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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第9章 The Wildest Journey
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第101話 ラージェストマーリン Ⅰ

 エードリックとのひと悶着が終わったフォードの一味。

 今日はやけに変な人に絡まれて、朝からメンタル面で参りそうになっていた。



「頼むッ! 今回のクエストはこの俺に指揮権を譲ってくれ!」

「それは別に構わねぇけどよ……音を上げるなよ?」


 フォードは、オメガの力を試すかのように笑った。オメガは「やってやるぞ」と蚊の鳴くような声で返した。

 複数の冒険団を相手にするのだから、当然ながらクセの強い連中が集まる。

 それを取りまとめるだけの能力が、このパンクロッカーに求められている。


「大丈夫ですかな……あのロッカーな人。ずーっと胃を痛めているようですぞ」

「心配する必要ねぇよ。ああいう声のデケェ奴の方が、少なくとも人を集めるのには向いているからな」

 フォードは、楽観的に答えた。


「俺たちは、俺たちに出来ることをやろうぜ」

「そうですな。もう4時間もありませんぞ!」


 そう言ってフォードとバハラは、ジャンク・ダルク号へと戻っていった。

 ギュトーは、今日もまた蒸し暑くなることを想定し、水分補給と体温を下げる事に向いている食材の調達へと向かった。

 アザミもアザミで、今回の討伐対象となるラージェストマーリンの情報を収集するために、あちこちに話を聞いて回っている。


 一人残されたレイジも、自分に出来ることを考えて動かざるを得なかった。


「じゃあ、俺は自主練習かな。出来れば、他の冒険者たちと一緒にやれたらなぁ……」

 レイジは、ブツブツと言いながら辺りを見回した。

 しかし、彼を鍛えようなどという酔狂な冒険団は、見当たらなかった。


「で、ミスターレイジはどうするの?」

 一人きりになったレイジを見かねて、アギアスが気さくに声をかけてきた。

「自主練なんだけど、一人でやみくもにやってもなあ……って」

「ああ、そういうことね。でも、ミスターレイジは、とっくにSTRONGじゃないか」


「そうだぜ、(あん)ちゃん。アンタは、十分に強い。んでもって、フォードっつー最高のアニキ分がいるじゃねぇか!」

 近くに居合わせたハゲマッチョが、穏やかな笑顔を作りながらアギアスに同調した。


「足りない事だらけだよ。身体も集中力も技も仕上がっていないし」

「あんなにゴイスーな連中倒して、未完の大器って思えるなんて……君、ジーマーでバイヤーだね」

「強くならなきゃ、出来ることも出来なくなるんだ!」


 レイジが強く拳を握って意気込んでいると、レイジの胸ポケットからメモが落ちた。

 アギアスは、それを拾って中身を確かめた。その瞬間、彼の顔が青ざめた。


 びっしりと文字と図が描かれている。内容から察するに、レイジの当面の目標であることは間違いなかった。だが、その目標の多さが異常だった。

 風を操る技“ウィンド”の完成。岩をも融かす炎に耐えられるだけの身体づくり。雌雄を決する瞬間まで持続する集中力の会得。

 さらに、精神力による様々な属性の攻撃に頼らずとも戦える“徒手空拳”の習得。敵の鋭い攻撃をかわせるだけの身体能力を向上させる方法。

 それらほとんど全てに、ある程度の考察までついている。


「な、何なの……このバリ欲フルMAXのメモ」

「俺には、絶対に負けられない敵が何人もいるんだ! 彼らに追いつき、追い越すためにも……ッ!」

「ミスターレイジには、バルライ多いもんね。同期だけでも、キャプテン・オールAにエルトシャン、キリュウにバルディリス、ルモンド兄弟。さらにVFマスク戦隊もそうか」

 アギアスは、乾いた笑みを浮かべながら、メモをレイジに返した。ここまでくると向上心を超えて、何かに憑りつかれたかのようにしか見えない。


「こんなにたくさんの事、他の人からも吸収しないと……」

 レイジは、メモを見つめながら呟いた。決して大きな声ではなかったが、彼の意気込みがありありと伝わってくる口調だった。


