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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第9章 The Wildest Journey
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第110話 砂漠越え

 砂漠を超えるための装備を整えたフォードの一味は、キャラバン隊であるカイロ師団とともにスサナンド砂漠へと足を踏み入れていた。

 この日は、晴れ。風も穏やか。砂漠を超えるには、今日が絶好のチャンスであった。夜明け前から、ジャンク・ダルク号とカイロ師団の荷車を走らせる。

 カルミナでも屈指の広さを誇るスサナンド砂漠。巨大な機械を二機も率いる以上、いくらか遠回りでも平坦なルートを取らざるを得なかった。

 そういったルートをとれるのも、熟練のキャラバンの知識あってのもの。


 しかし、朝日が昇れば、その強烈な光が精神力を容赦なく削ぎにくる。ブーツの底から伝わってきていた冷たさがウソであるかのように、今度は熱を足裏に伝えてくる。

 9時を回るころには、気温は40℃を超える。日本でも体験したことのない暑さだった。カラッとした空気でやり過ごせると思ったら大間違い。体中から汗が出ては砂に染み入る。

 そんな熱砂の地獄にあっても、カイロ師団の面々、フォードの表情が変わることはなかった。逆にバハラは、梅干しのように顔がシワだらけ。苦悶の表情が止まらない。ジャンク・ダルク号に引きこもっているくせに、誰よりも水を飲んでいる。

 レイジは、フォードと一緒にジャンク・ダルク号の上でモンスターがいないか、警戒を続けていた。何度も汗をクロークで拭い、息を乱している弟分を見かねたアニキは、溜まらず心配になった。


