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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第12章 くたびれた医者に生きがいを
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第139話 シャルスぺな男【Agias Lokston】

 場所は変わり、シバレーのとある遊園地。ギンギンに輝く太陽を背に浴びて、メレはとある人物を探していた。

 それは、VFマスク戦隊6番目の戦力。ディメテル戦の後、ルベールの提案でもう一人増やそうという話になったのだ。しかし、その本人は、シバレーを離れ、どこか遠い地へ。

 数日ほど、シバレーで人が集まりそうな場所をシラミ潰しに探している。しかし、彼女のお眼鏡に適うような人は見当たらない。

 途方に暮れ、カフェテラスで一人。疲れたメレは、アイスティーで一息。ストローで氷を回してはため息。

 これを飲み終えたら、また探そう――そう思った矢先、Vフォンが鳴った。



「もしもし、リュイ?」

 躍起になりかけたところでの水差し。メレは、キレ気味に応答した。


「メレ、そっちはどうだ?」

「今日も今日とてダメダメで~す。ここがダメなら、他に探せそうなトコ無くね?」

「そうか。シバレー広しと言えども、我々の横に並んで……というモノ好きはそうはいまい」

「それを探すのがウチの役目なんでしょ! てゆーか、そっちも進捗どーなのよ」

 メレは、叩きつけるように肘をテーブルに置いた。


「順調と言いたかったところだが、急に厳しくなった」


「あ……できれば、手短にお願い」

 メレは、食い気味に釘をさした。面倒な事になりかねなかったので。


「シルバネルラもダメなところに、レッドセラフィム改の計画も提案された」

「ホント、他人の気も知らずに……ねぇ」


 他人の気も知らないのは、リュイの方かもしれない。

 電話越しにキーボードを叩く音が聞こえてくる。さらに、難しい用語のオンパレード。

 メレが何度も切ることを確認しても、リュイの饒舌は止まらない。


「切るよ、いい?」

「それで……であるからして、云々だと考察できるが。いや、しかし……」

 リュイの舌が加速する。切るに切れない、などと思ってはいけない。


「なんで、ウチの男どもは、揃いもそろって変人ばかりなのよ!」


 デカいため息の後、終話キーを連打した。

 サクラも、別の場所でスカウト。その彼女も、目ぼしい人物に会えていないらしい。アズールとルベールは、遠い地で修業。

 自分だけが、損な役回りを押し付けられている。そんなことに憤懣(ふんまん)を溜めつつも、黒いキャミの上から黄色のアロハを羽織った。

 パレオをデニムのホットパンツの上から巻きつけ、手櫛で髪を整えると、カフェテラスを出て行った。


 さぁ、作業再開。そう意気込んだ矢先のことだった。

「リア充殲滅すべし、陽キャも俺の敵だ!」


 どこからともなく、ミョーチキリンなダミ声が聞こえてきた。

 それとほぼ同時に、カップルの悲鳴や子供の泣き叫ぶ声も彼女の耳に。

 その騒ぎを聞きつけ、メレが駆けつける。


「遊園地を荒らしまくって、みんなの思い出を台無しにしてやるぞ!」

「うわぁ! た、助けて!」

「ジャッコ・ジャッコォ~!」


 パリピ最大の敵……現る!

 胸にはジェットコースターの車体のようなもの、背面には観覧車の意匠が施された怪人。頭の触覚は、割れたハート。

 裏を返せば、非リア充にとってはこの上ない味方。その名も、非リア充怪人・ダイナーシ。


 早速、彼の部下らしき黒い人型モンスター・ザコンが暴れ始める。

 コーヒーカップの回転速度を上げてみたり、ジェットコースターを落下直前で止めてみたり……。

 さらに、広場でのショーに乱入しては子供に乱暴。コミカルな見た目に反して、やる事がなかなかえげつない。


「あっ! こんなところに遊園地大好きそうな俺様の敵を発見! リア充爆弾!」

 ダイナーシの両手一杯に、黒くとげとげしいハートの爆弾。

 投げられた爆弾を難なくかわしたメレ。しかし、爆弾は爆発する。


「この騒ぎ、アンタの仕業だったんだ。ってか……こんなことやっても、虚しくね?」

「うるさい、黙れ!」

 ダイナーシは、地団駄踏んで叫んだ。

 リュイやサクラを呼ぼうとしたが、向こうは待ってくれそうにもない。


「VFチェンジ!」

 メレは、Vフォンを構え、黄色い戦士に変身した。


 ザコンは、数だけで言えば非常に多い。しかし、各個体は、女のキックとパンチを数発浴びただけでKOするほどのモヤシ。

 勝てないと分かっていても、強敵に挑むのが本能。ザコンが十体、束になってかかってもメレには手も足も出ない。これが、ホントの“十把一絡げ”。

 メレは、逃げまどう市民の盾になるように位置取りながら、矢を放つ。しかし、彼女の勇姿に惹かれたのか、5歳くらいの男の子が一人だけ逃げていない。まだ、本物のヒーローショーだと思っているらしい。