「なるほど、そういう事か。そりゃ、フォードの教えだけじゃ物足りなく思うのも妥当か。貸してみろ!」

 中年男性に言われ、レイジは素直にメモを渡した。

 彼は、ビッシリと詰められた文字の数々を冷静に俯瞰して、何度もうなずいた。


「お前に足りないと思っているのは、主にスピードとテクニックってところか」


「時間がねぇから、基本の基本すら教えられるかどうか……。それでも構わんのなら」

「……お願いしますッ!」

 レイジは、頭を下げた。


「おう、そこのチャラチャラした男……てめぇも来い!」

「ドイヒー……」

 中年男性に引きずられ、アギアスも修業に参戦。


 ラージェストマーリンを倒すための対策。その入念な準備は、冒険団の垣根を超えて行われる運びとなった。





 その頃、雲さえ見下ろせる天空。東の方はわずかに日の光が射そうとしているが、西の方はまだ星空が広がっている。

 そんな高い空を、巨大な二対の羽根を羽ばたかせて、ドラゴンともキメラとも取れるような生物が悠々と空を飛んでいた。

 この生物の名はオルキヌス。その背中には、濃い青で派手な髪型の男とその他数名の仲間が乗っている。

 青い髪の男は、バルディリス。右頬の傷跡と黒い不精ヒゲが特徴的で、少し年上という印象を受けるが、まだ22歳である。


「おい、アダメス。ゴレイユ荒野の天気はどうだ?」

「ここ数日、蒸し暑い状態が続いている。雲の動きもかなり速い。もしかすると、現地時間の昼過ぎには雨が降る可能性がある」

「それだけじゃない。数日前にはトライコーントナカイやデンシンホークの大移動も目撃されたらしいぜ」


「……アタリかもな。コイツも、何時間も前から興奮していやがる」


 バルディリスは、冒険者パスを見ながら言った。彼もまた、シバレー政府の出したクエストを狙っているようだった。

 伝説の怪物を前に、恐れおののいた生物がいる。それも種族単位での話である。

 全翼100メートルを優に超えるこのオルキヌスも、かつてない強敵の気配を感じて、ずっと落ち着きが無い。

 たった一匹で、いくつもの命に危機感を抱かせるほどの超生物。それほどの強い怪物に、幾百もの命知らずな人類が挑もうとしている。


「リーダー、本気なんすか。俺たちは冒険団でも人命救助が本職っすよ?」

「何ビビってんだ、ダヤン? 俺は本気だぞ?」

 バルディリスは威圧的に返した。この冒険団もまた、命知らずな輩の集団の一つであった。


「ラージェストマーリンの討伐クエスト……それなりに人間が負傷する筈だ。討伐報酬も欲しいところだが、命救って手に入る金も欲しいんだよ」

「バルディリス、お前は本当にゲンキンな奴だな。こないだも、その報酬の話で揉めたばかりなのに……」


 1ルドでも稼いでやる。そういうバルディリスの欲望が透けるように見えたのか、仲間も少しばかり呆れていた。

 バルディリス率いるこの冒険団、主な稼業は救命救急。雪山へ、砂漠へ、海原へ……救助のクエストがあれば、オルキヌスに乗ってどこへでも。

 彼らの仕事は、迅速で正確だが高くつく。ルーキーながらにすでに4000万ルドを稼いでいる。


「いいか、報酬とか金ってのはな……信頼と責任の重さなんだよ。なぜ、俺たちが多少吹っ掛けても許されると思う?」

「すんません。俺にはちょっと分かんないっす」


「俺たちは市井(しせい)から信頼されてるんだよ。一秒でも早く助けられる術が、俺たちにはある……って信頼をよ」


 ある者は、彼を命の恩人として手厚く感謝した。またある者は、欲に溺れた金好きの愚か者として冷たい評価をつけた。

 龍にまたがり、信頼の証である報酬のために殉ずるその姿から、彼の二つ名は“龍侠(りゅうきょう)”である。


「しかし、このペースでは……ゴレイユ荒野には現地時間で14時くらいになりそうだぞ?」

「チッ……だったら、少し飛ばすぞ。てめぇら、振り下ろされるんじゃねぇぞ」


 バルディリスは、オルキヌスの背中をポンと叩いた。すると、オルキヌスは甲高い咆哮をあげながら、加速した。

 混迷する山分けクエスト。果たして、覇権を握るのは誰なのか……。

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