「お前も辛いなら中にいてもいいぞ?」

「大丈夫。いざとなったら、俺ぐらいしか戦えないと思うから」


「気遣いならご無用。我々の実力を甘く見ないでもらいたい」

 話を小耳に挟んだようで、カイロ団長は白い歯を見せながら笑った。よほど腕に自信があるようだ。


「あと、俺の目もな! 一番いいところに頼んでるんだからよ」

「…………」


「いざってなったら、必ず呼ぶ。それに備えて、お前も少しでも休んでおけ」

「わ、分かった」

 そう言って中へ入っていくレイジの息は弾んでいた。


「うおっ……寒っ」

 ジャンク・ダルク号内は、逆に肌寒いくらい。冷たい風がレイジの身体に襲い掛かる。

 レイジは、すぐに汗を拭き、クロークを取り替えた。


「某、もう暑いのがダメダメで……それは機材とて同じことで」

 バハラは、喉を鳴らしながら水を一本開けた。

 彼の口ぶりからして、後者の方が大事なのだろうとレイジはすぐに気づいた。


「あのさ……体調が悪いならドクターに見てもらえば? 離れられないなら呼んでくるよ?」

「いえいえ、お構いなく」

「だったらいいんだけど。あんまりガンガンにクーラー効かせてると、燃料持たないから……」

「お、お気持ちだけ受け取っておく事にしますぞ。とにかく、某は平気ですぞ」

 レイジを心配させまいと、バハラは適当に言葉をつくろった。

「…………」

 それでも、レイジはバハラが気がかりだった。





 時刻は、正午を過ぎたばかり。

 多少迂回してはいるものの、イリアーフまでは直線距離で残り370キロほど。

 涼しい内部とは対照的に、暑さが増していくスサナンド砂漠。自然がヒトに牙を、殺意を向けている。

 青く、どこまでも広がるドームの頂点。そこに太陽はいる。これほどまでに太陽を疎ましく思った日もない。

 こんな状況でモンスターに出くわせば……そういう悪い予感は、えてして当たるものである。


「出たな、サンドブルム!」

 フォードは、早速ライフルを構えた。

 敵は、一匹や二匹どころの話ではなかった。


「全員、戦闘態勢!」

 カイロ団長も、斧のような刀身の大ナタを敵に向けた。


 外の喧騒にいてもたってもいられなくなったレイジは、光と熱の地獄へと飛び出した。

 魚とも竜ともモグラともつかぬような生き物が、群れを成して砂の中から次々と現れてくる。

 その大きさは、およそ40センチ程度。1000匹単位で群れを成す生き物にしては明らかに大きい。

 これだけでも処理するのに手間取りそうなのに、さらに地響きや砂嵐と共に何かが近づいてくるのがわかった。


「今度は、何だ!」


 そのサンドブルムを狙うように、無数の脚をもつ長い体躯の生き物が現れた。

 身体を天高く伸ばし、大あごを開いた。すると、サンドブルムが怪物の口の中へ。まさに、飛んで火にいる夏の虫。

 天敵の登場により、クモの子を散らしたように逃げるサンドブルムの群れ。


「くっ……ミルフィートか!」


 サンドブルムの群れを丸飲みしたミルフィート。無数の脚を持つ巨躯は、スサナンド縦断の最大の障壁の一つ。

 フォードは、ライフルからバズーカに武器を変え、一発撃ち込む。


「“ファイア”!」

 レイジも炎の玉を投げ込むが、ミルフィートは何食わぬ顔でジャンク・ダルク号に襲い掛かる。

 絶体絶命と思われたその時、カイロ団長の大きな鉈がミルフィートの硬い殻に亀裂を入れた。

 想定外の一発に、ミルフィートは悶えた。


「レイジ殿、フォード殿! 砂漠に住む以上、ここのモンスターは暑さにも寒さにも強い」


 考えてみれば、当然の話である。1日の内で灼熱と極寒が交互に入れ替わる中を生きているのだ。

 熱による攻撃が効かないのならと言わんばかりに、今度は雷の玉を撃ち込むレイジ。

 しかし、それを振り払おうとミルフィートは、長い長い尻尾を一振り。砂塵のオマケ付きで、レイジの雷の玉をフォードたちにお返しする。


「このタワケ! 下手に刺激してどうする!」

 ロレンツィオは、年甲斐もなくがなり立てるようにレイジを叱りつける。


 砂煙が晴れると、そこにはミルフィートの姿はない。しかし、地鳴りのような音はする。

 どこから狙おうか、それを模索しているようにも感じられる。レイジとフォードは背中合わせになり、警戒を高める。

 砂が舞うのが見えた。明らかにレイジに近づいている。


「来るぞ、レイジッ!」

 フォードが注意を促した矢先に、奴は飛び出してきた。

 目の前を覆い尽くさんばかりの長く、巨大な生物。雷も炎も効かぬ怪物。

 完全に感覚がつかめていなくても、この技に賭ける他なかった。


「イチかバチかだッ!! “ウィンド”!」


 レイジは、一歩大きく前へ踏み込んでから身体を素早くひねり、右足で回し蹴りする。

 足先から、鋭い風の刃が一直線に飛んでいく。さらに、左足の後ろ回し蹴り。その左足の先からも、風の刃。

