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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第2章 頼れるアニキと頼りないレイジと
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第11話 “魔術の天才”エルトシャン・ラー・デュガ

初めてブックマークがつきました。まことにありがとうございます。

やりたい放題やっている文章ではありますが、気に入った方がいて感激でございます。


「残念だったな、フォード。軍でもそうだっただろ?」


 フォードは、思わず苦笑いした。レイゾンでも最初のころは、せっかく戦果を挙げても上司が横取りだった。

 そこから負けたくない一心で、ドゥバンのもとで己を鍛え抜く青春を過ごしたのだ。


「できることなら、もう一回ヤツに会いてぇな」


「会って、どうするんだ?」


「……絶対に借りを返す。俺がチンタラしてたのが悪かったんだ」


「……そうかい」


 フォードは、拳をぐっと握りしめた。考え方が少しだけ変わったようだ。それでも、震えた拳から悔しさが見て取れる。

 レイジは、あそこまで悔しがるアニキの姿が、あまりにも目に焼き付いて離れなかった。

 あそこまで悔しい思いをさせたのは、自分が何もできなかったせいだと、彼もまた悔しそうに歯を食いしばった。


 自分も、もっと強くならなければ。いつまでもアニキの足手まといな弟では、もういられないと。


「……アザミさん。ちょっと買いたいものがあるんだけど」


「あまり高いモンやなければ」


「アニキ、俺はアザミさんと買い物に行くけど……どうする?」


「俺は、もう寝るぜ。寝て、悪い事全部忘れたいからよ」


 フォードは、一足先に宿屋に行くことにしたようだ。

 レイジは、アザミを連れて買い物に出かけた。レイジが買いたかったものは、初心者用の剣と魔導書。

 これまでは、アニキがどうにかしてくれたが、この先はクエストで金を稼げなければ、旅先で思うように行動できなくなる。

 今は、お金を工面してくれているアザミがいる。でも、それも数日の間だけだ。アザミと別れた後は、足手まといでは済まされない。


「さてと、アンタの装備も買うたことやし、ウチらも……」


「アザミさんは先に行ってて」


「急にどうしたんや?」


「……潮風に当たりたいんだ」


 アザミは、レイジの鬼気迫る表情を見て、止める気にはなれなかった。潮風に当たるなんて呑気なことをしている気分ではなかった。

 そのまま彼と別れたレイジは、町はずれの砂浜に来ていた。昼下がりで西日がまぶしいなか、今から特訓だ。


 強くなるためには、どうすればいいのか。皆目見当もつかなかったレイジは、まずは砂浜を走ることにした。何をするにも、まずは体力が重要だった。

 しかし、砂に足を取られ、思うように前に進まない。それでも止まらなかった、止まれなかった。


 Tシャツが搾れるくらいに汗を流した後は、身体を休めることも兼ねて、基本的な魔導の書物を読む。

 この本によれば、魔法エネルギーと呼ばれるものがあることが分かった。その魔法エネルギーの有効利用がロボットだったり冒険者パスだったりするのだ。

 そして、魔法の適性のある者は、そのエネルギーが体の中を駆け巡っているそうだ。これを炎や電気として体外に放出するのが魔術だ。


「俺も使える……よね。一度、出したんだから」


 レイジは、右手にぐっと神経を集中させた。

 一度使ったことがある。ドンブリン戦でピンチに陥ったとき、奇跡的に出たのだ。また、出ると信じて疑わなかった。

 しかし、どれだけ集中しようとも、何も起こらない。何かがおかしい、そう思いながら再び本を読んだ。


「うおおおお! “ファイア”!」


 レイジは、夕日に手を伸ばしながら叫んだ。しかし、手が熱くなることすらなかった。

 ドンブリンに出した炎は、ただの物理現象では説明のつかない事だった。だから魔法だと思ったのに……。

 レイジは、魔導書に拳を叩きつけた。なぜ出ない。アレは夢だったのだろうか……?


「スペルは合ってる。それでも、出ない……どうしてだ?」


 いろいろ試しても出ないと分かった以上、魔法については明日にせざるを得ない。

 気づかぬうちに日が暮れたが、それでも帰らなかった。買ってもらった剣の素振りが残っていた。


 これも、どのようなフォームから振ればいいのかを知らない。

 そこで、いつか漫画で見たような構えでやってみる。しかし、漫画で見たように速く振ってみれば、逆に剣に振られる。

 初心者用の片手剣と言っても、1キロくらいの重さはある。線の細いレイジには、両手で扱うしかなかった。


 数回振ったところで、息も絶え絶え。やはり、フォードのようにうまくは行かない。

 己の無力を恨んでいたところで、少しばかり浜辺が騒がしくなった。


「エル様がお散歩なんて珍しいですね。何かあったんですか?」


「気分を変えたかっただけだよ。どんちゃん騒ぎに疲れただけさ」


 あのカラフルな頭とチアガール風の女子数人。間違いなく、エルトシャンの一味だ。

 エルトシャンの爽やかな顔立ちは、いかにもプレイボーイな雰囲気に思えてくる。


「えー。気分が変わっても、エル様は私の事だけ見つめてくれますよね」


「あなただけズルいわ。エル様は私と……」


「安心してくれていいよ。ボクは誰か一人のモノじゃない、みんなのモノなんだよ」


 男一人を取り囲む数名の女の子。取り合いというか、ハーレム特有の甘ったるい修羅場だ。

 この男、レイジがいつか思い描いていたファンタジーの主人公にそっくりだ。

 しかし、他人がそうなっているのを見ると、無性に腹が立って仕方がない。


「おや、君は……」


「俺は黒飛レイジ……お前が、あの時のエルトシャンだな」


「ああ、あの船に乗り合わせていた少年か。改めて……僕は、エルトシャン・ラー・デュガ……魔術の天才さ」


 エルトシャンが指を鳴らせば、レイジの目の前で爆発が起こった。


「いいぞ、いいぞ、エルトシャン! 天才、天才、エルトシャン! キャー!」


 彼の自己紹介とともに女の子たちが、一糸乱れぬ連携でエルトシャンを目立たせる。

 あの日出したちっぽけな炎を再現できなかったレイジには、才能をまざまざと見せつけられた形だ。


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