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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第9章 The Wildest Journey
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第98話 やるかやられるこそが人生だ

 キリュウの記事を見て、ひどく動揺したレイジ。日本時代のトラウマが、昨日のように蘇って頭の中を離れない。

 件の彼は、日本にいたときはレイジからカツアゲをしていた人物だった。


「そういえば、お前……チキュウ人だったな。その頃の話を詳しく聞かせてくれ」

「……アニキにも話しづらい。思い出すのも辛いから」

 レイジは、首を強く横に振った。それから、フォードは組んでいた脚を戻した。


「カルミナに来てから初めて人に優しくされた、って言ってたから想像はつくけどよォ……」

「一人で塞ぎ込んだって、余計辛いだけやないの」

「そうだぜ、アザミの言うとおりだ。俺をアニキだって慕ってくれるんなら、全部ぜんぶ話せるはずだろ?」


 レイジは、ようやく日本時代の事を話す気になった。

 キリュウにいじめられていた事はもちろん、黒飛家の恥と呼ばれていた過去。

 スクールカースト底辺ゆえに学級での居場所がなかったこと。勉強がダメなら運動もダメとバカにされてきた。


 遍くコンプレックスに思っていたものの、何もしなかった。

 それら全部から楽になりたくて、駅のホームから飛び降りた話。


「俺が、チビで冴えない顔をしていたから……アイツらは、俺をカモだと思ったんだろう」

 レイジは、俯きながら話をこう締めくくった。


「俺はそうは思わねぇな。別に見た目の問題でもねぇだろ。確かにアイン村周辺で会った頃のお前は、ちっぽけなヤツに見えたけどよ」

 フォードの歯に衣着せぬ物言いに、レイジの顔が青ざめた。


「今のアンタは、そない小さないし、シケた顔もしとらん!」

「だったら、何だって言うんだよ?」

 レイジは、アザミにケンカ腰で迫った。


「……抵抗の意志」

 アザミとフォードは、ほぼ同時に言った。それから、フォードが続ける。


「いいか、レイジ。人間ってのもよォ……“やる”か“やられる”かの生き物なんだよ。

 ただジッと耐えてただけじゃ、そりゃやられるだけだぜ」

 フォードは、敢えて悪態を突くように言った。


「それだとただのケダモノ……畜生と変わらないじゃないか!」

 煽られたレイジ。思わず、怒声を出してしまう。

「違うモンかッ……!」

 フォードは、テーブルを強く叩いた。ジュースの水面が激しく揺れる。


「学校での成績だって、親からの期待だって……やんなきゃ、いいようにやられるだけだ!」

「やったところでムダだったかもしれないだろ」

 レイジは、歯を食いしばり、俯きがちに呟いた。


「結果が出てねぇってのは、やってねぇのと同じだぜ。悔しけりゃ、結果出るまで踏ん張りゃいいだろ」

「でも、才能ってものがあるだろ?」

「そういうモンは、誰も見ていないところでも磨いてるはず……俺は、そう思う」


「でも、J・J戦ではどうだった? お前がタップリ修業して、技をモノにして……それで勝てたじゃねぇか」

「それは……アニキ達がいたから!」

「俺は、ただ修業の方針を立てただけで、他に大したことなんかやっちゃいねぇよ」

 フォードは、お手上げのポーズで謙遜した。


「あの日、あの時……俺の目の前で千本ファイアを完成させらんなかったら」

「やらなかったら、俺は今頃……」


「ああ。間違いなく見限っていた」

 フォードは、力強い口調で返した。レイジは、自信を失くしたようにうつむいた。


 しかし、実際はレイジがやったので、信頼を勝ち得ている。

 やったからこそ、加速度的に力をつけている。


「なぁ、フォードはん。話、少し変えてもええか?」


「もしも、やで? アンタがキリュウと会うたら、どないしたいん?」

「…………」

 アザミに訊かれ、レイジは腕組しながら考え込んだ。眉間にシワを作り、目を強く瞑って……。

 彼の答えに、3人の関心が集まる。彼は、しばらくした後、ゆっくりと息を吐いた。


「それで、どうしたいのでしょうか?」

「どうせ、人生は“やる”か“やられる”かの連続なんだろ?」

 レイジは、ムッとしたようにフォードに訊いた。

 フォードは、右だけ口角をあげた。


「謝ってもらう。あの日々の屈辱を()()残らず、全部清算してもらう。

 それで、俺がもうニッポンでの臆病者じゃないって事を……!」

 レイジの握った拳から、わずかながらに火花が飛び散る。


