第二話 『遠い海』
かつての大都市に向かって、動くものが何一つない道を二人は進み続ける。
しばらくたったところで山間部を抜け、平地に広がる市街地に出た。
片側三車線の道路のわきには大型の商業施設や集合住宅の巨大な建物がまばらに並び、そのすき間を埋めるようにして小さな住宅や商店がひしめき合うようにおさまっていた。
進行方向の左手、つまり防衛都市の北側には巨大な壁のように連なる山々が西から東へ続き、そのすそ野にはいくつかの街の姿が見える。防衛都市の南側には海が広がっているのだが、二人が走っている道からはその姿を見ることができなかった。
「ねー、ハルー。この近くって海なんでしょ? せっかくだしさ、海沿いの道を走ろうよ。私海ってあんまり見たことないんだよね」
「僕らは遊びに来たわけじゃないんだ。今は少しでも早く本部に行かないと」
「それはわかってるよ。でもさ、私達はこれから戦争に参加するんだよ。だから悔いのないように生きていたいの。ね、一生のお願いだから」
防衛学校で出会って以来、ハルは何度リオから一生のお願いをされたかわからない。
なので普段なら適当にあしらうところなのだが、今回は聞き入れることにした。
「しょうがないな。少しだけだよ」
「やった! ありがとハル、心優しき我が戦友、愛してるよぉ、えいっ!」
「ちょっと、抱きつかないでよ。運転できないってば、もう!」
二人を乗せた軍用輸送車はゆるやかに蛇行したあと、海を目指して走り始めた。
ハルは運転しながら、少しくらいはいいだろうと自分に言い聞かせる。
ここはもう戦場なんだ。一生のお願いが最後のお願いになるかもしれない。
それに正直なところ、ハルもこの街の海を一目見ておきたいと思っていた。
やがて二人は海岸線にそってつくられた道に出た。そこからはやや遠くにではあるけれど海を見えた。
しかし、二人はそれほど感動しなかった。
「うーん……、なんだろう。なんか思ってたのと、ちがうような……。泳げないよね、これ」
リオの視線の先にあるのは、コンクリートやテトラポッドによって陸地と切り離された暗い色の海だった。海水浴には適さない海だと一目でわかる。
「仕方ないさ。この辺はもともと埋め立て地で、工場や港がたくさんあったらしいから」
「やっぱ泳げないじゃん! 海があるのにそれを泳げなくするとか、昔の人ってバカなの?」
リオの不満を聞いた時、ハルの頭に大叔父が言った言葉がよみがえる。
バカだから、こんな時代になったんだ。
「……西側に行けば、たしか海水浴場の跡地があるはずだよ」
「ほんと? じゃあさっそく」
行かないよ、と言ってハルはアクセルを踏みスピードを上げた。
「いいかげん、本部に行かなくちゃだめだ」
そのことはリオも自覚していたらしく、名残惜しそうな目を窓の外に向けた。
「ねえ、ハル」
「なに?」
「戦争が終わって平和になったらさ、みんなで一緒に海で遊ぼうね。約束だよ」
ハルは正面をまっすぐに見たまま、はっきりとした声で言う。
「うん。約束するよ」