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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第11章 オールダンザイライヴ in モーリョ広場
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第124話 Ain't no ELF

「ラークス、お前に我々の夢を託す。すまぬ……」

 振りかぶったチェーンソーを睨み、死期を悟った。


「今さら、そんな事言わないでくださいよ。先生が俺の手紙に返事してくれた日、思い出すだけでも……ッ!」

 ラークスは、溢れこぼれる涙を拭いながら、叫んだ。

「我々は似た者同士なのかもな。ラークス、ルモンド兄弟と仲良くな……」

 死を覚悟し、ゼラニウムが目を閉じたときだった。


「テメェら、伏せろッ! “スフィアブレス”!」


 どこからともなく、大きな火の玉が飛んできた。狙われたチェーンソーは、その圧倒的な火力で爆発した。

 結果的に、ゼラニウム議員が斬られて処刑、ということはなくなった。クレットは吹き飛ばされ、戦意喪失。

 トリカは、火球が飛んできた方向を睨んだ。そこには、オルキヌスに乗ったバルディリスの姿があった。


 その一瞬の隙を突き、ヴェルフのカトラス剣が、ゼラニウムの鎖を断ち切った。


「オルキヌス。負傷したエルフどもを頼む!」

 そういってバルディリスは、友好の樹へと飛び込み、そのままエルフの密集する中へなだれ込んだ。


「あのドラゴン……!」

「止めとけ。アレは一億かかったモンスターの首さえも獲った奴だ」


 フォードは、トリカの注目を自分に引きつける。もっとも、オルキヌス側に明確な戦意はないが。

 再びトリカとフォードがぶつかり合おうとする寸前、ラークスはフォードの肩を叩いた。


「フォードさん、ちょっと思い直したんですよ。やっぱり最後は、この俺の手で……そう思うんです!!」

 ラークスは、右手をグッと握りしめた。しかし、その声は少し震えていた。

 あの日、トリカに、アンチサピエンスに別れを告げたときと同じ感じだった。


「急にどうした? サポートは任せろ、って大見得切ったクセによォ……」

「ここで、あなた達が姫の首を獲れば……。また、ニンゲンにエルフが傷つけられた、と思い込む者が現れるから」

「誰がやっても変わらねぇだろ。お前は、もうエルフだのニンゲンだのっての止めたんだろ?カルミナ人名乗っといて、何をヒヨったことを言ってんじゃねぇ!」

「ですが!」

 ラークスは、少しずつ強気になった。話したところで長くなる、と思ったフォードは、早々に折れた。


「だったら、こうしよう。お前に背中を預ければ、ニンゲンとエルフが凶悪な思想に立ち向かう構図になるだろ?」

 フォードは、勝手にラークスと背中合わせになった。ラークスの背中がじわりと熱くなるのを感じた。

 真夏の夜の熱気と少々の気恥ずかしさとで、ラークスは何とも言えない顔をした。


「分かりましたよ。俺の方も頼みますよ」


「おい、茶の間のエルフども! 見てんだろ? ヘリの中継を通してよぉ!」

 フォードは、中継ヘリの方に手を伸ばすと、フィンガースナップで10ルド硬貨を飛ばした。

 コインは、鈍い音を立ててヘリにぶつかった。それに気づいたカメラマンが、フォードにズームイン。


「俺らが挑むのはよぉ、エルフなんかじゃねぇ! テメェらも恐怖で縛りつけようとする夜叉だ!」


 ニンゲンとエルフ、種族を超えた異色のタッグ。しかし、当人からすれば、カルミナ人同士のタッグ。

 何も特別なことはない。少なくとも、フォードはそう思っていた。


「何か、新鮮というか……運命めいたものを感じるというか」

 ラークスは、乾いた笑いを浮かべた。


