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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第11章 オールダンザイライヴ in モーリョ広場
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第122話 七年前の清算 A面

「どうして……どうして!」

「それは、俺にも分からねぇ」


「フォード、あなたのせいでまたしても子供たちが……!」

 トリカは、左手でビンタをしようとした。しかし、恨みゆえに振りかぶったことで、その手を簡単に止められた。

 この期に及んでもなお、ニンゲンを責める事をやめない。


「かもな。俺なら避けられた。それでも、撃たれそうな奴を見過ごせるかって話だ……俺なら無理だな」

「7年前の私の気持ちが分かったでしょう? 私が、クロユリを助けたときの気持ちが……親代わりになるって決意の重さを!」


 トリカは右手でピストルの形を作ると、人差し指の先をフォードに向けた。

 フォードは、思わず苦笑いした。探し求めていた子供は今、トリカが育てている。

 何となくそんな予感はしていたが、それが現実となればあまりの皮肉に笑いが止まらない。


「なんて……なんてよく出来た運命なんだ。あの日……死なせた母親の子供が、お前の元で育ってるなんてな」

「何がおかしいのよ!」


 トリカは、指先から黒い弾丸を飛ばした。しかし、フォードは先の宣言通り、右にローリングしながら避けた。

 黒い弾丸は、アンプを貫いた。壊れたアンプから火花が散ったかと思えば、すぐに爆発した。


「生まれて間もないあの子を拾った時の私の想い、ニンゲンには分かるまい!」


 トリカの左腕には黒く禍々しいものが取り囲んだ。憎悪にまみれたその腕を振りかざすも、やはりフォードはステップして避ける。

 縦に横に……何度振るわれようとも、ただの一度もフォードに当たることはない。それから、フォードは口角をあげた。


「今なら分かるぜ。ドゥバンのアニキも、きっとお前と同じ思いを持って、俺を育ててくれたろうぜ」

 フォードは、戦場でドゥバンと出会ったあの日を懐かしんだ。そして、荒んでいた自分に根気強く付き合ってくれたことに感謝した。


「クロユリには……」

「この俺には……」


「今より輝ける未来を!」





 時はさかのぼり、7年前。場所は、ニンフの街。

 アンチサピエンスを目の敵にする政府は、とうとう軍を動かすことを決めた。

 当然、トリカもこれには黙っておらず、傘下を集めて対抗することを画策。しかし、ここで思わぬ誤算が一つ。

 諜報から戻ってきた男が、青ざめた顔で本拠地の作戦会議室に戻ってきたのであった。


「トリカ様! こ、ここ……今度の相手は政府軍だけではありません」

「クレット。とにかく落ち着きなさい。ほら、深呼吸して」

 トリカは、脚を組んだまま流し目で諜報員を見た。


「我々を潰すために、政府はレイゾンと組むことを決めたそうで……!」

 クレットは、政府機関から奪ってきた機密文書を見せた。


「レイゾン?」

 余裕ある顔をそのままに、トリカはラークスに訊いた。

「世界中から人間の精鋭を集めて組織された、国境なき軍隊ですね。手を組む相手としては、ある種理想でしょう」


 訊いた相手が悪かった――そう後悔したくなるほどに、ラークスは羨望の目をしながら語った。


「私たちを止めるために、ニンゲンと結託して戦線布告……」

「仮に我々を止められたとして、ニンゲンの力でエルフが制圧されたという事実が変わるわけでもなし」

「デック。縁起でもない事言わないで。私たちは、勝つわよ」

 トリカは、デックを睨んだ。相も変わらず勝気な姿に、ラークスは呆れるばかり。


「で、どうするんですか? 合流されると、勝てる確率はグッと下がりますよ?」

「簡単な話じゃない。すぐにでも攻めればいいだけのこと」

「……荒々しいですね。しかし、それ以外に方法が考えられないのも、また事実」

 デックは、毒づきながらもトリカの提案に賛同せざるを得なかった。


「それで……レイゾンは、いつ来るわけ?」

「可及的速やかに来られたとしても15日ほど、でしょうか」


「思った以上に短期決戦ね」

「まさか、政府軍を15日で……!?」

「勿論! 今、戦う意志のない者はニンフに残りなさい。足手まといになるだけよ」


 彼女の血気に背中を押されるように、アンチサピエンスの方から政府軍を迎撃することに。

 ところが、傘下を待たない開戦は、無理な攻撃でもあった。市民を逃がしながらの迎撃は難航した。

 さらに、政府軍の粘りも想定以上。軍どころか警察の機動隊まで出る始末。

 結局、レイゾンとの合流を許してしまったアンチサピエンスは、窮地に立たされた。


 トリカは、市民を避難所まで逃がそうと必死だった。無垢なる市民の犠牲を出させまい、と思ったのだ。

 ニンゲンが攻めて来たので、なおの事焦った。そんな状況下で、事件は起こるのであった。


「……誰!」

 トリカは、弾が飛んできた方向を睨みつけた。その気迫に気圧されたフォードが尻もちをついたのが、かすかに見えた。

 ドクドクと左肩から血が流れていく。惨劇を目の当たりにした母が震え、赤子が泣き叫ぶ。

 彼女がフォードを睨んだことで、ヤケクソの一撃が放たれていた。


「ウソ……でしょ!」

 彼女が気づいたときには、遅かった。母親は、娘を抱えたまま死んだのである。血の海の上、名前も無いような赤子が泣きじゃくる。本能的に、永遠の別れを悟っているのだろう。

