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落日の国  作者: 青山 樹
第一章 『防衛都市』
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第四話 『誓約』

 やがて三人は、二階にある執務室に到着する。

 キョウカがドアをノックすると、入れという若い男性の声が聞えてきた。その声は重く冷たく、リオはかすかに体を震わせ、ハルは喉を鳴らしてつばを飲み込んだ。

 そんな二人に、キョウカは「大丈夫よ」と言った。


「隊長はいつもこんな感じだから。むしろ今日は機嫌がいいほうなのよ。新しい仲間が、あなた達研修生が来てくれる日だから」


 キョウカはドアを開けて執務室に入る。彼女に続き、ハルとリオも部屋に入った。

 本部の建物と同じく、執務室の様子は建設当時の時代の歴史を感じさせるものだった。

 部屋の両側には年季の入った立派な書棚が並び、その中には庁舎時代の名残のように古い資料や書籍がきれいにおさめられている。部屋の奥にある大きな窓には優美な模様の入った上品な色合いのカーテンがかけられていて、部屋の片隅には針の止まった柱時計が、部屋の真ん中には欧州製のものと思われる大きな書き物机が置いてあった。室内に漂う古き良き時代のにおいは窓から差し込む昼下がりの日の光や五月の風と混じり合い、特別な空気をつくっていた。


 しかし、机の隣に立っている人物は、そうした空気とは全く別の場所に存在しているかのような雰囲気をまとっていた。

 そこにいたのは二十代後半といった年齢の青年で、髪を短く刈り上げ、精悍な顔立ちに固く険しい表情を刻んでいた。彼の軍服の胸元には、キョウカのものと同じ勲章が飾られている。


 青年は直立の姿勢を崩さず、刺すような鋭い視線をハル達に向けていた。

 ハルはその青年から、普通の人間からは感じられない気迫のようなものを感じていた。


「私は第二0九守備部隊隊長、トウイチだ」


 トウイチの言葉にこたえるようにハルとリオは直立して敬礼し、簡潔に自己紹介をした。

 トウイチはうなずき、書き物机の引き出しから二枚の紙を取り出して机上に広げる。


「これは君達の誓約書だ。内容に間違いがなければ、署名しなさい」


 二人は机の前へ行き、誓約書を手に取って内容を確かめる。

 誓約書には本名や出身地、生年月日と年齢が記されていて、それらの下には宣誓の文章が記されていた。そこには、第二0九守備部隊の指揮下に入り三か月間の研修期間を国防軍の一員として行動すること、研修中は全日本市民連盟に忠誠を誓うこと、誓約に背いた場合はいかなる処分も受けること、などの文章が書かれている。そして最後に、署名欄と捺印欄があった。


「今ならまだ引き返せる」


 トウイチは二人の前に万年筆と朱肉を置く。


「名を記し、印を押せば、その紙は君達を三か月間縛り付ける力を持つことになる。そしてそれが、君達の生死に深く関わることになるのだ」


 そのことについてはハルもリオも十分に理解し、覚悟を決めていた。

 しかしいざ、現実を目の前にすると、二人の手はかすかに震えていた。

 その震えを押さえるように二人は拳を固く握り、誓約書に名前を記し、捺印した。


 リオには叶えたい理想があるし、ハルには戦場へ行かなければならない理由がある。

 それぞれの望みを実現するためには、この道を進まなければならないのだ。


 トウイチは二枚の誓約書を受け取り、一通り確認してから机の引き出しに入れた。そして、改めてハルとリオに目を向け、表情を崩さずに言う。


「ただいまより、君達を正式に第二○九守備部隊の研修生として迎える。これからの三か月間における君達の成長を期待する」


 握手を求めるように、トウイチは二人に向けて手を差し出した。

 最初にリオが握り、続いてハルが彼の手を握る。トウイチの手はハルの手とほとんど同じ大きさだったが、皮膚は固く日にしっかりと焼けていて、いくつかの傷痕が見え、指が一本足りなかった。


「早速だが、君達には副隊長と共に我々が担当する防衛区域の巡回に行ってもらう。我々が戦場とする場所がどのようなところなのか、しっかりと把握しておきなさい」


 トウイチは机に向かい、書類仕事にとりかかった。

 ハルとリオはキョウカと共に執務室を出て、防衛区域の巡回へ向かった。

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