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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第10章 夜叉エルフ
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第119話 恨みの系譜

 未明。レイジが目を醒ましたのは、鳴りやまぬムチの音が理由だった。

 雁字搦めに縛られ、吊るされていた。そんな無力な二人を、エルフたちは嬉々としてムチで殴り続けている。中には有刺鉄線で殴る者もいた。

 青あざに切り傷――どれほど、殴られただろうか。数えきれないほどに刻まれている。


「屈しろ! この……汚れたニンゲンめ!」


 エルフが罵詈雑言を浴びせるたびに、レイジは睨み返した。


「くそ……くそッ!! なぜ、コイツは屈しない!」

「屈服しろ、屈服しろ!」


「あなたたち、朝から随分と精が出るわね」

「トリカ様! それが……」


 トリカがヒールの音を響かせながらレイジたちのいる部屋へと入ってきた。

 チューブトップビキニの上からデニムベストを羽織り、パンタロンで足を彩る。

 そのスタイルの良さを見せつけるかのような格好はよく似合っており、バハラの目がハートになった。


「な、なんと眩しいお方……! これが残忍な悪の組織でなければ」

 トリカは、バハラの好みの見てくれだったらしい。


「汚らわしい目で見ないで! アンタのようなデブと、二児の母の私……釣り合うとでも思ったわけ?」

「とても、子供を産んだとは思えないほどのスレンダーさ、腹筋六枚が映えるくびれ……ぶっ刺さりですぞ」

 バハラは、なおも興奮していた。トリカは、たまらずバハラの視線をかわした。


「と、トリカ様! 聞いてください、この男の目……全く死なないんですッ!! 一体、どうすれば……」

 部下の鬼気迫る報告も、トリカは鼻で笑った。


「知っているわよ。彼、ニンゲンの間では“不撓不屈”なんて言われてるらしいじゃない」

「ですが、頭領……!」

「皆は下がってなさい。彼に話があるのよ、私は」

 トリカは、鞭を持つエルフたちを押しのけ、レイジに近づいた。そして、彼の顎を持ち上げる。

 レイジは、首を素早く振って、トリカの手を拒んだ。


「あなたが、巷で噂のフォードの弟分ね?」

「そうだ。お前が頭領か……!」

 レイジの目つきは、より一層鋭くなった。


「ええ。私は、あなたのようなニンゲンを粛清するために生まれた。私の名前には“ニンゲン嫌い”の意味が込められているの。消したりしない……この復讐心だけはッ!」

 トリカは、ヘイトにまみれた左腕を振りかぶってビンタした。その指先には、黒く禍々しいオーラがほとばしっていた。


「そうか、クロユリって名前は……」

「ええ。オギリにもクロユリも、私がニンゲンへの恨みを忘れないためにつけたわ。私がそうされたように……」


 子供たちの事を誇らしく思っている声色だった。昨夜の事を知らされた彼女は、自分の戦果よりも喜んだ。

 ニンゲンへの復讐心を名前から――彼女のその目論見は、的中しているように思えた。

 自分の代で成せなくても、オギリ達の時代ならば。そんな予感に胸が躍りそうになる。


「ひとつ、俺から訊いてもいいか?」

 そんな期待を遮るかのように、レイジは訊いてきた。

「答えられる範囲で構わないなら」

「お前ら、そんなに恨みつらみに縛られて、息苦しくないのか?」

 その質問は、トリカの背筋に電流を走らせた。逆鱗に触れたのか、拳が震えている。

 よりにもよってニンゲンに訊かれたくない事を、このレイジは易々と訊いてきたのだ。トリカは、それが気に入らなかった。


「誰のせいで……ッ!!」

 今度は右手が出た。

「こんな目に……ッ!!」

 15年を想えば、左足が出た。

「遭ったとでも!」

 名に刻まれた意味を噛みしめれば、右の拳が出た。

「思っているのよォ……ッ!!」

 再び、ヘイトまみれの腕を振りかぶった。

 もはや、トリカの感情は、歯止めが利かなかった。

 部下から有刺鉄線をひったくると、そのまま縦に横に。歪な形になって、ひん曲がるまでムチは続いた。

 雨漏りの如く血が床に滴っても、レイジが屈することはなかった。


「……ふはは」

 それどころかレイジは、急に乾いた笑い声をあげた。


「何がおかしいのよ?」

「そうだ、トリカ様を嗤うとは何事だ! 大体、お前は何様のつもりだ」

 殴られても、鞭でぶたれても――レイジの乾いた笑いは止まらない。


