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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第3章 心折れそうな経験
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第15話 船上の野良試合


 レイジたちは、船に乗り、チェアノの街を去った。

 レイジにとっては、初めての大型船。相変わらず、船酔いに弱いので、部屋でゆったりと過ごしている。

 船は、ビッグマハルに向かう乗客でいっぱいだ。そんな中、フォードが何やら甲板で騒がしい。


「昨日発足したフォードの一味、俺様が大募集だぜ! レイゾンの元・鬼の副長がこのチームのリーダーだぜ!」


 まるで、たたき売りか何かのようだ。実は先ほど、三人で話し合った結果、仲間はたくさん必要だろうという結論に達した。それでフォードが宣伝している。

 求めているのは、自分たちの旅をサポートしてくれる人。具体的には医者、料理人、回復魔法の使い手。そして、フォードたちの武器をメンテナンスしてくれる技術職。

 しかし、どれだけフォードがご高説垂れようが、手を挙げる者はいない。それもそのはず、フォードの一味は、何の成果も得られていないのだ。


「……思ったより上手くいかねぇな」


「そらせやろ。退役した軍人が、全く違う土俵で勝負するんや」


 言われてみれば、そのとおりである。発足して二日目、なんの功績もない。そんな組織に身をやつしたい人物など、よほどの事がない限り現れはしまい。

 勧誘を始めてから二時間ほどが経った。


「よう、あんちゃん。仲間募集だって?」


「お、なかなか腕のよさそうな奴じゃねぇか。来るか?」


「……昨日発足したとか何とか言ってたな。一つ勝負しろ、ベテランの俺が見てやるよ」


 フォードの前に現れたのは、スキンヘッドの中年。その日に焼けた腕は、筋肉美をより際立たせる。

 一目見ただけで、手ごたえのありそうな人物だと分かる。フォードの心が躍る。

 ここで、この男を倒せば、“たるんだ元軍人”なんて悪印象をぬぐえそうだ。


「一本勝負だろ? 受けてやろうじゃねぇか!」


 男が勝負を挑まれたら、断るわけにはいかない。


「さぁ、下がった下がった。ここは今から闘技場になる」


 スキンヘッドは、海を見たがっていた観客たちを押しのけた。漢の勝負に巻き込みたくない、彼なりの気遣いのようだ。

 いつの間にか観客が集まり、二人を囲った。


「おい、ハンセン! 手加減してやれよ!」


 どこからか、ヤジが飛んでくる。相当甘く見られていることに、フォードは少しだけムッとなった。


「フォードはん、やんわりやるんやで!」


 アザミからも、ヤジが飛んできた。両選手のファンからのメッセージが聞けたところで、ハンセンは構える。

 猫足立ちで拳をがっしりと握り占めており、小刻みに揺れてリズムを取っている。


 ハンセンは今年で38歳、現役20年目の冒険者。稼いだ報酬額は通算600万ルド。

 対するフォードは21歳、現役二日目のルーキー。稼いだ報酬額は、通算ゼロ。


「そっちも、そろそろ構えな」


「いや、もう準備はいいぜ」


 フォードも、一応構えてはいるものの、拳は握っていない。ハンセンは、それを見て素人の構えと笑う。


「ほな……試合開始や!」


 アザミがゴングを鳴らした。先に仕掛けてきたのは、ハンセン。最初からクライマックスと言わんばかりに、初手右ストレート。

 大きく踏み込みながら出された、一発。しかし、フォードは、体を軽くひねってかわす。

 さらに、ハンセンの襟元をつかんで、豪快に隅落。そのまま倒れたハンセンは、起き上がりながら蹴りを入れる。

 フォードは、涼しげな顔だ。一方で、ハンセンは少し焦っている。


「思ったよりやるじゃねぇか……」


「こちとら腐っても、元軍人だぞ」


 今度は、お返しとばかりにフォードから仕掛ける。フォードの左の掌底が、甲高い音を立てて胸に命中。

 さらに、右手で地獄突き。ノドにクリーンヒット。ハンセンが、苦しそうにノドを抑えた。


「アンタ、ちょっとやり過ぎや」

 アザミのヤジ、再び。どちらの味方をしようというのか。


「……お、俺なら平気だぜ、ねーちゃんよぉ。……あーらよっと!」


 首を締め上げられたような声だったが、痛恨の一撃を耐え抜いた。

 今度は、ハンセンの回し蹴り。丸太のような脚は、見た目に反してしなやかに動く。

 フォードは、その鋭い蹴りを右腕で受け止めた。しかし、予想以上のスピードで、肘がしびれる。


「ヒュゥ……なかなか堪える一撃じゃねぇか。倍返しにしねぇとな」


 フォードは、飛びながら回し蹴りを放つ。さながら、アクロバットのようだ。

 まずは左足が首に一発。次に右足が、受け止めようとしたハンセンの右腕に一発。

 さらに、左足が脇腹に命中。最後に右足が腰をヒット。


「カッコつけでやってみたけど、イケるじゃねぇか。“アクセルキック”」


「あんた、人間離れした身体能力じゃねぇか。……ならば、お前にその拳を受けられる勇気はあるか」


 渾身の右ストレートが振りかぶられた。フォードは、左手を床につけながらしゃがんだ。

 ストレートは空振り。フォードの反撃。左手だけをバネに跳ね起きると、そのままかかと落とし。

 ハンセンの頭を直撃。ハンセンは、そのままノックダウン。


「しょ、勝負ありや! この勝負、フォードはんの勝利!」


「何なんだ、アイツ……」


「あんな妙技で勝つのか……とても初心者じゃねぇぞ」


 あちこちから、畏怖と尊敬の声が聞こえてくる。フォードの体のバネの強さ、ハンセンさえ圧倒する強さ……。

 周りがざわつく中、フォードは、ハンセンに手を差し伸べた。


「ちょっとやり過ぎちまったな。……ほら、立てるか?」


「お、おい……勝負に負けた俺に情けをかけるのか?」


「勝負が終われば、そっから先はノーサイド! 勝ち負け忘れて、肩組んで笑おうぜ」


 ハンセンは、フォードの手を握った。そして、立ち上がらせてもらう。


「で、俺の評価はどうなんだ?」


「仲間なんかいなくても、上手くやってけるだろうに……」


 ハンセンは、呆れながら返した。フォードも、呆れながら返す。


「一人じゃやれねぇことやりたいから、仲間集めてんだよ」

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