「まさか、あれほど憎いと思っていた種族と一緒に戦うなんて……。それが、かつての主となれば、なおさら」

「人生、一寸先は闇だぜ? 思いがけねぇ事なんて山ほどある」


「いつまでも世間話に付き合うほど、我々も暇ではございません」


「行くわよ、デック!」

「ええ。出でよ“ヒート―ル”!」

 デックが指を鳴らせば、炎と稲妻が混ざったような大きな剣が現れた。

 二人は、フォードたちを挟撃する形をとった。トリカが先に狙うのは、裏切り者ラークスの方だった。


 デックは、大振りの剣を勢い任せに振った。自分でもこれ以上ない速さだと思うほどだった。

 しかし、フォードはその刃を左手の薬指と小指で止めた。


「フッ、ヌルいな」 

「くっ……!」

 デックが押しても引いても、刃は1ミリも動かない。


「……エルフの魔力が人間より優れてるのは確かだろな。でも、アイツの炎の方がまだ熱いぜ?」

 フォードが手首を内側に捻ると、デックは簡単にバランスを崩した。

 よろけたところに、フォードはみぞおちに膝蹴り。さらに頸動脈を狙って手刀。

 デックは、声にならない声をあげ、血混じりの胃液を吐く。それでもニンゲン処刑を諦めきれずに、フラつきながらも立ち上がった。


「“アイス……」

「遅いわ!」

 トリカの右手から出た黒いムチのようなものが、ラークスをからめ取る。

 彼女は、遠心力を利用してラークスを投げ飛ばした。


「ヤタさん!」

 フォードが叫ぶと、ヤタが放り投げられたラークスを三つの脚で掴み上げた。

 再びステージに戻るも、すぐにエルフに数人がかりで羽交い絞めにされた。フォードが蹴り飛ばしても、次々にエルフが出てきて拘束が緩むことがない。


「ちょっと手荒いけど、もう一発いくぜ!」

「……来る! 皆、耐えなさい!」


 羽交い絞め部隊は、トリカの一声で身構えた。しかし、フォードは不敵に笑みを浮かべた。

 それから、足元に転がっていたマイクを蹴って、ラークスの右側を抑えていた者の方にぶつけた。


「……ブラフ!?」


 やっと自由になったが、それもつかの間。今度はトリカの黒いムチが幾重にも巻き付いてきた。

 ラークスに、デックの大剣“ヒート―ル”が襲い掛かる。

 さらに、ハンマーを持ったエルフたちがラークスを処そうと前に躍り出た。


「ヴェルフ、銃を貸してくれ!」

 フォードの要求に、ヴェルフはノールックでマスケット銃を投げ渡した。

 それを受け取ったフォードは、銃身を軽く指先で回した後、すぐに狙いを定めて弾丸をぶっ放す。

 狙い目は、ハンマー部隊の手首。狙いをつけた瞬間に引き金を引く。余計な事は考えなかった。

 手に強い衝撃を受けたエルフたちが、次々にハンマーを下す。そして、最後はデックの手首。


「ちゃんと、狙い撃ちができるようになったのね」

「…………」

 トリカが七年間の成果に感心するも、フォードは表情ひとつ変えない。

 さっきまで話をしながらでも軽く攻撃をいなしていたフォードの姿は、今はもうない。鋭い眼光で過激派組織を見つめる。



「しっかりしろ、ラークス!」

 ヤタさんが、ラークスの様子を見る。蓄積されたダメージこそ重そうに見えるものの、本人はしっかり立っていた。

 このままデックらを相手しようと、相手を睨んだときだった。


「ラークス、交代だ」

 ヴェルフは、ファー付きのジャケットを脱ぎながら、トリカの前に割って入った。

 彼の着ているノースリーブの背中には、“WE ARE CALMINAN”とあった。そのスペルは、エルフのラークスの背中にも。


「アホか、己がフォードはんとタッグ組んだら意味ないやんけ!」

「いや……ラークスは、かなり疲れてきている。ここで少しでも体力を回復させるべきだ」


「だったら……“グランデキュアー”」

 ラークスは、左手でフォードに、右手でヴェルフに触れながら呪文を唱えた。

