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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第2章 頼れるアニキと頼りないレイジと
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第12話 非凡vs非凡


「……天才だと?」


 自分で自分の事を天才と名乗る。そんな奴が、レイジは嫌いだった。

 対抗心全開で、レイジはエルトシャンの方をにらみつける。しかし、向こうはどこ吹く風。


「……ねぇ、この人ちょっと怖いんですけど」


「エル様に逆らおうなんて100グーゴルプレックス年早いのよ!」


「てか、ないわー。チョベリバだわー」


「君たちが怖がることはない。ただ、彼は少しだけピリピリしているだけさ。……だよね?」


 エルトシャンは、女の子たちをなだめる。この辺りも、強者というか天才ならではの余裕か。

 コンプレックスの塊から見れば、その充実ぶりを見せつけているようで腹が立つ。レイジは、強く当たった。


「お前は何様なんだよ!」


「さっきも言った通り、僕は魔術の天才さ。炎、水、雷、地、風の五つに加えて、最近はオヤジの真似して遊んでいたら……光も使えるようになった」


 いくつもの属性を操る事ができると聞いただけでも、強く感じられる。アザミの比ではないくらいに魔術を心得ている。

 さらに、なんの努力もなく新しい魔術の習得をしている。それだけ、才能に恵まれているのだろう。

 どれだけ悩んでも、いろいろと試してもただの一発もロクに扱えないレイジとは大違いだ。


「さっきから、イヤミか!」


「君からしたら、そうかもしれないね」


「この……!」


 レイジは、耐えきれずに剣を構え、エルトシャンに突進した。


「勝負かい? だったら、受けて立とうじゃないか。でも……」


 勝負開始の鐘は、突然に……。エルトシャンが、不敵な笑みを浮かべた。


「礼儀がなっていないから、少しばかりオシオキが必要だね。“ウィンド”!」


 エルトシャンが指を鳴らせば、砂塵を巻き上げながらレイジが吹き飛ぶ。

 レイジは、そのまま海面に背中を叩きつけられた。それでも、レイジは剣を構えなおし、目の前の男に突っかかる。


「君たちは、少し下がってほしい。何をするかわからないからキケンだ!」


「でも、エル様が……!」


 チアガールの一人が心配する。


「僕なら平気だ。というより、少しばかり本気を出したいんだ」


 いつになく、真剣な顔つきになったエルトシャン。それを邪魔できないと思ったチアガールたちは、素直に下がった。

 その直後、エルトシャンに剣が振りかざされた。しかし、その太刀筋はあまりにも遅く、避けるまでもなかった。

 エルトシャンは、右手で切っ先を抑えると、もう片方の手をレイジの腹にあてた。


「“フリーズ”!」


「ぬうぅ……」


 レイジの腹部に冷たい一撃。それでもレイジは、エルトシャンとの競り合いを諦めない。

 しかし、エルトシャンという男……その優男な見た目に反して、魔術にも長けていれば、レイジなんかより腕力はある。

 エルトシャンに、剣が持っていかれた。向こうは、余裕しゃくしゃく。


「さっきからムカつく事ばかり。お前が挑発してきたんだろ!」


「おいおい……仕掛けてきたのは君の方じゃないか。別に君の気に障る意図で言ったわけじゃない」


「アニキに、謝れえええええ!」


 挑発は、昼からあった。鬼気迫る表情で、エルトシャンにつっかかる。


「過去は過去、今は今。過ぎたことを言ったって仕方がないじゃないか。それに、僕は彼を助けたかったんだよ」


 その真意も、今やレイジは聞く耳持たず。ただ報酬を横取りした嫌な奴、という第一印象を変えるまでには至らない。

 剣を奪われたレイジは、拳で対抗する。それでも、貧弱なパンチはエルトシャンには届かない。


「“ストーン”!」


 エルトシャンが指を鳴らせば、今度は石の壁。レイジの拳は、壁に阻まれた。

 あまりにも固い壁は、レイジの拳くらいの威力なら、攻撃したものに逆にダメージを与えうる。

 レイジの左腕がジーンと痛んだ。多彩な魔術が使える、というのは本当だ。そして、状況に応じて使い分けている。


