第99話 敵味方入り混じりて
カロイ・ラマに向かう途中のモーテルで一泊したフォードの一味。
そのレストランで出会った冒険者から、ラージェストマーリンの話を聞く。
そして、その討伐クエストに参加することに。フォードがエースと指名したのは、まさかのバハラだった……。
「ひ……昼までって。必要最低限の武装を揃えるのにも時間がかかったのに……」
バハラの顔がゲッソリした。ほぼ徹夜で拠点の修理、武装の補填をしていたのだ。
それでも、やらなければならない。向こうが黙っていても、そんな雰囲気が見て取れた。
「注文……訊くだけ訊きますけど、あんまり期待しないでほしいですな。スピードと精度はトレードオフでして……」
「んな事分かってんだよ。俺たちが求めてるのは、質より量だ」
「量……ですと? 一体、どれくらいで……」
「とりあえず、ミサイルが40発、マシンガン搭載のドローンヘリ2機、錯乱用の超合金ロボ3機……以上」
「それ……思ったより少ないんとちゃう?」
アザミは、首を傾げながら訊いた。
「いや、今回は複数の冒険団と一緒だ。一緒に戦う奴も、それなりに地対空の戦力を整えてくるだろうぜ」
フォードは、やけに自信たっぷりで言った。
一人で制作する分には多いが、あの空飛ぶカジキ相手では、明らかに心もとない。
だが、今回は、複数の冒険団が参加するクエスト。足りない分野は、他の冒険団が補うという手法が使える。
「そ……某の身体は、持ちますかな……?」
バハラは、不健康そうな三段腹を押さえながら言った。
「俺も手伝うぜ。武器の知識もあるし、ちょっとした整備くらいだったら出来るぜ」
「そ、そうしていただけると助かりますぞ……」
「後は他のチームの技術職にも要請を頼もう! なんたって、総力戦だ」
久々に大規模の部隊を指揮できる、とフォードの意気込みは十分。
「今日、このモーテルを使ってくれた諸君。おはよう! 俺の名はオメガ……冒険団デルタシータの頭領だ」
舞台上に、黒革のベストにニッカポッカ、そして青色のモヒカンが特徴的な男が現れた。
そのニッカポッカには、Δとθをあしらったチームのマーク。そして、“我等友情永久不滅也”と金の刺繍が施されている。
この舞台は、本来ならばジャズバンドのためのものだが、パンクロックでド派手なな格好の彼は明らかに浮いていた。
歩くたびに腰に付けたチェーンがジャラジャラと鳴り、こちらの気を惹くことしか考えていないかのような派手な格好だ。
「お前ら、ここで会ったのも何かの縁だ! あのラージェストマーリンを討伐するのに協力してくれ!」
オメガと名乗った男は、壇上に上がるなり堂々と剣を高く掲げた。
まばらな拍手が贈られ、オメガは少しだけ気落ちして舞台を降りる。
「そして、今回は……なんと! あのデズモンドの最高幹部を倒したという黒飛レイジもいる! 百人力だ!」
オメガは、レイジの元に駆け寄ると、彼を壇上まで引きずった。
「あのさ……ラージェストマーリンってそんなに強いの?」
レイジは、たまらずオメガに耳打ちした。
ユグドラシルとマザーゴーレムを見たせいか、レイジの感覚はマヒしているようだ。
「何を言うか! そのクエストに参戦した、という実績だけでも生涯にわたって自慢できるほどだぞ」
オメガは、レイジの脇腹を肘で小突いた。
「へっ……若人がクエストのリーダーを執るだと? あんなチャラチャラした奴、俺の一番嫌いなヤツなんだよ!」
朝から飲んでるハゲオヤジが、デカい声でオメガを罵倒した。
「チャラチャラしてて結構! リーダーは目立ってナンボの生き物! 目立てなきゃ、リーダーに非ずッ!!」
オメガは、スタンドマイクを握りしめると、スピーカーが音割れするほどの勢いで語った。
「冒険団が多いほど有利やけど、その分だけ報酬がしょっぱくなるんがなぁ……」
「で……どれだけ来るんだよ?」
「参戦を表明しているのは、俺たちを含め約20の冒険団だ。で、指揮を執るのは4年目の若手である、この俺だッ!」
「だから、てめぇはすっこんでろ! ベテランでも苦戦するような伝説の怪物に、てめぇのような若造が勝てるかってんだ」
「そうだそうだ! 命張って挑もうってヤツに失礼と思わねぇのか!」
