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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第12章 くたびれた医者に生きがいを
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第135話 よみがえらせたいモノ

 フォードらとアスクレー、三人の対談は続く。

 アスクレーの仲間全員を見たい、という提案に乗り、レイジはアザミたちを呼びに行った。


 少し外に出て仲間を呼びに行っただけなのに、レイジのインナーはぐっしょり。

 連れてこられたアザミたちに、アスクレーは名刺を渡して自己紹介した。


「私は、アスクレー。カーダの兄弟子で、ここの病院を経営している」


「ウチはアザミ言います。こっちが、料理人のギュトー、技師のバハラや」

「なんと……! あの引きこもりのバハラ君が!」

「某をご存知とは……只者ではありませんな!」

 バハラのビン底メガネが光った。


「自分で作った秘密基地で、兵器を秘密裏に開発してた引きこもり。シバレーでなくても有名だったよ」

「だった……」

 バハラは、うなだれた。


「で、決め手は何だったんだい?」

「レイジ氏が設計図を見て、才能を買う……と」

 バハラは、あの一件のことを目を輝かせながら語った。メガネの下から、涙がしたたり落ちる。


 ギュトーも、自分が加入した理由を明かした。

 ダベヤ村を襲うタイガーゴイルを共に倒したこと。そして、それが原因で肉屋を解雇され、行き場を失ったところを拾われたことを。

 アザミとは、チェアノの街で出会い、ミクリア公爵から匿うことから始まった。


 一通りの事情を聞いたアスクレーは、先端に溜まった灰を落としてから話を始める。


「なるほど。で、カーダを買おうとした理由は?」

「俺を助けてくれた人なんです。最初は、それだけでした」

「ほう。最初は……?」

 アスクレーは、うなった。


「あなたの話を聞いて、カーダさんが実績ある人だと知って……それも理由の一つに」

「理由なんて、しょせん後付けの言い訳。選択する理由は、いつだって直感だ」

「ほな、アスクレーはんが医者になったんも……?」

「子供のころに、オルエス冒険団をカッコいいと直感したから。その中でも、人知れず仲間をサポートする師匠にあこがれた」


 半世紀近く前の思い出だが、昨日のことのように思い出せる。アスクレーは、嬉々として語っていた。

 アスクレーの思い出話は続いた。レイゾン時代、エークの一味時代。そして、現在……。


「まさに人生の勝ち組、って感じですな」

 元引きこもりは、顎をテーブルにつけてうなだれた。


「いいかい、バハラ君。自分の人生とは、誰にもマネできないものだ」


 バハラは、ため息をつくように納得したような顔をした。

 もし、レイジが才能を買ってくれなかったら――考えただけでも、脂汗が二重アゴに向かって落ちていく。


「あなたほどの成功者だからでしょうか。体験談が全くイヤミに聞こえなかったから不思議……」

「個人的な見解だけど……イヤミに聞こえたなら、その人の人生は薄い。そうでないなら、実りあるものなんだろう。そう思う」


 アスクレーは、本日三本目のタバコに手をかけた。事あるごとに吸わなければ、気分が落ち着かないらしい。

 ただでさえ息苦しい空気が、さらによどんでいく。彼は、そんなことお構いなし。


「ところで、君たちが旅をする理由を訊いても?」

「俺たちは、デズモンド社と戦うために……! アイン村の弔いのために」

 レイジの握った拳に、血管が浮き上がった。


「アイン村は隕石が落ちて滅んだと聞いているけど」

「あれは、デズモンド社のしわざだ。あの日、あの場所に居合わせて……唯一の生き残りだったから」


「それで、先月のシバレーでの一件かい? 口封じのために……」

 アスクレーが真剣な目で迫ると、レイジは、力強く首を縦に振った。


「復讐に加担するかどうかは別として、私では役者不足ではないか。そう思うのだけど」

「いや、それくらい実績がある方が心強い。何より、元レイゾン同士だ……何となく波長が合う気がする」


 互いの在籍期間が重なっていたことは、一秒たりともなかった。

 しかし、親子以上に歳の離れたアスクレーに、フォードは何となく親近感を覚えていた。元レイゾンという理由だけで。


「で、どうだ?」


 フォードが訊くと、アスクレーは募集広告をビリビリに破いた。一味は、呆然。特に、レイジは目を丸くしていた。

 アスクレーは、いくつもの紙片になった広告を丸めてまとめると、ゴミ箱に投げ入れた。


「気に入った者たちと旅をするのに、どうして金を貰わなきゃいけないんだ!」

「え……」


 予想外の出来事に、レイジは目を丸くした。

 明らかに怒っているようにしか思えない行為だったが、アスクレーは笑っている。


「君たちといると楽しそうだと思ったから、ロハでもいいくらいだ」


「何ですと!? アスクレー氏、今……何と」

「噂以上のチーム、君たちを気に入っていたんだ。デズモンドの最高幹部を倒した連中の一組だ」


「成り行きでそうなったかもしれない。でも、あんな大企業に反旗をひるがえそうだなんて、前代未聞じゃないか。冒険心がそそられる!」

 アスクレーのえくぼが深く沈んだ。


「逆に訊いてもよろしいやろか?」

「なんなりと」

 アスクレーは、タバコの火を消すと、すました顔をした。


