第97話 チキュウからの因縁
《前回までのあらすじ》
バハラを仲間に加え、さらにVFマスク戦隊やカトルーアと組んで、ディメテルを倒したフォードの一味。
次なる仲間・医者を求め、大都会シバレーを発ち、カロイ・ラマへと向かう。
街を離れれば、すぐに荒野が広がる。赤い岩肌の道なき道を、ジャンク・ダルク号は今日も進んでいた。
7月1日、快晴。空を見上げれば、どこまでも深い青。昨日と同じに見えた。
真夏の照り付けるような日差し、肌がべたつくような蒸し暑さもまた、昨日から変わらない。
そんな荒野だからなのか、モンスターもたくさんいる。
ゴブリンやドンブリン、オークの群れはもちろん、空を見上げれば飛竜の群れ。
それ以外にも、十数個の連なる岩に擬態し、近づいた獲物を鋭い歯で噛み砕くイワノザウルス。
金槌のような頭部の両端についた目で広い視野を見通し、強烈な後ろ脚のキックと尻尾の巨大な鉄槌が武器になるハンマーラプトル。
脚の鉤爪ではなく、翼についた拳で戦うユーノウホーク。フォード曰く「能ある鷹は何とやら」という事から名付けられたのだとか。
そのユーノウホークが追い回すのは、翼長30センチにも満たないほどの小鳥の群れ、ノイジーチキン。このノイジーチキンは、数万単位の群れで飛んでおり、その姿は巨大な怪鳥のよう。
緑こそ少ないものの、どの植物も力強く生きている。
西部劇でおなじみタンブルウィード。砂漠でおなじみサボテン、さらにアカシアの木。それだけではない。
植物鉄のようなトゲを持った茎と葉で近づいた動物を傷つけ、その血を養分に育つズーギリソウ。
虫に擬態して近づいてきた者を瞬時に喰らうトラップグラス。その他、もろもろ。
レイジは、ジャンク・ダルク号の窓から力強い自然を堪能していた。
「レイジさん、何たそがれているんですか?」
ギュトーは、コーヒーを一口飲んでから訊いた。
「違うよ、思わず驚いてたんだ。こんなの、ディスカバリーチャンネルでも見られないから」
「ディス……? よく分かりませんが、僕もあの田舎村にいたら、この自然の雄大さを知ることはありませんでしたよ」
「引きこもってれば見られない景色……レイジ氏には改めて感謝感激雨あられですぞ」
バハラは、レイジに握手を求めた。しかし、求められた彼は、穏やかな笑顔ではぐらかした。
「いいか、お前ら! 世界ってのは広いんだぜ。この景色、しっかりと目に焼き付けとけよ」
「アニキはいいの?」
「俺はいい。レイゾン時代から世界各地を巡っていたからよ」
「せや、バハラはん。アンタのために新しく服を仕立ててもろたんや」
「某に、ですかな?」
アザミは、バハラに紙袋を手渡した。バハラが中身を確かめると、そこには一着の藍色のつなぎがあった。
バハラは、そのつなぎを着た。ジッパーを開け、Tシャツにプリントされたキャラが見えるようにした。
このつなぎ服は、フォードの一味の6番目として正式に加入した証だ。それも、レイジ直々の指名によるもの。
バハラは、メンバーの数を指で数えた後、不思議そうな顔をした。
「ろ……六番目? 某を入れても、我々は5人ですぞ?」
「もう一人、いるんだよ……ビッグマハルにエマって女の子が」
フォードは、腕組みしながらバハラに視線を合わせた。
「某も、気になりますぞ! エマたそって女の子のこと」
「ああ、本当だったら俺たちと同行してるつもりだたんだけどな。コイツが異性としてじゃなく、人間としてエマを好きって思えたら……って理由で仲間入りは保留してんだ」
フォードは、レイジの方を親指で指した。