悪目立ちする男に、次々とヤジが飛んでくる。
「某たち……また死線をくぐる事になりそうですな……」
命を張る、というフレーズにバハラは戦慄した。
「ええ。それにしても、一組あたり600万ですか……高いのやら安いのやら」
ギュトーは、ため息交じりにぼやいた。やはり、金銭感覚が狂いかけているようだ。
「下手したら、こっちの準備で赤字になるかも、やね」
アザミは、両手で額を押さえた。
大蔵大臣の悩みの種は尽きない。結構稼いでいるが、何かと用入りで貯めることが難しい。
「それにしても、まさかフォードの一味と戦えるなんて……ジーマーでGLORYな話じゃないか!」
さらに悩みの種が、もう一つ。今日は、かなりの頻度で変な人間に絡まれること。
今度は、銀色の頭の青年。グレーと青を基調としたスカジャンを着た、二十歳前後の青年。
黙ってさえいれば、それなりに爽やかな好青年という印象。だが、業界用語と横文字のせいで、かなりの変人に見える。
「……また、面倒くせぇのが一人。お前も誰だよ」
フォードは、後ろ頭をかきむしりながら訊いた。
「僕のファーストネームは、アギアス。実は、とある冒険団を探していてね……」
「ある冒険団? 俺たちじゃないなら、オルアースかVFマスク戦隊だな」
「ご明察! 僕が捜しているのは、VFマスク戦隊。……YOU KNOW?」
「ああ、ルベールたちか。レイジのライバルでダチだっつー熱い漢だったぜ! な、レイジ!」
「ああ! 俺と同じ情熱を持った、正義感溢れるいいヤツだった! 次会うときも、俺はあいつには負けない!」
レイジは強く握った拳を見つめ、不敵な笑みを浮かべた。
「その様子……かな~りFAVORITEな感じ? 僕、ジェラシーラメラメなんだけど」
アギアスは、フォードやレイジを妬ましい目で見た。
「旅を続けてりゃ、そのうちアイツらにも会えるだろうぜ。んで、確実に気に入ると思う」
「バルライでFRIEND……ここまでツイアーな関係も滅多にお目にかかれないねェ。一日でも早く、レイジを魅了した彼に会いたいもんだ」
「くだらんな……俺だけで十分だ。他の連中は手出しするな」
壇上で騒いでいるオメガを横目に、毒づく男が一人。藍色の鎧に赤いコート、ブラウンのツーブロックヘアーが特徴的な彼。
だが、その目つきは、決していいものではなかった。明らかに、こちらを見下しているような目つきだった。
それも、見方によってはクールなまなざしに見えるのかもしれない。エードリックの近くで、黄色い歓声が起こった。
「エードリック様、さすがです! なんて自信なんでしょうか」
「ステキでいらっしゃいます。この強敵を相手にしり込みしないなんて……」
「確かにエードリック様の実力なら、ラージェストマーリンも一瞬だね!」
数人の女の子が、エードリックを囲んだ。経緯は分からないが、よほど惚れこんでいるらしい。
「AWESOME……確かに、ゴイスーな自信だねぇ……」
アギアスは、ただただ乾いた笑い声を出すしかできなかった。
「このクエストに、誰も手出しはさせん……例え、それが元レイゾンの副将だとしても、だ!」
エードリックは、フォードの方を人差し指で指した。
「とんでもねぇ自信があるのかもしれねぇが、一人で倒せる相手だと思うなよ。今回ばかりは、俺たちの協力が……」
「うすら寒いんだよ……漢の友情とか、そういうものは。蕁麻疹がでそうだ」
エードリックは、親指を下に向けた。
取巻きの女の子たちは、「ですよねー」だの「エードリック様の意見はすべて正しいです」だの。完全に同意している。
この妄信ぶりを見ていると、冒険団というよりは新手のカルトにすら見えてくる。言わされているのではないか、とフォードは女の子たちの言葉を疑った。
「なんで、俺に恨み節を言いに来たんだ? 黙ってりゃいいものをよォ」
フォードは腕を組むと、エードリックを睨んだ。
「お前の手下のレイジと言ったか……。アイツからは、俺と同じ匂い……地球人の匂いがしたからな。出る杭は叩かなきゃならない。二度と出てこられないくらいに」
「チキュウ人? お前もか……」
「俺の親父がそうだ。俺は地球人のハーフ。才能なるものを持って生まれた人間だ」