 ダブついた――タンジーの戦死を聞かされたあの日が。親子を引き裂かれた惨劇の日が。


「誰か、この母娘を早く避難させて!」

「トリカさん!?」


 犯人(フォード)が許せなかった。気が付けば、トリカは走り出していた。

 デックは、仲間たちに市民の避難を急がせると、トリカの後を追いかけた。



「アニキ。俺は、俺は……ッ!!」

「悔いる暇があるなら、目の前の敵に集中しろ! ここは戦場だ、油断した奴から先に死ぬ場所だ」

 ファンブルに焦るフォードを、ドゥバンが怒鳴りつける。


「あら、私を撃って恐怖したボウヤじゃない。そんなに目を赤くして、どうしたのかしら?」

 トリカは、フォードの顎を親指で持ち上げた。フォードの顔は、恐怖で引きつっていた。ポロポロと涙を垂れ流している。

 ニンゲンの中でも屈指の実力者が集まると聞かされた組織にも、こんなに弱くて脆い者がいる。トリカがフォードに抱いた印象は、そんなものだった。

 そんな軟弱な野郎が、母娘を引き裂いた――そう思うと、怒りが込み上げてきた。


「フォードから離れろ!」

 ドゥバンが必死にトリカを引き離そうとするが、彼女は退かなかった。


「私は、あなたを絶対に許さない! 何があっても」

 トリカは、フォードの胸に強い蹴りを入れた。怯んだすきを狙って、今度は地獄突き。

 フォードは、ひざまずいた。何度もせき込んだ。それから、かすれそうな声で返す。


「はは……俺だって、許せねぇよ。自分のことがよ」

「ならば、その罪……死を持って償え!」


「“クロ・クロウ”!!」

 怒りと憎悪にまみれた両腕が、どす黒い闇魔法におおわれる。

 彼女よりもずっとずっと大きな漆黒の腕は、レイゾンを……ニンゲンを次々と薙ぎ払う。



「大将自ら攻めてきたぞ、心して迎撃せよ!」


 トリカに無数の銃口が向けられる。しかし、トリカは、その銃身を一つずつへし折っていく。

 それが間に合わずに、弾丸を放たれようと、身をかるく捻りかわす。

 レイゾンの兵士の頭蓋骨を掴み上げると、まるで豆腐のように握りつぶした。怒りのままに、トリカは攻撃を続ける。


 独り戦う彼女に続けと、デックも加勢。さらに部下たちもなだれ込んでくる。

 戦局はさらに混沌と化していく。両軍、犠牲の上に犠牲を重ねようとも、一歩も譲らず。

 互いに激しく消耗した今回の攻防は、引き分け。軍が退いて冷戦状態となるも、トリカはそれを勝利と確信した。


勝鬨(かちどき)をあげよ!」

 トリカは、頬にどす黒く付着した返り血を左手の甲で拭うと、右腕を上げた。

 彼女のその頬には、自分が流した鮮血がベッタリ。その指導者の勇姿に、アンチサピエンスが歓喜する。

 火薬を浴び倒し、血で血を洗い――ニンゲンを恨み、及びそれに与する同胞を嫌った女は幾千人もの血を浴びた。


 先の戦いから数日後、アンチサピエンスの本拠地。


「ラークス、あの二人は?」

「赤ちゃんの方は無事でしたが……」

 ラークスは、歯を食いしばり、トリカの視線をかわした。


「守れなかった……」

 トリカが噛みしめるように言うと、ラークスはゆっくりうなずいた。

 トリカの左肩の傷が痛んだ。無垢なる同胞を、助けてやれなかった。その後悔を抱えながら、先の戦争を戦った。

 脳裏にフォードの顔が浮かんだ。

 数日後、その傷を隠すかのように刺青が増えた。ニンゲンへの恨みを文字に起こし、その身に刻んだのである。