「君は、何度も立ち上がるね……なぜだろう」


「俺も、不思議で仕方がない。なんか、熱いものが込み上げてくるんだ……!」


「さしずめ漢気、根性、気合ってところだね。……全部ひっくるめて、僕の苦手なものだ」


 エルトシャンは冷めた目でレイジを見下した。確かに、彼は漢気とか汗臭いものとは無縁な温室育ちのボンボンといった雰囲気だ。

 自分を突き動かすものを否定されたレイジ。しかし、精神力だけで立っている状況にもかかわらず、なおさら熱くなった。


「もう、しつこいわよ! このイモ野郎!」


 チアリーダーの一人が怒声を上げる。レイジは、あきらめたくなかった。

 そろそろ鬱陶しくなって決着をつけたくなったエルトシャン。右手に神経をぐっと集中させた。


「“ファイア”!」


 エルトシャンの右手から炎の弾が飛び出す。その爆発に巻き込まれたレイジは、またしても海まで飛ばされた。

 もう泥だらけ、体のあちこちに傷を作っている。熱いものが冷めない限り、レイジは何度でも動く。


「アニキの手柄を横取りしたことを……謝るまでは、俺は何度だって……!」


「力の差をここまで見せつけられて、それでも動く理由が……そんなに小さなことかい? そして、間違っているよ」


「お前からすれば小さいことだろうな。でも、俺たちには大きな事なんだよ……!」


「……僕の方が正しかったということ、思い知ってもらうよ。そして、その漢気とか意地汚いものを折ってあげよう。“サンダー”!」


 痛烈、一閃!

 ロケトパスさえ一発で仕留めた雷が、レイジに直撃した。レイジは、前のめりに倒れた。這ってでも前を進む。

 あまりにもしつこいレイジを、エルトシャンは“ウィンド”で吹き飛ばそうとした。しかし、男の意地は、小手先の魔術では吹き飛ばせない。

 砂ぼこりで、前が見えない。それでも、止まらなければ……!


 何度も、エルトシャンの“サンダー”が襲い掛かる。しかし、レイジはエルトシャンに接近することに成功。

 息も絶え絶えだ。気合で耐え抜いた。根性だけで這いつくばった。エルトシャンは、それを気味悪がった。


「手荒なことはしたくないんだけど、仕方がない」


 エルトシャンは、ようやく近づいたレイジの腹を蹴り上げた。

 レイジは、胃液を吐きながらも、耐え抜いた。雷に打たれ、何度吹き飛ばされようとも、通したいスジがあるなら……!


「よぉ……エルトシャン。立たせてくれて、ありがとうよ」


 レイジは、立ち上がった。腕は血にまみれ、身体は火傷にまみれている。体力など、とっくに切れている。

 自分でも立っているのが不思議なくらいだった。しかし、チアリーダーたちは、そんなレイジを嗤う。


「見て、アレ! 生まれたての小鹿じゃない」

「ホントだ! スライムみたいに脚がプルップル!」


 レイジは、笑われても止まらなかった。エルトシャンも、男同士の一騎打ちであることを弁えてか、笑えなかった。


「奇跡……起きやがれ!」


「エ……」


 ようやく、一発。レイジの右手から炎が出た。限界ギリギリの一撃。

 だが、その直後だった。レイジの左肩を光が、貫いた。


「ちょっとやり過ぎたかな。でも……実戦でも十分使えてよかった。光魔法“エクスカリバー”」


「いいぞ、いいぞ、エルトシャン! 天才、天才、エルトシャン! キャー!」


 エルトシャンは、レイジの方に目をやった。エクスカリバーの影響ではない。自分で出した炎の反動で気を失ったように見えた。

 残り僅かだった気力すべてを込めた一撃だったのだ。アレはレイジの言葉通り、“奇跡”であった。

 エルトシャンは、レイジを抱えた。ぼろぼろになった彼を見て、何かを感じ取っていた。


「……まさか、ね」


「エル様、こんなの放っておいて、どこか美味しい店行きましょうよ!」


「だったら、アタシはザ・シーギンスーがいい!」


「君たちは先に行ってくれていい。僕は彼を病院まで送ってからにするよ」


 結局、勝負に勝つことは勝った。しかし、レイジは壊れたロボットのように「負けたくない」とうわ言を繰り返す。

 レイジを倒すことはできたが、レイジの心が折れることはなかったようだ。

今日も相変わらず更新させていただきました。

もっと多くの人に届くことを願い、日々筆を進めております。

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