「わぁ、お姉ちゃんカッコいい!」

「ちょっと、ボク! 危ないから、ここはお姉ちゃんに任せてね」

 メレは、膝立ちになると優しい声で促した。すると、

 男の子を逃がしたところで、ダイナーシたちの周りから避難させることに成功。


「オーマイ・ゴッデス! ジーマーで!?」


 メレの左に、騒がしい男が現れた。そして、怪人を前にすぐに構えた。

 銀色の頭と目、グレーと青のスカジャンにピンクのマフラーが特徴の派手な青年だった。

 明らかにチャランポランな見た目だったが、彼の目だけはジーマーである。


「あんた、誰? てゆーか、ここ危ないよ?」

「そんな事は百も承知。で、俺の名前はアギアス・ルクストン。実は、Youたちを探してまして……」

「ウチらを? 新人募集の話は、後でね!」


「状況は、百も承知。ミス・メレ、Youのサイドでミーが戦う事、どうかお許しを」


 アギアスは、首を傾げてメレの耳元でささやいた。メレの背筋に寒気が走った。

 うるさいし、喋りのクセが強いし……とにかくウザい。彼女が抱いた第一印象は、最悪だった。


「ええい、カップル気取りめ! 爆弾に変えてやる」

「ドイヒー!」

 ダイナーシの能力に、戦々恐々のアギアス。


 よりにもよって、怪人にそう思われてしまった。メレ、一生の不覚!

 怒りがテッペン超えた彼女は、ザコンどもに弓矢を乱射。


「あんなチャラ男とウチを一緒にすんなし!」


「いかにミーがYouたちにベストマッチか。語るより魅せましょう!」

「ちょっと、アギアス!」


 アギアスは、勝手にザコンどもの中へ突っ込んでいった。

 あっという間に囲まれてしまったが、彼は不敵に笑った。

 トリプルトウループの要領で回し蹴りを繰り出すと、ザコンどもを一瞬で薙ぎ払って見せた。

 側転からロンダートと、軽い身のこなしを自慢するかのようにダイナーシに接近。一瞬たじろいだダイナーシに、掌底連打。


「ぐっ……予想以上の強さ! 貴様、やはり……あの女の仲間だろ!」

「ノン、ノン。ミーが勝手にやってるだけ。ジーマーで仲間ってわけじゃない」

 アギアスは、人差し指を左右に振った。その顔は、ダイナーシを煽りに煽るためだけに不敵な笑みを浮かべた。


「ええい、どうでもいい! 俺はチャラチャラした男女が世界で一番大っ嫌いだ!」

「ミーも他人のアンラッキーにプレシャス感じるヤツ、超々キライでね」


「“エックスバレット”!」

 アギアスは、右手をピストルの形にした。その指先から、×印の光の弾丸がダイナーシを一瞬で穿つ。

 自分を守れ、と言わんばかりに手を前に突き出すと、ザコンたちがアギアスを取り囲んだ。


「“ゲイボルグ”!」

 メレの撃った矢が無数に分裂した。無数の矢が雷を纏って、ザコンを射抜く。

 ザコンどもが怯んだところを、逆立ちしながらの回し蹴りで圧倒。目の前に残っているのは、ダイナーシただ一人。


「“オーラビュート”!」


 アギアスの今度の攻撃は、白く輝くムチのような光。何周かダイナーシを巻きつけると、そのまま投げ飛ばした。

 ベーゴマのように回り続けるダイナーシ。そのまま、両手から黒紫の炎をぶっ放す。


「回ってます、回ってます! いつもよりメリーゴーランド、余計に回っております!」


 ダイナーシの次なる一手は、“ジェラシーフレア”。リア充への恨みつらみを燃ゆる炎に変えて撃つ技。

 アギアスは、それを手刀で弾いてダイナーシにお返しする。

 遠距離ではままならない、とダイナーシが走りながらラリアットを仕掛けてくる。アギアスもラリアットで応戦。

 他の男三人と比べて少し細身なのに、怪人に力負けしていない。メレは驚くしかできなかった。


 変身せずとも、怪人と対等に渡り合える。そんな人物を、メレは他に後1人しか知らなかった。

 それで、彼女は確信した。イケる……チョーイケる、と!