「アンタは、レイゾンでエークはんの仲間やった。一度は冒険者を引退したはずやのに、この歳になって復帰したがる理由は?」

「さっきも言ったけど、世間に公になったことで、君たちに興味を持ったのがひとつ。そして、もうひとつ……これが本懐だ」

「あんまり、勿体ぶるなよ。何だよ、本懐って」


「私がもう一度旅に出たいと思った理由は、ある秘宝を探したいからなんだ」

「秘宝……?」

 アザミは、小首をかしげた。


「“ナーガ神の杖”って知っているかい?」

「な……!! アンタ……誰を生き返らせたいんや!?」


 アザミは、目を見開いてアスクレーに詰め寄った。

 アスクレーは、苦笑いしながら席を立ち、分厚い図鑑を持ってきた。タイトルは、幻のお宝全集。付箋がしてあるページをめくって見せた。

 ナーガ神の杖――それは七つの頭を持つ蛇が巻き付いた杖で、その先端は仏像のようになっている。この本によると、悟りを開いて祈りを込めれば、死者を生き返らせることができる、とあった。


「どうして、そんな杖を? アスクレーさんの技術は確かなものと聞いたのに……」

「欲しいということは、それほど生き返らせたい人物がいる証ですぞ!」


「カーダの妹夫婦か、かつての仲間・エークか? それとも……」

「そんなんじゃない、ただの好奇心だよ」

 フォードの図星を当ててやったぞ、と言わんばかりの視線をかわしたアスクレーは、乾いた笑みと共に言った。


「俺も図鑑でしか見たことがない、伝説の杖だ。効果のほどは、マユツバだろうけどね」

「もし、復活させられる効果があるとしたら?」

 ギュトーが訊いた。アスクレーは、患者(カーダ)がいる総合病院の方に視線をやった。


「今からでも甦らせにでも行くか?」

 察したフォードは、自然な笑顔でアスクレーの見ていた方を親指で指した。


「なかなかどうして気が利くリーダーだ。でも、本当に復活するかどうかは、彼次第だがね」


 彼は、若いころを思い出し、ため息をついた。もう、戻れない――そう思うと、より深いものへと変わった。

 ケイロン先生の元で切磋琢磨していたあの頃。カーダの目は、死んではいなかった。

 それを思い返すほどに、アスクレーの表情が曇る。


「こんなチンケな宝に頼るまでもねぇ話だろ?」

 フォードは、杖の絵を人差し指で叩いた。

「それもそうかもしれない……。遅すぎたのだよ、何もかも」

 アスクレーの眉毛がハの字を描いた。


「……若い俺が言うのもなんですが、人間、生きていればやり直す機会があると思うんです」

 レイジが真剣なまなざしで訴えかけると、アスクレーはバツが悪そうにうなずいた。


「それで、次の目的地は?」

 アスクレーは、パンと手を叩くと、強引に話題を変えてきた。

「タズン島だ。早ければ、明日の朝には出るぜ?」



「世界で最も危険な島のひとつか……いいね! そこになら眠っている可能性がある」

「さすがは、勇者チームの元メンバー。その歳になってもなお、探求心が衰えねぇとはな!」

 フォードは、天を仰ぐように豪快に笑った。

 自然的な意味で最も危険な場所のひとつ。その名を聞いて怖気づくどころか、むしろ楽しみにしているようにさえ思えてきた。


「人生とは、探求の連続だよ。後輩(フォード)くん」

「ああ、そうかもな。ますます気に入った!」


「それにしても、よく快諾してくれましたね。それも、ロハで……。我々としては、これ以上ないくらい嬉しい話ですけど」

「思い切った決断だと感じるだろうけど、私は掴めるチャンスなら全部掴む主義でね」

 アスクレーは、ギュトーの問いかけにしたり顔で応えた。


「で、アスクレーはん。仲間になるって言いはるんやったら、コレ背負えるやろか?」

 そう言って、アザミは、レイジを立たせて背中を見せた。

 バハラとフォードも、同じように一味の証を見せた。


「すると、私は背番号5になるのかな?」

「5は、欠番だ」

「なるほどねぇ。シバレーで一緒に戦った盟友の誰かが背負っているのかな?」


「いや……ちょっと恥ずかしい話ですけど、ビッグマハルでJ・Jから助けた女の子で……」

 レイジは、五月の終わり際を思い出して悶絶していた。

「いいねぇ、若いねぇ!」


 またしても、「若い」と言われた。今度は、明らかにレイジを羨んでいた。目元にシワを作りまくって、大笑い。

 その様子は、まるで酔っぱらった親戚のおっちゃんのようだった。


「改めて訊いてもいいかい? 私の背番号は……」

「アスクレーはんの背番号は7や」

「ラッキーセブンか。君たちからすれば、私は思いもよらぬ幸運だったのかもしれないね」


 思わぬ幸運の発言に、すぐに納得がいったレイジ。

 思えば、イリアーフで無事だったら、医者探しは難航していたかもしれない。

 アスクレーが加入したため、明日にも出発できるだろう。レイジがそう思った矢先、フォードは右手の人差し指をピンと立てて提案を始めた。


「……出発は延長しようか? 荷物を纏める時間も、心の整理をつける時間も要るだろ?」

「寛大な心遣い、とてもありがたい。可及的速やかに私用は終わらせる。時間は取らせない」

 アスクレーは、目を閉じて長考してから答えた。


「じゃあ、18日の朝で」

「いや、終わり次第でいいよ」

「分かった……俺たちは、待ってるぜ」

 フォードたちとアスクレーは、ひとまず解散となった。

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