「気合十分なのはいいけどよォ、“もしも”の話って事を忘れんなよ!」

「分かってるよ。それにしても……なんて、なんて……スゴイ偶然だ」


 フォードらカルミナ人が地球の事を多少は知っているので、自分のような転生者は珍しくはないと思っていた。

 だが、地球で面識のある人物同士がカルミナに来ていることまでは、想像すら及ばなかった。

 それも、日本人同士。それも、因縁を持つ相手。


 天文学的数字の確率としか思えない偶然。レイジは、感動すら覚えていた。


「キリュウはんのニッポン時代とか、よう知らんけど……多分、向こうも同じこと考えてはるんとちゃう?」

「と、言うと……?」

 レイジが虚空を見つめていると、アザミが現実に引き戻しに来た。


「アンタ、それなりに有名人やから」

「そういえば、俺、100万超えの賞金首もディメテルも倒してるんだよな……」

 アザミに言われて、レイジはハッとした。


 賞金首を倒したことも、ブロール・リーグ準優勝も、ディメテルに勝ったことも、全部……。

 これらすべての情報は、海を駆け巡って世界中の知れ渡るところになったもの。


「さてと、今日はゆっくり寝て……んで朝飯たらふく食ったら出発だ」





「おはようございます、フォードの一味の皆様。昨晩は、随分と口論になっていましたね」

 部屋を出るなり、隣の人から皮肉を込められた。

 宿代がリーズナブルなら、壁も安くて薄い素材だった。


「お騒がせして悪かったな。もう大丈夫だ、すっかり落ち着いた」

「まさか、あなた方と隣同士になるなんて……なんて偶然なんでしょうか!」

 男は、フォードの右手を両手に取り、何度も頭を下げる。もう、目には涙を浮かべて、感動すら覚えているようだ。


「そろそろ、いいか? あんまりベタベタされるのも嫌なんだが……」

 フォードは、目を細めて男の目を見た。


「ああ! すみません、すみません! では、これで……!」

 男は走り去った。その途中でも、「絶対に手を洗わないぞ」などと叫んでいた。よっぽど嬉しかったらしい。


 整備を済ませ、ジャンク・ダルク号内で寝ていたバハラ。彼と合流し、レストランへと向かう。

 レストランはビュッフェ形式。レイジたちは、思い思いに料理を皿に盛りつけて、談笑しながら食べる。

 他の冒険者、旅行客……さらには運送業者も、この時間は一堂に会する。

 しかし、フォードの一味が来ている事は、他の席の話題にもなっており、落ち着いて食事どころではなかった。


「俺たち、結構ウワサになってるな……」

「ええ、そのようですね」

 ギュトーは、スムージーを一口飲んでから言った。


「よぉ、フォード!」

 噂している者だけでなく、中には絡んでくる冒険者たちも。


「誰だかしらねぇけど、おはようだな!」

 フォードは、明るく返した。


「アニキの知り合い?」

 レイジは、小声で訊いた。

「んなわきゃねぇだろ」


「で、ウチらに構うって事は……何か言いたい事でも?」

 アザミは、腕を組みながら訊いた。


「ああ、そうだよ。俺たち、これからシバレー政府が出したっつークエストに出るんだ!」

「政府公認のクエスト……? ひょっとして、復興の話?」

「それだけじゃないぞ。この辺りに出没する巨大モンスターの討伐の依頼も出ている。俺らの目的は、こっちだ」

 そう言って、冒険団のリーダーは、冒険者パスを見せた。


 依頼人は、確かにシバレー政府。報酬は、超破格の1.2億ルド。これを、参加した冒険団ごとに山分け。

 討伐対象はラージェストマーリン。全長160メートルのカジキマグロのような見た目だが、三対六枚の翼で飛んでいる。

 また、カジキの特徴的な角も、一本ではなく三本。頭と両頬から生えており、まるでトライデントのよう。


「ラージェストマーリン。数十年に一度だけ現れる、伝説の空飛ぶ魚だ」

「聞いたことあるな……その伝説の怪物。なぁ、お前らもやるか?」


「ウチはクエストには賛成やで。せやけど、戦力になるんはフォードはんと……ピンチ状態のレイジはんくらいやで?」

「そうですぞ! 某は戦力にはなれませんぞ。なぜなら、某はエンジニアであって、アタッカーではありませんぞ。皆さんを技術的に支援することこそが、某の……」

 バハラが早口に反論していると、フォードは親指で彼を指した。


「いや……多分、今回のウチのエースはバハラ……お前だ」

「そ、某が……ですか?」

 バハラは、素っ頓狂な声を出した。


「ああ。地対空の戦力を作ってもらう。今から俺が言う武器……全部、昼までに作ってくれ!」


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