「なんて……なんてお門違いだ。何か俺を狙った理由でもあるのかよ?」

「フォードの一味を名乗っている……それだけでも大罪だわ」

 トリカは、かつてフォードにつけられた傷跡をレイジに見せつけた。


(もっと)もらしい理由をつけるなら、アニキの仲間だから連帯責任ってところか? 別に、俺はお前に直接何かしたわけじゃないだろ」

「では、もっとシンプルな話にしましょう。ニンゲンってだけで、あなたたちは罪。これでどうかしら?」

 トリカは、今度は胸元のタトゥーを見せた。しかし、レイジがそんな事で納得できるはずもなかった。


「お言葉ですが、御姉様。恨みや復讐で生きてちゃ、せっかくの美人が台無しですぞ?」

「その目……二度と向けないで!」

 トリカは、金切り声をあげた。15年前、ローラス公爵に買われたトラウマが蘇った。

 どれだけバハラが惚れこもうと、トリカからすれば単に下衆で卑しい目でしかなかった。


「ニンゲンだから処刑? 俺からすりゃ、理不尽もいいところだ」

 レイジは、アンチサピエンスのやり口を涼しげな声で嗤った。


「薄暗い中、誰にも見られない場所が嫌なのかしら?」

「レイジ氏、この御姉様……先ほどから会話が噛み合っておりませんぞ。もう論理的な対話は不可能ですな」

「そんなことくらい、ずっと感じてる!」


「派手な処刑をご所望ならば、こういうのはどうかしら?」

 トリカは、レイジたちの耳元に近づき、プランをささやいた。その瞬間、バハラの顔が青ざめた。


「きょ、狂気の沙汰もいいところですな!」

「ライブパフォーマンスで俺達を処刑だなんて。十数万人の集まる中で……」

 ニンゲン――とりわけフォードと近しい者に下した判断がコレだった。


「心配しないで。あなたが慕っている仲間たちには、必ず後追いさせるから」

 トリカの妖しげな笑みは、彼女の狂気をより一層引き立てる。





 時刻は午前5時。朝焼けなどとうに過ぎている。今日は、朝からうだるような暑さ――すでに気温は30度近く。

 半日近くグッスリ眠っていたフォードは、ジャンク・ダルク号の外に出てみた。


「レイジ、バハラ! もう朝だぞ」

 しかし、レイジとバハラの姿が見えない。代わりに、外壁に張り紙一つ。


「なんだ、この手紙は……」


 今日18時、大罪人であるフォードの一味の仲間を公開処刑する。場所は、モーリョ広場・友好の石像前。

 この日のために、最高の舞台を用意している――との内容が書かれていた。

 さらに、張り紙の横に雑多に置かれていた新聞“エルフ日報”は、大物政治家の失踪を報じていた。さらに、レイジ捕縛の記事が、メインを引き立てる。


「お前ら、起きろッ!! 緊急事態だ」

 フォードの張り上げた声は、ジャンク・ダルク号全体に響く。少し早い目覚まし――それでも、アザミたちはシャッキリ起きた。


「フォードはん、何があったんや?」

「レイジとバハラが連れ去られた。あと……」

 フォードは、アザミに張り紙と新聞を突き付けた。


「な、何やのこれ……」

「我々がいながら、この事態。どのようにお詫びを……」

「ガチで詫びる、っつーんなら行動で示しやがれ! 謝罪の言葉なら、全部終わった後でいくらでも聴いてやる」

 フォードは、凄みのある声で返した。


「“ゆめゆめ助けられるなどと思わぬように”だって? かといって、何もせずにレイジたちを見殺しにするわけねぇだろ」

「左様。お前さんらの護衛を任された以上、この一件はワシらにも責任があるというもの」

「どないするんや、フォードはん」

「アイツらを呼ぶ……バルディリスSKYハイスターズだ。それと、エルフのいる冒険団にも協力を要請する」

 この手の状況はシバレー以来、二度目。フォードは至って冷静だった。


「ですが、エルフと人間が共に冒険しているチームだなんて……!」

 ギュトーからすれば、フォードの一計は机上の空論にしか思えなかった。

 しかし、ロレンツィオは、確信めいた眼差しをフォードに向けた。


「ああ、一組だけいる。ルモンド兄弟のところだ。人間とエルフが共に戦う……この現象自体に意味がある」

 フォードは、半袖ジャンパーを脱ぐとジャンク・ダルク号の中へと投げ入れた。ニンゲンの冒険団の証だが、今は余計なモノだった。

 やる事は明確になった。フォードは、早速、依頼文をしたためるのであった。今日は嵐の一日になりそうだ――フォードは、筆を走らせながら、そんな予感を肌で感じ取った。

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