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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第10章 夜叉エルフ
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第112話 荒れ果てたエルフの街で Ⅱ

 エルフの執念は深く、銃で射撃を試みる者や魔法で対抗する者も。ジャンク・ダルク号は、それを受け止めながら前へと進もうとする。

 こちらが応戦体勢をとれば、騒ぎはより広がることなど明白だった。少しでも早くカロイ・ラマへ抜けることが、お互いにとっての利である。

 しかし、エルフたちの抵抗は、思うよりも強かった。とうとう、ジャンク・ダルク号を止めるまでに至る。


「アニキ、これはマズいですぞ! 機体の損傷が想定以上で……」

「んな事分かってる! 先ずは俺だけ出て交渉する」

 フォードは、ジャンク・ダルク号から飛び出た。


「出て来たぞ、ニンゲンだ! この臆病者め、戦うなら戦え!」

「俺たちに戦う気はねぇ! だから、武器を下ろし……」

 フォードは両手を広げたが……。


「イャッハー! 無抵抗のニンゲンだ!」

「ゲラハハッハ! しかも、大量の食いモンに魔力油までもってやがる!」


 無抵抗と知るや否や、エルフたちが嬉々としてフォードに襲い掛かった。炎や風といった魔法が飛んでくる。

 フォードは、虫を払うようにエルフの魔法攻撃を軽くあしらう。


「頼む、ここを通してくれ。俺たちは、お前らに危害を……」

「ニンゲンの言葉が信じられるものか! 今すぐ出ていけ!」

「そうだそうだ! いつだって耳心地のいい言葉で俺たちを騙しやがって」


 目が血走っている。ケモノのように唸りながら、息を乱している。

 ニンゲンを見れば叩きのめす。もはや、脊髄反射の領域に達している。

 お構いなしに光の玉が飛んでくるが、やはりフォードからすれば軌道の読みやすいもので、簡単にかわされる。


「耳心地の良い言葉で騙す? どの口が言ってんだ? 都合のいいことだけ信じてるクセに」

 エルフの態度には、フォードも呆れる。


 なおも攻撃は止まない。それでも、フォードにダメージを与えるには至らない。

 言葉は通じない。ニンゲンの言葉は、誰にも届きはしない。


「くそ……ッ! さっきから魔法が効いてねぇ! 何をしても軽くいなされる」

「ニンゲンのクセに生意気だ!」


 直線的な魔法や銃弾の数々。殺意に任せた鈍器の振り下ろし。

 鈍器を掴み上げては、へし折る。銃があれば、奪ってでも壊す。魔法に至っては、使える者こそ多いものの、数発撃つだけで息切れになるほどの者ばかり。

 いずれも、フォードの敵ではない。というより、ほとんどが市井。


「市民運動家か何かだと思うけどよ……俺からすりゃ未熟だ。特に鉄砲。下手でも数撃ちゃイケるとでも思ってるだろ」

「この……青二才が!」

 衝動的に繰り出された弾丸。フォードは、それを指でつまむと、フィンガースナップでお返しする。

 お返しの弾丸は、銃を持ったエルフの耳元三寸をかすめた。そして、狙撃者の後ろにいた剣士の手首に命中する。

 剣士の手から剣が落ちた。狙撃者は、剣士の方を振り返って青ざめた。


「ニンゲンめ……! 我々の要求を拒み、あまつさえ暴力を奮うか!」

「おい、ガキども! これがニンゲンだ!」

 声を荒げ、フォードを指すエルフ。まるでフォードが大罪人であるかのような振舞い。

 出ていけ、と声を荒げる者が減った。代わりに、殺せコールが沸き起こる。

 そんな荒んだ大人を見た子供のエルフも、真似をする。ニンゲンを殺せ、と。


「ここに侵入した時点で、お前らはすでに大罪。死刑に処されるべきなんだ!」

「俺たちは、この先にしか用事が……」

「言い訳無用! 貴様らがやってきた事、忘れたとは言わせないッ!」


 電流が走っている釘バットが向けられた。火炎放射器が向けられた。

 ニンゲンから奪ってきたであろう文明の利器を、怒りのままに振るう。

 フォードは、電流釘バットを左腕で受け止めた。火花が飛び散り、フォードの腕に釘が刺さる。

 とうとう、フォードの怒りにも火が付いた。火炎放射器のトリガーが引かれるより先に、物騒な武器を蹴り落す。


「この……ドサンピンが! 俺たちの正当防衛を暴力で返しやがって!」

「暴力……? いや、こっちも正当防衛だ。通してさえくれるなら、それでいい。俺たちは、さっさとここを通り抜けたいだけなんだ」


「ニンゲンの恨み妬みばっか言ってるけどよぉ、俺が昨日までに何かしたってのかよ!」

「今さらシラを切るな! お前自身の胸に訊いてみやがれ!」

「…………」

 エルフの一人が、フォードの胸倉をつかんだ。

 フォードは、レイゾンとして来た時のことを思い出した。その時も同じように、過激派組織と戦った事を。


「ああ、そんな事もあったな。ただ俺たちは、平穏に暮らしたいエルフたちのために戦ったはずだけどな」

 フォードは掴んできた手を振りほどいた。

「そんな事……だと? それを聞いたら、俺たちの頭領がどう思うだろうな?」


「理不尽だぜ……お前たちの暴言や暴力が許されて、俺の交渉や正当防衛が死刑だなんてな。さらに、平穏に暮らすエルフの権利……それを俺たちが守ることが許されねぇなんてな」

