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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第12章 くたびれた医者に生きがいを
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第130話 ヒラ医者 Ⅰ


 アンチサピエンスとの抗争から一夜、ニンフの街のとある病院にて。今朝の新聞の一面を飾った男が、この病院の一室で治療を受けていたのだ。

 何としても彼を取材したくて、ヤジウマ根性の強い記者が病室の前に押し寄せていた。しかし、ヴェルフたちはその扉を締め切っていた。


「ラークス、喉の方はどうだ?」

 ヴェルフが訊けば、ラークスは首を横に振った。

 彼の手元には、フリップとペン。彼は、おもむろに意思を書き連ねる。


『モノは相談ですが……』

「オギリとクロユリを勧誘したい、と言いたそうだな?」

 ヴェルフは、後ろにいるメンバーたちに目配せした。



「エルフの一人や二人増えたって、ワテには関係あらへん」

「とか言っちゃってさぁ、ホントは嬉しいんじゃないの」

 アーテルは、ランディを肘でこづいた。


「お兄ちゃんの方はともかくとして、妹さんの方はどうなるゴブやら……」


「少なくとモ、我々に反対意見は無さそウだナ。兄者、あの親子の合意さえあれば、問題はなイ」

「ああ、楽しみだな」

 ヴェルフは、口ではクールに言ってみせた。しかし、顔は嬉しさを隠しきれていない。


「どうしたんだい、急にニヤついて……」

 アーテルが小首をかしげると、ラークスはフリップを見せた。

『オレも楽しみです』

「なんだ……そんな事かい」




 一方、カロイ・ラマ。イリアーフの最西部に位置するこの街は、大河とヴァレアーフの壁に囲まれた要塞のような街だ。

 この街は、優秀な医者を多数輩出することで有名。それだけでなく、この街の住民であれば保険は充実している。

 そんな街のとある病院。ここにも、昨日の騒動における負傷者が運ばれていた。



「う、うぅ……」

 レイジは、うなされるように目を醒ました。

 彼のいる病室は、ほかにもバハラとオギリがベッドを使っている状態。


「よかった、レイジはん!」

「レイジさん、具合の方は……!」


 レイジは、ベッドの脇に置かれていた新聞を手に取った。

 7月11日付のイリアーフ日報。アンチサピエンスを相手に、ボーダレスとフォード、およびバルディリスらが勝鬨をあげた事が大々的に報じられている。

 彼らが勝ち取った賞金総額は、およそ3600万ルド。三つの冒険団で山分けすれば1200万ルドになる。



「アニキ……」


 レイジは、新聞の記事を細かく読んでいた。エルフが人間を助けたのは極めて異例な事のようで、それに関する社説がびっしりと書かれている。

 彼がその社説に目を通していると、検診に来た医者が部屋に入ってきた。

 彼の名前は、カーダ・ザプカ・サルファ。独身貴族のヒラ医者である。


 顎の不精ひげ、適当に整えたであろう七三分け、色あせたカーキのデニム。

 くたびれた50手前のオッサン、といった印象だ。おおよそ、レイジのオヤジと同世代くらいだろうか。

 まるで人生に疲れ切っているかのようなシワからは、どことなくもの寂しさを感じる。


「その様子だと、今日中にも大丈夫そうだな。向こうの不健康そうなやつはどうかは知らんが」

 カーダは、前髪を適当にかきあげた。


「ありがとうございます。えーっと……」

「カーダだ。なぜ名前を訊いた?」

 カーダは、レイジの点滴を変えながら言った。


「それにしても……人間と同じ病室を望むエルフが来るなんて、夢にも思わなんだ」

 カーダは、白衣の袖を捲った。その腕には、濃い体毛。


「それってどういう……?」

「お前の隣だ」

 カーダは、親指で窓際のベッドを指した。


「コイツがあのトリカの息子だってんだから驚きだ」

「同感です。てっきり、僕も拒絶するものかと。何かカラクリでもあるのでしょう」

「まぁ、我々が知る由もないことだがな」


「それで、このイリアーフも変わるでしょうか。……昨日の一件で」

「ニンゲンの俺に訊くな。少なくとも、あの母娘を無力化したところで大局は変わらんはずだ」