 技は、二発ともミルフィートに直撃。硬い装甲を射抜くまでには至らなかったが、十分な手ごたえだ。

 一瞬、ほんの一瞬怯んだ。だが、それはフォードには大きなチャンス。


「後は俺に任せな!」

 フォードはライフル片手に、ジャンク・ダルク号から飛び出した。

 ライフルの銃口をミルフィートに開けられた殻の隙間にねじ込むと、そのまま引き金を引いた。


「げぐぁああああ!!」


 ミルフィートは甲高い叫びを上げ、身をくねらせながら苦しんだ。

 それから、目の色が変わった。レイジらを喰らい尽くそうと、大あごを開いた。


「だから、下手に刺激するなと言うておろうが!」

 ロレンツィオは、呆れた口調で言った。その両手には、紫色に輝く玉が二つ。

 老師がそれを投げると、二つの玉が螺旋を描きながらミルフィートの口へと入っていく。


「今じゃ! 爆発せよ!」

 老師が両手を鳴らすと、ミルフィートの内側で爆発するような音がした。

 今度はうめき声の一つもなく、そのまま倒れた。


「そうか、硬い殻に覆われているから……」

「いかなる生命も、皮や殻一つ隔てた先は弱いモノよ……」

 ロレンツィオは、ミルフィートの死骸を見下ろしながら言った。




 その後も、様々なモンスターを相手しながら先を行く一行。

 レイジがシバレーにおいて相手したスコーピオレディ。アリクイを食うために竜巻を起こすことを覚えて進化したアリクイアリ。

 さらに、球状になった鉄のように固い繊維を持ち、種をばらまく植物“ウィールグラス”の群れ。彼らは別名“砂漠の走り屋”。

 平坦なルートを選択しても、昼間に活動する危険なモンスターはたくさんいた。しかし、そのいずれも、カイロ師団およびフォード&レイジの敵ではなかった。

 進んでいくうちに、日は暮れた。今度は極寒のターン。危険なモンスターが“こんにちは”する時間だ。


 砂漠に誰かが遺したであろう地上絵がひとりでに動き出した。

 全長60メートル。幾何学的な体をしたドラゴンのような生き物の名は“サンドオーメン”。


「マザーゴーレムにラージェストマーリンを見たせいか、小さく見えちまうな……」

「がはは! なんと肝が据わった冒険団だ!」

 フォードのつぶやきに、カイロ団長は豪快に笑った。


「サンドオーメンの恐ろしさは、その見てくれだけ……所詮、砂で描いた龍じゃ!」

 ロレンツィオの両手で紫色の光の玉が大きく光る。それも、昼間の比ではない。

 砂で見せるまやかしに本物を見せつけてやると言わんばかりに、ロレンツィオは光の玉を打ち出した。


「砂が相手なら俺の出番か。“ウィンド”!」


 レイジは、昼間と同じように風の刃を飛ばした。ロレンツィオの光の玉よりも先に、サンドオーメンの身体を穿つ。

 開いたサンドオーメンの胸元から赤いオーブのようなものが現れた。

 サンドオーメンは、砂を操ってすぐに守ろうとするが、ロレンツィオの魔術が先に赤いオーブに届く。


「ホントにあっけない……」

 サンドオーメンのオーブが砕けると、身体を覆っていた砂が霧散する。あまりにも儚い最後だった。


 その後も、夜盗が数組。サンドブルムの群れ、砂を這うワニなどを相手にし、先を急いだ。

 一行は、見張りを交代しながら、わずかでも身体を休めることに。

 身も凍るような寒さに耐えながら、数時間。東の空が明るくなった頃、ようやく建物らしい建物が見えてきた。イリアーフ地方への入り口だ。


「こ、これは……」

「エルフの街、だ」


 イリアーフ地方の街の一つ、レプラ。そこで彼らが目の当たりにしたのは、とてもまともな人間が住んでいるとは思えないほど荒みきった建物の数々。

 ハンマーや斧でつけられたであろう壁の傷は修復されることなく、シャッターや道路など至るところにスプレーによる落書きが散見された。

 その落書きの中には、エルフ独特の文字で「くたばれ、ニンゲン」だとか「工場増設反対」だとか……そう書かれたものもある。

 エルフがエルフらしく生きる権利がある――そういった事が、筆跡からありありと伝わってくるようで、ニンゲンの胸を苦しめる。


「空気が、澱んでる……本当にエルフの街?」


 そして、何よりもレイジの気分を悪くしたのが、空気。工場からダダ洩れの排ガスや廃液はもちろん、重火器類を使った後の煙も混じり、吸い込むだけで吐き気を催すほどだった。

 耳をすまさずとも、どこかで暴徒化したエルフを鎮圧しようとする人間の声が聞こえてくる。公害にまみれ、安全な食料も水も確保できぬ状態を嘆く子供の声も聞こえてきた。

 おとぎ話に出てくる美しい自然に囲まれた集落を想像していたのなら、大間違い。これが、エルフの住んでいる荒れ果てた街だ。

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