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落日の国  作者: 青山 樹
第三章 『戦争』
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第十八話 『生きるために』

 まだ体調が回復していないためだろう。リオは水の中をもがくように激しく息を切らし、体をよろめかせ、足をもつれさせながら走っていた。

 角を曲がり切れず壁にぶつかったり、階段を踏み外して転がり落ちたりする。

 それでもリオは止まらなかった。


 背後から自分の名前を呼ぶハルの声と足音が近づいてくる。

 リオは恐怖に顔を歪めながら必死に走った。


 リオは一階の玄関ホールを出て、正門へ続く道を走る。

 その途中で、ハルはリオの片腕をつかんだ。


「はなせ! はなせ、はなせぇっ!」


 リオは叫びながらハルの手を振り払おうともがく。


「もどるんだ、リオ。門の外に出たら殺されるぞ」


「いや! いやだ! いやだぁっ!」


「戦うしかないんだ。命令なんだよ、これは。僕達は従うしかないんだ」


 いや! とリオは叫び、片腕をつかまれたままもう片方の腕でハルに殴りかかる。


「ハルだって、ハルだって見たでしょ! ヒカルもフタバもやられちゃった。教官さんだっていない。なのに私達だけでどうしろっていうの? 行ったところで殺されるだけだよ!」


 リオは泣きじゃくりながら拳をハルの胸に叩きつける。


「私がバカだったんだ。勝手な理想を持って、バカみたいな責任感を持って、たいした覚悟もないままこの道を選んだから、だからこんなことになっちゃったんだ。もっとちゃんと、現実を見ればよかったんだ!」


 リオはハルの体にもたれかかり、崩れ落ちるように腰を落として、泣き声を上げる。


「私、もう、いやだよ……。もう、戦いたくなんかない。戦いたくなんかない……」


 ハルの頭に、トウイチの言った言葉がよみがえる。


 この戦いを始めたのは自分達ではない。


 そうだ。

 僕達がこの戦いを始めたわけじゃないんだ。

 なのにどうして、僕達が戦わなければならないんだ。

 本当に戦うべき人達が戦わずにいるのは、どうしてなんだ。


 それでも、自分の意思でこの道を選んだという事実は変わらなかった。


「仕方ないよ。自分で決めたことなんだから。リオだって、そうだろ」


 ハルの声はひどく冷え切っていた。


 最初から理想も信念も持たなければよかったんだ。

 もっとしっかり現実を見ていればよかった。

 くだらない思いが、今のどうしようもない、くだらない現実をつくってしまったんだ。


「……いっそのこと、もうここで終わらせたほうがいいのかもしれない」


 ハルは持っていた銃をリオに差し出す。


「これで終わりにできるよ。君の命も、僕の命も。もう戦わなくてすむようにできる」


 ここで死んでもいいとハルは思った。

 自分の生死をリオに委ねてもいい。

 彼女になら殺されてもいい。

 彼女が自決したら自分もすぐに死のうと、ハルは思った。


 リオは銃を受け取る。しかしその銃口は誰にも向けられなかった。

 リオは銃を握りしめたまま手を下ろし、怯えるように体を震わせて泣いていた。


 結局のところ、僕達は死ぬこともできないんだ。


「生きるしかないよ」


 ハルは銃を握るリオの手に、自分の手を重ねた。


「生きて、この現実を変えるんだ。そのために戦うんだ。僕達は戦わなくちゃいけない。僕達を脅かすもの、僕達を殺そうとするものを、殺さなくちゃいけない。僕達が生きるために。そのために殺すんだ。殺すんだ。殺すんだ……」


 ハルは何度もその言葉をくり返す。

 夕日は沈み、東の空は夜の闇にのまれ、一番星が人知れず輝いていた。


 そうだ。殺すんだ。

 僕達が、生きるために。

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