 カーダは、呆れながら答えた。


「せや! カーダはん……」

「例の(くだん)か。そういう話は、フォードなる人物を通してからにしてもらおう」

 カーダはため息をついた。


「ここの勤務で年間40万ルド。いくらお前らが新進気鋭の冒険団だからって、この安定した生活を捨てるなんて出来るわけなかろう」

「そらそうか……ウチらがいつスカンピンになるかも分からんしなぁ」

「そういう事だ。諦めろ」

「もっと言うたら……ジャンク・ダルク号に満足な医療設備なんてあらへんしな」

「だったら、なおさら話にならんな」

 カーダは、アザミに背を向けた。



「もし……もしも、やで?」

 アザミは、出ていこうとするカーダの裾を引っ張った。


「俺も忙しいんだ。手短に話せ」

「ジャンク・ダルク号に充実した医療設備を増設して……年間80万ルド相当の報酬を払う、ってなったらどや?」

「そのうち考えてやる。話半分くらいにはな」

 アザミの提案を鼻で笑ったカーダは、病室をあとにした。


「えらい古いハンカチやな」


 アザミは、カーダが落としていった藍色のハンカチを見つめた。

 かなり色あせていて、端がほつれかかっている。きっと、何年も使い込んでいるのだろう。


「FROM UREA……誰かから貰うたんかいな? 昔の大事な人から、やろか?」



「ダメそうだったね、姐さん」

「アカン、全く手ごたえナシや。他当たるで、他!」


 アザミは、(たすき)をかけると張り切って病室を出て行った。




 一方、その頃。フォードたちも、ジャンク・ダルク号でレイジたちのいる病院に着いた。 


「フォード殿、大して力になれず申し訳なく思う」

「はぁ……それ、何回目だよ? そんなに気にしてねぇよ」


 カイロは何度もフォードに頭を下げているが、フォードは全く意に介していないようだった。

 先のトリカ戦で、大して動けなかった事。それをずっとずーっと悔やんでいる。


「カイロ、それくらいにせよ。団長ともあろう男が情けないわい」

「そうだぜ、じーさんの言うとおりだぜ。あんまりペコペコしてるとハゲるぞ?」


「ったく、あの一味はどうなって……ぅおっと!」

 ブツクサ言ってたカーダは、フォードと肩をぶつけてしまった。

「すまねぇな。前をよく見てなかったモンでな」

 フォードは、右手を挙げて謝った。

「その声、その姿……! ははは……昨日のヒーローに会えるとは思わなかった」

 カーダは、たまらず振り返った。たまらず足を止めた。たまらず驚いた。



「で、さっきの一味ってのは……俺たちの事か?」

 フォードは、口角をあげながら、いつもの半袖ジャンパーを見せた。

 カーダは、一瞬、目を見開いた。それから、すましたような顔をした。


「そうだ、お前らだ。お前とアザミは、結構な身分の出だと承知している」


「……が、礼儀なるものが幾ばくか足りんな。昨日の今日、会ったばかりの医者を勧誘だなんて……な」

 カーダは瞳を閉じた。まぶたの裏には、アザミが誘ってきた奇妙さが焼き付いていた。


「アザミもメチャクチャやってくれるぜ。医者が欲しいのは山々だが、まさかお前を指名するなんてな」

 毒には毒を、と言わんばかりにフォードは不敵な笑みを浮かべた。


「同感だ。何が悲しくて、俺まで冒険団にならねばならんのだ」

 カーダは白衣のポケットに手を突っ込んで病院の敷地内をあとにした。

 フォードは、その哀愁ただよう背中を目だけで見送った。


「フォード殿、貴殿との短い旅……とても楽しかった」

 カイロは、フォードに握手を求めた。


「また砂漠越えるようなことがあれば呼ぶぜ?」

「その時は、友情価格で。貴殿は、他の冒険団に比べて羽振りがいい」

「だったら、出世払いにしてやろうか? んでもって回数払いにすれば、なおさら儲かるぜ」

 フォードは左手の人差し指と親指で輪っかを作った。それから白い歯を見せた。


「ならば、そうさせてもらおう。……ビッグになれよ」


「ふん……どっちが得するんだか」

 ロレンツィオは、二人の握手から視線をそらして毒づいた。


「二人ともありがとな!」

 フォードは、二人に手を振ると病院へ入っていった。

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