「ねぇ、ラークス。一つ提案があるのだけれど……」

「賛成ですよ」

 皆まで言わずとも、ラークスにはその腹づもりが分かった。


「え……?」

「貴女が、あの子を育てるつもりなのでしょう。育ての親がいる分、孤児院行きになるよりはいいでしょうけど」


 あまりにもアッサリ決まって、トリカは目を丸くした。

 彼女は、ラークスに連れられるようにして、その子供が保護された施設へ。

 必死の説得もあり、何とか赤子の親となることができたトリカは、嬉しそうに抱いていた。


「で、名前どうするんですか?」

「そうねぇ。クロユリ……なんてどうかしら」

「物騒な名前ですが、貴女が決めたとあらば、俺は別に止めはしませんよ」

 ラークスは苦笑いした。しかし、トリカは決意をしたためたのであった。




「ニンゲンにされた事を忘れない。そのために娘には……!」


「是非とも、そのクロユリって子供に会わせてもらいたいな」

「あの子に何をするのか分からないけれど、この舞台に連れてきていないわ」

「そいつは、残念だ」


 フォードは、大きくため息を漏らすと、眉毛をハの字にした。

 探し物は見つかった。しかし、たった一言だけ――すまなかった、と謝る事は今は出来ない。

 フォードは、すぐに切り替えた。


「それはそうと、俺との思い出話に花咲かせて良かったのかよ?」

「あら、あなたたち少数派に何が出来るとでも?」

「カルミナ人を助けられる。それと、俺は……それを阻むお前らくらいなら止められる」

「その自信……7年で随分と成長されたのね。上背だけじゃないといいのだけれど」

 トリカは、不敵な笑みを浮かべた。


「随分と卑下されたものですね……」

 デックは、懐からナイフを二本取り出すとフォードに切りかかった。

 しかし、フォードは、それを蹴り上げると、すぐに後ろに回り込んで羽交い絞め。そのまま、膝で背中を強く蹴る。

 攻撃の手を緩めるな、と言わんばかりにトリカの黒いムチが飛んでくる。腕を巻きつけられたフォードは、その遠心力でビジョンに投げつけられた。


 フォードが立ち上がろうとするも、トリカの闇の弾丸がそれを阻む。

 ニンゲンがやられている姿が映し出されると、観客たちは興奮した。もっとやれ、と黄色いヤジが飛ぶ。


「聞こえるかしら? この歓声……」

 フォードは、ヘイトと闇に覆われた左腕で殴られた。

「ああ、俺なんかお呼びじゃねぇってな。それがどうした!」

 フォードは、右フックで反撃。


「あの日、あの時、獲れなかったあなたの首……今、ここでッ!!」

「……獲れるものなら獲ってみろよ」

 フォードは、手のひらを天に向け、手招き挑発した。


 フォードとエルフ二人の殴り合いが始まった。

 デックが右側から攻める。ストレート、ストレート、ストレート……ラッシュを仕掛けるも、左腕ではじかれる。

 トリカも左側から。黒いオーラを纏いながら、左フック、右掌底、左飛び膝蹴り、さらに頭蓋を狙った右足のハイキック。極めつけにと、憎悪の左腕で首を締め上げる。

 明らかにトリカから受ける攻撃の方が重みがあった。七年分の恨みが籠っているのがヒシヒシ伝わってくる。


 フォードは、ソバットでデックを蹴り飛ばすと、トリカとにらみ合った。

 トリカの拳の雨をかわすフォードだったが、避けきれずに何発かくらってしまう。

 来る日も来る日も戦い続け、ニンゲンを滅ぼすことを夢見て鍛えられた身体は、見せかけだけではなかった。