 ホタル火のような光に包まれた二人は、身体の奥底から活力がみなぎってくるのを感じた。


「……託していいですか?」

「勿論だ。それより、あの爺さんを頼む!」

 フォードは、カイロ達が必死に守っているゼラニウムを親指で指した。


「お前も出血量が多いが大丈夫か?」

「俺の心配なら要らねぇ!」


「どうして、何度もエルフが助けたがるんだ?」

「アイツらがそれだけ特別なニンゲンなのかよ」


 何度でも見られる今日の風景。暴れていたはずの観客、およびアンチサピエンスの構成員の中には、疑問を持つ者が増え始めた。

 武器を下ろし、バルディリスらの誘導に従って会場から帰ろうとする者さえ出てきた。しかし、それをトリカが許すはずもなく……。


「今、ここで戦う意志のある者は、ステージにいる悪しきニンゲンを駆逐しなさい。闘えない者は……」

 トリカの左腕のオーラが、再びマシンガンのような形を作った。

 それから、大きなものを抱えているとは思えないほどの身軽さで、ステージを飛び出した。

 フォードとヴェルフも、その後を追った。彼女が向かったのは、大樹を囲うようにしてできたサブステージ。トリカは両端に設置された鉄塔の階段を駆け上がった。


「ニンゲンに与するエルフの恥晒しよ、今、ここで死になさい!」

 15メートルほどの鉄塔は、大樹よりもいくばくか低いが、それでも戦意なきエルフどもの姿は良く見える。

 マシンガンから、弾丸が一発。平和を望むエルフの背中がぶち抜かれた。


「トリカ様、なぜ……!」

「あなたがエルフじゃないからよ。あんな卑しきニンゲンと一緒になる者の姿に感化されたから、あなたは戦わずに帰ろうとした。だから、ニンゲンと同類になる前に私が撃った」


「それは暴論もいいところだな」

 フォードは、トリカのいる鉄塔を駆け上がりながら言った。

「当然よ。私たちは、誇り高きエルフ……ニンゲンどもに下るくらいなら、死なせた方がマシだわ」

「お前が定義したやつだけがエルフなら、このイリアーフに……カルミナにエルフなんていねぇことになるな。お前の倅でさえ、俺らと同類だ」

 フォードは、自分で言った皮肉に、笑いが堪えられずにいた。


「あの子は……いずれ、私の意志を継いで、エルフに明るい未来を見せてくれるわ。そのために私は、あの子を育ててきた!」

「それはどうだろうな? アイツがいる限り、お前の描く未来はないと思うが? 俺を助けたアイツの姿、今日来たヤツの瞼にしっかり焼き付いてるはずだぜ」

 フォードは、オギリに助けてもらった恩を噛みしめながら言った。


「そんな小さいことを……!」

 トリカの右ストレートがフォードの頬をかすめた。

「恩着せがましいのよ、ニンゲンは!」

 今度は膝蹴り。しかし、フォードの質実剛健な腕がそれを打ち払った。

「あんなの、千年のうちのたった一日じゃない!」

 次は黒いムチでフォードの頬を殴る。


「いいか。歴史を変えるのは、いつだって衝撃的な一日なんだぜ」

「だったら、下を見なさい!」


 トリカが指さした先には、デックが石像を壊そうと斧を振るう姿があった。

 それを必死に止める者もいたが、そんな者は仲間のエルフから白い目で見られるだけ。

 しかし、一人だけ、どうしても下がらない者がいた。


「デック、それはかつて初代アグストリア殿が人間との友好の証と……!」


「貴様らも、あのニンゲンに与するというのか……そうか、そうか! 貴様らもエルフではない、ということか」

 デックは、止めようとしたエルフを斧で一刀両断した。その血しぶきを浴びながら、デックは高笑いする。

 さらに、デックが赤い右腕を高く振り上げると、ハンマーをもったエルフが何十人と銅像を取り囲んだ。


「ニンゲンとエルフが馴合う、このイリアーフの象徴を砕け!」

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