「当然だ、ここはエルフの大地だ!」


「これがアウェーの洗礼ってヤツやね……」

 アザミは、ため息をつく。

「フォード殿、どうする? このままでは身動きが取れなくなる恐れがある」

 事態が収まらないことに耐えきれず、カイロ団長が飛び出してきた。

 暴徒の数は増えていく一方。手を出さず武器を落としたり、威嚇したりでは処理しきれない領域に。


「……交渉が決裂したら、威嚇射撃に踏み込む。タイミングは、俺に任せてくれ!」

「あいあいさー!」

 バハラは、巧みなボタン操作でジャンク・ダルク号の主砲を目いっぱい上に向けた。


「この期に及んで、まだ戦わへんの?」

「蹴散らすこと自体は簡単だけどな」

 フォードは、なおも物憂げな顔をした。


「アニキ! 今、ここは戦場じゃないのかよ! 今、この瞬間だろ……戦うべきなのは!」

「何ゆえに憂鬱な顔をされているのか、度し難い。フォード殿、私はいつでも……」

「某も戦う所存ですぞ! ここは景気よく、威嚇射撃と言わず……」


「危害を加えぬ、と言った手前だ……察してやれ」

 ロレンツィオは、血気に逸る若造たちを睨んだ。

 フォードに明確な戦意はない。降りかかった火の粉を払っているに過ぎないのだ。


「最後の忠告だ。お互いのためにも、これ以上俺たちに関わらないでくれ! お前らも、俺に抵抗したって無駄だって分かってるはずだ」

「相っ変わらずやなぁ……何でサラッと神経逆なでする言葉が出るんや」

 アザミは、大きくため息をつく。


「ニンゲンに騙されるものか! 打て! 撃て……討てェ!」

 指揮官の怒号が辺りに響いた。一斉に魔法を撃つ体制に入った。

 フォードは、歯ぎしりした。こればかりは避けたかった……そう言わんばかりに悔しがった。


「バハラ!」

「ガッテン承知の助! ……ポチっとな」


 バハラが力強く射撃ボタンを押すと、大砲が天高く吠えた。地鳴りを伴った重低音が、あたりに響いた。

 さらに、フォードの気迫の嵐が吹き荒れる。彼の後ろに現れた三面六臂の幻を目の当たりにした弱き者が、泡を吹いて倒れる。

 市民たちが怯え、隠れる。臆病者が、ジャンク・ダルク号から離れる。


 道が開けた。ジャンク・ダルク号が動きだした。

 あまりにも手荒な真似……それこそ暴徒たちとほぼ同じような手法。こんな事でしか先へ進めなかった事態に、フォードの目頭が歪んだ。


「バハラ、飛ばせ!」

「仰せのままに! 皆の衆、しっかり掴まってくだされ!」


 ジャンク・ダルク号は加速する。あっという間に暴徒たちが遠く、遠くなっていく。


「なんという気迫……フォード殿は、やはり噂以上だ。新聞で読んだよりもずっと強い」

 出番があると構えていたカイロの方の力が抜けた。

「あれでも、元レイゾン……鬼神とも呼ばれた男じゃ」


「…………」

 そのフォードは、ジャンク・ダルク号の上にいた。腕組しながら、鋭いまなざしで後方を警戒していた。

 その警戒、して正解だった。一度は怯んだはずの暴徒たちが、こちらに向かって走ってくる。

 決してエルフの脚で追いつけるものではない。そう分かっていても、フォードは物憂げな顔でチェイサーを遠く見つめていた。


「……アニキ?」