「“クロ・クロウ”!」

 憎悪に満ちた左手の黒い爪が、フォードを切り裂いた。

 フォードの右胸から左わき腹に一直線の傷。まるで、内臓をえぐり取ろうとしたかのようだった。

 並のニンゲンなら死んでいるはず――そう思ったトリカは、一度離れた。


「“ノワール・バルカン”!」


 トリカの左腕に集まった黒いオーラが、バルカン砲のような形を作った。

 その銃身から、無数の黒い弾丸がぶっ放された。

 ニンゲンを切り裂いて、弾丸の嵐に晒して。“ノワール・バルカン”の鳴りやまぬ銃声をかき消すかの如く、エキストラが湧き上がる。

 ひとしきり弾丸を撃った後、フォードは平然と立っていた。


「なぜ……なぜ!」

「俺は元軍人だ。これしきの出血量、これしきの弾丸で死ぬわけねぇだろ!」

 フォードは、自信に満ち満ちた顔をしていた。

「デック!」


 一発の蹴りでノビていたデックは、すぐさま起き上がり、フォードとの距離を一気に詰める。

 またしても二人がかりの攻撃。デックの方を片手でいなすことはできても、やはりトリカの拳は熾烈だった。

 トリカのアッパーカットがフォードの懐に決まった。フォードが膝をつけば、これ見よがしにビジョンに映し出される。


「やっぱり、上背だけじゃない」

「我らがトリカ様を止めようなどと、所詮ニンゲンは口だけの種族」

「それは、どうだろうな」

 フォードは、不敵な笑みを浮かべながら舞台袖をみた。


 丁度、レイジを抱えたラークスが、サムズアップで救出の成功を報告した。

 さらに、カイゼがバハラを肩に担いで運ぶ姿が見えた。先にラークスがトリカの前に出てきた。

 フォードはポケットからリモコンのようなものを取り出し、操作する。すると、会場前に停めていたジャンク・ダルク号から超合金が二機飛んできた。



「今回の勝負、俺の勝ちだな」

「ええ。すべては、フォードさんが彼女たちを止めてくれたおかげ」

 ラークスとフォードは、ハイタッチをかわした。


「いやいや、お前らが迅速に応じてくれて助かったぜ。お前のようないいヤツがいたなんてな」

 フォードは、ラークスに肩を回した。ラークスは、照れ臭そうに「ありがとう」と呟いた。


「ラークス……あなた、どこまで私を裏切れば気が済むの?」

 トリカは、眉間にシワを作り、額の青筋全部浮き上がらせた。

「あなたの恨みつらみが消えるまで」

 ラークスが高らかに言うと、トリカの鬼神のような形相に、より一層迫力が出た。


「フォードさん、ここからは我々ボーダレスも加勢しましょう」

 ルモンド兄弟たちがスモークとともに舞台に戻ってきた。ランディがが大きな旗を掲げている。

 その旗は、正六角形とその対角線を意匠としたマークが刻まれている。ランディは、その旗を大きく振り回した。

 しかし、ここにいる以上、敵対勢力。エキストラからは、ブーイングという手荒い歓迎を受けた。


「フォードさん、こっちの目的は全部終わってます」

 ギュトーが舞台袖から手を振りながら叫んだ。

「分かってる! だったら、先にカロイ・ラマへ行ってくれ!」

 フォードは、アザミとギュトーにアイコンタクトを送った。

「アンタはどないするつもりなんや?」


「俺は、ここに残る。7年前の因縁に決着を……!」

 フォードは、一味で唯一、おこに残った。今は、元レイゾンとして。

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