「前にも似たような事あったなぁ……って、ルベールの時と一緒じゃん!!」

 メレは、アギアスの背中をドンと叩いた。

「ジーマーで?」

 アギアスの鼻息が荒い。


「ジーマーで。アンタ、めちゃくちゃなヤツだけど……結構やるじゃん!」

「サンキュー、謝々、メルシーあざっす!」

 アギアスは、忙しく頭をペコペコ。


「もしもし、リュイ!」

「どうした。というより、さっきは勝手に電話切ったな? いつも、お前はそうだ。今日という今日は……」

「それよりも聞いて! 今ね、いい人材がいるのよ」

 メレの声が、明らかに嬉しそうだった。その事にリュイは戸惑いを隠せない。


「ほう、やっと見つかったか。どんなヤツだ」

「それがもう、(スーパー)ゴイスーなのよ! ルベールみたいに、生身で敵と戦えてる……何て言ったら、すごくね?」


「ご、ゴイスー? 分からないが、それが本当ならアレを使いこなせるかもしれない」

「アレね。了解!」

 メレは、上機嫌のまま通話を切った。


「アギアス! コレ、貸したげる!」

 そう言ってメレは、銀色のバングルのようなものを渡した。

 VとFを混ぜたようなマークに、丸いサファイアのようなものが二つ。シンプルなデザインだった。


「いやぁ、今日はなんてCial-Spe(シャルスぺ)な一日だ!」

 早速、アギアスはバングルを装備した。誇らしげに、その左腕を見る。


「いざ、VFチェンジ!」

 バングルのサファイアの部分を押すと、アギアスは白銀の光に包まれた。


 仮面は、VとF、そして∞の意匠が施されている。

 銀と黒をベースとしたスーツの上から、金の肩当。この出で立ちこそ、新しい戦士。


「へ、変身だと……!」

「ザッツライッ! Cial-Speな銀色の戦士……マスクドシルバー!」


 名乗ると、彼の後ろで爆発が起こった。


「ここは、巻きで……連携、行きましょう! モンスターは俺がやるんで」

「オーケイ!」


「新しい銀の男よ、聞こえるか。私だ、リュイだ」

 シルバーのバングルに、着信。

「ミスター・リュイ! これ、Youの技で作ったんですね!」

「ああ。それと、試作段階だが……お前なら上手く使いこなせるだろう」


「“シャイニー・ハルバード”!」


 シルバーの手元に、槍と斧を足して2で割ったような武器。

 クルクルと切っ先を回すと。光の玉が現れた。シルバーは、長いリーチを利用してそれをダイナーシにぶつける。


「貴様なんぞに……貴様なんぞに、俺の嫉妬の深さが分かるものか!」


 ダイナーシがふんぞり返ると、刺々しいハートの爆弾が投げられた。

 アギアスは、リア充爆弾を斧の面でそっと受け取った。そして、その長い柄の遠心力を利用して投げ返した。

 ダイナーシの前で、リア充爆弾が爆発した。


「“ノヴァクラッシュ”!」

 斧の刃が煌めいた。アギアスは、空を切り裂くように武器を振り下ろした。

 白銀の光が大地を這うようにダイナーシへと向かっていく。


「“ジェラシーフレア”!」

 ダイナーシは、嫉妬の炎で対抗。両者の技が相殺され、爆発が起こる。

 吹き飛ばされても半身を翻して華麗に受け身をとるアギアス。一方で、ダイナーシは地面を転がりながらも、ヨロヨロ立ち上がった。


「ま、待て……変身しなくても強いのに、これ以上強くなってどうする!」

 ダイナーシの言葉に耳を貸さないアギアス。全身にググっと力を込めて


「必殺……“コウインジョゼン”!」

 黄金に輝く武器を、アギアスは目いっぱい投げつけた。

 そのあまりの速さに、一筋の光が一瞬で貫いたようにしか見えないほど。

 ダイナーシの身体の周りに、青白い火花。ダイナーシは、足元がふらついてマトモに戦えない状態。


「り、リア充に……ば、爆発……あれぇーッ!!」

 ダイナーシは、仰向けに倒れて爆発四散。

 辞世の一言は、ジーマーでそれでOKなのか――アギアスは、疑問を持ちながらも振り返って残心をとる。


「ありゃ、もう終わちゃってる感じ……?」

 遊園地を荒らすための工作を担っていたザコンを倒したメレ。戻ってきたころには、アギアスがチヤホヤされているところだった。

 その市民たちをかき分けるようにして、メレに逃がしてもらった男の子が駆け寄ってきた。 


「わぁ……お兄ちゃん()カッコいい!」

「OH……!」


 純粋無垢な言葉が、突き刺さる……!

 アギアスは、心臓の辺りを両手で抑え、のけぞった。


「アギアス?」

 メレは、アギアスの腕を引っ張り、無理やり上体を起こした。


「子どもからの褒め言葉は、何よりもプレシャス感じる……!」

「はいはい。行くよ!」


 メレは、感動しっぱなしのアギアスを引きずりながらシェアハウスへと向かうのであった。

【リア充爆発怪人・ダイナーシ】

遊園地での思い出を台無ーしにする根暗なやつ。他人の不幸は蜜の味。

吸い過ぎちゃって、腹が出ちゃいました。

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