら着るつもりだった。予定より3年ほど早いが、それでも嬉しいものは嬉しい。

 それから、ワックスで髪をいつものように整えた。それから、ミカミのいる客間へと戻る。


「おお! 似合ってやすよ、ダンナ!」

「まぁな。日本男児だから、当然だろ」

「へぇ、ニッポンにもそんな服があるんすね。ってか、スゴイっすね、ダンナ!」


 ミカミは、わずかに覗く割れた大胸筋を指した。

 キリュウが襷を締めれば、仁王像とも見まがうほどの上腕が露わになった。


「まぁ、ダテに鍛えちゃいねぇよ。最初は、モテたい一心だったけどな」


 キリュウは、照れを隠すように言った。日本人離れした彫りの深さも相まって、力強さはこれでもかとアピールできている。

 それゆえに、あんなに素行不良でも、実際に言い寄ってくる女の子はいたらしい。

 自慢話もそこそこに、キリュウは思い出したように話題を変えた。


「そうだ、お前……俺の仲間になれ」

「俺っすか?」

 ミカミは、その言葉を疑った。自分を人差し指で指した。


「お前、かなり俗物だけどよ……その口車の巧さは使えると思ったんだ」

「それ、どういう意味っすか?」

「俺の新しい仲間を集めるのにうってつけ、って事だ」


「おぉう……」

 貶されているのか、褒められているのか。ミカミの口から、変な声が出た。


「まぁ、一向に構いやせんけど」

 ミカミは、渋々承諾してくれた。

 助けられた恩がある以上、断る選択肢は取りづらかった。


「決まりだな。それで、出発の日程だが……」

「早く直したいんでしょ。明日の朝にしやすよ」

「すまねぇな」


 キリュウは、ミカミの神社に泊めてもらうことになった。

 自分をヤクザの手から助けてもらった恩を強く感じていたのか、ミカミからのおもてなしは手厚い。

 旨いメシにフカフカの布団。至れり尽くせりの夜だった。


 そして、早朝――。

 おぼろげな光が射し、けたたましい鶏の鳴き声とともに、キリュウは目が覚めた。


「おはようございやす、ダンナ!」

「おはよう」


 キリュウは、起きるなりすぐに支度を整えた。

 まずは髪を整え、袴に着替える。刀を腰に提げりゃ、ザポネの剣士スタイル――ここに推参。

 さらに、マントの如くトレンチコートを羽織れば、バンカラへと進化。


 朝食をとると、いよいよ出発。

 ニッポンのようでニッポンじゃない。キリュウが降り立ったは、地球とは似て非なる異世界。

 その遥か東方の国・ザポネにて、ヤンキーと神主が旅立ったのである。

 狙うは、ハナノメ組は組長のソメイ親分。その首、1500万ルドなり。

 しかし、富も名声も二の次。弱き市井の仇とあらば討つのみ。


 討ち入りを成功させるために、キリュウの腰に下げたムロト丸を打ち直す。

 そのために、彼らは東へと()く――。

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