 レイジは、ジャンク・ダルク号の上、フォードに近寄った。

 顔を覗き込んでも、彼は応答しなかった。


「フォード殿、過去に何かあったのではないか? レイゾンでイリアーフと言えば、7年前……」

「…………」

「フォード殿ッ!」

「あの頃は、俺もガキだった。それで察してくれ」

 フォードは、迫るカイロを手で制止した。


「それじゃ、答えには……!」

 カイロは、なおもフォードに噛みついた。フォードは、顔だけ振り返り、凍てつくような眼差しでカイロを止めた。

「もういいだろ。それより、お前らは前方を見張ってくれ。また、あんな奴らがくるかもしれない」

 フォードは、もう一度遠くを見つめた。




 場所は変わり、ニンフの街。いくつもの大河に囲まれた中洲の街である。ここを西に抜ければ、カロイ・ラマへと通ずる。

 レプラの街とは異なり、ニンゲンのエゴの象徴ともいえる工場はほとんどない。しかし、ニンゲンへのヘイトにまみれた落書きは、レプラの比ではないほど多い。

 それも、過激派組織“アンチサピエンス”の本拠地ゆえ。人にNOを突きつけるマークの総本山が、ここにはある。

 フォードたちが先ほどまで衝突していたロベリアーズは、その傘下の一つである。頭領たるトリカに心酔し、ついてきた市井の軍団。


 アンチサピエンスの屋敷の一室。ニンゲン打倒を掲げながら、トリカは日課のワークアウトをこなしていた。

 ひとしきり汗を流したところに、部下が入ってくる。


「トリカ様。ラークスから手紙が届いております」

「ああ、あの裏切り者からね。……読む気はないから、捨てなさい」

 トリカは、見向きもしなかった。


「それよりも、今朝言っていたニンゲンは排除出来たのかしら?」

「カロイ・ラマからの侵入者でしょうか。それならば、今しがた始末したところですが……」

 部下は両手をすり合わせながら言った。及び腰になっており、額に脂汗を浮かべている。

 トリカは、ご機嫌取りであることをすぐに見抜いた。


「他にもいるのでしょう? そっちの方はどうなっているのかしら?」

「申し訳ございません。奴ら、巷で噂のフォードの一味でして、全く歯が立ちません!」

「フォードの一味……」

 トリカは、思わず左腕を押さえた。


「トリカ様、少しお気分が優れないようですが……」

「私なら大丈夫だから。それより子供たちは?」

「ニンゲンを倒す力が欲しい、とデック様が稽古をつけております」

「そう……」

 トリカは、作り笑いを浮かべた。


「少しばかり、独りにさせてくれるかしら?」

「ええ……。では、失礼します」


「貴方……」

 トリカは、写真立てを手に取り、静かに涙した。金髪の男性エルフ、生まれて間もない子供を抱く彼女が映った写真だ。

 親子三人、屈託のない笑顔でよく取れている。あの頃には戻れない……その無常さに、胸を締め付けられる。


「あれから10年。この幸せを奪ったニンゲンが、私は憎い……。殺しても、殺しても……この恨みが晴れない。どうすればいいの……」

 写真を抱きしめながら、膝から崩れ落ちるトリカ。嗚咽が止まらない。



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