第十七話 『諸君らの健闘を祈る』
ハル達が執務室に入った時、部屋の中にいたのはキョウカと副司令の二人だけだった。
三人が副司令の前に整列すると、彼はもっともらしく深刻そうな表情を浮かべて言った。
「君達の状況については各フレームの通信機を通じてリアルタイムで把握していた。君達がどのような危機に直面したかもわかっていたし、だからこそただちに援軍を派遣したのだ。誤解しないでもらいたいのだが、我々は決して君達を見捨てたわけではないのだよ」
副司令はハル達を励ますように、穏やかな笑みを浮かべる。
「しかしまさか、連合がこのような行動に出るとは思わなかった。一連の襲撃はまさに不意打ちだった。独自に戦闘用フレームを開発していることは把握していたが、まさか彼女が倒されるとは思わなかった……。そして何より恐ろしいのは、彼らが大陸方面から戦術核を入手したということだ。まだ確証はないが、まったくのデマだと断じることもできない」
副司令は軽く咳払いをする。
ハルもリオも、特に反応はしなかった。
「おそらく敵は第五観測所に潜伏しているのだろう。そこには偵察用の無人機や簡易式人工衛星も配備されている。それらに戦術核が搭載されればどうなるか、君達にもわかるはずだ。想定しうるあらゆる事態に備え、我々は動かなければならない。すでに二〇九の隊長を中心に迎撃体制と第五観測所への攻撃の準備が進められている。そこでだ、君達四名には再度第五観測所へ向かってもらうことになった。こちらの準備が整うまで敵が戦術核を使用できないよう、時間稼ぎをしてもらいたい。もちろん、戦術核を発見すればただちに回収してもらう。とにかく、核攻撃の危険性を排除しなければならないのだ。よいかね、我々は何としてでも祖国を守らなければならないのだ。諸君らの健闘を祈る」
自分達に拒否権などないことをハルは理解している。
研修生といえど軍人であることにかわりはない。
命令があれば、その通りに動かなければならないのだ。
たとえそれが、死ぬことを前提とする命令であっても。
そういう道を選んだのは、自分じゃないか。
ほんの数日前に、この部屋で誓約書に署名したじゃないか。
でもその時は、まさかこんなことになるなんて、まったく想像できなかった。
やっぱり僕は、ここに来るべきじゃなかったんだ。
自分勝手な理想や責任感、偽善なんて持つべきじゃなかった。
何食わぬ顔をして、ただ生きていればよかったんだ。
後悔の念ばかりがハルの心にこみ上げてくる。しかしもはやどうすることもできない。
行き場のない暗い感情が膨らみ続け、心が破裂しそうになる。
「ああああああああああああああああああっ!」
その時ハルは、隣に立っているリオから悲鳴のような叫び声を聞いた。
リオは絶叫しながら、逃げるように執務室の外へ飛び出した。
「リオ!」
ハルはリオを追いかけようとする。そんな彼を呼び止めるように、副司令は言った。
「正門の外へ出たら逃亡とみなし、銃殺するよう指示を出す。もちろん、君に対してもだ」
ハルは立ち止まり、副司令のほうへ振り向く。
副司令はハルのそばに近づき、腰に下げていた銃を取ってハルの手に握らせた。それは以前、死刑囚を処刑するようハルに命じた時に渡したものと同じ銃だった。
「がんばりたまえ」
ハルは何も言わず、銃を固く握りしめて走り出した。