エマは、レイジにとって生まれて初めて異性として意識した相手である。彼は、あの日のキスの記憶が鮮明に残っていたのか、頬を少し赤くしていた。
この旅では、惚れただの惚れられただのといった感情は無用。その熱が冷めるまでは、旅に同行させるにはリスキー。リーダーは、そう判断したのだ。
「で、俺から提案だけどよ……カロイ・ラマで医者を仲間にしたら、ビッグマハルに戻るか?」
「俺も、気になってたんだ。エマさん……元気にしてるかなって。でも……」
思わぬ提案に、レイジの声が弾んだ。しかし、すぐに眉毛を曲げた。
「ウチは構へんで。フォードはんらが行く所なら、どこへだって一緒や」
「アザミさん、多分そういう事じゃないですよ」
「そうなんだよ。エマさんを仲間に出来るかどうか、それが俺にかかってると思うと……」
「お前が初恋の思い出として残してぇんなら、俺はそれでも構わねぇぜ? 会うかどうかだけ、決めてくれりゃいい」
「……会おう!」
「あと、どうせ医者を仲間にするなら、とびっきりの美女がいいですぞ」
バハラは、鼻息を荒くした。
「絶対に失敗しない医者なら、俺は信頼できるかな」
「むっふぉ~~!! 女医でそれなら最高……サイコーですぞ!!」
「お前、ホントそればっかりだな……。いいか、ウチはチーム内恋愛禁止だからなッ!!」
フォードは、バハラを肘で軽く小突いた。
和気あいあいの道中。男5人は、荒野を駆ける――。
◆
夕暮れ。フォードの一味は補給のために、荒野のモーテルを訪れていた。
こんな辺鄙な所ではあるが、燃料の補給、レストランでの食事ができる。
狭いベッドや長い移動から解放されたレイジは、身体をぐっと伸ばして外の空気を吸い込む。
昼間とは打って変わって、冷たい風が肺の中を駆け巡る。
「やっと中継地点か……! アニキ、入ろう!」
「落ち着け、レイジ。慌てなくたって、ふかふかのベッドは逃げやしねぇよ!」
フォードは、呆れながらレイジの後を追った。
モーテルは、全部で10室ほど。そのほとんどが車かバイク、はたまたヒッチハイクで来た人が利用している。
巨大でゴテゴテしたジャンク・ダルク号は目立って仕方がない。4人がモーテルの中へ入っていく一方、バハラは整備のために残ることに。
モーテルのルームサービスとして、新聞が置かれている。とは言っても、辺鄙な場所ゆえに数日遅れの新聞しかない。
なので、旅人たちからすれば無用の長物。しかし、レイジはサービスの新聞を手に取って読み始めた。すると、すぐに彼の額に嫌な汗が浮かび上がった。
「……この記事! どうして、アイツもカルミナに?」
レイジが見ていた記事は、先のザポネにおける事件に関することだった。新進気鋭のルーキー冒険団が、ザポネ屈指のヤクザ・ハナノメ組のカシラを討ち取ったというもの。
そこに載せられた写真には、見覚えのあるリーゼント頭の男がでかでかと。そして、忍者や花魁、陰陽師などの姿。恐らく、このリーゼント頭の仲間であろう。
フォードは、レイジが手を震わせながら持っている新聞の記事を覗き込んだ。
「お、“風斬り”キリュウの一派か。知り合いか?」
「し、知り合いも何も……俺がカルミナに来る要因を作った人というか……」
気さくに訊いてきたフォードに、レイジは震えた声で答えた。
「なるほど……チキュウでのダチってところか」
「違うんだッ!!」
レイジは、急に声を荒げた。その直後、隣の部屋から壁を強く叩く音がした。
「とりあえず、落ち着いたらいかがですか? レイジさんと彼がどういう間柄だったのか……少し訊いても?」
「俺は、日本にいた頃……アイツから金品を巻き上げられてたんだ」